2015年、課題解決に向けた大きな流れをつくらないといけない

2015年1月01日

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2015年、課題解決に向けた大きな流れをつくらないといけない

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO理事)


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田中:あけましておめでとうございます。いよいよ2015年を迎えましたが、いかがでしょうか。


新しい流れをつくる決定的な年

工藤:今年はやはり、これからの日本や世界の将来を決める決定的な年になると思っています。毎年そういっているので、「またか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、新しい流れを始めないと未来が見えない局面に来たなと思っています。そろそろ有権者、市民がそういう状況を自覚して、色んな形で考えたり、発言したり、という状況に変えていかないといけない年になると思います。

田中:その決意というのは確かに同質のものなのですが、決意の対象が、言論NPOは広がっていると思います。特に世界との議論において広がっていると思います。外交問題評議会の議論に参加されていますが、ここでは何が現在のアジェンダになっているか教えていただけませんでしょうか。


世界の課題に対して日本はどう考え、どう貢献するか

工藤:昨年、アメリカの外交問題評議会からアンケートが来ました。私を含めて、23か国のシンクタンクのトップに出されたアンケートです。世界の課題解決に対して、どう考えていけば良いのか。そうしたことを考えて、発信していこうという動きが世界で始まっています。

田中:具体的にどのようなアジェンダが上がっているのでしょうか。

工藤:外交問題評議会が提起して設立されたシンクタンク会議、CoCの最大の問題意識は、グローバルガバナンスが十分に機能していないのではないかということです。つまり、世界でグローバリズムが強まって、様々な課題が世界的な展開で起こっているのに、それを解決するためのガバナンスが十分に機能しない。国連を中心とした様々な枠組みが十分に機能をしていなかったり、そこに新興国と先進国の対立があり、十分な合意が形成されないという問題があります。それは環境や、医療、貿易、安全保障、インターネットガバナンスなど至るところにあります。いまアンケートで来ているのは、国際経済の動き、例えばアメリカの利上げが想定されていますが、その影響や、イスラム国を初めとしたテロの問題、ロシアの通貨の問題、TPPなどの国際貿易の問題、エボラ出血熱などのWHOの問題、ウクライナ問題、気候変動、サイバーテロ、南シナ海・東シナ海の領土の問題、核兵器の軍備の問題、ミレニアム開発目標などの貧困の問題といったものです。こうした問題が全て同時に、複雑に絡み合って動いているわけです。それに対して、世界の人たちが声をあげて、その課題解決に向けて動き始めています。

田中:グローバリゼーションという言葉は私たち日本人にも馴染みがあると思うのですが、他方でこういった課題に対して、日本が何を考えているのか、どういう貢献ができるのかということについて、ボイスレスだとか、発信が少ないという批判を耳にしますが、これについてはいかがでしょうか。

工藤:私は海外に行き、会議にかなり出てきました。日本だけではなく、他国もそうですが、声がないというか、ワンボイス化しているように感じます。政府の一部の声だけが出ており、それが対立になってしまっています。また、世界的な課題に対してはほとんど声が聞こえてこないという問題は確かにあります。

 ただ、例えば気候変動でも、気象がここまで異常になってくると「これはどうなっているんだ」と生活の中で思うのと同じように、この問題に対して多くの人が本当に答えを出さないといけないと本気で思っているわけです。

 しかし、その課題に対して日本政府がどう取り組んでいるのかなかなか一般の市民には見えてこない。一方で、政府だけでは機能しない課題に関して、私たちみたいな非営利シンクタンクやNPOやNGO、色んな研究者や医者といった人たちが世界的に動いています。そういう人たちは、なかなか発信ということに関しては、あまり得意ではない人たちが多いです。声が聞こえてこないのはそのためだと思います。

田中:つまり、日本でもグローバルのイシューをしっかりと認識している方々がいて、なおかつその課題解決に向けて行動している人たちが確かにいると。だけれども、それがボイスとして国際的に発信されていないという現状があるということですね。


課題解決に向けた声と言論NPOの役割

工藤:そうですね。ボイスとして形成されるためには、本来は日本の中でそういう議論が起こっていないといけません。日本の中の市民社会なり、民主主義の機能の中で本質的な課題の議論があり、政府がそれに対してどう答えを出すかということを有権者に問うというサイクルが動いていないといけません。国際社会の問題は、なかなか政治は市民に語りにくいという状況があります。研究者も学問的な分析や解説をしても、世界の課題解決に真剣に取り組んでいるという人は少ないわけです。でも現実にはいます。一般の人々は、例えばテロという問題がテレビで放送されると、「えっ、こんなことがあるんだ」とわかります。ロシアの通貨危機があるのではないかなど、色んな問題をテレビで知ることができます。しかし、その周辺にはそれを課題として捉え、解決のために努力している人たちが存在しているわけです。そこには日本人もいます。ただ、それに向けた大きな議論が国内で出てこないと、やはりボイスになりません。私たち言論NPOも、まさに日本国内でそういう議論をしようとしていますが、そんなに大きな動きにはなっていません。だから、世界から見れば日本の声は小さいなと思っている人はかなり多いと思います。

