新しい年、日本に変化をつくり出せるのは私たち有権者

2013年1月01日

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新しい年、
日本に変化をつくり出せるのは
私たち有権者

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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※テキスト部分は、一部加筆しています。


田中:工藤さん、あけましておめでとうございます。
工藤:おめでとうございます。
田中:早速お伺いしたいのですが、今年は何が大事になりますか。
工藤:日本に本当の変化を作り出すこと、が大事だと思っています。
田中:どんな変化ですか。
工藤:有権者が主体となる民主主義というものを日本の中で機能させなくてはいけないと思っています。そのための取り組みを進めなくてはと、私は思っているわけです。
田中:では、どうしたらということに絡めてなのですが、昨年末に大きな選挙が行われ、その結果、政権交代が行われました。しかし、何か私たち有権者はすっきり腑に落ちていないところがあるのですが、その問題と関係はあるのでしょうか。


有権者主体の政治はすでに始まっている

工藤:あると思います。実は、有権者が主体になる政治に向けての動きというのは、すでに日本で始まっているのです。4年前に民主党政権ができたのもそうでした。

 しかし、彼らは有権者に向かい合う政治、そして課題に対して取り組む政治を作ることができなくて、逆に政党政治そのものの脆さ(もろさ)を表に出して自滅してしまったのです。
 だから、私たちは既に変化の過程にいる、と考えるべきだと思います。

 震災がおこり、原発の問題がありました。高齢者が増え続ける中で社会保障の仕組みが持続可能ではない、こともはっきりとわかり始めた。多くの人がそれを自分の生活の中で気づき始めた時に変化は始まったのです。

 自分たちの身は、自分たちで守らないといけない、自分たちの将来は自分で考えないといけない、と。そう考えた時に、「政治」は自分たちの遠くにあるものではない、ということに多くの人が気づき始めたのです。

 ただ、政党政治はその国民の課題や気づきに対してまだ向き合っていない。だから、自分たちの政党を守るために、ある意味で国民の不安を利用して、政党を作ってそのあと分裂するとか、有権者になぜ説明しなくてはいけないのか、とか開き直る政党まで出てしまったのです。その結果、有権者は結局、政党として比較的まとまっているところ、安定しているところを選んだわけです。

 多くの政党も言葉は勇ましかったが、これからの日本の未来に向けての課題について、プランを提案したわけでもない。だから、有権者は未来を選択したわけではないのです。むしろ、それができなかったから投票率も下がったのです。

 だとすれば、新年、まさに有権者と政党政治というものがもう一度向かい合うような状況をつくっていかないといけない。その一つの機会が参議院選挙だと思います。

 有権者レベルでの大きな変化は既に始まっているわけですから、政党政治というものがそれと見合っていかないといけない、つまり政治が本当に変わるための、プロセスだと今を見たほうがいい、と私は思います。
 
田中:なるほど。私たちが何かすっきりしないと思っているのは、まさに私たちの中で起こっている自分たちの課題を解決しようという大きなエネルギーを、まだ政治側がよく理解できていなくて、しかもそれをアクションに起こしていないということですね。


有権者が政治家に求めているのは、課題を解決するための仕事力

工藤:少なくとも私たち言論NPOがこの間、マニフェスト評価を含めてやってきた過去8年間の中で得た答えというのは、有権者と向かい合わない政治とか、課題に向かい合わない政治というのは必ず失敗するのです。

 なぜかというと、政党の都合が政治の中心にあるのではなくて、「課題」が中心だからです。どんなに政党がいろいろ夢を語っても、課題の解決から逃げることはできない。

 にも関わらず、政党が自分の組織の中で意見の集約もできず、組織も政治家の寄せ集めのような状況では、その政党を政党として信頼することもできない。

 日本の政党政治はその程度の状況だということを多くの人は知ってしまったのです。

 それに対して、自公政権は、今までの経験があったために、少なくとも他の党よりは政権運営能力がある。それをまず見たのだと思います。しかし、この国が直面する課題解決に対して、彼らたちが方法を提起しているわけではありません。こうした問題は、まさに今年これから問われ始めるというように私は思います。

田中:なるほど。しかし、私たち有権者はその課題解決に対して、前よりも関心を持っているし、その動きもありながら、なぜ政党は私たちに向かい合わなかったのでしょう。


政治家に騙されないためにも、白紙委任するべきではない

工藤:それは有権者がまだ本当の意味で怖くないからです。この前も結局は投票率が低かったわけです。

 私も政治家とよく話をするのですが、政治家側から見える有権者の姿は、何かサービスしてほしいというものだというのです。しかし、本当に怖い姿は、仕事を迫る有権者の声なのです。たとえば、日本の将来に対する課題に対して答えを出してくれとか、あなたたちの答えは答えになっていないとか、厳しい視線で見ていれば政治はそれに向かい合わないといけない。政治と有権者との関係はそういうものでなくてはならない、と僕は思うのです。前の選挙では、あまりにも前政権がひどいのでそれを言い訳にできましたが、今度はそういうことにしてはいけないのです。

