ブックレット16『「エクセレントNPO」の評価基準 「エクセレントNPO」を目指すための自己診断リスト―初級編―』発売にあたって、なぜ、「エクセレントNPO」の評価基準を公表するに至ったのか、代表の工藤が語ります。聞き手:田中弥生 (言論NPO 理事)
なぜ、今「エクセレントNPO」なのか
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田中: 工藤さんお久しぶりです。
工藤: お久しぶりです。
田中: 本当に久しぶりなのですが、今日は、昨日発売になった『「エクセレントNPO」の評価基準「エクセレントNPO」を目指すための自己診断リスト―初級編―』 、できたてほやほやの本についてお聞きします。マニフェスト評価の言論NPOという印象があるのですが、NPOの評価基準というのを、なぜおつくりになったのですか。
工藤: この本つくるために、徹夜もしたし、体調崩すぐらい非常に大変でした。マニフェスト評価をやっていて感じるのは、有権者や市民が、自分たちが政治を判断して、自分たちがこの国の未来を自分で考える、というふうな動きがでてこないといけないわけです。だから、今の日本を変える、日本の社会が将来に向かって動き出すためには、市民が強くならなければいけないのですね。言論NPOは、そこに絶えず問題意識がありました。この間、私もメディアから非営利の世界に飛び込んで感じたことは、市民の受け皿である非営利セクターというのが、どうなのだろうということでした。非営利セクターが市民の受け皿として、きちんと機能して、しかも、組織として社会の課題解決に自発的に取り組んでいるのか、ということに非常に大きな問題意識を持っていました。やはり、強い市民社会をつくるためには、非営利セクターや市民社会のことについて議論しなければいけないということで、私も、田中先生が中心にやっている研究会にエディターとして、また議論形成者としてずっと参加していました。
最終的な結論は、やはりこの市民社会に大きな変化を起こすためには、非営利セクターが変わらなければいけない。非営利セクターが、まさに市民に向かい合って課題解決を競争し合うような、質の向上を目指すような大きな変化が始まらないと、多分、強い市民社会はできないと思ったのです。そうなってくると、その望ましいNPO像を明らかにした上でそれを目指そう、という動きをつくる必要があると思ったのです。それが、3年がかりでつくった...「エクセレントNPO」という言葉に抵抗がある人がいるのですが...「エクセレントNPO」を提起して、それを目指そうという動きをつくるために、この評価基準をまとめたということなのです。ただ、私たちは評価の専門家ではなくて、田中さんが専門家なので、田中さんが中心となってやってきたのですが、色々なNPOやNGO団体の人も集まりましたよね。
田中: そうですね。国際協力NGOから子どものことをやっているNPOまで。そして、研究者の方にも参加していただきました。
工藤: そうですよね。大学の先生も参加していただき、夜も飲みながら議論したり、いっぱいやっていましたよね。それに、田中さん中心に課題の調査もしたじゃないですか。その結果、この評価基準を生み出したので、僕も最後はこれをきちんとしたものにまとめないといけないと思ってやっていたので、かなりのレベルにできたと思っています。田中さん、専門家としてこの本はどうでしょうか。
田中: 自分でつくったので、自画自賛になってしまうので恥ずかしいのですが、非常に出来がいいです。いくつか特徴があるのですが、1つは、普通、組織の評価というと、ガバナンスや会計の所に集中しがちなのです。でも、この評価基準の場合には、「市民性」「社会変革性」「組織の安定性」という、3つの基本条件についてきちんと議論を進めた上で、評価基準をかなり論理的に設計して、なおかつその基準を満たしているかどうかということを、自己診断できるようにチェック項目をつくっています。普通はここで終わるのですが、さらに、チェック項目それぞれに、1ページずつ説明文を書いていますよね。
工藤: そうですね。だから、僕たちのインターンも含めて、これをつくっている時に、ドラッカーの非営利組織の評価とか色々なものを見ながら、顧客やお客さん、つまり非営利セクターの人も、市民の人も、望ましい非営利セクターとはどういうものなのか、ということが分かる目線でこの本を作ったので、非常にくどいくらい丁寧ですよね。
田中: そうですね。
工藤: 実を言うと、昔メディアにいたし、出版社の編集をやっていたのだけど、こういうものは確かに見たことがない。
田中: 普通は基準だけとかのものが多いのですよ。
