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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.20
■■■■■2003/03/19
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
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●INDEX
■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第2回』
●TOPIX
■ 3月15日 言論NPO シンポジウム『NPOが日本社会を変える』報告
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■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第2回』
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現在のデフレが金融的で現象であり、また需要不足に基づくものという議論に榊原英
資慶応大学教授は真っ向から異を唱える。榊原氏はそれをグローバリゼーションの中
で世界的に進行している構造的な現象とし、世界経済は構造デフレの時代へと大転換
しており、政策目標は激しいデフレの阻止に置かれると主張する。その視点にたっ
て、同氏はデフレ下での不良債権処理は一種の徳政令であり、国が企業再生ファンド
を組成するなどの提案を行い、産業や業界の再生の視点から取り組むべきだと語る。
●マクロ経済学の前提やフレームの変化
こうした大きな質的な大転換が始まっている中で、それを理解しないまま従来のマク
ロ政策を続けていくことは無意味である。金融緩和を続けた結果、20世紀の終わり近
くになってバブルが発生したが、それは明らかに株式バブルであり、ITバブルであ
る。こうしたデフレ構造があるときに、今のような形で緩和政策を続けてカネをまけ
ば、どこかでバブルが発生することになる。それが資産市場のバブルであり、それが
必ずはじけるのは歴史的に何度も繰り返されてきた教訓である。
日本では、グローバリゼーションの進展の中で、輸出関連産業が日本国内での投資イ
ンセンティブを90年代に失い、財政政策で何とか日本経済を支えてきた。その結果、
これだけ国の赤字を出すことになった。私も、そうした財政出動に携わってきた。日
銀も、タイミングの良し悪しの議論はあるが、ゼロ金利政策まで行ってきた。それで
も物価が下がっているということが、日本の最大の問題なのである。
よく言われるのは、相対価格と絶対価格の議論(通貨供給の増大は商品間の相対価格
に影響を与えることはできないが、少なくとも絶対価格を上昇させることは可能)で
あるが、それはネオクラシカル・エコノミックス(新古典派経済学)の1つのフィク
ションに過ぎない。絶対価格については、論者は平均価格という言葉に言い換えてい
るが、コンセプトとしては貨幣と財との交換比率ということになり、ケインズ経済学
でもマクロ経済学でも、財は1つだけであるため、これを絶対価格と称している。し
かし、これは極めてわかりにくい。私たちが見ている価格は多種多様であり、経済学
で決められた価格で判断しているわけではない。しかも絶対価格と平均価格とは必ず
しも同一ではない。
貨幣を増やせば、当然どこかで価格が上がる。しかし、この場合に問題なのは、貨幣
を供給すれば株価や不動産価格が上がるということである。これらは、今の価格体系
の中ではバスケットに入っていない。従って、一方で急激に資産価格が上がり、バブ
ルができる。そういう意味では絶対価格が上がるということはあるかもしれない。経
済学の中では財は1つであるが、実際には多種多様な財がある。では、その財という
のは何かというと、学者がセオレティカル(理論的)につくったコンセプトに過ぎ
ず、それを政策議論で主張しても意味がない。
今や、マクロ経済学のフレームや前提が変わり始めている。例えば、マクロ経済学の
中には資産価格というものが入っていない。通貨供給を増やして実際に価格が上昇す
るのは、バブルの時の資産価格なのである。かつてはオランダのチューリップの球根
ということもあったが、カネをタダでバラまけば、どこかにそれが使われることにな
る。国債を買えば国債の価格は上がる。預金に回せば金利は下がり、預金に価格があ
るとすれば、預金の価格が上がったことになる。しかし全体の問題として、供給過剰
になっているときに、果たしてサービスや製造業の製品の価格が上がるだろうか。
現状は極めてマネタリーな現象だと主張する論者は多いが、それは理論的な枠に縛ら
れた議論であり、学者が信奉している経済学の中ではそうなるということに過ぎな
い。マネーの定義すら既にできなくなっており、マネーとは何かということもわから
なくなっている。マネーを定義してみようとすれば、今や現金だけではなく、クレ
ジットカードなど多様化しており、経済学のフレームワーク自体が古過ぎるものと
なっている。
スティグリッツの著書に『ニュー・パラダイム・フォー・マネータリー・エコノミッ
