放送第20回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、これからのNPOのあり方と評価基準について考える緊急座談会を実施。渋澤健さん、島田京子さん、田中弥生さんとの鼎談の様子をお伝えします。
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。
「ON THE WAY ジャーナル
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「強い市民社会に向け、変化を起こそう」
工藤: おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAYジャーナル」。毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
市民社会の中には、非営利セクターというのがありますが、皆さんの中ではなんか、胡散臭いと思っている人たちがいらっしゃるかもしれないですね。ただ、確実に、市民社会、そして非営利の中で変化が始まろうとしているのです。それを、今日、皆さんに伝えたいなと思っています。言論NPOは、この前、市民会議というものをつくって、望ましい非営利組織は何か、ということで、「エクセレントNPO」というものを提案しました。つまり、「エクセレントNPO」、望ましいNPOを目指して、みんなで努力をしようよ、ということで「エクセレントNPO」の評価基準というものを提案して、みんなで議論しようと呼びかけたわけです。で、非営利セクターの評価基準というのは、何なのかということがあるのですが、つまり、一般の企業ならモノとかサービスを提供するのですが、その中で利益を出すことを目的にしますよね。だから、利益を出すということで、この会社は利益を上げているか、売り上げは増えているかとか、効率的な経営をやっているかということで、評価ができるのですが、非営利セクターは、別に利益のためにやっているわけではありません。じゃあ、どういうところが凄いのかとか、どういうところが仕事をがんばっているかとか、別の尺度でそれを評価するしかないのですね。実を言うと、そうした評価基準というのはこれまで無かったのです。だから、それをきちんと表に提起しないといけないということで、私たちは「エクセレントNPO」の評価基準を提案したわけです。
今回は、この評価基準をつくることに関わってくれた人と、それから市民社会で様々な活躍をしている人たちの3人を中心に、2月2日に座談会をやったのですが、この話をベースにして、どうやったら強い市民社会に向かって、市民社会に変化を起こせるのか、望ましいNPOとは何なのか、について議論をしていきたいと思います。
座談会に出席したのは3人
渋澤健さん、島田京子さん、田中弥生さん
早速、その議論の内容を皆さんに伝えたいのですが、登場したのは3人。1人は、渋澤健という人で、これはファンドを運営している会社の社長なのですが、何を隠そう、昔、この国に資本主義をつくった渋澤栄一さんのお孫さんです。彼は、そのファンドをやりながら、その一部を非営利のセクターに還元できる仕組みをつくれないか、ということをやっている、私の友人でもあります。もう1人は、島田京子さんという方です。カルロス・ゴーンさんが、日産の会社再建のためにやってきたのですが、その下で社会貢献、つまりCSRを担当する部署を立ち上げてやっていた女性なのです。そして、最後は、以前、このON THE WAYジャーナルにも出ていただいたのですが、ドラッカーのお弟子さんで、まさに日本の政策評価をやっている、田中弥生さんです。この3人と僕が議論を行いました。日本の市民社会に今、何が問われているのか、非営利組織をどう評価するのか。まず、それを聞いていただきたいと思います。
不幸を社会の基軸に置く社会でいいのか
幸福の拡大を目指す社会こそ大切では