工藤: だから、この評価基準によって、市民社会の中でどういう組織が望ましい非営利組織なのか。多分、それは非営利セクターだけではないと思います。市民との関係ということで考えれば、色々な各種団体、企業だってあり得るわけですよね。そういう人たちが、市民との関係を色々考えながら、その中で大きな社会に対して向かい合って、課題解決について動き出すという組織を「見る」という点でも、この評価基準というのは参考になるという気がしているし、そういう思いでつくりました。
田中: 今、工藤さんから「市民性」というキーワードが出ました。「社会変革性」が2つ目のキーワードですが、社会変革性という言葉自体、何となくNPOより社会起業家の十八番のように言われています。
工藤: だけど、企業そのものが社会変革をすることだからね。
田中: そうです。今まで、賞品やサービスを提供することによって、人々の生活を大きく変えてきたわけです。そういう視点でもこの「社会変革性」というところを、企業の方も見ていただければ、きっと納得されると思います。
工藤: そうですね。僕はリーマンショック以降、日本の経営論という形で、「企業は誰のものか」という本質的な議論が問われているような気が、今はします。やはり、その時に地域社会や市民、消費者との関係を考えながら企業を考えることが必要だろうと思います。一方で、市民という以上、甘えないで社会的な課題について、自発的に自分の力で何かに挑んでいくような動きが、市民側から出てくる必要があると思います。だから、今は丁度いい時期だと思うのですよ。この本をつくるときに、田中さんと一緒に色々な人たちに会いましたけど、世界はまさにそういう価値の転換が始まっているじゃないですか。優秀な学生の中で、非営利セクターで働きたいという人たちが増えてくるような変化が出てきているけど、日本の中ではまだまだです。大きな変化は始まっているけど、方向が何か違うような気がするのですね。やはり、行政や政府が主導している市民社会ではなくて、市民側が自ら自発的に参加していくような社会の方が、僕はいいと思っています。だから、これを僕たちの手でつくって、評価基準を表に出すということは、非常にいいことだと思っていますが、田中さんはどう思いますか。
田中: そうですね。基準は絶対ではないのですが、実は他の団体とも議論をしてみると、「市民性」「社会変革性」「組織安定性」というのは、ほとんど皆さんが合意するところなのですね。でも、それをどう実現していくかというところで、皆さん悩んでいる状態です。そのような中で、完璧ではないけど、ここまで具体的に説明をしているものというのは、私は1つの大きなインパクトを与えると思いますね。
工藤: そうですね。このブックレットは、徹夜もして突貫作業でつくりました。そして、今ようやく色々な人たちにご紹介する段階にきました。全国の主要書店でも置くし、言論NPOのホームページでも買えます。だから、ぜひ読んでほしいと思っているし、僕はこれをきっかけに、市民社会の議論がもっと色々なかたちで進まないかと思っています。それができれば、この本をつくった事に意味があると思います。せっかく政府側も「新しい公共」ということで動いているのであれば、それをまず僕たち側から主導して動こうという気持ちでがんばるので、田中さんにも協力してもらいたいと思っています。
田中: そうですね。そういう意味では、タイトルは『「エクセレントNPO」の評価基準』ですけが、ぜひともそれ以外の方に読んでいただきたいですね。
工藤: そうですね。それから、非営利セクターの人は、この本には自己診断リストというのが付いています。これをチェックしていくと、自分の団体の採点ができます。それから、実を言うと、昔の警察庁長官で、今は救急ヘリ病院ネットワーク理事長の国松さん、国際交流基金理事長の小倉さん、横浜市芸術文化振興財団代表理事、専務理事の島田さんの3人を共同代表とする市民会議を立ち上げ、そのホームページもできました。これは言論NPOではないのですが、この市民会議のホームページを見てみると、なかなかよくできているな、と思うのですが、ホームページ上でお試しのチェックができるようになっています。チェックし終わると、自分の非営利組織が何点かというのができるようになっています。
田中: 後、コメントも出ます。
工藤: 何か色々考えているなと思っています。話を元に戻して、このブックレットは非常にいいものなので、ぜひ読んでほしいと思っています。
田中: そうですね。ゴールは、まさに市民が強くなることですよね。
工藤: そうです。そのために、私たちは何かの貢献がしたいと思って、こういう動きをやっていました。ただ、3年がかりで、ここまでやってきてよかったですよね。
田中: そうですね。できるだけ多くの方に読んでいただきたいと思います。
工藤: 僕たち言論NPOは、これからも市民社会を強くするために色々な議論をしていくので、ぜひ皆さんも参加してほしいと思っています。