田中:そこのパイプをどう作っていくか、あるいはそういった努力している人材をどうやって発掘して、そのパイプに乗せていくかという大きな課題がありますが、それはまさに言論NPOが頑張らないといけないことではないですか。

工藤:私も正直にいうと、4年くらい前まで世界の課題に対する広い意識はありませんでした。しかし、様々な国際会議に参加するようになってはっきりわかったのは、リージョナルでもグローバルでも、政府だけでは解決ができないという問題が確実にあるということです。先ほどの気候変動など、色んな問題があります。アジアの問題もあります。それに対して市民なり、研究者など色んな人たちが、様々なネットワークを作って、課題に対して取り組んでいる。そうした変化が世界では始まっているのです。ある意味で、課題は国境を越えている。ただ、国境を越えた課題に対して、解決するガバナンスというものが存在しない。それを繋ぐものがない。そういう状況にあるのだと思います。

 私も国際的な会議に参加することで、それを痛感しまして、私たち民間がその役割を果たそうと思っています。だから、国際的な課題だけではなく、アジアの平和に向けて去年日中・日韓の対話でかなり取り組んできました。

田中:さて、言論NPOの話にだんだん近づいてきましたが、2015年の言論NPOのテーマを教えて頂けますか。


2015年、言論NPOは何に取り組むか

工藤:昨年末の選挙の時に政府や政党の政策の評価を行いました。その時に非常に痛感しましたが、国際社会での発信力だけではなくて、日本自体が日本の未来に関して正念場にあると感じを持っています。やはり高齢化の問題が非常に大きいです。それに対して、この国の社会保障や財政というものが機能できなくなるのではないかということに不安があります。日本の政治は、そうした不安に答えを出していません。また、地域が人口減少の中で色んな悲鳴を上げています。そうなってくると、その問題を立て直していくということに覚悟を決めて動かないと、おそらく日本は将来が見えない状況になってしまうというリスクを感じています。ただ、待っていれば政治が課題解決をしてくれるわけではありません。有権者がそれを政治に迫り続けないといけません。自分たちがその課題を問題として認知して、取り組んでいくという動きが起こっていかないと、おそらく課題解決をするという大きなエネルギーなり、インパクトが日本の社会で起こってこないと思います。私たち言論NPOはそのための一つの起爆になり、多くの人たちをその中に繋いで、発言したり、色んなことを考えたりするような、今の状況を解決する役割に立つことが私たちの最大の使命になっています。

田中:では、具体的に今年の計画の中で目玉となるような企画をいくつか挙げてください。

工藤:私は来週からインドとインドネシアにいくのですが、私が非常にいま気にしているのは、今年は戦後70年ということで、日本が今後の国際社会なり、アジアに対してどのように貢献できるか、また、北東アジアの平和を構築するためにどのように寄与できるかということを私たちは問われているような気がしています。本来であれば、それは政府の役割でもあるのですが、やはり国民感情が悪化する様々な局面の中では、民間がその役割を果たさないといけません。言論NPOはアジアにおける平和構築に向けたマルチの対話を今年中に作り上げたいと思っています。

 もう一つはデモクラシーの問題です。日本の政党というものが、課題解決に対して課題解決能力がまずあるかどうか。それだけではなく、日本の政治が国民に向かい合ってそれを実現するために本当に動く、つまり、国民に向かい合った一つの仕組みとしてデモクラシーが機能しているのかということに関して、私たちは真剣に考えています。私たちは去年の選挙では非常に「これは不安だな」と思いました。政党政治が課題解決になかなか機能していないという問題がありし、国民に十分に説明していません。

 つまり、有権者はもっと強くなって、政治をもっと変えていくという流れをつくらないと、この状況は変えられません。課題を解決するためにはまず課題を知るところから始めないといけません。そのために私たちは様々な議論をして、その認識した課題を解決するためのプランまで入り、それを政治にぶつけていくという流れを作りたいと思っています。

 デモクラシーというものが機能して、政治が日本の未来のための仕事をしっかりとできる、そういう民主政治に向かうスタートとする年にしないといけないと思っています。

田中:大変壮大なテーマに取り組んでいくのだと思いますが、ぜひお体に気をつけて、頑張ってください。

工藤:これからアジアに行ってきますので、お腹を壊さないように頑張ってきます。