新年、私たちに問われているのは 聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事) |
田中:工藤さん、あけましておめでとうございます。
工藤:おめでとうございます。
田中:今年もよろしくお願いします。さて、早速お伺いしたいのですが、2014年の日本のテーマについて、工藤さんはどうお考えでしょうか。
2014年は、日本の変化が始まる年に
工藤:私は「当事者性」だと思っています。つまり、人任せにせず、自分の問題として色々な課題を考え、挑戦していく、という動きが、日本で始まることを私は期待していますし、自分たちがこの国のことを考え、課題に取り組んでいくという強い流れが始まらない限り、本当の意味で変化は起こらないと、思うからです。
新年は、まさにそうした変化が始まる年にしなくてはなりません。
今の日本は本当に自由で民主主義の国なのか、と疑問に思うことがあります。つまり、民主主義や自由とは、それを構成する多くの人たちに、当事者としての「責任」や「挑戦」がないと十分に機能しないからです。人任せや政府任せでは、答えは出せないのです。
「当事者性」が、新しい変化を生み出そうとしている
私が日本の将来に悲観的でないのは、新しい変化を感じているからです。
昨年、私は東アジアでの「民間外交」に取り組みましたが、そこに集まった人たち皆が、東シナ海を巡る緊迫した状況を自分の問題として考え、「今、東アジアで紛争を起こしてはいけない」という同じ気持ちを共有していました。その結果、「不戦の誓い」が合意されたのです。
その作業に参加してくれた人たちの姿を見ていて、課題解決には国境や年代もないのだと、痛感しました。共通したのは当事者としての姿勢です。
つまり、課題の解決に向けてみんなが動いていく。そういう動きが日本の色々な場所で始まった時に、日本に大きな変化が始まってくるだろうと思います。そういった当事者性を多くの人たちが持つことによって、今の社会に対しての当事者としての発言が始まり、健全な輿論をつくっていくのだと思います。だからこそ、今年のテーマは「当事者性」なのです。当事者としての大きな取り組みが、この国を変えていく、今年はそういう年になるのだと思います。
田中:一人ひとりの力は小さいかもしれませんが、当事者性をもった個人が束になってあつまれば、この国や社会を変えることができるかもしれないということですね。
「当事者性」を持つことで民主主義が機能する
工藤:そもそも、民主主義というのは有権者の自分たちが政治を選び、自分たちが課題に対して色々な形で考え、議論していく、そういった主体的な動きによって機能していくわけです。しかし、いまだに危機感を共有できずに、解決にチャレンジをするよりも、誰かにお任せしてしまう、という雰囲気が出てしまっている。それが、日本が停滞している大きな原因だと思っています。この状況を打破し、流れを大きく変えなければいけない局面にきたと、思っています。
田中:社会を変えていくためには「当事者性」が大事だということですが、政策や社会の大きな課題に直面すると、私たちも含めて、多くの人たちは微力なので、どこか遠くの政治家や専門家がやるもので、自分とは距離がありすぎる、と感じている人が多いと思います。そういう人たちはどうしたらいいのか、工藤さんからメッセージを投げかけてほしいのですが、いかがでしょうか。
工藤:確かに、政治と自分たちの間に距離を感じている方も多いと思います。しかし、政治家を選んでいるのは私たち自身なのです。だから、私たち有権者が強くならないと何も変わらないわけです。日本が直面する課題は、いろいろと難しいことはあると思いますが、自分たちの生活感覚でいいので、この社会はこのまま機能するのだろうかと考えてみる。例えば、家計簿をつけている主婦の皆さんであれば、日本の財政について政府は「大丈夫」といっているが、本当に大丈夫か、それを、家計簿と見比べてみるところから始めればいいのだと思います。私は「平和」という言葉に非常にこだわっています。勇ましいことを言う人はたくさんいますが、勇ましい議論だけで本当に大丈夫なのだろうか、と。こうした疑問が大事なのです。
