不戦の誓い、
「北京コンセンサス」から始まる新たな潮流
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言論NPOの工藤です。本日28日、私たちは東京に帰ります。いろいろなメディアで報道されている通り、今回のフォーラムでは、日本と中国の間で「北京コンセンサス」を合意しました。
何とか合意できた「北京コンセンサス」
日本と中国の政府間外交が機能停止に陥っている状況の中で、私たちの民間外交がどのような役割を果たせるのか、ということがずっと問われてきました。そこで、私たちは、民間の中に冷静な議論をつくり上げ、日中の民間レベルで「両国の間に戦争を起こすようなことは絶対にしない」、ということで合意することを目指しました。
しかし実をいうと、その合意である「北京コンセンサス」も、直前になって完成を一時断念しました。「不戦宣言」という誰もが納得できるような大きな意義のある宣言も、政府間外交というフィルターを通して見ると、いろいろな問題が出てきます。例えば、尖閣諸島(釣魚島)をどう扱えばいいのか、歴史認識をどうすればいいか、など様々な問題があるわけす。そこで、コンセンサスには日中間で合意できないことは記載しない、合意できることだけを記載しようということになりましたが、その線引きの判断が最後の最後までずれ込みました。
それでも、私たちはどうしても不戦宣言を出したかった。そこで、発表の場となる最終日の全体会議が始まる深夜のぎりぎりの局面になってようやく作成作業を再開し、朝の4時までかかって文面をつくったわけです。その作業には明石康・元国連事務次長や宮本雄二元駐中国特命全権大使、それから武藤敏郎・大和総研理事長、元日銀副総裁といった皆さんが、ご高齢にもかかわらず、夜を徹して協力してくださいました。明け方まで全員で文面を何度も見直して、最終的な文章を完成させ、12時ぐらいに「北京コンセンサス」として世界に向けて公表することができました。
この宣言は、非常に大きな意義を持つものだと思います。政府間外交が機能停止している状況の中でも、尖閣周辺における緊張感ある状況を何とか管理していかなければならない。そして、軍事的な紛争の勃発など事態のエスカレーションを抑え込まなければならない、ということが、このコンセンサスに込められた私たちの気持ちです。
民間だからできた今回の対話
今回私は、メディア対話で「ジャーナリズムは戦争を抑えることができるのか」という問題提起をしました。他にも、安全保障、政治、経済と、いろいろな分科会で、今のこの日中間の緊迫した事態をどのように打開すればいいのか、という議論を繰り広げたわけです。このような対話が、中国外交部のすぐ近くのホテルで、しかもそのすべての対話にテレビカメラが入っている中、行われたのです。特に、安全保障対話では、両国の軍関係者も参加しているにもかかわらず、テレビカメラが入りました。そもそも、非常に神経質にならざるを得ない時期にこのような対話を実現できたということ自体が非常に大きな驚きでした。
当初は8月開催の予定でしたが、東京―北京フォーラムの歴史上初めて延期になり、開催が危ぶまれる中、この対話の実現に向けて、いろいろな人たちが奔走してくれて、フォーラムの開催が決まり、さらに最後の最後で「北京コンセンサス」もまとめることができた。ですから、これまで行ってきた過去9回の対話の中でもかなり達成度の高い、画期的なフォーラムになったと思います。
しかし、このコンセンサスを単なるフォーラムにおける合意に終わらせるわけにはいきません。こうした冷静な声が、それぞれの国の民間レベルの中で大きく広がっていく。さらに、国際社会、特に東アジアの不安定なガバナンスを安定化させていくためのプロセスの中で、「軍事的な紛争への発展を絶対に阻止しよう」、という声が、国際世論の中でも理解されていく、という流れを私たちは作っていかなければなりません。こうしたチャレンジは、民間だからこそできるのです。その民間としての力をこのフォーラムの対話を通じて実感しています。
多くの人たちの協力で成功した「東京-北京フォーラム」
今回のフォーラムには、日本側だけで70人ぐらいの日本の留学生や学生が、スタッフやボランティアなどの形でかかわっています。中国側の人員も同じぐらいの規模に達しています。また、日中関係がこれほど緊張感のある時に開催されたにもかかわらず、初日の対話には、800人近くの人が出席しました。それは、参加者の皆さんそれぞれが、日中関係の改善という、この深刻な状況を解消するための流れに自分たちも参加し、貢献したい、という気持ちを持っていた。だからこそ、これだけ多くの人が集まったのではないか、と感じました。そうした人々の当事者としての声がある限り、アジアの未来には非常に明るい前途があるし、今の困難な状況も何とか乗り越えられると思っています。
言論NPOでは日本に帰ってからも、課題を解決するための議論を行います。一般の多くの人々が当事者として日本の課題に挑む対話や、外交に関する対話に参加できるような仕組みを作っていきたいと思っています。