田中弥生(言論NPO理事):工藤さん、お疲れさまでした。3月20日、21日の2日間にわたり「戦後70年、東アジアの平和と民主主義を考える」というシンポジウムを開催されましたが、終わってみての感想をお聞かせください。
今回のシンポジウムがスタートに
工藤:かなり成功したというか、スタートを切れたという感じです。私たちが掲げた「平和」と「民主主義」という価値が、今年の日本の社会にとって、みんなが考えなければいけないテーマだと感じていました。戦後70年という節目の年に、日本のあり方、つまり、民主主義のあり方や平和のあり方を本気で考えないといけないというのは、逆に言えば、そういう試練を日本が受けているということだと思います。
こうした問題意識に、今回インドネシアから、まさにインドネシアを代表するベストな人たちが来日してくれました。この他に、韓国、中国、アメリカからもパネリストが来てくれました。彼らが、私たちの考えるこの2つのテーマに関して、非常に大きなかたちで、一緒に協力し、議論に参加してくれました。インターネットでも公開しましたが、今回の議論はかなりレベルが高く、しかも、様々な教訓となる発言がたくさんありました。ですから、私は非常に満足しているというのが、今の状況です。
田中:教訓がいくつもあったということですが、特に印象に残っている例を挙げていただけますか。
工藤:実を言うと、私は今回初めて1月にインドネシアを訪れ、インドネシアという国と出会いました。2月にはドイツのベルリンを訪問しましたが、同じような感想を持ちました。
ドイツという国は、ヒトラーという問題から決別する、過去から決別するために民主主義のさまざまな仕組みをつくり上げた。インドネシアは17年前、アジアの通貨危機があった状況の中で、それまでの権威主義体制を、大きくドラスチックに民主主義に変えた。その時、「民主主義という仕組みをどうしてもつくりたい」という思いから、政党や議会、選挙制度や地方分権といった、日本では今まで議論しても実現できなかったようなことまで、一気に解決し作り上げました。その前提にある大きなスピリットというか気持ちというものが、非常に重要だと感じました。
そのような仕組みを大きく変えた国々と、日本の成熟した民主主義。そして、お互い「平和」という課題を抱えている4カ国が集まり議論できたということが、非常に良かったし、多くの学ぶことがありました。
田中:確かに、インドネシアと日本の交流の歴史は長いと思うのですが、これは私のバイアスかもしれませんが、ちょっと前までの関係は「援助する側と援助される側」の関係だったと思うのですが、工藤さんのお話を聞いていると、むしろインドネシアからは学ぶことがたくさんあるのだと感じました。
日本にとって必要なのは「民主主義を発展させる」という強い意志
工藤:そうですね。民主主義の展開や社会の発展段階から見れば、はるかに日本の方が凄いわけです。つまり、成熟した、安定した民主主義です。一方、インドネシアは民主主義への移行という大きな改革を成し遂げましたが、安定化しているとは言えないと思います。そういう意味では、確かに日本は立ち位置としては結構、上にいるように思う人はいると思います。
しかし、私たち言論NPOの中で日本の民主主義の課題を議論したときに、日本の政治学者も含めて皆さん、ノーアイデアなのです。つまり、この国の政党政治が、課題を解決するということに関して答えを持っていない。どうしたら政党政治が変わり、議会政治、それから選挙というもののあり方が変わるのかが分からない。そもそも、当たり前のように「それが正しい」と思ってしまっているために答えがない。しかし、インドネシアというのはシステムを変えた国なのです。だから、私たちは、インドネシアのシステムを変えた変革の思想に、非常に学ぶことがあるのだと思います。
だからといって、一から教えを乞うているわけではありません。彼らが民主主義への変革を行い17年が経ち、さらに民主主義を発展させ、新しいステージに変えるための課題がある。日本は、成熟した民主主義の国として、今のシステムというものを見直さないといけない。たぶん、両国同士が、同じように必要な関係なのだと思うのです。
田中:「日本にとっては」という言い方が適切かどうかは分かりませんが、他国のプロセスを見ながらも自分たちのあり方に気づきを見出す、というふうな状況ということでしょうか。
工藤:そうですね。日本にとって欠けているのは、「民主主義を発展させる」という強い意志なのです。この国にも、そうした意志を持っている人たちがいると思うのですが、それが日本の社会の大きな世論の潮流になっていないことが問題なのです。民主主義というのは、確かに様々な問題があると思います。しかし、今の仕組みの中で、人権を守り、そして大きな平等なり、多くの人たちの意見が反映させていくには、デモクラシーという仕組みしかない。
そうであるなら、この仕組みというのは、絶えず見直して発展させるしかないのです。民主主義を見直す努力を怠ってしまうと、下りのエスカレーターを下から歩いているようなもので、どんどん落ちてしまうわけです。つまり、民主主義とは厄介な仕組みで、努力をしなければ崩壊してしまう、基盤が壊れてしまう。日本がそのような立ち位置にある状況の中で、システムを含めて大きな展開を考えなければいけないという立脚点に、日本はいま立つべきです。そして、その中で戦後70年という節目の年に、私は、新しいドラマが始まるのだと思っています。
田中:まさに、私たちが国際的な視点も活用しながら学んでいくということですね。
市民が主体となるデモクラシー、外交の実現に向けて
工藤:そうですね。ただ、一方で、インドネシアのハッサン元外務大臣とも話をしたのですが、私たち言論NPOはそれだけではないのです。つまり、市民が多くの願い、つまり平和という環境をつくるために当事者としてどのような展開をすればいいか。
北東アジアは、日中韓が非常にナショナリスティックな世論の中で混乱している。その中で、「民間外交」を唱えている私たちのアプローチに、インドネシアは非常に関心を持ったのです。つまり、インドネシアという国も、まさにASEANの最大国家で、イスラム教の最大国家。そして、民主主義の大国としてインドネシアの将来を考えたときに、まさに市民が主体となるデモクラシーなり外交というものに、彼らは非常に共感した。
私は、話をしていて、「話が合うな」と思いました。つまり、言論NPOがこれから「平和」というものを北東アジアで貫くために新しいチャレンジをすることを、彼らはレッスンだと感じている。やはり、良い対話のチャネルを開拓したな、と思います。
田中:今後、とても楽しみにしています。頑張ってください。
工藤:私たちの取組みはこれからスタートします。今回の対話は、成功したのではなくて
一つの基礎をつくり上げた。ぜひ皆さんには、私たちの取り組みに注目していただきたいと思っています。