2020年の幕開け。私は新しい年を、これまでとは異なる高揚した、強い覚悟を持って迎えています。
私が、こうした強い気持ちで新しい年を迎えたのは、この新しい年こそ、私たち自身が目を覚ますべき最後のタイミングだと考えているからです。
新しい年も、激動の世界の展開に私たちは何度も息を飲むことになるでしょう。
多くの人は、11月の米国の米大統領選の展開に一喜一憂し、年明けに選挙が行われる隣国の台湾や香港の動向には目が離せないはずです。
北朝鮮の非核化の展開、今後の世界秩序の方向を決めることになる米中対立はいずれも深刻化しており、その先行きはどちらも光が見えているわけではありません。
これに対して、日本国内では3月には聖火ランナーが復興の過程にある福島を出発し、全国に希望の灯を伝え始めます。
はっきりしているのは、この東京オリンピック・パラリンピックが9月に幕を閉じれば、否応なしに私たちも日本の将来に向けたとてつもなく大きな課題と、世界の歴史的な変化の現実に目を向けなくてはならなくなる、ということです。
その前に私たちは覚悟を固めなくてはならない。それこそが、ここで鳴らすべき"ウェイクアップコール"の意味なのです。
年明け早々、アジアの平和と世界の課題で日本のリーダーシップを発揮する
この年明けから、私たち言論NPOはこうした歴史的な局面に真剣に挑もうと準備を始めています。こうした課題には、まず民間が率先して取り組むべきだとの強い思いがあるからです。
北東アジアは、紛争の危険性に対して、有効な平和メカニズムを持たない世界でも数少ない地域です。この取り組みには6年もの年月を準備に要しましたが、この地域の持続的な平和を実現するために、米中両国に韓国を加えた日米中韓の4か国の対話メカニズム、「アジア平和会議」を立ち上げる、ところまで私たちの作業は漕ぎつけています。
それが、いよいよ1月21日に実現するのです。
私たちの視野は、将来のこの地域の平和メカニズムの構築に向かっています。まず、民間の舞台で、そのための信頼醸成と土台を建設する歴史的な作業が始まります。
▼「アジア平和会議」およびその前日に開催する「日米対話」の詳細・お申込みにつきましては、こちらをご参照ください。
そして2月末、世界を代表する世界10か国のシンクタンクのトップが、東京に顔を揃え、四回目の「東京会議」を開催します。
日本でシンクタンクの有力者を集めるフォーラムが開催されるのは、よくある話です。ただ、それはあくまでもイベントであり、私たちが取り組むものとは違うものです。
この「東京会議」は、10カ国のシンクタンクのそれぞれのトップか代表者が出席する会議として合意されたものであり、その目的は、ルールベースの自由秩序と多国間主義、民主主義を守り、発展させることです。
米中で深刻化する対立は通商や経済だけに留まらず、サイバーや通貨の面での世界の分断を招く危険性があります。現状はまさに最悪なケースを排除できない状況です。
それを何としても避け、戦後のルールベースでの自由な秩序と多国間の規範を守り、発展させなくてはならない。その思いに民主主義国の世界的なシンクタンクが賛同したのです。
G7加盟国にインド、ブラジル、インドネシア(シンガポール)の民主主義国のシンクタンクの代表が、この東京に毎年集まり、世界に提案する、そうした取り組みが今年もこの2月末に東京で実現するのです。
世界とアジアの平和に、日本がリーダーシップを取るのは世界が期待していることです。
この新しい年、私たちはそれを更に進めようと考えているのです。
私たちは民主主義の発展になぜこだわるのか
こうした世界やアジアの課題に、日本がリーダーシップを発揮するため、私たちは危機に陥っている民主主義の修復に取り組まなくてはなりません。この民主主義の強化こそ、言論NPOの創設時からのミッションだからです。
昨年11月に私たちが公表した民主主義の全国的な世論調査は、日本の多くのメディアで報道されました。その内容を読み返してみると、改めて衝撃を覚えます。
日本の国民では、特に若い層に顕著ですが、著しい政治不信が高まっています。調査結果では、それが民主主義の仕組みへの強い不信だけではなく、民主主義自体への懐疑論に繋がっていたのです。日本の政治は、これまで比較的に安定していると世界では見られてきました。ところが、この日本の傾向は、代表制民主主義が壊れ始めている欧米の傾向とほとんど変わらないものなのです。
▼2019年11月に公表した「日本の政治・民主主義に関する世論調査」結果はこちら
私が疑問に思ったのは、なぜこうした現象が日本のメディアでこれまで話題にならず、放置されてきたのかです。見逃せないのはメディアの調査は、民意の把握を二択に歪曲していることにあります。
