有権者こそ目覚めないといけない

2010年6月01日

普天間飛行場の移設問題など混迷する政治状況の中、参議院選挙では何が問われるのか。代表工藤が語ります。

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)


田中: 工藤さん、こんにちは。
 マニフェスト評価、鳩山政権の実績評価ということで、今ある程度まとめておられて先日は新聞にも取り上げられていたみたいですが、参院選を目前に控える中、鳩山首相の進退についての話が出てきて先が見えなくなってきていますが、今どういう風に考えていらっしゃいますか。

工藤: 私は政治のリーダーシップがなく、約束も守らずに政権がここまで続いてきたことの方が気になります。鳩山さんはお詫びばかりなので、謝って政治が続いているといった感じです。今回の普天間の問題を見ていて思ったことがあります。鳩山さん自身は公約を実現できなかったのですが、公約を実現しようとした福島さんを辞めさせたわけです。だから政策で何を実現するかについて、約束した選挙の時から機能しなくなっています。こういう事態が続いていたことに関して、僕たち市民側も「これは良くない」と、「政治はこんなものでいいのか」とならないといけない。本来ならもっと政治とは緊張感があるべきです。

田中: そうなのです。そこは私も気になっていて、首相が退陣するかも知れないときに、「やはり辞めるのかな・・・」という感じで、国民もメディアも怒りよりも力がぬけた感じで傍観しているというのが正直な印象です。

工藤: 今、目の前で行われている政治の行動というのは支持率が下がって選挙に負けるということを考えて、なら首相を変えたい、という話だけです。これでは話になりません。それよりも、私たちが問題にしなくてはならないのは、前回の選挙のときに約束したことが実現できなくなってきている、ということです。それでメディアの論調を見ていても、非常に僕たちは不満足なのは、予算編制の際にも私は主張しましたが、もう民主党のマニフェストは破綻しており、あのままの形でマニフェストが実現されるのは、無理なのに、それに対して国民に何も説明がないということです。普天間の米軍基地の県外移転も出来なかった。ただお詫びしているだけです。ではお詫びし続けることで、首相としての責任は果たされるのか。それが首相への不信につながっているのです。
 つまり約束をしたものが、こういう形で実現できないのであれば、もう一回国民の信を問うていかないと、有権者と政治の間の適正な緊張感をつくれないと思います。こういう政治の責任のなさに国民も鈍感になっている。これはモラルハザードというか、モラル・ダウンが日本の政治の中に蔓延しているような気がします。こういう状況には、国民は怒らないといけない。次の選挙では、きちんと何を国民に約束をするのか、を政治に問いたいし、有権者も今度は騙されないぞ、という風にならないといけない。

田中: 最初は初めての政権与党なので、学習期間だったでしょう、ということで広い目で見ていたのですが、次の選挙の時は昨年の9月からの実績をふまえ、「何を修正し、何を実行したいのか」をもっと実行可能な形で説明してもらいたいです。

工藤: ただ修正というよりも、民主党のマニフェストはもう破綻しており、実現はできないのです。そこをまず国民に説明しないと、選挙の際には嘘で固めるという事態になりかねない。つまりあのマニフェストを実現するということは、財源はないのですから、日本の財政が破綻してしまうということです。そうだとすればマニフェストを現実的なものに変えないといけない。つまり、日本の現実的な課題に即したものに政策の視点を変えないといけない。もしあのマニフェストをベースにして微修正したというマニフェストであれば、まだ嘘があると見なければいけません。

田中: 何かの報道で見ましたが、民主党は自己評価をしていてマニフェストの達成率がもう5割以上になったというのを出しています。

工藤: それは4年間で16.8兆の政策を行おうとして、1年目についてはこういう政策をやったと言うだけの話で、4年間をベースにした形で考えると、あのままでは実現出来ないことがはっきりしています。今年も何とかして予算を組んだという状況なのです。(マニフェストの実現に)今年だけで、8兆円近い予算が必要でしたが、結局、暫定税率の廃止もできず、3兆円しか実現できなかった。その財源もいろんな形で工面しなければいけなかった。無駄の削減で財源を捻出するという、論理自体が破綻しました。
 来年からさらにマニフェストの支出が膨らむわけで、これ以上のマニフェストの実行は不可能です。
それだけではなく、民主党は、今日本が取り組まなければいけない課題について前回の選挙では真剣に向かい合っていなかった。普天間の問題は、現実的な安全保障の主体的な戦略も描けないまま、その安全保障の現実の前に断念せざるを得なかった。
 つまり政策とは日本の課題に基づいてあるわけです。課題の分析とか認識から政策は組まれるべきなのに、現実とかけ離れた形で支出だけが選挙で競われた。でも、例えば、子ども手当ての5兆円っていうのは防衛予算より多いのです。また、民主党が4年後の年間支出で計画している16.8兆円という政策は、公共事業、防衛予算、それから文部科学省の関連予算を全部足したものより多いのです。それほど膨大な新しい年間の支出を、あてのない無駄の削減だけによって行なうというのは、政策体系として機能していないということです。
 だからこうしたマニフェストはすべて一度止めて、もう一回日本の課題に向かい合った政策競争をするべきです。自民党を含めた野党はただ批判をするのではなく、日本の課題と未来に向かって競い、対案を出していくべきです。そういったことをちゃんと言わない政党に関しては「無理だ」と有権者は判断するような厳しい見方が今回必要です。

田中: 今なんとなく淀んだ力のぬけた感じで、このままいけば有権者も「やはり期待はずれだった」ということで、投票に行かないような行動パターンもありえますが、ここで踏ん張っていかないと有権者もまたなめられてしまいます。


工藤: 今日(6月1日)新聞を見ていたら、日銀の総裁がギリシアの財政破綻の問題を「目覚まし時計」と言いましたがまさに今の政治の危機が「目覚まし時計」です。つまり私たちは、今まさに正気を取り戻さなければいけない。有権者が目覚めなければいけない。こういう政治を続けてしまえば日本は未来が見えなくなります。有権者と政治の間の緊張感を取り戻すためには、今度の約束に関しては、単なるごまかしや今のマニフェストを微修正するレベルでは駄目です。ボールは僕たちにあります。

田中: そのためにもこの日本の分かりにくい政治や政策について、もっと分かりやすく解説していただく機会が必要です。そのためにも言論NPOには、より頻繁に分かりやすい情報を出していただければと思います。

工藤: そうですね。実は今日、色んな人たちに鳩山政権に対するアンケートを発送するために準備していました。ただこういう事態で取りやめています。明日、出しますが、これと同時に議論をどんどん公開していきます。国民が自分の目で見て、自分の頭で政治を判断できるような題材をもっと出していきますので、是非ご覧ください。

田中: がんばってください。

(文章は、動画の内容を一部編集したものです。)

有権者こそ目覚めないといけない

聞き手:田中弥生氏 (言論NPO 監事)