【vol.23】 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第5回』

2003年4月08日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.23
■■■■■2003/04/08
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
                      https://www.genron-npo.net

──────────────────────────────────────

●INDEX
■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第5回』

●TOPIX
■4/7  「言論NPO スタッフ募集のお知らせ」
■3/28 「第4回会員フォーラムのお知らせ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第5回』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
現在のデフレが金融的で現象であり、また需要不足に基づくものという議論に榊原英
資慶応大学教授は真っ向から異を唱える。榊原氏はそれをグローバリゼーションの中
で世界的に進行している構造的な現象とし、世界経済は構造デフレの時代へと大転換
しており、政策目標は激しいデフレの阻止に置かれると主張する。その視点にたっ
て、同氏はデフレ下での不良債権処理は一種の徳政令であり、国が企業再生ファンド
を組成するなどの提案を行い、産業や業界の再生の視点から取り組むべきだと語る。

●激しいデフレにはしないという政策目標

デフレに対する私のような認識は、政治家や一般的なアナリストの間にはみられない
が、アカデミズムの中では既に出てきている。デフレを容認するという政策目標を言
う必要はなく、緩やかなデフレはいいことだと言えばいい。今は緩やかなデフレであ
り、それは消費者にとってはいいことであり、不況、不況と言われていても、今、日
本はそれほど傷んでいない。

もちろん、恐慌型の激しい物価下落にしないような政策をしなければならない。た
だ、これは緩やかなデフレを激しいデフレにしないような政策である。今までは、緩
やかなインフレを激しいインフレにしないような政策をとっていたわけである。中央
銀行の今までの政策は1~2%、あるいは、せいぜい3%といった緩やかなインフレを
許容し、それをハイパーインフレーションにしないということであった。今度は、緩
やかなデフレ、つまり1~2%の物価下落を許容する。ただし、それを激しいデフレに
はしない。それが新しいパラダイムであるべきだ。それが政策目標になるわけであ
る。そのような時代に次第に入ってきている。デフレスパイラルにはしないというこ
とは、基本的には金融政策の量的緩和でできるはずである。


●名医が取り組むべき大手術

今の小泉政権や竹中大臣の方向は、確かに手術の方向にはなったが、ヤブ医者に手術
されれば患者は死んでしまう。心臓のバイパス手術はよほどの名医にさせなければな
らないし、違うところを切らず、きちんと患部を切らなければならない。手術をやれ
ばいいという議論ではない。医事評論家ではなく、名医が必要だ。

今の日本の局面は80年代、90年代のアメリカではなく、30年代のアメリカであると
いう議論があるが、その通りだと私は考えている。当時の解決手段は恐慌であり、日
本の解決手段のひとつも恐慌なのである。それがマーケットの普通の調整の仕方であ
る。それをしないようにするのであれば、相当思い切ったことを政府がやらなければ
ならない。まさに大手術をするわけである。失敗すれば死んでしまう。

今は、ヤブ医者が恐慌にしようという路線だといえる。恐慌というのは、人間の体で
言えば死ぬことであり、一度死んで、また新しい生命が出てくるという話である。死
なせないのであれば、相当の再生手術をしなければならず、何十兆円という話にな
る。

私の発言は誤解されることが多く、何かやれと言うと、また保守的なことを言ってい
ると言われるのであるが、そうではない。激しいことをやればやるほど、いろいろな
配慮が必要になる。今はかなり切羽詰まった手術をしなければならず、今できるの
か、1年先にできるのかはわからないが、今回の手術は失敗すると私は思っている。
むしろ手術にはならず、少し切って閉めてしまうといったところだろう。

しかし、日本はどこかで手術をしなければならない。これは本当の専門家が集まっ
て、きちんとプランを立てて行う必要がある。日本には、きちんと状況をわかってい
る人たちがいる。日銀や金融庁、銀行、預金保険機構や各種ファンド、外資系。そう
いうところにそれぞれの専門家がいる。彼らが本当に集まって取り組む必要がある。

この不良債権問題の処理は、少なくとも5年、10年の単位で見なければならない。ア
メリカはそこをよくわかっておらず、彼らは80年代後半から90年代のアメリカの金
融危機ぐらいにしか考えていない。アメリカはすべての対策を総動員してなどと言っ
ているが、内政干渉であり、わかってもいないのにうるさいことを言うなと、私は言
いたい。私が財務官の時には、少なくとも経済担当補佐官のサマーズには内政干渉は
させなかった。G7でも具体的なことを言うなら自分は席を立つと言った。日本が反対
したらコミュニケ(声明)を出せないはずだと言って部屋を出てしまったところ、後
から呼びに来た。今は、御用聞きのように向こうの要請通りにやっているようにみえ
る。

ただ、日本は5年ぐらいでこの問題にけりをつけなければならないだろう。今、議論
を始めることは良いことであり、その意味で小泉政権や竹中大臣の功績は、議論を始
めさせたことだといえよう。今まではだれも本気ではなく、本気でやるとは思わな
かった。これは本気だぞと思い始めたから、銀行界も必死になった。

銀行界は、あれだけ竹中大臣に反対したからには、今度は自分たちの建設的な案を出
す義務が生じている。今まで通りであれば、だれも納得しないだろう。きちんと出せ
ということを銀行界には言わなければならない。恐らく今回の手術は成功しないと思
われるが、とにかく議論は始まった。私が竹中大臣を批判しているのは、それをきち
んとやろうということを言いたいからである。


●上記の記事はウェブサイトにも掲載されています。
https://www.genron-npo.net/debate/contents/021224_a_01.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●TOPIX

■4/7  「言論NPO スタッフ募集のお知らせ」
https://www.genron-npo.net/about/history/030404_employment.html

■3/28 「第4回会員フォーラムのお知らせ」
https://www.genron-npo.net/about/history/030328_forumanno.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  ┏━━━━━━━━━━━━ 会員募集 ━━━━━━━━━━━━━┓
   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。
   また、自由闊達で質の高い言論活動を通じ、日本の将来に向けた、
   積極的な政策提言を繰り広げていきます。
   この活動は、多くの会員のご支援があって初めて成り立ちます。
   新しい日本を築き上げるため、言論NPOの活動をご支援ください。
   あなたの第一歩から、日本が変わります。
    入会申し込みはこちらへ
   https://www.genron-npo.net/guidance/member.html
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

──────────────────────────────────────
 このメールマガジンのバックナンバーはこちらに掲載されています。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
──────────────────────────────────────
 配信中止、メールアドレスの変更はこちらで。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
 このメールマガジンについてのご質問・ご意見などはこちらで。
 info@genron-npo.net
──────────────────────────────────────
 発行者 特定非営利活動法人 言論NPO  代表 工藤泰志
 URL https://www.genron-npo.net
 〒 107-0052 東京都港区赤坂3丁目7番13号 国際山王ビル別館 3階
 電話 03-6229-2818 FAX 03-6229-2893
──────────────────────────────────────
 All rights reserved. 記載内容の商用での利用、無断複製・転載を禁止します