先進的な日本の課題を乗り越えるために、日本自身が問われている

2010年8月14日

記者会見をし公表した、2010年日中共同世論調査から何が明らかになったのか。記者会見から一夜明け、改めて代表工藤が語ります。聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 理事)

田中: 工藤さん、こんばんは。言論NPOでは2005年から「東京-北京フォーラム」を毎年開催していらっしゃいますが、その一環として毎年日中共同で世論調査を行っていますね。昨日、その世論調査の結果を記者発表されたそうですが、ポイントを教えていただけますか。

工藤: この世論調査は日本と中国の国民に対して、僕たち言論NPOと中国の中国日報社と北京大学の共同で行なっている世論調査です。中国で世論調査を行うということは、もの凄く大変なことで、なかなかできないのですね。僕も、これを実現するために、非常に大変でした。ただ、2005年から6回を継続して行ってきて、やはり両国民の相手国に対するイメージや感情、相手国に対する基礎的な理解が明らかになってきました。調査を開始した2005年は反日デモがあり、日中関係が最悪の時でした。その時は中国の国民は日本に対して非常に悪いイメージを持っているし、日中関係は非常に良くないと思っていました。日本の人もそう思っていました。その時と比べますと、お互いのイメージとか両国関係の現状に対する認識はかなり改善されました。ただその中身で色んな形で違いが見えてきたというのが、昨日の記者会見で説明した世論調査のポイントです。

田中: 違いというのは具体的にどういうことですか?

工藤: 中国国民の日本に対するイメージの改善がすごく大きいのです。お互いの国に対してのイメージですが、日本人の多くはまだ中国に対して良い印象を持っていないし、中国国民の6割が日本に対して良い印象を持っていないのです。ただ中国国民の日本に対する印象は非常に改善しています。しかし一方で日本国民の中国のイメージはなかなか改善していません。実は日本の中国の印象も05年から見れば、改善してきたのですが、2008年調査から悪化してしまいました。その原因はギョーザ事件の中国の対応の悪さで、日本国民は中国に対して非常に嫌なイメージが出来てしまったのです。今回の2010年の調査では昨年と比べると良くはなりましたが、十分な改善ではありません。それが日本人と中国人の相手国の印象において大きな違いです。

 両国関係に関しても中国人は「日中関係は非常に良い」と思っており、7割くらい(74.5%)が「良い」と答えている。日本の方も改善して現状はいいと思っているし、「悪い」と言う人はかなり減ってきています。でも依然として日本の国民は日中関係に関して48%が「どちらともいえない」と答えています。ただ、日中関係は実際には2005年から大きく改善しています。首脳会談も再開しましたし、「東京-北京フォーラム」のような民間交流も増えています。それでも日本の国民の半分が、両国関係が改善していることに確信を持てていない。これはなぜなのか。

 僕はこれを分析して昨日も記者会見で説明しました。1つは、中国の人は政府間関係が改善するとことは非常に大事だと思っています。ですので、政府間関係が改善することによって非常に日中関係が良いという印象になっています。一方、日本は政府間関係が改善するのは非常にいいことだし、それに対して日中関係は今親密になっているのを感じていますが、それ以上に日本の人は生活感覚で中国のことを見ると言う傾向が出ています。例えば今日中関係の両国関係で障害になっているものは何かと聞かれれば、ギョーザ問題みたいな中国食品の安全性を掲げる人は減ってきたとしてもまだ7割もいます。つまり、日本人は生活感覚の中で中国に対する印象を形成している。そこの最も大きな影響を与えているのはテレビメディアで、軍事に対する不安感もその中で強まっています。
 もう一つは、僕たちは日中の共同世論調査と同時にそれと並行して中国では北京大学などの6大学で中国の大学生のアンケート調査を行なっています。この学生調査と世論調査に間に意識の差が広がっています。中国の国民は戦争経験、つまり過去の視点でまだ日本を見ている傾向が非常に強いのです。たとえば中国国民の38%、これは毎年減ってきていますが、いまだに現在の日本を「軍国主義」だと思う人がいるのです。 ショックだったのが、「日本には報道や言論の自由はない」と思っている人も多いのです。つまり、中国人は過去から今の日本を見ている。
 一方、日本ですが、先には生活感覚と言いましたが、今の中国を見て印象を形成しているのです。中国の経済は巨大になってきて、日本はこうした中国経済的の発展に依存しながら自国の経済を支えている。しかも今年は日本のGDPは中国に抜かれます。中国の経済力が大きくなるにつれて中国の大国的なイメージを日本の国民は気にし始めているという問題があります。つまり政府間関係、それから過去、を意識している中国国民。日本人は中国を生活感覚で今の変化を見ているという状況。もっと詳しく調査結果を見る必要がありので、言論NPOのHPの中で公表している今回の日中共同世論調査の詳細のデータを見ながら一緒に考えてほしいのですが、僕はこの2つの要因が大きいと思っています。

