菅新政権をどう見るか

2010年6月10日

8ヶ月余りの短命に終わった鳩山政権に代わり、6月8日に発足した菅新政権。 7月に行われる参院選挙で国民に何を示さなければならないのか、代表工藤が語ります。

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)


田中: 工藤さんこんにちは。前回の「工藤ブログ」を撮影後にすぐ鳩山政権は退陣になりましたね。マニフェスト評価作業も中断している状況で、あっという間に菅政権になってしまいました。評価作業、大変なのではないですか?

工藤: かなり大変です。基本的には、菅政権は始まったばかりなので鳩山政権の評価をすることによってですがこの間の実績は評価できます。ただかなり時間がなくなってしまいましたので焦っています。

田中: 中身についての質問です。私が一番疑問に思ったのは、一夜にして民主党の支持率がいきなり17%から60%位に上がりました。これはどういうことなのでしょうか。


工藤: それはやはり、前政権がひどすぎたのです。鳩山首相は退陣の時に言っていますが、小沢さんの問題とか、政治とカネの問題というのは大きかったと思いますし、何よりもすべてを選挙目当てにして、党利党略的に動いている感じが見えました。政治が「古い政治」のままだと感じ、国民はかなり失望しました。ただ、菅首相が「新しい政治」と言えるのか、この段階ではまだ判断できません。顔ぶれは変わりましたが、しっかりとしたプランは示していません。

 菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」を一体的にやりたいと言っています。もし首相がこのようなことをちゃんと行いたいと言うのであれば、きちんとしたプランを出してから選挙に臨むべきです。私は、政権が代わりマニフェストを変えるのであれば、解散総選挙をしないという、理由を見つけ出す方が難しい。今支持率が回復したので急いで選挙をやるべきだとの話もありますが、それに乗るだけなら、選挙を意識したただの顔のすり替えに過ぎません。私はこれから新政権が政策面でどういう提案をするのか重要視しています。

田中: 初歩的な質問ですが、マニフェストに関しては、どう理解すればいいのでしょうか。前のマニフェストで鳩山政権が生まれましたが、その間に選挙を経ないで政権が変わった場合は、私たちは何と約束をしていることになるのですか?

工藤: 今は前回の選挙で鳩山首相が出したものが、国民との約束なのです。ですので、これを変えるとなると、本当は国民に真意を問うべきです。菅首相はマニフェストを変えるような動きや発言をしていますし、さっきの「強い経済、強い財政、強い社会保障」をやるとすれば、間違いなくマニフェストの大幅な変更は避けられません。そうだとすれば、前のマニフェストを変えることになりますので、本来はどうしても国民の信を問わないといけない局面なのです。

 ここでもう一つ考えないとならないのは、菅政権の意味をどう考えるかです。菅さんは鳩山前首相の退陣ということで政権を作りましたが、これは鳩山政権がすでに行き詰まり、それを修正することが必要、という状況だと重なっています。つまり、政治が、本来、日本の政治が取り組まなくてはならない、課題に戻ったということです。

 鳩山政権のマニフェストの約束は本当にバラマキでした。こども手当ての満額支給も含めて、(このマニフェストに書いてあることを実行するには)16.8兆円必要で、この額は日本の予算の中で、公共事業、教育関係、防衛の予算のすべて足したものよりも多いのです。無駄削減だけで(財源を捻出するのは)無理であり、現実にそれも失敗しています。

 それを民主党として認めないといけない段階に来ています。ただ、約束は破たんしても政治の現実には課題があります。それが財政再建、社会保障や経済の回復なのです。つまりようやくスタートに戻ったのです。この状況は冷静に考えれば小泉構造改革の行きすぎを修正しようとした自民党末期の福田・麻生両政権の状況と何が違うのか、という話なのです。この両政権は財政再建や社会保障に関してのプランを出し、それに対して消費税の増額も考えて動いていました。改革の行き詰まりの修正と、バラマキの修正、修正を迫られたという点では同じですが、では菅政権のプランは何なのか。自民党末期の政権と比べてそれを上回るプランを菅政権が出せるか。これが最大の勝負です。

田中: そのあたりですね。まだあまり具体的な案を出されていないですが、菅政権はいつまでにこれを出すべきなのですか?

