参議院選挙も終盤戦に入ったが、一向に盛り上がりを見せない。強い関心が沸かないのは何を争点にこの選挙が行われているのか、分からないからである。
誰でも消費税の増税は嫌だし、お金の支給を喜ばない人もいないだろう。
家計が第一であり、会計を重視することに反対する人も少ないが、その原資を生み出す経済成長をどのように組み立てるのか、国の財政や社会保障の財源をどのようにねん出するのか、そうした骨太の議論はこの選挙中、聞いたことがない。
与党は、これまで様々な政策目標を打ち出し、新しい課題は提起したが、多くの目標を達成できず、財政と金融の副作用自体が心配されているのに、実績だけを強調する。
それに対して、野党は対案も出せないで、反対や願望だけを打ち出して選挙戦に臨んでいる。
ただ一つ共通しているのは再配分であり、そこだけは競争になっている。そんな選挙目当てだけ動きを、多くの人は疑い、白けている。
私たちが昨日公表した、日本の民主主義に関する世論調査結果では国民の34%が、「日本の将来」こそが、問われるべき争点だと回答している。
急速に進む高齢化や人口減少は、日本の社会保障のこれからや地方の運営に深刻な影響をもたらしている。東京圏でも高齢者の単身世帯が増え、孤独死や徘徊などの現象が目立ち始め、引き籠りの男性を巡る痛ましい事件も起きた。
しかし、こうした問題を公約に掲げる政党は、ほとんどない。
そして、世界で起こっている米中の経済対立は、世界経済の分断を長期化させる危険性がある。
そうした現象を見ている多くの人は、日本の将来課題と自分の将来を重ね合わせ、不安を高めているのである。
私たちは2004年の総選挙から、選挙の際には政党のマニフェストの評価を行い、その内容を公表してきた。私たちが、毎回、多くの学者や専門家と評価作業を行ってきたのも、有権者にも政治や政策を判断する力が必要であり、その判断材料をシンクタンクとして提供すべきと考えたからである。
選挙は、政治が国民と約束を行う場であり、国民に向かい合う政治とは、こうした約束を実行するサイクルが回り、国民に選挙で評価される仕組みである。そうした緊張感こそが、強い民主主義を実現する。
ところが、政党の公約はすでに、かつての民主党への政権交代とともに骨抜きとなり、毎回、私たちの評価基準のもとでは合格点を取ることすら難しくなっている。
政党や政治家は課題に向かう競争よりも、選挙で当選することだけが自己目的となった。選挙制度の問題もあるだろう。それが、私たちの評価に反映され始めたのである。
この数年、私たちは、世界の主要国で民主主義の仕組みが壊れ始めていることを実感し、世界の多くの研究者と議論を続けてきた。
グローバリゼーションの展開による経済格差の拡大や国内の利益のぶつかり合いや、国内の不満が極端なナショナリズムを生み出している。その大きな流れが、欧州の既成政党を苦境に立たせ、トランプ氏の活動を支える背景になっている。
世界では、政治的に安定する日本は、民主主義の国としても成熟している、という理解がある。だが、多くの調査で、不安定化する民主主義の構造は世界と日本は共通化している。しかも、私たちが考える以上に、日本の民主主義が危険な状況にあることが、私たちが先に行った世論調査で明らかになっている。
詳細は別に読んでいただきたいが、日本の将来を悲観視する人は半数近くあり、政党に日本が直面する課題の解決を期待できない、と考える人は半数を超えている。そして、何よりも、日本の政党や国会を信頼している人は2割程度に過ぎず、政治不信の傾向が国民全体に及び、特に20代、30代に強く浮かび上がっている。
そして、この20代や30代には日本の民主主義自体に懐疑的な傾向が高まっているのである。それこそが、日本の政治に突き付けられた最大の試練だと、私は考えている。
国民や課題に真剣に向かい合わない日本の政党と有権者との距離はどんどん開いている。
皆さんには、各党の参議院選公約を一度読むことをお勧めしたい。与党は、政策は並べたが論争を避けるためより曖昧となった。野党は政策自体が空白だらけである。有権者が関心を寄せた「老後2000万円問題」の争点化を塞いでしまったのは与野党である。
政党に政策機能がほとんどないこと、さらに有権者の不安に真剣に向かい合おうとしていないことがよくわかるだろう。
だからこそ、私はあえて今度の参議院選は、「日本の民主主義が問われるべき選挙だ」と主張したい。日本の民主主義をどのように機能させるのか、それこそ、日本の政党や政治家に問われた課題であり、選挙中に候補者がそれをどう考えているか、あるいは悩んでいるかを注視すべきである。
主権者たる私たちは、将来課題に向かい合わない「公約」不在の選挙を許してはいけないからである。