放送第7回目の「工藤泰志 言論のNPO」は、IMF前副専務理事の加藤隆俊さんのインタビューを交えながら、日本の財政危機について考えました。
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「ON THE WAY ジャーナル
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「日本が財政破綻するって本当なの?」
工藤: おはようございます。ON THE WAY ジャーナル水曜日、言論NPO代表の工藤泰志です。早速ですが、今日のテーマは、先週に引き続いて財政問題を中心に皆さんと考えたいと思います。私が考えたテーマは「日本が財政破綻するって本当なの?」ということです。この前の放送終了後、IMFという国際通貨基金というものがあるのですが、その前副専務理事の加藤隆俊さんという人が、今、日本にいらっしゃいます。私が会ってきましたので、ぜひ加藤さんとのインタビューを、皆さんに聞いていただこうと思っています。
その前に、IMFと加藤さんについて簡単に一言で説明します。加藤さんは昔、財務省の財務官という国際金融のプロだったのですが、それからIMFの副専務理事になって6年間ワシントンにいらっしゃいました。その間に、ギリシャの財政破綻とか色々なことがありました。そういうことについて、IMFとして色々取り組んでいましたので、国が財政破綻するということについて、非常に考えています。一方で、日本の状況にも詳しいということで、この人の話は非常に重要だと思いました。
【インタビュー】
加藤: IMFが最近発表した論文がありまして、それによると、財政的な余裕がほとんどない国として、PIGSではなくて、PIGJを挙げております。ポルトガル、イタリア、ギリシャ、日本です。だから、日本はそういうグループに入っているというのが分析結果ですし、論文ではギリシャに見られたように、国債のリスクプレミアム、金利が上がり始めると、ある時点を過ぎると、ギリシャの経験を踏まえても急角度で金利が上がります。だから、日本についても潜在的なそういうリスクがあるという分析内容です。それは、広く読まれていますから、国際的に見た日本の立場はそういう評価だと思いますし、6月のトロントサミットで、G20の他の先進国は、2013年までに財政赤字を半減させ、2016年までには債務残高のGDPに対する比率を減らし始めることになっています。ただ、日本だけは例外になっている状況です。
工藤: 日本の財政というのは非常にわかりにくいのは、こんなに深刻なのに金利が上がらない。それは、国内で国債を消化しているからだ、といつも解説されているのですが、どこかで金利が上がり始めたら...。
加藤: 急角度に上がります。日本について、いつかということは言っておりませんけど、去年のIMFの年次審査で発表されたペーパーによると、2020年にかけて国債の消化というのは難しくなっていくだろう、ということになっています。
工藤: 市場はどうしたら、日本が財政改革に取り組んでいると判断するのでしょうか。
加藤: 6月に政府は財政運営戦略というのを閣議決定しておりまして、その中身は良くできていると思いますし、それから、今度財政運営戦略というのは、G20のトロントサミットでも国際的な公約になっていますから、この中身を実現するのは結構厳しいのですが、日本としては着実に実行していく。そうでないと、約束違反という目で、G20の他国からとられかねないと思います。
工藤: ただ、日本は2015年までにプライマリー赤字を半減するという話ですよね。これを私のほうでも見てみたら、プライマリー赤字を半分に削減しただけですから、債務残高はどんどん悪化して、その頃は二百十数%になっているという状況なんですね。でも、それでも、国際公約だから日本がそれをやればだいたい大丈夫だと見ているのでしょうか。
加藤:今年のIMFの年次審査では、ともかく国債残高、公的な債務残高のGDPに対する比率を240%で頭打ちで、240%まで上がるのは仕方がない。それがピークで、段々なだらかに下げていくためには、GDP比で1%の債務削減を10年間やらなければいけない。毎年5兆円の削減を10年間続けてやらなければいけない。1%でずっとやるのではなくて、1%ずつ毎年積み上げるということを10年間やっていかないといけない。
工藤: 10年間で最終的には50兆円の債務が減少していないといけないわけですか。10年後に。
加藤: もっと具体的に色々な組みあわせがあるのですが、1つの組み合わせでは、消費税を5%から10%上げて、15%にするということもメニューの1つに入っています。
工藤: これは、IMFの今年の審査ですか。
加藤: 今年の審査です。
