総選挙公示にあたって考える
今、問われているのは民主政治自体の危機なのではないか

2017年10月09日

民主主義の立て直しに向けて、作業を開始します


kudo.jpg 突然の解散で、私たち言論NPOも時間の全てを選挙の対応に集中させている。

 一強といわれる自民党に対して3つの極が生まれ、メディアは政権選択が可能となったとはしゃいでいるが、それらの政党から、日本が今最も直面する困難、北朝鮮の核問題や日本の急激な高齢化と人口減少に対して有効な対策や考えが提示されているわけではない。

 危機は目前に迫っているのに、それが争点化されず、何を求めて政権を競うのか、それが分かりにくい。多くの有権者が困っているのは、そのためだ。
私が、今回の選挙で最も気になっているのは、日本の民主主義の問題である。選挙は国民が政治に参加する重要な機会だが、選ぶはずの政治に信頼が持てない。そこに、政党政治の危機の本質が、見られるからだ。


政党と有権者の間に、埋めがたい距離を感じる今回の選挙

 俄かに信じられなかったのは、政策がこれまでと全く異なる政党に100人を超える政治家が、大挙して踏み絵を踏んで移動したこことだ。投票した有権者のことなど、この政治家たちの頭には全くないのだろう。この人たちは有権者の投票の重みをどう考えているのだろうか。ある政治家はこんなことも言っていた。政策がどんなに良くても、数が集まらなくては政権を取ることはできない、と。

 さらに言えば、メディアの多くの議論はそんなことお構いなしに政党の組み合わせを評価し、その物差しの一つとし、憲法や安保法制を争点化させようとしている。

 私は、憲法や安保法制のことが重要ではない、と言っているのではない。また、安倍政権の長期化には権力に配慮する様々な弊害があり、政権選択が可能な受け皿ができることも魅力である。だからと言って、自分を国政に送り出す有権者との関係を無視していいはずがない。ここで考えるべきことは政党と有権者の間の埋めがたい距離のことなのである。

 政治が有権者に支えられない社会ではドイツやフランスがそうだったように、政党からの市民の退出が進み、政党の力は大きく崩れることになる。政治はますます国民の不安に迎合するポピュリズムや、強いリーダーに期待する傾向が強まることになる。今回の政治の光景を見て、日本の政治がその方向に向かっていないとは誰がいえようか。


有権者が将来を不安視するのは、課題解決を先送りし続けてきた政党への失望

 実は私たち言論NPOがこの7月に実施した日本とインド、インドネシアなどアジアの民主化国で実施した共同世論調査では日本の国民の半数が日本の将来を不安視し、また全体の6割がその解決を政党に期待できないと答えている。

 なぜ、期待できないのか、その理由もこの調査では明らかになっている。9割が回答したのは、急速に進む高齢化や人口減少に政治がそれに対して有効な対策をしていないことである。経済や財政破綻の行方に続いて、北朝鮮などのアジアにおける安全保障への不安も急増している。国民が将来に不安を覚えているのは、こうした課題解決に日本の政治が競わず、むしろ先送りし続けているからなのである。

 今回の選挙は、政権選択選挙とメディアは言っている。私も政権選択と言われると、単純に心もワクワクするが、自民党も含めて全ての政党がこの選挙で、課題を競い合っているわけではない。

 2025年問題とは、団塊の世代の大きな塊が75歳となり、後期高齢世代に突入する問題だが、この目前になっても急増する社会保障関係費を誰がどう賄うのか、それを説明する政党はないし、北朝鮮の核保有を止めさせるために与党以上に行動し、新しい軸を提起できる政党は見当たらない。

 日本の政党は課題解決を曖昧にし、返済不可能なレベルまでに将来世代へのつけを増やし続けている。選挙の度に、現役世代に対して、財源も示さず政策として練られていない思い付きのようバラマキ案が出るのもそのためだ。


有権者一人ひとりが主権者としての自覚を取り戻し、政治に向かい合う必要がある

 もう13年も前から、言論NPOは選挙の度に毎回、各党のマニフェストの評価を行い、政権の実績評価と合わせて公表しているが、最近ではほとんどの党の点数が100点満点で20点にも届かなくなった。多くの政策は課題解決のプランとして体系性や具体性もなく、スローガンやウイッシュリスト化しているからだ。
選挙はイベント化し、政治家にとって有権者が怖い存在にならなくなった。これまで小選挙区制で当選するためには、多くの民意を集めなくてはならなかったが、投票への棄権が多くなり有権者数ではわずか十数パーセントで当選する政治家も存在する。国民の代表としての政治家の存在が薄くなり、そうした人が自分に投票した有権者を見切り、別の政党に移ることも珍しくなくなった。

 これで代表制民主主義が機能していると言えるのだろうか。

 しかし、私たちがより考えなくてはならないのはこうした政党不信や民主主義の機能不全の傾向は、日本だけの傾向ではないことだ。
世論調査で見られた日本の比率は突出しているが、ほかのアジアの国でも同様に政党は国民の信頼を失い始めている。それと合わせてどの国でも国会の信頼も異常に低い状況になっている。選挙で一票を投じても、投じる先の政党や国会を信頼できない。私たちが直面しているのは、民主政治の危機なのではないか。それが、今回の選挙を迎えるにあたって私が思っていることである。

 そうだとしたら、今回の選挙は日本の民主政治を考える上で極めて重要な意味を持つことになる。流れを変えるためには、私たち自身が主権者としての自覚を取り戻すしかない。そして、政党が課題に向かって競い合うような政党政治の実現を迫る強いプレッシャーをそれぞれの選挙区で、候補者の一人一人にかけ続けるしかない。

 それが今回の選挙で、私が皆さんに提起したい問題意識である。

 言論NPOは選挙期間中、様々な判断材料を提供していきます

 いよいよ公示である。私たち言論NPOにとって、平和の実現と民主主義の促進は創設時からのミッションである。私たちもその初心に戻らなくてはならない。今回の選挙の意味は、政党と有権者との間に緊張感を取り戻すことである。

 まず、そのためにできる限りの材料や議論を、明日から毎日、皆さんに提供することから始めたいと考えている。