渋澤: 今の政治は、お金を使って、ツケをどんどん後世に回してしまうという仕組みになりがちなのですね。私たちのよりよい明日をつくるのであれば、一人ひとりの市民が、現状維持ではなくて、まさにサステイナブル、持続性のために、我々はどういう判断をしなければいけないのか、ということが問われ始めたと思うのです。直近、気になったのは、この前ダボスで菅首相が、「不幸を最小化します」と語った。不幸を減らすことは当然のことだから、それはそうなのですが、それを聞いて僕が凄く気になったのは、そもそも不幸ということを社会の基軸に置いていることです。ちょっとそんな社会では子ども達を育てられない、それでいいのかなと思います。幸福を増やすということは、そこで幸福な人たちは不幸な人たちに、自ら手を差し伸べるような動きが出てくると思うのですね。要するに、幸福を拡大することによって政府の役割がどんどん小さくなっていくのですが、不幸を最小化するということだけにとどまってしまうと、どんどん政府が大きくなってしまう。やはり市民社会とは何かというと、政府が全てやるというような、1つの価値観ではなくて、市民の多様性がある価値観で社会を形成しましょう、ということが市民社会のあるべき姿の根源だと思います。
島田: 不幸を最小化するというのは、幸福ということがどんな姿なのか、全然見えないですよね。で、その幸福が何かということの1つの基準ですが、これからの時代、多様性だと思うのですね。とにかく経済成長と言って上り詰めてきたときには、政府の一元的な価値観でやってくれればかなり多くの人を救えたけれど、これからは、ある程度のところまでくると違ってくる。で、その多様性を誰が担保するかというと、やはり政府では無理ですよね。
目指すべきは多様で自由な社会なのでは
田中: 多様性の高い社会って、その中で生きている人たちの能力が凄く求められると思うのですね。というのも、自分の目で選んで、自分の責任で選択をしなければいけない。私は、それが本当の自由な社会だと思うのですけど、そうすると、個人の自立性とか、何でも自分のために選んでいたのでは大変なことになりますから、そこには、他者を思いやったり、公共性というものの両方を持ち合わせていなければいけない。そうなると、個人の力が問われてくるので、それはまさに知識社会とも大いに連動してくるところだと思いますね。
NPOに問われる役割とは
工藤: 強い市民というのは、まさに今おっしゃったような、政府に依存しない、自分たちの意思で判断するとか、何か自分たちでも社会に貢献していくとか。そういう人たちを社会につなぐのが非営利セクターの役割だと思っている。だからこそ、強い市民社会をつくりながら、それを支える非営利組織が本当にその役割を果たさなければいけない局面にきたのだなと思うのですが、実を言うと、非営利組織はその役割を果たせるのか、という問題もあります。むしろ、ほとんどが逆で、政府に依存する形が非営利組織ではないのかという見方もあるのですが。
渋澤: 私は、今、非常に危ないタイミングになっていると思っていて、カリスマ性がある人が、私に任せてください、全てやりますと言った場合に、多分、日本国民はお任せいたします、と。だから、独裁主義になるのですよ、流れとしては。大きな人類の歴史というのは、何回もこういうことを繰り返しているのだと思いますけど、そっちの方にいくリスクをたくさん今の日本社会は抱えている。だからこそ、一人ひとりの市民が意識を高める、それはやっぱりNPOの役目であり、...。
工藤: アメリカでよく言われている、非営利セクターの人が、学生の就職順位の中で一番になったという...。
田中: Teach for Americaですか。
工藤: ディズニーランドを抜いたとか言っていました。つまり、海外では価値観が変わり始めており、多くの優秀な若者が課題解決できるような、また公共的な仕事に自発的に参加するという動きがあるわけです。日本にも、そういう動きは始まっているのでしょうか。何か感じますか。
日本でも市民社会の変化は始っている
渋澤: 私は感じています。10年、20年前のNPOの方々は凄く素晴らしいお仕事をしていたのですけど、結構NPOの世界しか知らない方々の固まりだったのですね。今は、本当にこの5年ぐらいで変わったと思います。NPOに勤めている若手ですが、前はインベストメントバンクとか、コンサルタントかで働いていたという異分子の方々が入ってきたのが1つ。もう1つは寄付という考え方が、前だと寄付というものは大切だよね、でも日本は寄付文化がないという状況だったじゃないですか。最近は、そういう意識も徐々にですけど変わってきたと思っていて。
島田: ボランティアもそうですよね。
渋澤: メインストリームじゃないのだけど、きざしとしては、僕は絶対に変わったと思いますよ。
