震災から2カ月、見えてきた日本の課題

2011年5月26日

 今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、東日本大震災から2ヶ月、日本の課題として見えてきたものとは何か。言論NPOに寄せられたご意見を元に考えました。
(2011年5月25日JFN系列ON THE WAY ジャーナル「言論のNPO」で放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。

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「ON THE WAY ジャーナル
     工藤泰志 言論のNPO」
― 震災から2カ月、見えてきた日本の課題

 
(2011年5月25日放送分 17分59秒)

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震災から2カ月、見えてきた日本の課題 

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分たちの視点で世の中を語る「ON THE WAY ジャーナル」。毎週水曜日は、私、言論NPO代表の工藤泰志が担当します。

 さて、先週から、「震災から2カ月、見えてきた日本の課題」と題して、色々議論を始めています。本日は、言論NPOやこの番組に寄せられた声を軸に、これまで震災に対応してきた政府の問題について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

 東日本大震災から2カ月が経ち、この番組でも様々な議論を行ってきました。
そこで、今一度立ち止まって、議論を総括してみたいと思っています。
 ここで考えなければいけない問題が2つあるのですが、1つは政府の取り組みがどうだったのかということです。もう1つは、私たち民間側の取り組みについてです。やはり、政府の取り組みというのは、この非常事態においては決定的な役割を果たすわけですが、この政府の取り組みはかなり遅れていると思っています。これは単なる被災地の状況、復旧とか、被災者のための救済とかだけではなく、中長期的な復興ということを考えた場合、議論自体は4月11日に復興構想会議ができたのですが、それを実行するという仕組みが全くないわけです。そうなってくると、議論は始まっても物事は進まないという状況になっている。
 はっきり言うと、復興に対する動きは、実際には止まっていると言わざるを得ない状況です。なぜこのような状況になってしまったのか、ということを僕たちは考えなければいけない事態になっていると思います。

 そこで、まず、今の日本の政治がどうなっているのかということを、みなさんに提起したい、1つのテーマなのですね。私たち言論NPOの議論でも、そういう発言が結構寄せられています。今、言論NPOなり、この番組に寄せられている発言が48本もあります。その1本1本がかなり長くて、しかも、専門家からの発言も寄せられています。匿名を希望されている方もいらっしゃるのですが、非常に重要なので、それを紹介しながら、番組を進めて行きたいと思います。

 まず、1人目ですが、50代であるシンクタンクの研究員の方からです。今回の政府の対応はどうなのかという質問に対する発言です。
 「政府のトップが子どもの使いのようにデータの発表を繰り返しているだけで、今後のロードマップや見通しを示していない。これが国民にとっても海外にとっても、不確実性と不信をかえって高める結果になっている。また、各分野のプロに任せる所は任せて、責任は自ら取るという姿勢が欠如し、ここでも下手な政治主導を演出しようとしたことが、有効な対策を後手に回している。総理が悲壮な顔をして怒鳴りちらしている姿は、一国のリーダーとして疑問である。冷静で落ち着いた姿勢を示す一方で、きちんと国民に語りかける姿勢が不可欠だった」ということをおっしゃっています。
 これは皆さんも感じていると思います。その他にも政府の指導性を問う声が結構あります。
 「圧倒的な指導力の欠如。変革期には感覚的にも未来が見えること、それをしっかり主張することが大事だが、それが行なわれていない」とか厳しい声ばかりです。
 これは佐藤さんと言う方からのご意見ですが、「日産のゴーン社長が被災地を訪れた際のインタビューが示唆的です。それは、4月中に工場の機能を回復し、6月中には通常の生産体制に戻すという内容でした。国民、とくに被災者にとってもっとも重要なことは、この『期間』であり『目安』です」と。これを具体的に政府はきちんと意思決定をして国民に伝えることが重要だったとほとんどの方が言っています。これは何を言っているのか私は考えてみました。

 まず日本の政治そのものが何をしなければいけないのかと言うことです。それは官僚も含めて政府の機能をすべて使って、政府として課題解決に答えを出すことが必要です。その課題解決は今の発言にあったように、避難されている方が11万5,000人くらいいらっしゃって、その方々をいつまでに仮設住宅に移して、それだけではなく恒久的な住宅が必要であればそれをどうするかについても、政府が断固たる決意でやります、というのを言わないといけないのです。政府の機能はそういうものだと思います。
 だけどその点で見ますと、やはり色々おかしいなあと思うことがありました。例えば、仮設住宅ですが、僕たちもこの番組で早くやらないといけないと何度も言っていましたが、ようやくこの前「お盆までに完成させたい」と菅首相は言っていました。でもこれについて、単に見通しを言ったに過ぎない、という発言もあります。また、よく誰かに「指示をした」と発言しますが、これに非常に違和感があります。「指示した」という言葉の裏側にあるのは「指示したけど官僚が動かなかった」とかという意味なのか。あるいは、首相はよく「見込み」とか言う言葉を使います。必ず逃げを作っています。
 しかし、その政策の正面には常に被災者がいるのです。被災者の命の問題があり、そうであれば、そこに対していつまでにこれを解決するとかを明確に示してそれを絶対やりぬくと。それが1つでも成功すれば国民の目は変わると思います。この政府は非常に実行力がある、と。しかし今のところそうなっていない状況があります。