田中: 時間軸とどのくらい多層的に相手国を見ているかの差がこの結果に出ているのですね。

工藤: そうなのです。だから逆を言えば、中国の大学生はその点で非常に客観的にものを見始めています。記者会見時に、東京大学の高原明生教授が指摘していましたが、例えば「日中関係に障害になっているもの」という設問の対する答えとして、中国の大学生は「日本にあるナショナリズム」よりも「中国の中にあるナショナリズム」と答えている人が多いのです。

田中: もう1つ伺いたいのですが、「2050年のお互いの国の姿」をどう見ているかという問いで、両国民の間でだいぶ差があったと思います。どうしてこんなに差が出たのか説明していただけますか。

工藤: 中国はかなり自分の国に自信を感じています。経済的な成長がかなり続いていて、たとえば自分たちは2050年にどうなっているか、では、中国国民は8割がアメリカと経済力が並んでいるか、もうアメリカを追い越していると見ています。中国の学生はそこまでいっていませんが、やはり中国の国民はかなり強い自信を持っています。これからの国際的な政治・経済のリーダーは誰なのかという問いでは、「アメリカ」と答える中国国民が一番多かったのですが、やはりそれに中国が迫っています。中国国民は自国が国際社会において政治的なリーダーシップを取っていくと見ている人が、アメリカと並びかけているのです。しかし、日本の国民には逆の傾向が出ています。日本人は2050年に関しては非常に自信を失っていまして、というよりも未来においてこの国がどうなるかを今の段階で判断できない状況なのです。その結果一番多いのが、日本の2050年を「中規模の国で何の影響力もない国」という予想だったのです。これは、日本の世論調査と同時に行った日本の有識者にも同じ傾向があります。

田中:しかし、「2050年の日本」について中国人はもう少し前向きにみていて、日本人はペシミスティックに見ています。

工藤: そうです。僕はこれを色々な政治家の方に話をしましが、「これは大変なことだ」と言っている政治家の方と、「日本のメディアの報道が悪い」って言っている方、「日本人はもともと悲観的なタイプだ」と言っている人がいました。
 僕はこれからの日本を考えた時にそこまで順調に中国が大きな力を持つか疑問に思っていますが、巨大な国への発展に自信を深める中国、自信を失う日本、この構造は多分これからの国際政治やアジアの中で非常な重要な問題だと思います。ただ気をつけなければいけないのは、日本が抱えている課題と中国が抱えている課題は違うということです。日本も高度成長の時にはかなり自身を持っていました。それがある意味で成熟社会となり、成長が鈍化し、つまり豊かになった。一方で少子高齢化という大きな先進的な課題を持っていて、その中でシステムチェンジができず方向が見えない。中国はどんどん発展しようと言う状況ですが、その中国もいずれは国民の意識も変わり始め、生活の質の豊かさを求めたり、少子高齢化という問題にぶつかるはずなのです、つまり、日本の課題は先進的であり、かつ今の局面を打開するというのにはもっと複雑になっています。
 しかし日本がそれを乗り越えない限り、アジアや世界の中で存在感のある国にはなれないと思います。日本が問われていると非常に感じました。

田中: 確かに悲観的に成らざるを得ないような材料はありますが、戦う前に気負い負けをしている気がしますので、情けないような感じがしました。ですので、憂うよりももっとポジティブに考えないと駄目ですね

工藤: 今度8月30日(月)から開催される「東京-北京フォーラム」で、この世論調査を使って日中の有識者が激しく議論をします。中国からは116人もの方が来ます。現役の閣僚、閣僚経験者など各分野のトップクラスが訪日します。日本もそれに向かい打つために経済人、メディアや政治家など色んな人が参加して議論を行ないますが、両国の政治家同士が議論するときに、日本の学生の参加がいつも少ないのに非常に気になっています。
 昨年中国で同じことをしたときは、たくさん学生が会場に集まり、質疑応答の時にはみんなが手を挙げるのです。一昨年東京大学で開催した時は、参加する学生は少ないだけではなく質問も少なかったです。その時に中国の方より、「日本の学生と対話をして何の意味があるのか」と言われました。私は日本の若い世代に、是非30日午後の政治対話に参加して傍聴してほしい、そして両国の政治家に意見をぶつけてほしい、と思っています。

田中:多くの人が参加して下さることを願います。それではありがとうございました。
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先進的な日本の課題を乗り越えるために、日本自身が問われている

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 理事)

2010年現在、日中両国民がお互いの国をどのようにみているのか。世論調査の分析結果を受け、現代中国政治が専門の、東京大学大学院法学政治学研究科教授の高原明生氏が解説します。
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2010年日中共同世論調査のワンポイント解説

高原明生氏
(東京大学大学院法学政治学研究科教授)