政権の支持率の動向でメディアの世論調査が未だに競われていますが、民意の大半は支持や不支持だけにあるのではありません。「どちらとも言えない」、や「分からない」も正当な民意であり、それが次第に大きな割合になってきています。
ところが、多くのメディアの世論調査は選択肢を「支持する」か「不支持」の二つの項目に絞ったり、再度、質問を行ってどちらかに寄せていることが分かりました。そうなるとこれは世論調査とは言えません。
こうした二択の選択が、国民の中で高まる政治や民主主義の不信という構造変化を見逃す要因になったのです。
我々は民主主義の仕組みを本当に使いこなせるのか
この民主主義を考えるにあたって、私たちがここで思い出すべきなのは、この国は国民が主権者だということです。そして、日本の統治原則は憲法で保障されている通り、国民が代表者を選び、決定を委託する代表制民主主義だということです。
ところが、国民がその政治家を信頼できないとすると、この原則は壊れていることになります。
このことは、別の言葉で言い換えることもできます。民主主義とは市民が様々な課題を自分で判断し、発言できる仕組みであり、自分の行動には責任が問われる社会である、ということです。民主主義はそれ自体がすぐれたものではないが、それに代わるものがない、と英国のチャーチルは民主主義の魅力を説明しましたが、むしろ、私は、民主主義ほど難しい仕組みはないと考えます。
民主主義とは市民の自発的な責任ある参加が問われる仕組みであり、課題に向かい合える力を市民が持たなければ、この民主主義は自滅する可能性さえあるからです。
さて、私たちはこの仕組みを使いこなせるのでしょうか。今、私たちに問われていることは実はこのことなのです。
昨年末、私たちは、民主主義の今後を考えるために、世界から多くの有識者や政治家や改革者を招聘して議論を行いました。
フィリピンの上院議員は、選挙で民主主義に対するソーシャルメディアを使った攻撃が大規模に行われ、フェイクニュースのターゲットにされた経験から、数十万人規模の有権者とフェイス・トゥ・フェイスで対話をし、人間としての多くの課題を政党と市民が共有し直す努力を行っている、と話します。欧州で政党を立ち上げた専門家は、政党が市民の信頼を失う中で、政党が広い視野をもって課題に挑み、成果を出すという基本を取り戻そうと考えている、と実践的な発言をしていました。
国民の不安や不満に迎合して支持だけを集めるポピュリストではなく、課題解決に向かい合い、市民とつながる本来の政治を取り戻す、取り組みが世界で始まっているのです。
私たち言論NPOはこの新しい年、専門家のチームと一緒に、日本の民主主義の仕組みの全面的な点検と、世界の国際協力の在り方を評価する作業を始めます。それほど、日本に問われた役割と、民主主義の課題は重いと考えるからです。
私は、民主主義は修復し、さらに発展させるべきだと考えています。これは、私自身の生き方の問題でもあります。私は、国民が自己決定や参加ができる社会で、これからも生きたいのです。この姿勢は、技術進歩の中でAIが全ての仕組みを席巻しようとしている、これからの人類の未来でも同じです。
人間が自己決定するための努力を怠り、決定を一部の専制者やAI技術に任せてしまった方が楽だと考えたら、民主主義を維持することは困難です。そうした体制の異なるモデルの国はすでに存在しています。そうした国を目指すことはできません。
それが、私が思う強い問題意識です。
なぜ、"ウェイクアップコール"を鳴らす最後のタイミングなのか
民主主義の役割を考えるということは、主権者として、そして自己決定ができる人間として生きることへの覚悟を固める、ことです。
世界が、歴史的な変化や困難に直面し、日本の未来も不透明になっている時だからこそ、私たちは、その変化に身を任せるのではなく、主体的に挑む必要があるのです。
私たち言論NPOが新しい年に進める、北東アジアの平和のための取り組みも、世界の自由秩序や、民主主義の改善の取り組みも、全てその覚悟をもとに、設計されています。
その作業の全てが、この年明けから始まります。
東京オリンピックが始まる前にこうした取り組みを始めなくてはなりません。今始めるのは、オリンピック後はまさにその本番だからです。
新年こそが、多くの人に"ウェイクアップコール"を鳴らす最後のタイミングだと考えるのはそのためです。
新年も私たちの取り組みに多くの方のご参加とご支援を頂ければ幸いです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
言論NPO 代表 工藤泰志