「野田政権の100日評価」有識者アンケート結果をどう見るか 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) |
田中:工藤さんこんにちは。野田政権が12月10日で100日を迎えました。言論NPOでは自民党時代から、毎回100日評価を行っていますが、野田政権もその結果が出たということで、ハイライトを教えていただけますか。
工藤:分かりました。今回は、現時点ですでに150日ほどになっているのですが、やはり予算が決まらないと100日といっても評価ができないので、今回は年末年始まで評価の期間を延ばしました。その上で、有識者2000人ほどに質問票をお送りして、434名の方に回答していただきました。それを分析して、ようやくまとまったという段階です。
今回の調査は二つあり、一つは野田政権の100日時点での首相の資質と政権が取り組んでいる政策課題に対する評価。もう一つは、日本の政治の現状、そして日本の政治が今後どうなっていくのか、それから日本の民主主義がどういう段階にあるのかということをまとめて聞いており、それに対する見解を出しています。その意味では、日本政治の行方を考える上で重要な論点がかなり入っているのではないかと思っています。
田中:政権の評価と日本の政治そのものの評価をされたということですが、まず、野田政権の100日評価の結果を教えてください。
「首相の資質」については5点満点で2.4点。前政権(2.4点)と比較すると善戦
工藤:はい。先ほど田中さんがおっしゃったように、私たちは、100日間はハネムーン期間で温かく見守ろうと、ただし、それを過ぎたら有権者は厳しく見るということで、100日評価を行っています。
ただ問題なのは、野田政権がやろうとしていることは民主党のマニフェストで示された政策とは違うわけです。民主党マニフェストは破綻している。そういった状況の中で野田政権をどう評価するかということが、今までの評価と違うところでした。100日評価は安倍さんから6回目で、毎回同じ設問を聞いているのですが、今回の野田政権に関しては、私たちは所信表明演説で野田さんが話した30項目を、国民の約束と判断して、その上でそれにうまく取り組んでいるのか、有識者の皆さんにお聞きして評価しました。まず首相の資質、これは「首相の人柄」や「体制作り」など8項目で評価するのですが、5点満点中2.4点でした。
田中:それは高いのですか?低いのですか?
工藤:本当は5点満点の半分以下なので低いのですが、ただ、前の菅政権が1.8点とあまりにも低いために、それから見ると善戦しているという状況です。
それから、野田さんが国民に約束している30項目(財政再建や社会保障、TPPや震災対応)について、「うまく対応できた」「うまく対応できていないが、今後期待できる」「対応できておらず、今後も期待できない」という三つで評価してもらいました。その結果、「うまく対応できた」という意見が40%以上あったのは3つあって、消費税増税に対するリーダーシップと、TPP参加に対する首相の判断、震災に対して三次補正を組み、復興庁を作ったという点でした。しかし、それ以外の約20項目(社会保障や無駄の削減、普天間の問題などですが)については、「対応できておらず、今後も期待できない」と見ています。
これを見ると一つの結論が出てくるのですが、野田さんは今までの歴代政権が取り組んでこなかった消費税増税などで決断したことに対して、相対的に評価されている。しかし有識者は、それ以外に関してはほとんど何もやれない、と見ているのです。先ほどの三つに関しては野田さんは評価されているのですが、それについても民主党の党内が反対しているので、こういった状況も含めて、今後にも期待できるかと、さらに聞いてみると、半数程度(49.5%)が「期待できない」といっている。ということは、野田さんはそこに政治生命をかけて、100日間でこの3つについて踏み込んだのですが、その実現をめぐっても野田政権は正念場に入っているなということが、このアンケートで見事に浮かび上がってくるわけです。
田中:何となく報道を通じてのニュアンスと合致しているように思いますね。
52.1%が「解散すべき」と回答し、そのうち8割が今国会中や国会直後に解散すべきと見る
工藤:つまり、歴代の100日よりは野田政権の評価は高いのですが、しかし今後はどうなるか分からないという局面に置かれていることがよく分かります。
そしてもう一つ大きなのは、この野田政権はどういう政権なのか、ということです。つまり、選挙で国民に提示した約束はもうほとんど総崩れしたわけです。しかも、総理は党内で選ばれているわけですから、代表制民主主義、つまり、有権者が自分たちの代表を選んで、その代表がきちんと国のために成果を出すというサイクルに基づいた、代表制の民主主義から今の政権を本質的に判断すると、これについては「正統性がない」と問題視している人たちが7割もいるわけですね。そして、52.1%もの有識者が「解散すべき」だと回答し、そのうち8割が、今国会中か国会直後に解散すべきだと考えているという結果になっています。
田中:正統性がない、有権者から選ばれていないという問題は、言論NPOはずいぶん以前から指摘していましたが、今回アンケートの反応で明らかになったことはなんでしょうか?