 もう1つの機能は、国民に向かい合う。つまり国民の合意の形成をすべきなのです。つまり国民に「私はこういう考え方で、この被災地とか日本の復興を考えるので、皆さんも協力してほしい」と言う形をベースに、みんなで日本の困難に向かい合うといったリーダーシップが必要です。以前佐々木毅さんにこの番組に来ていただいた際に、日本の民主主義について議論をしたことがあるのですが、民主主義と言うのは、一言で言えば「自分たちが代表を出す」と言う行為です。僕たちは政治にお任せするのではなく、自分たちの代わりにきちんとやってくれる人をきちんと選び出す。それが選挙であって、政治家は「我々はこういうことをするので、だから私を支持してほしい」と言うことを伝えることによって有権者とキャッチボールをするのです。その1つの現象がマニフェスト(政権公約)だったのだと思います。約束ですね。しかしこのマニフェストが今どうなっているかといえば、これは改めてこの番組で1回やろうと思っていますが、今だに、復興法案を通すために与野党間でマニフェストを止めるか止めないかとか議論をしていて、非常に違和感があります。

 もうすでに民主党のマニフェストは破綻していて、誰もこれが予定通り動くとは思っていない。破綻していると分かっているのに、それを国民に説明できない。菅さん自身がこの前の参院選で衆院選時のマニフェスト自体を否定していたわけですから、このマニフェスト問題で議論しているのは、多分、民主党の中で割れていて、マニフェストを実行すべきだと言う意見とそうでない意見とがあって、もうマニフェストが機能していないのにもかかわらず、党内で政争の具に使われているとしか思えません。
 そうであれば今国民に約束することは何なのかと。やはりそれは今回の復旧・復興だと思います。被災者の命を助けて、いつまでに何をどういう形でやるかについて菅さんは命がけでやるべきであり、それを国民にきちんと説明して支持を得ないとならない。
 そうした実行と説明があって、政治が機能するということだと思います。でも支持率が下がっています。

 ここで皆さんに思い出してほしいのが9.11の時のアメリカとの違いです。ブッシュが前の選挙でどっちが勝ったのか分からなくて、投票として問題があるのではないかとなってもめていたのですが、でも9.11という、これは自然災害ではなく人為的な攻撃の問題なので比べるのもあれですが、でも国が攻撃されたときに、それに対してメッセージを出し、国民に一致団結して、この国を守るための戦いを訴えるのです。それでアフガン戦争に突き進むのですが、しかしその時、与野党、政府の中でみんなを合意させて法案を通し、国土安全保障省まで作って一気に動き出すのです。それで支持率がどんどん回復するのです。つまり危機の時だからこそ、たとえ政党としていろいろあったとしても、みんなを合意させてそれを乗り切ることができたのです。

 しかし日本の場合は支持率が低迷して、この前、あるメディアの世論調査を見ていましたが、復興に関して首相に期待が出来ない部分があると出ていました。それであれば、まず政府はこの状況を改善しなければいけない。
 自分がこの国を救って、この国をいつまでに立て直したいと言うのであれば、「私はこういう意思でやりたい」と言うのを国民に示して、場合によっては解散して自分の行うことに真意を問う、あるいは解散をいずれ行うことを明示して不退転の決意で難局に取り組むべき局面だと僕は思います。今はこの2つの機能、統治と国民の支持っていうのが非常に欠けているために、強い政治的な求心力を回復できないまま、政治が政局化して復興の動きが動かないのです。この危機下での政治の問題はゆゆしき事態だと思います。
 よく「遅れているって言ってもこんな事態なので大変なので仕方ない」という声もありますが、そのようなわけにはいかないと思います。人の命がかかっていますから。
 例えば阪神淡路大震災については、規模は今回の震災よりは大きくないのですが、しかし震災から2カ月の間に復興関連の法案も財源もすべて動いていて、もう実際には復興の動きがお金も付いてすでに始まっています。
 地域には復興基金ができて、そこの下で被災者支援の動きも始まって、その数ヶ月後には、もうさっきの仮設住宅の建設が終わって被災者みんなの引っ越しが完了していたのです。
 今はどういう状況かと言えば、復興関係の法案は何ひとつも通っていない。この前通ったのは復旧関係、仮設住宅やがれき処理などの最低限の復旧関係に4兆円の補正予算が通りましたよね。でもこれは復旧関係の予算です。でも復興の問題と連動しないといけない。しかも東北の場合は、阪神淡路大震災の被災地であった神戸市は140万人がいる大きい都市ですが、東北は人口も少なくかなり弱い自治体が多いのです。しかもそこに多くの被災者を抱えている。その人たちの人生の再建を考え、単なる元に戻すだけではなく、その人たちが誇りを持てるようなことをやらないといけない段階ですが、それも動いていない。

