安倍政権4年実績評価について

2016年12月31日

 言論NPOは2004年から、定期的に政権の実績評価、選挙時のマニフェスト評価を行ってきました。私たちが、政権の通信簿といえるこうした評価作業に毎年、取り組んでいるのは有権者と政治との間に緊張感ある関係を作り出そうと考えているからです。

 市民が強くならなくては、民主主義は強く機能しないと私たちは考えています。選挙は市民が政治に参加する重要な機会であり、政党はこの国が直面する課題解決のためにプランを提示し、その実行を約束する必要があります。有権者はそれを判断し、その実行を監視し、その成果を次の選挙で判断します。政党が課題解決で競争し、それを有権者が判断する。そうした課題に挑む、緊張感ある国民に向かい合った政治こそが、強い民主主義なのです。

 私たちが評価を行っているのは、政権が選挙時の公約や、日本の課題にどのように取り組んでいるのかを有権者が判断するためです。そのための判断材料の一つとして多くの人に活用していただきたいのです。

 こうした言論NPOの強い思いを多くの人たちに共感いただき、今回も多くの専門家の方に評価作業に参加してもらいました。実際に評価作業に参加していただいた約60氏の専門家の中から名前の公表を許諾していただいた25氏のみを公開させていただきます。

内田和人(三菱東京UFJ銀行常務執行役員)
小黒一正(法政大学教授)
小幡績(慶應義塾大学ビジネススクール准教授) 
加藤出(東短リサーチ代表取締役社長、チーフエコノミスト)
加藤久和(明治大学政治経済学部教授)
神谷万丈(防衛大学校総合安全保障研究科教授)
亀井善太郎(東京財団研究員・立教大学大学院特任教授)
河合正弘(東京大学公共政策大学院特任教授)
川崎興太(福島大学准教授)
橘川武郎(東京理科大学イノベーション研究科教授)
生源寺眞一(名古屋大学大学院教授)
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
菅原淳一(みずほ総合研究所政策調査部主席研究員)
鈴木準(大和総研主席研究員)
田中秀明(明治大学公共政策大学院教授)
田中弥生(大学改革支援・学位授与機構教授)
寺島英弥(河北新報社編集委員)
西沢和彦(日本総合研究所上席主任研究員)
早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー)
藤野純一(地球環境戦略研究機関上席研究員)
松下和夫(京都大学名誉教授)
道下徳成(政策研究大学院大学教授)
山田久(日本総合研究所調査部長)
山本隆三(常葉大学経営学部教授)
湯元健治(日本総合研究所副理事長)

 また、そのほかにも200人を超える専門家の方々に各分野の評価のためのアンケートに参加していただきました。アンケート結果は別に説明させていただきます。

 さて、2012年に誕生した第二次安倍政権の実績評価は今回で4回目となります。今回の評価は、2012年、2014年の衆議院選挙での政権公約、参議院選挙の公約などをベースに、安倍政権が重要視している公約内容を選定し、300氏近い専門家が座談会、ヒアリング、アンケートなどを通じて評価作業に参加し、それらを総合して評価を行いました。

 5点満点で2.7点の得点は昨年の3回目の評価とほぼ同じですが、評価する60項目で昨年と同じものは25項目に過ぎず、それぞれの項目が、状況の変化や参議院選挙の公約などを判断し、変更されています。

 2.7点という点数は歴代政権の評価と比べても高得点だと判断できます。その要因として、第二次安倍政権が長期安定政権になり、首相自身が成果を意識して課題に取り組んでいることが挙げられます。

 また、外交・安全保障の8項目の平均が3.4点と昨年に続き大きく寄与しています。政権の長期化で60の評価項目のうち進捗がみられる項目も多く、課題解決の方向に動いているが、現時点では判断できない(3点)項目も30個(前年から3個増加)となっており、点数を下支えしています。

 ただ、政権の長期化で課題解決に向けた本格的な評価も可能となり、我々の評価の軸もアウトカム(成果)を意識したものになり、個別の評価はかなり厳しいものとなっています。

 4年間で実現の方向に動いているもの(4点)は6項目(前年から2項目減少)にとどまり、実現を断念(1点)したり、困難だという項目(2点)は24項目(前年から1項目減少)に及んでいます。こうしたうまく進んでいない政策について、国民に対する具体的な説明がなされていないことも我々は重視しています。

 第二次安倍政権が当初から掲げているアベノミクスについては、掲げた目標の実現が困難だという評価になっており、目標自体が形骸化しています。財政再建も見通しは描かれておらず、目標の実現は困難だという判断に今回も改善はありません。今年の参議院選挙で延期した消費税の引き上げや、軽減税率の導入に関しては、安倍首相がその実現を示しているために、状況を見守るという判断を今回も採用しています。しかし、昨年の評価でも、状況を見守るということになっていましたが、こうした我々の評価は、その後、見事に裏切られ、強い決意を示していたにもかかわらず、参議院選挙では「新しい判断」として消費税の引き上げを再延期してしまったことには、注意する必要があります。

 安倍政権のこの一年は、新三本の矢に見られるように、同一労働同一賃金による正規と非正規の格差是正、介護離職ゼロなど、まさに今、日本が直面している課題への取り組みを強めています。これらの課題認識自体は適切であり、個別では進捗も見られます。しかし、それらの課題は、相互連関しているものであり、日本の将来ビジョンを描いた上での抜本的な構造改革に、踏み込む形にはなっていません。

 また、トランプ大統領の誕生や欧州での反自由や民主主義への挑戦など、世界は大きく動き始めています。TPPや外交政策での公約実現はこうした変化にも影響を受け始めています。一方で、真の行政改革や道州制、地方分権など統治構造に関わるものは実質的に取り組んでいません。日本に迫る課題が切迫しており、余裕がないというのであるならば、その修正や今後の立て直しを国民に説明すべきだと考えます。


 評価基準に関しては別に説明していますが、公約を課題解決のプランとしてその進捗を評価しており、修正やうまくいかない時、あるいは選挙時には全く説明していないもので新規で動き出した政策では、国民への説明が十分かも判断しています。今日公表した60項目の評価ではその内容も可能な限りわかりやすく説明しています。

 また、こうした評価作業をもとに言論NPOは毎日新聞と協議して最終的な採点を行っています。私たちは2004年から、メディアこそが有権者側に立ってこうした評価を行うべきと提案してきましたが、日本のメディアでは唯一、毎日新聞が4年前から私たちの要請に賛同し、作業を協働していただいております。


 今回の評価結果を通じて、有権者自身が日本の課題を考える一助になれば幸いです。