民主主義という問題に真剣に向かい合うきっかけに |
言論NPOの工藤です。今トランプタワーの前にいます。
ここには各国のメディア、そして「私は監視しているぞ」というプラカードを持ってトランプに抗議している人たちも含めて、多くの人が集まっています。この10日間、私はワシントンとニューヨークを回り、約50人のアメリカの専門家と議論を重ねました。また、いろいろな所で講演を行い、多くの人たちと討議を行いました。今回の訪米の目的は、トランプ政権がアメリカの今後にどのような変化をもたらすのか、その変化は、世界のリベラルな秩序にどのような変化や危機をもたらそうとしているのか、そして、日米関係や日本自身に何が問われているのか、それを見定めることでした。
「何かを変えなければいけない」との思いがトランプ政権を誕生させた
今回、お会いした方々の意見はかなり分かれていました。トランプの記者会見に実際に参加した米国や日本の多くのジャーナリストは、あまりにもレベルの低い議論や、スキャンダラスな議論の応酬に辟易していましたし、多くの人たちはトランプ政権の今後について、非常に悲観的な見方を示していました。トランプ氏自身の問題を追及する新聞もありましたし、いわゆるフェイクニュース(偽ニュース)が氾濫し、それを確認するだけで業務が混乱していることを告白する記者もいました。
ただ、この中ではっきり分かってきたことは、トランプを作り出しているアメリカの大きな変化というものが明確に存在しているということです。貧しく、自分のチャンスを失っている人たちが多くいる中で、今までの政治やエリート層に対する失望というものがトランプを生み出しているということがはっきり分かりました。そして、トランプによって何かが変わるというよりも、「とにかく何かを変えなければいけない」という思いが、トランプを生み出したことを感じました。
しかし、トランプ氏はこうした失望した層の怒りは代弁しても、その民意を代表して政策を動かそうとしていないこと、むしろスキャンダルで話題だけを作り出している状況に対し、私は複雑な思いがあるのです。
国際社会にも波及するアメリカで起こった「変化」
また、ワシントンでは、トランプ政権に何らかの形で入る可能性のある共和党の関係者とも議論しましたが、日本や中国に関して十分な理解がないと感じました。彼らは、「選挙期間の発言はあくまでも選挙期間のものだ」と話しており、具体的な政策ではこれから大きなチャレンジが始まるということは理解しました。日本に対して前向きなコメントがあった反面、中国には、「ルールを徹底し、よりハードに対応する」という発言が印象に残りましたが、それがどのような形で進むのか、私たちも注視する必要があります。
ただ、こうした動きが世界のシステムにどのような影響を及ぼすのか、そこまで視野に入れて話をしたところ、ワシントンにいる多くの人は不安を持っており、世界の大きな変化が今後どうなっていくのかという展望は見えないものの、これからも厳しい局面は続くだろうと見ていました。中には、「アメリカの民主主義の復元力というのはすぐに現れるのではなくて、こうした深刻な変化、アメリカがもっと深刻な状況になる中で、初めて復元力が出てくるだろう」ということを明確に言う企業経営者もいました。つまり、アメリカの不安定さはまだ続き、その中で我々はアメリカ社会や世界を今後見ていかなければいけなくなるわけです。
私は、だからこそ、日本がこうした自由と民主主義という規範の面において発言をしていくべきであり、言論NPOがその役割を果たしたいと、多くの人に伝えました。
アメリカで民主主義を学び鍛え直そうという動きが始まっている
もう1つの見方として、「アメリカの中でも間違いなくこの民主主義というものを学び、それを鍛えなおそうという動きが始まっている」という声も聞きました。そうした動きの可能性を考えながら、そしていよいよ日本でも民主主義が問われているという現状に、私たちも真剣に向かい合わなければいけないという思いを新たにしました。
これから飛行場に向かって日本に戻ります。ニューヨークは雪が降って本当に寒く、ワシントンも氷点下の日が続き、温度差が激しい10日間でした。東京も寒いと思いますが、この時にこそ、言論NPOは、自由と民主主義に向かって新しいスタートを切りたいと思っています。
トランプタワーの前から、言論NPOの工藤が報告させて頂きました。