【vol.25】 塩崎恭久×武見敬三×林芳正『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第2回』

2003年4月22日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.25
■■■■■2003/04/22
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
                      https://www.genron-npo.net

──────────────────────────────────────

●INDEX
■ 座談会 塩崎恭久×武見敬三×林芳正
  『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第2回』

●TOPIX
■ 4/18 論点『アメリカの「大義」と北朝鮮問題』 工藤泰志・言論NPO代表
    『アジア問題に関するアンケート結果報告』
■ 4/17『日本のアジア戦略に向けて―論点整理―』(会員コンテンツ)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 座談会『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第2回』
  塩崎恭久(衆議院議員)、武見敬三(参議院議員)、林芳正(参議院議員)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
イラクの戦争の大義は何だったのか。この問いが与党の3人の論客たちに投げかけら
れて議論はスタートした。冷戦体制の崩壊後、安全保障の概念が本質的に変化する中
で起こったこの戦争は、国際社会を大きく変える転機となるかもしれない。この中に
あって、日本はその置かれた地政学的な状況の下でどのような国家路線を選択すべき
なのか、戦略的なビッグピクチャーはどう描かれるのか。


●ガバナンスが効かない国家をどう扱うのか

塩崎 やはりイラクの問題は、破綻国家というか、ガバナンスが効かなくなった国家
   をどのように世界は扱い、なおかつ、世界の脅威とならないようにするのか、
   ということを考えなければならない大事なきっかけになったと思います。イラ
   ク北部は既にクルドが押さえている。しかし、あそこもイラクであり、クルド
   の人たちと会っても、「連邦制でやってほしい、決してわれわれだけで独立す
   る気はない」という話をしていた。つまり、やはりイラクでありたいという思
   いがあるということは、フセイン政権が国家ではなかったということです。

   すなわち、イラクも実は破綻国家であり、国内の破綻状態が世界の脅威になる
   というのはアフガニスタンでもあったわけです。パレスチナの問題もかなり近
   いところがあると思いますが、こうした破綻国家をどう扱うことで世界の脅威
   にしないようにするかということについて、いろいろなファクターをわれわれ
   は考えていかなければならない。

   今回のイラクの失敗や教訓については、国連の安保理が十分機能しなかったわ
   けですが、これを再構築できるのかどうかが、今ものすごく問われている。ア
   メリカとしては、あえて国連が完璧に機能しなくなる前の段階で攻撃に踏み切
   ることで、 国連をつぶすという意思がないことを示していると私は思ってい
   ますが、そこにはいろいろな問題が残っています。

   しかし、ウオー・アゲンスト・テロリズムという言葉について気をつけなけれ
   ばならないのは、「テロリズムとは何か」という定義なしにその言葉を使うの
   は危険だということです。テロがいいと思う人はひとりもいないわけですが、
   似て非なるものもあるだろうし、「テロに対する戦い」とは何なのかというこ
   とをもっと詳細に分析する必要がある。単にその言葉だけで、全てが大義を
   持って肯定されるというのは間違いだと思います。

   「フセイン程度の悪事なら、アフリカに行けばいくらでもある」という話もあ
   ります。アフリカの破綻国家というものも実は今でもあるわけで、そこはどう
   なのかということもわれわれは忘れてはいけない。北朝鮮も同じように、われ
   われがどういう手段を講じながら脅威にならないようにするのかが問われてい
   ます。

   結局、ガバナンスが効かない国家があるということが、大きな原因だと思いま
   す。あの9.11は何だったのかということも、きちんとした分析はされていたと
   しても、実はわれわれの頭にはあまり入っておらず、人々に理解されていない
   と思います。「何だかよく分からないけれども、すごいことが起きた」という
   感じではないでしょうか。でも、犯人を見てみると、サウジアラビアの相当な
   インテリたち、大学院まで出たような人たちもかかわっている。彼らの標的は
   本当にアメリカだったのかということを含めてよく考えなければなりません
   し、パレスチナ問題との兼ね合いということもあります。もちろんテロリズム
   を許すという意味ではありません。

武見 私は、フェイルドステーツ(破綻国家)というのは、ひとつのレトリックであ
   り、国際社会の現状を理解するときに使うのはあまりにも曖昧で、逆に対立を
   助長させる概念になってしまうと思っています。イラク型、北朝鮮型、アフガ
   ニスタン型、それぞれ全然違います。しかも、それぞれの違いによって対処の
   仕方にも相当大きな違いが求められてきます。イラク型ぐらいまでは、アメリ
   カのある程度ユニラテラルな軍事的なアクションというものの中で、通常兵力
   で解決し得る範疇ではないかと思います。しかし、北朝鮮型のフェイルドス
   テーツの場合には、軍事的にも強力過ぎますし、その政治体制は決して脆弱で
   はなく、当面予見できる将来において、そう簡単に崩壊する状況ではない。そ
   のような政治体制に対してどう対処するのかを考えるときには、相当きちんと
   状況を整理しなければなりません。フェイルドステーツという言い方で十把一
   からげにしてしまうと、誤った意見、特に極めて強硬な意見がその考え方で一
   気に収斂してしまい、最終的には何でも軍事的に解決することが許されるがご
   とき理解になってしまいます。