クス』があり、内藤純一氏(名古屋大学教授)が現在訳している。そこではまず、マ
ネーというものは定義できないとしている。特に彼が問題にしているのは、クレジッ
トカードのリボルビングである。日本では一括払いが多く、リボルビング・クレジッ
トはあまり使われていないが、アメリカはクレジットカードのほとんどがリボルビン
グである。この場合、マネーバランスがなくても消費ができるということになる。こ
れまでのマネタリー・エコノミックス、マクロ経済学の金融論のコアは、個人が持っ
ている現金のバランスと取り引きの間には一定の安定的な関係があるということで
あった。それがディマンド・フォー・マネー・ファクンション(貨幣需要関数)であ
る。しかし、スティグリッツは、そのような関係は安定的ではないと主張している。
なぜなら、現金がなくても今すぐに旅行ができるというように、現金とトランザク
ション(取り引き)の間に一定の関係がないということになるからである。その場
合、現金を増やしても消費が増えるか減るかは、わからないことになる。
これまでは、貨幣需要関数が安定的だから、マネーを入れればトランザクションも増
えるということがマネタリー・エコノミックスの基本であった。その最も典型的なも
のが貨幣数量説であるが、貨幣数量説をとらなくても、今のネオクラシカル(新古典
派)の経済学の1つの基本はそこにある。それが違うということをスティグリッツは
主張している。クレジットや金融システム、そこにおける情報のあり方、そのような
制度的なものの影響が大きくなってきているとしている。彼は、東アジアや日本をみ
てそのような主張をしているのであり、マネーをいくら増やしても銀行貸し出しは増
えていないという状況を踏まえている。では、増えないのはなぜか。マネーとトラン
ザクションの間の関係において、MV=PTという恒等式がある。そのTにはインベスト
メント(投資)も入っており、従って、マネーを出せば物価が上がるか実需が上が
る、そのいずれかであるというのが従来の考え方であった。しかし、現実には両方と
も起こっていない。少なくとも、財と関係のあるような、われわれが今、観察できる
ような価格についてはそうである。しかし、資産のところは上がる。しかも、マネタ
リーな資産のところが上がるという状況になっている。そうなってくると、今までの
マクロ経済学は変えなければならないということを、スティグリッツは言っている。
そのほか、経済学界でも今のマクロ経済学を見直すべきだという議論が起こってお
り、これまでの経済学はインフレの経済学だという反省がなされるようになってい
る。ケインズが「一般理論」を著し、それをサミュエルソンたちが定式化してネオク
ラシカルなエコノミックスが出てきた。それはインフレの経済学であり、デフレの時
代となった今、一体、どのようなフレームワークで分析するかということから考え直
すべきだという議論が始まっている。だが、それはまだ一般的にはなっていない。
デフレが構造的なものであれば、それは阻止できない。デフレを阻止しようとして唯
一可能なのは、資産インフレ、あるいはバブルになることである。資産のインフレと
いうのは、財の側の裏付けがないからバブルなのである。従って、資産バブルをつく
る結果に終わるだけである。
クロの政策運営で今の状況を打開する方法としては、長期国債の引き受け(国債の貨
幣化)や円安といったことも議論されるが、まず、国債の貨幣化については、それは
結局、マネーを配るということであり、マネーを出したところで構造的な要因で需要
は増えないため、デフレ克服策としては無意味である。
次に、円安については理論的にはあり得る選択肢であり、ジェフリー・サックスや
ポール・クルーグマンも、少なくとも円安はあり得るとしている。しかし、円安は政
治的要因があって、ある程度以上の円安にはできない。それは近隣窮乏化政策になっ
てしまうからである。どの国もが近隣窮乏化をとると、1930年代のような事態を招
来してしまう。切り下げ競争を招く。日本だけがそのような政策をとれば、アメリカ
も、中国も、韓国も非難するだろう。ポリティカル・エコノミーという観点からとれ
ない選択肢である。いずれにせよ、ピュアなネオクラシカルな経済学だけで物事を考
えてはいけないのである。
──次号へつづく──
●上記の記事はウェブサイトにも掲載されています。
https://www.genron-npo.net/debate/contents/021224_a_01.html
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●TOPIX
■ 3月15日 言論NPO シンポジウム『NPOが日本社会を変える』報告
3月15日(土)午後1時半から5時まで、日本財団ビル・大会議室(港区赤坂)にて、
言論NPOシンポジウム「NPOが日本を変える」を笹川平和財団の後援により開催しま
した。当日は約100名の方々にご参加いただきました。
なおシンポジウムの内容は、後日ご報告しますので、そちらをご覧ください。
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