工藤: 市民の中にも大きな変化が始まり始めていると。で、その受け皿として、非営利組織が今問われなければいけなくなってきている。実を言うと、僕はメディアにいたからわかるのですが、NPOというと、本当に嫌だという人が本当にいるのですよ。NPOというと、悪い団体みたいなね。でも、本当はそうではないはずです。つまり変化が目に見えないとならない。つまり、非営利の世界にある、社会の課題に向かい合い、質の向上を得目指す動きが、多くの市民に見える必要がある。それが、私たちが提案した「エクセレントNPO」を目指す動きなのです。じゃあ、強い市民社会に問われている「望ましい非営利組織」とは何なのだろうか。ということを、ちょっと立ち止まって考えることが必要だと思うのですが。
望ましい非営利組織とは何なのか
― パッションを持っていること
渋澤: 社会起業家とかNPOに私が魅力を感じるのは、凄いパッションを持っていることですね。元気をもらうことができる。そのパッションをどのように評価するか。そこが非営利の側に絶対に必要だと思うのですが、大きなチャレンジはそこにあるのではないかと思います。
― 具体的なミッションが示されていること
島田: NPOというのは行政でもなく、企業でもない。行動原理が全然違う。一律とか利益性だとかそういうことではなくて、まだ世の中で形になっていないものを掘り起こしながら、新しい仕事をやっていく団体だと思うので、まさに思いの部分、それはミッションじゃないかと思うのです。そのアウトカムは何かということをNPOもきちんと定めていかないと、人に伝わらない。どんな社会にしたいのかとか、どんなサービスを提供したいのかとか。それは、やっぱりそういう目標をつくるということだと思うのですね。
― 市民に開かれていること
田中: 私、非営利セクターの研究を20年ぐらいやっているのですけど、ずっとデータを追いかけていて、今の日本で一番顕著なのは、寄付に対して、4万団体の過半数が、0円で計上していて、これは集まっていないのもありますが、集めていない。そこには市民参加の発想が全くないのですね。どうもこの10年かけて日本の非営利組織像の中で全く抜け落ちてしまったのが市民参加の部分だと思います。
工藤: 実は市民に開かれているということは大事だけれど、規模が大きければいいというわけではないですよね。小さくても、社会に対して何かできるかもしれない。そうなってくると、質の評価がないとダメになってきますよね。
― 課題解決で求められるプロのNPO
島田: やはり今、プロのNPOが求められているのではないか。まだ、人に見えていなかったり、形になっていないことを形にしていく、事業にしていくとか、そういうことができる組織、人々の集まりじゃないかと思います。
工藤: つまり、競争力を持たないといけないですね、非営利セクターが。
島田: みんながそんなに大きな課題では無いだろうと思っていたところに先駆的に取り組んでいく。それは課題の発見力と実行力なのですが、別に規模ではなく、種を播いていく仕事というのは小さくても十分できる仕事ですよね。
― 規模ではなく変革を起こす力
渋澤: 変革のプロトタイプというか、全体がすぐ変わらないじゃないですか。で、規模が小さいところで成果が出るような変革を起こすことができるのであれば、組織が大きくならなくてもいいのですが、そこのナレッジをほかと共有すると全体的にスケールアップする。組織は別に小さくていいのですが、ネットワーク。小さいからこそできることはたくさんあると思います。
― 自由な発想で課題に挑む力
田中: 米国のジョセフ・ナイの資料を見ていると、50年間アメリカの政府の信頼度は下がり続けているのですね。それを大学の同僚に話すと笑うのですが、実は大学の信頼度も30年下がり続けているのですよ。大企業もです。それは、先程、島田さんもおっしゃったように、社会が大きく変わる時に、いわゆるestablishmentsと言われている者が付いていけなくなっているのですね。そこに、ある程度、既存のしがらみに絡まれないで、制約されないで自由に動ける主体が先導役として課題にチャレンジしていく、あるいは見つけていく、提示していく、という役割がある。総体的に非営利の役割が上がってきていると思います。
島田: やはり異質なものが共同して取り組まないと、とても先に進めない状況。establishされた大企業でうまくいかないということは、それをしてこなかったということによるのかなと思います。
― 変革を起こすのは「若者」「よそ者」「馬鹿者」
渋澤: 「市民社会」とか「市民性」は、我々は聞いた瞬間に分かる。言論NPOの議論を見ている人はわかると思うのですが、そうでない人に、わかるのかと言われると、多分通じないと思います。そういう意味では、どうやって新しい層の日本人に「市民社会」や「NPO」のことを伝え、我々の孫の世代のためにいかに大切なのかということを気付かせるか、ということが必要なのだと思います。