工藤:日本の政治の状況をどう考えるかという問題にも関わってくるのですが、やはりいまの日本の統治や政党そのものに対する信頼が、なくなっているわけです。これに対して私たちは自民党時代からまずいと、政党政治そのものが壊れてきていると訴えてきたのですが、日本の政治や統治に対する危機感は、かなり高まっている。過去の100日評価と比較しても、民主党に政権交代してからこの傾向はどんどん強まっていて、「既存政党には信頼できない」という声が、今回はなんと61.8%と、6割以上もあるのですね。
そうなると、今回の解散は、野田さんがうまくいかないから国民の信を問うてほしいというよりも、ここあたりできちんと、日本の政党政治、政治そのものを国民サイドで考え直さなければならない段階に来ているという危機感が高まっていることのあらわれだと、私は思います。
田中:そうなりますと、解散後の社会がどうなっているかということですが、この点についても聞いていますね。
既存政党への失望感から、有識者は政党政治に本質的な変化を求めている
工藤:私はこれがショックだったんですが、いま解散総選挙があった場合にどうなるかという設問です。今は二大政党ですが、今回、民主党や自民党に対して期待する声はほとんどないわけです。「野田政権の継続」を期待する声は5.3%、「野田首相は代わるが、民主党を軸とした政治への継続」は3.9%、「自民党への政権交代」を期待する声も6.2%というレベルで、圧倒的多くの人々は、一つは「政界再編」を期待している(39.6%)、もう一つは、それもうまくいかずに「不安定な政治の継続」(32.5%)と日本の政治の混乱がかなり続くと見ているわけです。
つまり日本は、単に政党や政権を交代する、ということから、本当の意味での日本の政党政治の不信、今までの政党政治からの本質的な変化を求めなければならない段階に来ていることを、有識者は覚悟し始めているということです。
田中:失望だけしていてもダメなんですが、では、何に期待すればよいのでしょうか?
政治の混迷を打開するのは、「有権者の当事者としての意識」
工藤:これに関しては関連する質問もしています代表制民主主義とは、政治は有権者が主役なんですが、この課程は有権者が投票して代表を選び、その代表者が日本の課題に対して成果を出していく、つまり課題を克服するという二つのプロセスに分かれます。この代表制民主主義そのものが機能しているかということを聞いてみたところ、7割が「機能していない」と答えているんですね。
今の政権そのものをどうするかということ以上に、今の民主主義という問題について、うまくいっていない、と多くの人たちが見ている。ではどうすればいいのかということですが、それについては、「有権者の当事者としての意識」と回答する声が6割だったのです。
つまり、民主主義の原点に戻ること。もう、永田町に答えはないだろうと、有権者が変わって、自分の問題として考えていかないと日本の政治は動かないだろうということです。一方であるのは、政党そのものが政策軸でまとまっていない、ただ人が集まっているだけだということが混乱として見え始めていますから、この政党が変わることと、選挙制度についても問題と感じている人も4割以上あります。そういう問題が、投票しても「この人が代表だ」と実感を持たない、という意識につながっています。こうした代表制民主主義を再び機能させるためにも、「有権者の意識」が問われているのです。
田中:まさに自分たちが選択したことに対して責任を持つ、社会の課題について理解をしていくという「市民性」が問われているということですね。
言論NPOは、新しい政治をつくり出す具体的な動きをスタートする
工藤:ただ、そこには一方で、私たち言論NPOとして問題があると思っています。
有識者は政界再編を求めながら混迷が続くと言い、それを打開するのは有権者の意識と言っている。日本の政治の変化にまだ期待を持てないのは、そこには、有権者の意識が、どういう形で政界再編や新しい政治へのチェンジに結びついていくのか、見えないのです。
それは言論NPOに対する一つの大きな注文でもあると私は思っているのです。つまり、私たちは日本に健全な輿論をおこし、その輿論で政治を変えなければならないといっているのですが、しかし議論だけで政治が変わるのだろうか、と。つまり、この健全な輿論と議論が、実際に新しい政治をつくり出す方向に向かわなければならないということが問われているのです。言論NPO自身も変わらないといけないと、思っています。
田中:大きな課題を私たちにも突きつけられているということですね。
工藤:2012年、この調査は私たちにとってスタートだと思っています。この調査から議論作りをし、また、もっと市民と色々な議論して、それを政治にぶつけ、日本の政治を大きく変わるための動きを始めていかなければと感じました。
田中:ありがとうございました。
⇒ 野田政権100日評価と日本政治の行方 ― 有識者アンケート結果
⇒ 「野田政権100日評価」 434人の有識者の発言