聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)
田中: 工藤さん、こんばんは。いよいよ投票日が近づいてきましたが、かなり短期間のうちで色々なことをなさってきましたよね。マニフェスト評価、それから各党の政調会長のヒアリング、最後に参院選立候補者に対する個別のアンケートを公開されたようですけれども、どのようなことが分かったでしょうか。
工藤: 今回僕たちが気にしたのは、有権者が、どこに投票すればいいのか悩んでいるのではないかということです。今回の民主党のマニフェストも国民に向かいあったものではありませんが、各党のマニフェストも政策集とか、主張集になっていて、これだけでは選べない。一方で、今の日本が直面している課題に対して、日本の政党がどういう答えを出したのか、というのも定かではない。そのような状況の中で、僕も個人的にそうですが、皆悩んでるんだろうなあと思ったんですね。そこで、言論NPOがその手がかりを出すためには、まず、各党の政調会長にこの課題に対してどのような解決策を出したのか、ということを聞きたかった。それでも分らなければ、候補者自身が有権者に自分の信任を問うていくわけだから、候補者自身が課題認識と解決策をどう考えているか、明らかにしなければ今回の選挙は何のために行われているのかわからなくなってしまう。そう思っていたので、インタビューと候補者アンケートの2本立てでやって、ようやく公表できました。ですから、言論NPOのHPでは、どこに、誰に投票すればよいのかという手がかりは出せたのではないかと思っています。
田中: 例えば私が、有権者の立場になると、言論NPOのHPには色々な情報がありますが、どの点に着目し、どのように考えればよいのでしょうか。
工藤: 今回の民主党のマニフェストが、「強い経済、強い財政、強い社会保障」というように転換したということには意味があって、どんな政党も日本が直面している問題からは逃げることができないわけです。強引に民主党政権は課題に引き戻された。つまり、日本の社会の持続性(財政・社会保障)に代表されますが、少子高齢化という問題が急速に進む中で、若い世代から見れば、自分たちの将来が見えないという状況にあるわけです。
そういう状況を、政治が国民に説明しなければいけない。それがまさに、「財政」と「社会保障」と「経済」なのです。民主党政権はそこに戻された。つまり、課題に向かわないと、日本の政治が未来に対して何の主張も展開できない、ということがはっきりとわかったわけです。ということになると、有権者は、政党や個人が日本の課題をどう認識していて、それにどういうプランを持っているのかということを、今回の選挙では、判断すべきだと思います。それで、マニフェストを掘り下げるための政調会長へのインタビューと、今回の候補者アンケートを作成し、候補者たちに本音レベルで何を考えているかということを問うてきました。また、地元では選挙演説とかもあると思うので、それらを見ながら、どのようなプランを出しているかということを自分で見て判断するしかないと思います。
田中: 私も、立候補者別のアンケートを拝見しましたが、一番面白かったのが、全体の集計というよりも、個々の立候補者の回答の有無、回答している場合には、どういう回答をしているか、自由記入欄も含めてすべて見比べられるようになっている。これはかなり画期的だと思ったのですが。
工藤: そうですね、今回わたしたちは400人ほどにアンケートを出して、そのうち181人が回答してくれました。設問は13問ですが、これに回答することにより、候補者本人が日本の課題に関してどのような考えをしているのかということがかなりわかるようになっている、凝った設問です。それに181人の方が回答してくれたということのほうが非常にうれしい。逆にいえば、それ以外の人は回答してくれませんでした。僕たちは何度も連絡を入れましたが、選挙戦でそれどころじゃないという感じだったと思うんです。
また、政党のマニフェストに書いていることと、候補者が言っているのが違っていることが結構多い。たとえば、菅政権は消費税の問題を一生懸命言っていますが、民主党の議員の中で消費税の増税に賛成している人は2割ほどしかいません。ほとんどの人は反対だったり、無回答だったりします。それから、今の日本が直面している課題について、当選後すぐに取り組みたい課題は何か、と聞いたところ、ほとんどの候補者は「雇用対策」や「経済成長」でした。おそらく、日本の経済がかなり厳しくて、雇用に吸収力がないということを多くの人が考えているということです。ただ、政党レベルの議論は財政再建、消費税がアジェンダになっていますよね。しかし、財政再建や消費税をやりたいと言っている人はほとんどいない。ですから、候補者と政党間に意見のズレが見えましたし、また同じ党内の候補者間でもかなりの意見のちらばりがみられました。こういう問題をどのように考えなければいけないのか。僕たちは日本の政治は一つの大きな曲がり角に来ているということを感じます。つまり、日本の政治は今大きく変わろうとしているということです。日本の課題に向けて、その解決策を競おうという段階に来ているというのは間違いない。ただ、そのプランに関して、政党・候補者も、具体的なものを提示される方はまだまだ少ないわけです。
だからこそ、今度の選挙は、この課題にどう政治家が向き合っていて、どう答えをだしているかを僕たちは見なければいけない。そうしなければ、せっかく投票した政治家が参議院議員になったとしても、本当に仕事ができるかどうかがわからないわけです。ですから、課題の認識と解決プランを有権者が認識するという非常に大事な局面にきたなと考えています。
田中: まさにその、アンケートの個別の回答を見ることにより、この候補者はどういう課題を認識して、どういう解決方法を考えているかということを一つひとつ、私たち有権者が確認していかなければならないということですね。
工藤: そういう局面になっているということですね。完全なプランを出すのは非常に難しいですが、少なくとも課題認識を間違っていたら話になりませんよね。先程の財政再建や社会保障、経済について真っ先に取り組みたいと考える候補者というのは、課題認識をしている人だと思います。一方で、それに対して具体的なプランがないにしても、それに対してどのように政治家として迫ろうとしているのか。その方法論や姿勢が感じられないと、その候補者はレトリックばかりで、本当に政治の仕事をしないかもしれない。このあたりまでは判断ができると思います。
田中: なるほど。この言論NPOのアンケート結果にはすぐコメントが入っていましたが、そこのコメントを拝見すると、「よく知らない名前の政党が、どんどん短期間の間に増えていった。でも、ここのアンケート結果を見ると、政党内でも様々な意見が出ており、政党間での再編の可能性があるのではないか」という意見も出ているのですが、このあたりどうですか。
工藤: まったくそのとおりで、海外にいる人たちからたくさんコメントが寄せられてきています。間違いなく、日本は現在の課題を解決しながら、政治レベルで未来に向けた競争が始まろうとしているわけですね。ただ、単なる政治レベルの話に任せてしまうと、そのような競争が起こらない気がしています。有権者は、課題に対して、日本の政治家や政党はどう考えているのか、というプレッシャーをかけ続けないといけない。政治はその課題に向き合い続けているわけです。有権者がその課題に取り組むべきだとプレッシャーをかけつづければ、おそらく課題解決を一つの軸にした政界再編や、新しい仕組みが始まるような気がします。僕たちは、日本の政治が変わろうとするまさに過渡期の真っただ中にいるのだと思います。ただ単に、今の政治はだめだよと考えるのではなく、政界が変わろうとする一つのプロセスとしても大事だと考えなければいけないし、有権者の責任というのは重要な局面にきていると思います。投票日は絶対に選挙にいくべきですね。
田中: ありがとうございます。頑張ってください。
(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)
投票日、有権者は何を判断すべき 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事) |