 有権者は、課題というものにすでに気づいている、のです。それに対して答えを曖昧にする、そうした政治を許してはいけないのです、

 そうした関係ができることが、本当の変化なのです。そうした変化が始まれば、日本の政党も政策軸に動き始め、未来に対する競争が始まるでしょう。それは、日本の政党政治を立て直すことにもなるのです。

 新年は、そうした本当の変化に向けての動きを始めなくてはなりません。つまり、これからが本当のスタートなのです。

 有権者も、もう政治に騙されてはいけない。だからこそ、有権者は政治に白紙委任すべきではない、と私は思っているのです。

田中:今、政治家と有権者の間の緊張関係ということをおっしゃってくださいました。主として、政治側の課題についてお話いただきましたが、緊張関係を持たせるためには有権者側も努力しなければいけないのではないかと思います。如何でしょうか。


冷静に問題を見る目を養い、判断するための材料を提供していく

工藤:多分、有権者は今気づいた段階なのです。僕もすべての問題を知っているわけではありませんが、今までのシステムなり、色んな構造が成り立たないだろう、持続可能ではないだろう、ということに気付いたわけです。であれば、それをどういうふうに解決するのだろうか。その時に、勇ましい声だけに反応するのではなくて、冷静にこの問題はどういうふうに考えればいいのか、ということをまず有権者側も考えないといけないタイミングなのです。

 本当のことをいうと、日本のメディアなり、大学なり、言論というものに携わっている仕組みが有権者に対して本気にならないといけない局面なのですが、力不足というか、そういう状況になっていないわけです。むしろ勇ましい声に引きずられていくような、ポピュリズム型の状況になってきている。

 だからこそ言論の役割が私たちにも問われているように思っているのです。ちょっと待てと、やはり冷静に考えようと。少なくともプランをきちんと判断できる目を身に付けないといけない。私たちが新年、取り組もうとしているのはまさにそうした議論なのです。そうした議論に多くに人に参加していただき、政治にも直接提案する。そういう流れを作っていきたいのです。

 言論NPOが昨年9月から始めた「私たちは政治家に白紙委任はしない」という呼びかけに対する賛同はようやく2000人近くになってきたところです。しかし、同じ思いを持っている人たちは確実にいる。この賛同の輪は今後広がっていく可能性があるし、それをどうしても広げていかなくてはいけない。こくした声が大きくなることで、有権者側にある変化は、目に見える変化に変わると思うからです。

田中:まさに、有権者が自分で判断するためには、きちんとした情報とそれを判断する知恵が必要で、その場を言論NPOが提供してくださるということでしょうか。


この国の未来を決めるのは私たち有権者

工藤:そうです。ただ、議論の場をつくるだけではなくて、もう1つ私たちがやっているのは、課題に対する取り組みも、政府だけに依存しない、ということなのです。

 私は、この1月、2月、3月は海外に出かけることが多くなります。中国や韓国、アメリカに行ったりして、民間としての外交ということに取り組むことになっています。

 日本の課題解決というのは日本国内の問題だけではなくて、海外の問題も大きなものであり、それが内政に響いてきています。こうした外交という問題に、言論NPOは民間のトラック2というものを作って対話を進めています。

 これは外交だけに限らないのですが、市民なり有権者が、自分ができることに関して、積極的に社会に参加していくような流れがいま確実に始まっているのです。つまり、有権者が自分で考えて選挙で選ぶだけではなくて、社会の問題に対して自分たちも参加していく。そういう流れがさらに大きくなったときに本当に強い民主主義と市民社会がこの国にできると思うわけです。

 本当の変化というのは、実はこうした流れのことなのです。新年こそ、こうした目に見える変化を始める局面だと私は思います。言論NPOはそのための議論のプラットフォームと具体的な行動に、今年は本気で取り組むつもりです。

田中:まさに議論と実践とそしてそこで自信をつけていくということですね。

工藤:そうです。この国の未来を決めるのは、有権者であり、つまり、僕たちが主役なのです。そういうことを新年、皆さんにも感じて、考えて頂ければと思います。

田中:はい、楽しみにしております。ありがとうございました。



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