工藤: 今、加藤さんの話を伺って、少なくとも世界は、国際機関も含めて日本の財政問題を非常に深刻に考えているということがわかると思います。日本の借金があまりにも多くて、金利が上がってしまうということは避けなければいけないのですが、加藤さんに、その金利上昇というのはどれぐらいまでに起こるのか、と聞いてみたところ、2020年ぐらいまでに金利の上昇があるかもしれないと。そうすると、あと10年、日本の政治がこの財政問題、この前も言いましたが、社会保障の問題も含めて、そういう問題にきちんと向かい合って、しかも、国民にきちんと説明しないと、本当に財政破綻の可能性が高まってきているのではないかと思っています。メディアを見ても、そういう風な感じは伝わってきませんが、今回のインタビューを通じて、そんなことを非常に痛感したわけです。そこで、財政破綻したらどうなるのだろうか。万が一、日本がそういう状況になった場合はどうなるのだろうか。IMFなり世界は、各国の財政破綻という問題について、どういう風に取り組むのか。そういうところについて、ずばり聞いてみました。
【インタビュー】
工藤: ずばり聞きたいのですが、財政が破綻するということになった場合、今まで韓国やギリシャもありましたが、その場合、国際的な枠組みなり、色々な枠組みの中で、世界はどう対応して、どういうことが迫られていくのでしょうか。
加藤: 幸いにも日本の国債の場合、外国人の保有比率というのは5%ぐらいですから、ギリシャと違ってあまり外国に迷惑をかけることは、現状ではあんまりありません。ただ、僕の担当していたケースで、ジャマイカの破綻がありました。ジャマイカの場合も国債の大半は国内で消化されていました。しかし、財政赤字が拡大して、このままでは立ちゆかなくなるという問題がおきて、長い時間をかけて国内でコンセンサスをつくって、発行した高金利の国債を低金利のものに借り換えていく。それを強制的にやるのではなくて、ボランタリーなプロセスでやっていく。つまり、みんなこのままでは破綻するのはわかっていますから、借り換えていくのは国が破綻しないためにはやむを得ない、というコンセンサスをつくるために随分時間がかかりました。コンセンサスをつくる一つの軸になったのは、IMFのプログラムで、それができて、今までの所は比較的順調にいっています。国が破綻するということはあり得ないので、そういった場合には、何らかの形で国債の保有者に負担を求める、あるいは一緒に増税もやると、その組み合わせは国によって違うと思います。
工藤: つまり、このままでは財政が厳しいので、高い金利でないと買わないと。それを低金利に代えるということは、保有している人が損をするわけですよね。どうして納得してくれるんですか。
加藤: 損になるけれども、もし、みんなが応じなかった場合には、全く国債の償還というのがないかもしれない。国によっては、もっと極端なカットオフがありました。アルゼンチンの場合なんかはそうですが、それよりも...
工藤: 一応、全額返すということを。
加藤: 返すことを前提に、金利が低くなる、あるいは償還期間が長くなる、という形で、コストは今の国債保有者も負担する。その方が、全体として成長も続いて行くだろうから、うまく回っていく、ということをみんなが納得するまでに、時間がかかりました。
工藤: その代わり、ジャマイカ政府は何を見返りに、どういう改革を行ったんでしょうか。
加藤: それは、歳入面での増税もありますし、国債のかなりの部分は金融機関がもっているので、金融機関の改革。破綻している金融機関には、政府が資本注入をすると。金融セクターの改革と、歳入増などの色々な総合的なパッケージとして打ち出すと。
工藤: 日本のマグニチュードはかなり大きいですよね。規模が800、1000兆円ぐらいまでこのまま行けばなるわけですから。
加藤: 日本の場合は、それにいく前に、必要なことをやっていく。それで、マーケットが納得するかどうかということです。
工藤: 企業が再建するのと同じような位置付けみたいな状況ですよね。まさに、ちゃんと管理をして、国債を減らしていくとか、かなり具体的なメニューをだして、それに国民が納得してと。でも、日本はそういう時期にきているということなのでしょうか。
加藤: そう思います。外国人の保有比率は5%ですが、これから年が経っていくと、日本の消化能力に制約が出てくるので、その分海外での消化に期待せざるを得ない状況になってきます。そうなってくると、マーケットの反応ということが、もっと強い形で出てくる。
工藤: どうしたらいいのでしょうか。ここまで厳しい状況になりますと。
加藤: 両方ですね。個々の国民が、こういう問題についてもっと真剣に、自分の問題として考えるということはありますし、歳入にしても、歳出にしても、やはり政府、議会で決定するものですから...せっかく、戦略を決めたわけですから、それに沿って現実の歳出削減策なり、歳入増を図る施策として落としていく。その具体的な受け皿に落としていく、というプロセスが、今度の予算編成を始めてずっと続いて行く。政府、議会での覚悟でしょうね。
工藤: 覚悟ですね。国民の覚悟と...国民はもっと知らないといけないのですが、政治側の覚悟も必要になってきているということですね。最後に、IMFについて、一般の人は知らないというか、かなり自分たちよりも別の世界...