塩崎 私が言っているのは、「ガバナンスが機能していない状態である」という意味
   でのフェイルドステーツということです。それがなぜ機能していないのかは、
   いろいろなパターンがあると思います。

林  フェイルドステーツであれ、テロリストであれ、「刑法でいう構成要件は何
   か」ということはきちんと明確にならなければならない。勝手な主観的な判断
   でやれるということではなく、構成要件を決めて、「こういうことになったら
   犯罪ですよ、だから警察が出ていきます」というように、国内でやっているの
   と同じような手続きを踏む必要がある。それができるのは今の世の中を見ると
   国連しかないと思いますが、今回の先制攻撃のようなものは初めてのケースで
   す。ですから、ある意味では、新しい構成要件で刑法の条文ができた最初の適
   用例なのです。アフガニスタンの場合は先制攻撃ではなく、アルカイダがもう
   既にアタックをしており、ビン・ラディンが犯行声明を出していますから。例
   えば、どこかの市の市長が「うちの市はもう勝手にやらせてくれ。人を殺して
   もいいんだ、おれは市長だから」と言った場合に、国家警察がどうするかとい
   うことの類推が、国連、国際社会とイラクに適用されるべきだというのが私の
   考えなのです。


●「破綻国家」は誰がジャッジして取り締まるのか

工藤 確かにイラクの政権基盤やガバナンスという点で議論があるのは分かります
   が、ではそれを誰がジャッジして行動するのか、誰が取り締まり駆逐するのか
   という問題があるように思えます。今回は国連という枠組みがある中でアメリ
   カが独自に動いたわけです。これが、これからの国際社会の流れやアジアにも
   つながるとすれば、それに対して日本はどのように考えなければならないのか
   という問題があります。

武見 戦勝国でつくっている国連の安保理の機能は、この複雑な様相を呈するように
   なった国際社会の状況の中で、共通の手段を選択できなくなり、ものすごく大
   きなジレンマに陥っている。この共通認識は、今回のイラクの案件で米国も含
   めて誰もが持つようになったのです。そういう点で、従来から日本が主張して
   いた国連改革というものについて、日本の言う通りになるかどうかは別にし
   て、少なくとも改革はしなければならないという共通認識を強く持たせること
   になる。その点では、日本にとって、国連改革を進めるチャンスになったとい
   うことは、はっきり言えると思います。

塩崎 この戦争を終結させるプロセスの中で国連がどういう役割を果たし得るのかと
   いうことが、国連を改革できるかどうかに大きくかかわってくると思います。
   アメリカが思惑通りフセイン政権を倒した後のドイツ、フランスの役割は難し
   い。しかし、われわれはやはり、国連を中心に何とか世界をうまく回していく
   ために失敗をしてはいけないわけで、そのために日本はどう役割を果たせるの
   かを考えなければならない。単に復興支援という言葉を使うだけではなく、実
   際に汗をかくことをしない限りは、結局、本質的には前回と同様に、言葉と金
   だけ出して何もしないということになる恐れがある。

林  国連は、固有名詞ではなくて普通名詞だと思います。要するに、今の国連がな
   くなっても、みんなで何かやろうというものがなければどうしようもない。今
   のもの以外は考えられず、これは一種の擬制であり、その擬制の形をとってみ
   んながやりたいことを、コンセンサスもつくりながらやっていく。そういう意
   味では、もうフランス、ドイツが何を言おうと、アメリカがどう言おうと、最
   後はそこへ行くしか選択肢はない。それ以外は無秩序な状態に戻るということ
   です。

                          ──次号へつづく──

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●TOPIX
■ 4/18 論点『アメリカの「大義」と北朝鮮問題』 工藤泰志・言論NPO代表
https://www.genron-npo.net/debate/contents/030418_o_01.html
    『アジア問題に関するアンケート結果報告』
https://www.genron-npo.net/forum/asia/030418_01.html

■ 4/17『日本のアジア戦略に向けて―論点整理―』(会員コンテンツ)
https://www.genron-npo.net/forum/asia/index_asia.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  ┏━━━━━━━━━━━━ 会員募集 ━━━━━━━━━━━━━┓
   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。

   ●言論NPOの3つのミッション
   1. 現在のマスコミが果たしていない建設的で当事者意識をもつ
     クオリティの高い議論の形成
   2. 議論の形成や参加者を増やすために自由でフラットな議論の場の
     形成や判断材料を提供
   3. 議論の成果をアクションに結び付け、国の政策形成に影響を与える

   この活動は、多くの会員のご支援によって支えられています。
   新しい日本の言論形成に、ぜひあなたもご参加ください。
   https://www.genron-npo.net/guidance/member.html
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

──────────────────────────────────────
 このメールマガジンのバックナンバーはこちらに掲載されています。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
──────────────────────────────────────
 配信中止、メールアドレスの変更はこちらで。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
 このメールマガジンについてのご質問・ご意見などはこちらで。
 info@genron-npo.net
──────────────────────────────────────
 発行者 特定非営利活動法人 言論NPO  代表 工藤泰志
 URL https://www.genron-npo.net
 〒107-0052 東京都港区赤坂3丁目7番13号 国際山王ビル別館 3階
 電話: 03-6229-2818 FAX: 03-6229-2893
──────────────────────────────────────
 All rights reserved. 記載内容の商用での利用、無断複製・転載を禁止します