工藤: 本来は今度の選挙で出すべきです。選挙で国民の真意を問い直すことです。だけどここに大きな矛盾があって、たとえ、プランを出して「菅マニフェスト」が支持されようがされなかろうが、衆議院は民主党が圧倒的多数ですから、政権は続くわけです。だから本来マニフェストは政権選択のための公約ですから、大幅な変更をするのであればどうしても総選挙をしないと理屈が通らないのです。この前の菅首相の官邸での記者会見を見ていると、解散は「白紙だ」と言っていましたが、でも一方で財政再建について、国債の発行額の上限をつくるとか記者に色々質問されていましたが、ほとんど答えていません。他党なども含めていろんな人と協議をするとか。では自分たちの案は何なのか、と。それをまだ説明できない。こういう点を見ていて、まだ煮詰まっていないな、と思いました。それを見てがっかりしました。鳩山首相は退陣に追い込まれたのは国民の支持を失ったからです。その厳粛な事実を、まだ理解していないのではないか。まだ覚悟を固めておらず、それに対して私なら、「こういう形でやる」というところまで来ていません。

田中: 白紙に戻したとして、対案を出さなければいけないですが、それがまだ出ていないのですね。

工藤: 選挙までにそれを作らないといけないのです。しかし選挙の事情を考え、「会期を延長せずに早く選挙を行なえ」という党内の声に背中を押され、強引に選挙を行おうとしています。では今度の選挙は何なのだ、と言うことになります。

田中: 1つだけ、以前から気になっていたことですが、選挙を得ないで4人の首相が変わりました。そして、誰もが気が付いているのですが、小泉構造改革路線から4年間の間で変更があったわけですが、誰も明示の形で変更したということを言っていません。ギリギリ麻生さんが「前のやり方は違っていた」と言いましたが、もし同じ問題を起こさないとすれば、8カ月の短命で終わった鳩山政権の何がまずくて、だから自分たちはどんな風に路線を変えるのかということを短時間であっても総括するべきではないですか。

工藤: そうです。だからその結果、あのままでいいという考え方もあり得ます。どっちにしても鳩山政権を総括して、そしてこれを継続するのかしないのか、もし変えるとすれば何のために変えるのかをはっきり言わないと国民は混乱します。だったら参議院選挙の結果に伴い、鳩山首相が辞任した方がすっきりするのです。それを選挙に影響するので選挙前に退陣したとなれば、それはやはり選挙のために辞任したと見られます。これは自民党が過去に犯した過ちと同じことになります。

田中: 路線を変更したならば、きちんと何をどう変更したのか、その理由は何なのか国民に説明するべきです。私たちは工藤さんもおっしゃりましたが、バラマキからやっと課題に戻ったというのであれば、それは示すべきです。

工藤: 菅首相は「最小不幸」というのを言っていました。不幸の要因も様々あるけど政治が解決できることをして、最小にすると言っていますが、これは菅首相が昔出したマニフェストのスローガンです。しかしその頃と今の「最小不幸」の定義は違います。今の「最小不幸」は政治が課題に関して取り組まないためにみんなが不幸になっています。若い世代は将来の展望を持てないのです。社会保障がどうなるのか、この国がどうなるのか、自分の人生が分からない。政治が国民を不幸にしているという課題に関して、菅首相が取り組まない限り意味がないのであって、「最小不幸」は国民の中の一部の人たちが困っており、それを助ける、というような甘い考えでは困ります。

田中: なるほど。当時はいわゆる所得が低い層にある程度社会福祉や社会保障が整っていた時代の「最小不幸」とは対照の大きさが違うのですね

工藤: そうです。これまでの政治が課題から逃げ続けたためにここまで国民を不幸にしてしまったのです。だとすれば菅首相は「強い経済、強い財政、強い社会保障」について答えを出さないといけない。それを出して選挙をするのが筋です。それくらい今回の選挙では、国民が見ている視線の重さや強さを、菅政権は感じるべきです。言論NPOはまさにそういう視線でかなり厳しく評価をします。

田中: 分かりました。楽しみしています。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

菅新政権をどう見るか

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)