加藤: 向こうの世界、アメリカの
工藤: と思ってしまう人が多いのですが、IMFの役割というのは、僕たちも韓国の時や、ギリシャの時も、必ずIMFが出てきますし、どういう役割を果たしている組織なのでしょうか。
加藤: 一つはよく医者の例を使うのですが、外科医であると。もの凄い出血をしているときに、手術をして出血を止める。国際収支困難に陥っていた国に、経済の再建策をまとめて、融資もする。韓国の例もそうですし、ギリシャの例もそうです。それと共に、IMFは予防医の役割ということももっと高めて行かなければいけない。日本についていえば、今のGDP1%を10年続ける、消費税でいえば税率を5%から15%に段階的に上げていく。
工藤: 15%に段階的に上げていく。
加藤: 色々な組み合わせの中の一つですが、具体的に踏み込んで、一つの処方箋を出していく。国毎にだしていく、ということが予防医としての役割ですし、もう少し国際収支危機が起きないようにするために、一種の保険を提供する。そういうことも今からやろうとしています。
工藤: IMFが出てくるということは、どのタイミングからなのでしょうか。例えば、破綻して...韓国でも、ギリシャでも何かの時に出てくるのか、どういう形でマッチングというか、コーディネートするのかとか、それとも、イエローカードとか厳しい時に、何かをして介入してくるのか、どういう風な形で参加してくるのですか。
加藤: それのレンジを非常に広げようとしていまして、ギリシャの例なんかは、最終局面で出てきて、それで資金も出すということですし、去年から始めているのは、メキシコやポーランド、コロンビアの例ですが、これまで経済政策をきちんと行ってきた国に対しては、いざというときには、かなり大量の資金を用立てます、ということもあらかじめ約束しておく。それから、後は、G20なりで、お互いの経済政策を監視する際の事務局的な役割をIMFが果たす、というようなことがIMFの主な役割です。
工藤: 日本みたいな場合、IMFが関わることになった場合、こういう巨大な債務が多いところに対して、どう対応するのでしょうか。
加藤: 日本はGDPでも世界3位での国ですから、IMFが対応するというには、ちょっと大きすぎるので、それはやはりG20の枠組みの中で、例えば、日本の問題が世界経済システム全体に影響を及ぼす、という風に心配される場合には、G20の国全体が、日本に対して注文を出す。その時に、IMFもベースとなるような経済分析なり、処方箋の色々なオプションを提供する、そういう役割かと思います。
工藤: トロントでやった今年のG20の時に、日本だけ例外となって、財政赤字を半減するとなりましたよね。日本に対するG20の認識は、かなり厳しいのではないかという認識を持ち始めているということでしょうか。
加藤: 自分たちよりも更に、財政、公的債務のストックが並外れて大きい、そういう認識だと思います。だから、半減するというのはもっと時間がかかるということでしょうし。
工藤: となると、状況としては本当に今、覚悟を固めないといけない局面だ、という風に僕たちは理解した方がよろしいのでしょうか。
加藤: 行動を...具体的な行動を起こすことが、マーケットから期待されている段階だと思いますね。
工藤: かなり厳しい意見でした。最後に加藤さんが言った言葉が、胸に突き刺さったのですが、要するに、もう具体的な行動を起こす段階だということです。やはり、世界がこういう風に見ている。そして、日本はまさに当事者なわけですから、本当はこの問題に、課題解決に取り組まなければいけないと思うわけです。それから、もう一つ言っていたのは、国民も覚悟を固めなければいけない、ということでした。前々回の放送で佐々木毅さんが、そろそろ、何が本物かを見極める段階になっている、と仰っていましたが、これもまた一つの問題であって、我々は、日本の未来のためにこういう財政問題が今どういう局面なのか、ということについて考えていかなければならない。今回の放送を通じて、皆さんにも何か感じてもらえたのではないかと思います。
ということで、今日はお時間となりました。今回は、財政破綻という問題、絶対にこれは起こしてはいけないということで、財政破綻の議論を紹介しました。こういう問題についても、私は考えていきたいと思っています。ありがとうございました。
(文章・動画は放送内容を一部編集したものです。)
【 前編 】
【 後編 】