「課題」というものは、非常に大きく見えるのですが、本当は身近な問題です。身近な所から、自分自身で課題を見つける目を養っていくことが大切なのです。言論NPOはその人たちに対して考えるための素材を提供したいと思っていますし、それを考えるための議論の舞台をつくっていきたいと思っています。
田中:2014年の言論NPOの活動について教えてください。
昨年開始した「言論外交」の更なる発展
工藤:新年は、特に二つのことに取り組もうと考えています。昨年、私たちは民間の外交、に取り組み、これを「言論外交」と提起しました。この動きを、新年、大きく展開させようと思っています。
民間が外交を行うということについて、多くの人たちは「何だろう」とか、「どういうことだろう」と感じていると思います。外交というのは、本来、政府が行うものだと思うのですが、ナショナリズムの高まりにより国民感情が悪化し、政府間の外交が身動きできなくなり、政府だけでは解決できない課題が出てきました。こういう状況の中で、民間外交の果たす役割が非常に大きくなってきたわけです。私たちは、その視点から民間外交はどういう可能性があるのか、ということを皆さんに問いかけるような、国際シンポジウムを3月に企画しています。その後、5月にソウルで日韓関係についての議論を、国民に開かれた形で行います。そして、7月には中国との議論を東京で行う予定です。
最終的には、東アジアの紛争を回避し、平和的な形で地域のガバナンスを安定化させるための枠組みづくりに向け、マルチな対話にもっていきたいと思っています。これらの議論は、必ず世論調査や有識者アンケートなどの結果を踏まえ、完全なる公開の場で議論を行っていきます。つまり、私たちが取り組む外交は、全てが国民に開かれ、一緒に考えるような形での運営をしていきたいと思っています。
民主主義を機能させるための第一歩は、有権者が強くなること
もう1つは、民主主義という問題です。日本の経済はマインド的に1つの明るさを取り戻しました。しかし、経済の成長も政府ができるのは環境整備で、様々な挑戦が民間部門で始まらない限り、経済の本当の意味での再生は起こりません。
そして、財政や社会保障の問題など、様々な課題を解決しなければなりません。私たちは、昨年末に安倍政権の一年目の評価を公表しましたが、
こうした課題に関しては取り組みが進んでおらず、本当に解決できるのか、懸念が高まっています。政治がそういった課題に取り組むためには、有権者が強くなり、民主主義のプロセスの中で、その改革なり、日本の課題解決を政治に迫っていかなければダメなのです。そのためにも、私たち自身も当事者として、こうした課題解決を考え始めなくてはならないのです。そうした有権者と政治との緊張感や、民間での課題解決の動きが、日本の大きな変化をつくっていくのだと思います。
新年は、評価の作業に加えて、こうした課題に対する参加型の議論を行い、提案を政治家一人ひとりにぶつけていって、その答えを有権者にフィードバックしていく。様々な課題については、みんなで考えるような議論のプラットフォームをつくっていこうと思っています。
この民間外交と民主主義の2つの取り組みは、当事者として私たちがこの国を変えていく、課題に取り組むということと同義です。言論NPOは今年、課題解決に向けてかなり大きなチャレンジをしていきたいと考えています。
田中:民主主義の動きというのは、国内に焦点を当てているということ。それから、社会課題と有権者という話ですが、1つは様々な社会の課題に対して、議論の場をつくったり、議論の内容を政治家にぶつけて、それをオープンな形でやるということ。また、昨年の12月には安倍政権1年の評価をやりましたが、政府のパフォーマンスに関しての評価を行っていく、ということですね。
工藤:安倍政権の2年目の評価に加えて、議論を行っていくことになると思います。
田中:2014年、大変な年になっていくような気がしていますが、益々のご活躍を期待しています。
工藤:当事者として多くの人が課題に取り組む。そうした変化は世界でも始まっているものです。私たちも、流れを大きく変える確実な一歩をみなさんにお見せしたいと思っています。ぜひ、私たちの挑戦に注目していただきたいし、ご参加いただければと思っています。