 では何が問題なのか?この前この番組で石原信雄さんが言いましたが、「政治主導」というのは官僚を全部使い切って、その上で意思決定をしていくと言うことなのですが、やはりよく見てみると「政治家主導」、政治家として表には出るけど、責任を持って1つのものを動かさない。それは「政治主導」ではなく「政治家主導」になっていて官僚をうまく使い切っていないからなのです。
 先週出ていただいた古川さんや、その前にご出演いただいた上先生もおっしゃっていましたが、皆さんも官邸に色んな話を持って行っても全然動かないと言うのです。でも実際問題、色んな人たちが困っているので何かをしなければいけないということで、自分の個人的な繋がりを使って政治家に頼みに行ったりして民間は色んな形で動いているのです。しかし政府の統治の問題は、それで済む問題なのでしょうか。原発の問題でこの前もありましたが、住民の健康問題や汚染の問題であれば適切な情報を一刻も早く提供しなければいけなかったし、当時色んな情報が政府にあったはずなのですが、なかなか公開しなかった。そのために後から謝罪しましたが、放射能汚染が日々刻々と風向きで動いていて、そのデータを持っているにも関わらず公開しませんでした。
 住民の被ばくのモニタリングもすべきだし、海に汚染水を流しましたが、これはやはり国を超えて被害になるわけだから各国政府に伝えるべきだったのに、伝えなかったし。また、各国から支援がたくさん来た時に受け入れきれないから止めたりしていました。
 だから容量がいっぱい、いっぱいになっちゃって、なかなか動けない状況なのです。でも官僚を使うよりも何となく自分の知り合いの学者さんを集めてやっている状況なのです。これを政治のあり方としてどう考えるべきなのか、ということです。

 また復興の問題に関しては発言でもたくさん来ていまして、「やはり被災地が復興の中心になるべきだ」と言う声が多いのです。では政府は何をすべきなのか。それは被災地の復興のプランとか、まあそれはまとめ上げて政府が考えてもいいのですが、あくまでも政府がすべきなのはそれを実行することなのです。
 阪神淡路大震災の時は、復興委員会が出来たのですが、その時には同時に各省庁の連絡会議が出来て、その官僚統合の仕組みが全部できていて、被災地の兵庫県でも復興の委員会が出来ていて、そこでは復興のプランが始まっているのです。すべてが動いて政府は実行のために制度や法案を変え、お金をそこに付けることに最優先で取り組んだのです。だから動いた。
 四川大地震、中国なので国が違うのですが、あれは3年でやるという復興プランを前倒しして2年で進めて、もうこの政治的なリーダーシップはすさまじいのです。まあそれは政治的な体制の違いがあるのであれですが、他の例では政府は実行にこそ責任を持つという状況なのです。


 こういう発言がありました。前々回の上先生の時に、被災地の病気の方を首都圏に連れてきた、医師が自発的に取り組んだのですが、その時に受け入れに動いたのが千葉県鴨川の亀田病院でした。その亀田病院の方からの発言です。「被災地の救済と復興を目指して、様々な活動が繰り広げられている。亀田総合病院もそのような形で動いてきたけど、その中で民間の公益活動、つまり民による公が重要だと言う認識が強くなった。その人たちが目の前に広がる現実をよく認識して、少しでも早く実行し、事態を好転させるためにどうすればいいかと迫力が違っていた」と。「政府の行政機能は遅れていたが、民間の個人のネットワークはかなり動いていた」と言っています。やはり政府が動かない中で、民間がやるべきだと言う声が出てきています。こういう事態を2カ月経って、僕たちはどういう風に考えるかが今回の提案です。僕の答えは、やはり公共や公は政府が担うものと民間が担うものがあるのだと思います。政府がやることを民間が補完するだけではなく、民間、市民が自発的に課題解決に取り組む社会が僕は理想だと思います。
 それくらいの強い市民社会をつくるべきだと僕は思います。そういう強い市民社会ができることによって政府が機能していない点に関して強烈な牽制力になるのだと思います。そういうプレッシャーがかかることよって日本の政治が強いものになっていくと思います。ということで、今2カ月経ってみて、浮き彫りになっている政府の統治の問題、そして民間側の問題を僕なりにまとめてみました。一回改めて皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。

 僕は今回の震災復興を契機にしてパラダイムを変えないといけないのだと思います。つまり市民目線で全てを考えることです。原発でも市民に情報は提供すると不安を招いてしまうとかいうのでは駄目で、徹底的に市民に判断材料を提供して市民が考えていく動きをエンカレッジしていくような仕組みや社会が必要だと思います。さて皆さんはどう考えますでしょうか。

 次回からもこの市民目線で、様々な問題を皆さんと考えていきたいと思います。今日はありがとうございます。

(文章・動画は収録内容を一部編集したものです。)