地域再生のためによく3つの種類の人間が必要と言われる。「若者」「よそ者」「馬鹿者」。それは地域再生だけじゃなくて、いろいろなところで変革が起こるのは、やはりその3者が必要なのだなという気がしています。「馬鹿者」はリスクが取れる人だと思っていますが、そういう人たちがたぶんNPOセクターに入りつつあったんだと思います。だけど、よそ者が入ってくることによって、内から外と外から内の視点、同じ存在なのですが、中から見るのと、外からみるのと全然違うように見えてしまうということが、中にいる人は分からなければいけないのですね。
工藤: つまり、自分たちが当事者で、主人公で、未来がつくられているということに関して、理念だけじゃなくて、達成感とか、そうだねという気付きとかをもっとつくるためにも、非営利セクターは自立して、自発的に社会の課題解決に取り組んでいる姿を「見える化」しなければならないなということですね。
島田: 「見える化」したところに、市民なり他のNPOなりが参加して、そこで議論が始まらないと共有できませんし、共感もできない。そこに批判があったり賛同があったりする中で次のステップが見えてくるんじゃないかと思います。
渋澤: 望ましいNPOという意味では、日々いろいろな人から、「理想ばかり語って、寄付も入らないし、持続性と言っているけど、お前の組織は持続性が無いじゃないか」と言われても、「いや、出来るのだ」と。根拠ない自信かもしれないけど、NPOって、そこがないとできないと思うのですよね。いろいろな批判があって、そんなことできるわけないじゃないか、というのが、周りにいて、いやできるのだということを言い切れるのは望ましいNPOじゃないのですかね。
― 辛抱強く、忍耐強く続ける力
田中: もう1つは、忍耐強く続けるということが重要だと思います。1995年にドラッカーの「非営利組織の自己評価書」を翻訳した際にも、「善意を評価するとは何事か」という批判がありました。そのドラッカーもアメリカに移住して、10年ぐらい経ったところで、非営利組織の方々に「management」が必要だと言った途端にボコボコにされたのですね。でも今は変わったとおっしゃっていて、やはり辛抱強く忍耐強く言い続けることが私は重要だと思います。
新しい変化に向けた競争を起こそう
工藤: まさに市民社会の中で変化を起こそうという、そういう人たちに集まってもらって、急遽、座談会をやったのですが、この模様を聞いて、皆さんはどう思われたでしょうか。僕が象徴的だと思ったのは、時代が大きく変わる時には、今までのエスタブリッシュメント、今まで中心的にやってきた人たちがその動きについて来られなくなってしまう。でも、新しい変化を起こすためには、それを乗り越えて動かさないとダメだ、という感じの発言があったのですが、僕は今、その通りだと思っているのですね。今の国会の議論を見ていても、ほとんど機能していない。ただ、本当に日本を変えなければいけないという時には今の人たちではない、新しい人たちが、多分、それに対してプレッシャーをかけていく、場合によっては新しい動きを始めていかないとダメだという感じだと思うのですね。ただ、最後に厳しい意見もあって、そうした挑戦は持続してやり続けなければいけないということです。僕も、今、まさに新しく市民社会に変化を起こそうと思っています。そういうことを突破する人たちが沢山出てきて、今度はその人たちに俺たちもできるのではないか、俺たちもやってみたい、というような人が出てくるような循環を始めなければいけないし、こういう変化を起こすためには、初めに突破する人は、最後までやり続けなければいけないという感じが凄くしたし、座談会に参加してくれた人たちも、みなさん同じ考えだったと思います。
今日は、市民社会に大きな変化を起こすために、非営利セクター自体が変わらなければいけない。まさに、プロになり、課題解決に自発的に挑んでいく。そういう風な競争が始まらなければいけないということを提起して、評価基準を提案したという状況を、座談会の中でも、皆さんに説明させていただきました。ということで、きょうは「市民社会に変化を起こしたい」ということをテーマに、熱く語らせていただきました。また、私たちの議論に対する皆さんの意見をお待ちしております。どうもありがとうございました。
(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)