民間外交から見えてきた日本の課題 聞き手:言論NPOスタッフ |
―工藤さんこんにちは。ようやく、3日間のCFR主催の会議が終わりましたが、今回の会議を終えての感想を教えてください。
CoCの会議を振り返って
工藤:色々と考えさせられました。2つあるのですが、1つはグローバルなアジェンダ、例えばリビアの問題とか、イランの核問題があるのですが、グローバルな課題に対して、もっと日本は主張しないといけないと思いました。今回のCoC(国際諮問会議)には、世界の19ヵ国のシンクタンクのトップが集まったのですが、全員がグローバルな課題を、本気で自分のことのように考えていました。その中で、私も色々な形で主張できたということは、非常に良い機会だったと思います。
彼らと話をしていて感じたのは、これは新しい変化だということです。政府というか、グローバルな様々なガバナンスが揺れている中で、民間が、しかもNGOみたいな非営利で中立で影響力のあるシンクタンクが集まって、グローバルな課題に対して継続的に議論して、世界に発信していく。このCoCには強い可能性を感じました。
そしてこれは、言論NPOが設立当初から考えていたこととかなり近いことです。
僕は10年前に言論NPOをつくりましたが、健全な輿論の力で、日本の未来を作り出そうと考えたり、世界の課題に挑もうと思っていた。それを実践している団体が世界に多いことを実感しましたし、世界的なグローバルな課題に対して、言論NPOももっと発言していかなければいけないな、ということを強く感じました。
もう1つ感じたのは日米問題です。やはり日本の存在感が非常に薄いということです。今回の訪米で、色々なシンクタンクの人達と会うことができました。ブルッキングス研究所のリチャード・ブッシュさんとも朝、話をしたのですが、やはり私の懸念と同じような認識を持っていました。つまり、日米間のコミュニケーションが不足し、それがリスクになるということです。日本とアメリカは同盟国ですが、日本の民主党政権の政策の混乱もあり政府間の対話は少なく、首相のワシントンへの公式訪問も2年半もない。民間の対話もかなり薄くなってきている。それに加えて、アメリカや世界全体が中国の動向を注視している。
ですから、ワシントンでは日本への関心の低さというか、諦めのようなものを感じたし、これではまずいな、ということも痛感しました。
私は、今回、そのことを様々な場面で発言しました。日米間の対話が非常に薄くなっていることがリスクになってきている、ということを言ったし、アメリカがアジア重視で動くのであるならば、その考えを具体的に話して欲しいと。フェイスブックでは私と経済担当のホーマッツ国務省次官とのやり取りを少し紹介しましたが、彼は政府間の対話不足を認めた上で、NPOなどの市民と話す方がより重要だと話していました。別の人からは、日本の市民社会が弱すぎるとも言われました。
私は市民社会に向けたこうした発言は、何も決められない、日本の政治がどうして日本の社会で続いているのか、という疑問だと思いました。
つまり、未来に対して何も決断できないのに、党内外の権力争いを繰り返し、国際社会から孤立する。そうした政治を容認しているのは、私たち市民であり、有権者だ、と私も思うからです。私は外交問題評議会の座談会にも出席し、日本にも市民の変化が始まっている。日本の政治は、必ず市民は変えるから、と言いました。帰国後、私たちがやらなくてはならないことは、かなり多いなと覚悟を固めました。
―今回、外交問題評議会議の他に、色々なシンクタンクの人達をお会いしたそうなのですが、どのような印象でしたか。
日中米の新しい対話のチャネルの可能性について
工藤:この4日間、本当に色々な人達と会いました。特に、ワシントンにある有力なシンクタンクのかなり上の人達とも意見交換をしました。ヘリテージ財団、それからCSIS(米戦略国際問題研究所)、AEI(アメリカン・エンタープライズ研究所)、それからブルッキングス研究所の人達と会いました。
アメリカのシンクタンクの人達とは、中国問題をどう見るかとか、日本の問題について話をしたのですが、こうしたコミュニケーションは大事だと痛感しました。言論NPOは中国と強いコミュニケーションのチャネルを持っています。その中で、私たちが得てきた中国に対する考えとか、中国の現状というものについて、私たちの方がはるかに色々な情報を持っていると思いました。
逆に言えば、かなりアバウトな対中理解がアメリカにある。その状況で軍事的な転換が図られるのであれば、緊張感だけを強めてしまう可能性がある。ここでも強い新しいコミュニケーションのチャネルが必要だと思いました。私が意識しているのは日米間、そして日米中です。
こういう問題意識を背景に、私は新しいコミュニケーションチャネルが、日本とアメリカの間にも可能だと思いました。
アメリカの研究者は様々な形で中国とのコミュニケーションのチャネルを持っていることは分かりましたが、そこから得ている認識と私の間の認識に微妙なずれを感じるのです。
多分、この違いの背景にはアジアの文化的なものへの共有間もあると思います。
言論NPOが行っている、日本と中国の対話を知らない研究員もいましたが、説明すると、日中間にそんな大規模な民間対話が継続していることについて、かなり驚いていました。
私は、アメリカが考える中国の脅威ということに関しても、具体的に問いましたが、研究者間で様々な見方があることが分かりました。エアーシーバトル構想などの軍事戦略がどういう方向に向かっていくのか、ということについてもかなりディスカッションしましたが、日米の対話不足という私と同様の理解がアメリカの研究者にあることが分かりました。
それから、日本のメディアの関係者とも色々と意見交換をしました。非常に残念な感じがしました。普天間以降、日米の政府間の関係が機能していない背景に日本の政治の問題がありますが、日本への関心が低下する中で、他人事のようにそれを見ているような言動があります。
日本のメディアは誰のために報道しているのだろうか、と私は思いました。日本がここまで孤立している現実、日米の政府間で必要なコミュニケーションができていない、ことは日本のメディア自体が本来問題視すべき課題なのです。
私もCFRの座談会で、「あなたは、ワシントンから日本が無視されていると思いますか」と、一番始めに質問されました。私は「無視されている」ということをはっきり答えた上で、「このままでいいのだろうか」という逆に問いかけをしました。そのままでいいはずがない、少なくともアメリカのアジア重視の軍事的な展開に対して対話の空白があり、パワーバランスのみを重視しすぎるとアジアのナショナリズムを刺激すると、問題提起しました。
私は、アジアでの民間対話の役割はかなり重要になっていると考えます。言論NPOの役割もまた問われていると思います。
世界に日本のメッセージを発信し続ける活動へ
今回の議論を通して、CoCの19ヵ国20団体の中に、言論NPOが日本から選ばれた理由が今、よく分かります。
世界では変化が始まっており、その変化は市民社会と重なっています。言論NPOは議論の力で健全な民主主義、強い市民社会と主張してきましたが、それは当たり前なのです。
日本には、独立で中立的な、どこかの政党や企業、組織とも関係ない、そういう独立のシンクタンクはないのではないか、と言われました。日本の市民社会はどうなっているのか、ということも言われました。
私たち言論NPOの立ち位置が世界では当たり前なのだと、いうことも痛感しました。
これをきっかけに、僕たちは世界に対してかなり強いメッセージを出していくような、そんな言論NPOの活動に大きく転換していこうと思っています。
僕は18日から北京に入ります。僕たちがやっている民間外交が、政府間で足りないところを十分補える可能性、力があるのだということを実感したし、やらなくてはいけない。一方で、日本の政治そのものを、きちんと世界に主張できるものに変えていかなければいけない。
言論NPOはこれから、かなり闘っていきますので、みなさんも私たちの活動に注目してほしいし、よければ参加してほしいと思っています。