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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.26
■■■■■2003/04/29
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
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●INDEX
■ 座談会 塩崎恭久×武見敬三×林芳正
『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第3回』
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■ 座談会『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第3回』
塩崎恭久(衆議院議員)、武見敬三(参議院議員)、林芳正(参議院議員)
聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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イラクの戦争の大義は何だったのか。この問いが与党の3人の論客たちに投げかけら
れて議論はスタートした。冷戦体制の崩壊後、安全保障の概念が本質的に変化する中
で起こったこの戦争は、国際社会を大きく変える転機となるかもしれない。この中に
あって、日本はその置かれた地政学的な状況の下でどのような国家路線を選択すべき
なのか、戦略的なビッグピクチャーはどう描かれるのか。
●北朝鮮への対応に必要な「抑止と対話」
工藤 最後はそうだと思いますが、ある意味でパンドラの箱を開けたような感じもし
ないではない。そこに北朝鮮という問題があるとすると、日本は現実的な対応
としてアメリカと一緒にやるしかないということになりませんか。
武見 建前の世界、表の世界はそうですが、そのプロセスと政策にはもっと深みと複
雑さが求められていて、実はそうならないように、いろいろな形でアメリカの
政府の中の政策決定、例えばネオ・コンサバティストたちやコーリン・パウエ
ルたちのポジションをよく見極めて、どのポジションの人たちの発言権が大き
くなれば日本にとって好ましいか、どういう政策の球をどのようなプロセスを
経て相手方に投げるか、それは効果的にアメリカ政府に対して影響を及ぼすこ
とができるか、ということを考えながらやるのです。しかし、最終的にアメリ
カが攻撃を決断したなら、その時点で明確な支持を出すということなのです。
塩崎 北朝鮮は、とても崩れそうもない変わったガバナンスの仕組みができてしまっ
ている国です。その下で、拉致の問題を起こし、テポドンを日本の頭上に飛ば
し、そして核開発もしてしまうという国家を、どうエンゲージしていくのかを
日本は考えていかざるを得ない。盧武鉉氏のようなリベラルな考え方の人で
も、北朝鮮の核開発を阻止し平和的な解決をするためには韓米の関係が大事だ
ということで、700人のイラクへの派兵を明確にした。そういう決断をしていま
す。
従って、小泉さんはやはりアメリカと日本との関係の下でいくという選択肢を
とったわけです。核についてもアメリカと北朝鮮だけの問題ではなく、みんな
の問題だと言ってわれわれはやろうとしているわけです。それはもうそうせざ
るを得ないと思います。中国、ロシアを、とよく言いますが、日米の同盟関係
を中心としつつ、日米韓ということなのでしょう。
武見 この問題を解決するときの説明の仕方として一番分かりやすいのは、やはり
「抑止と対話」という2つの方法でこの北朝鮮の問題を解決する効果的な仕組み
をつくる必要性がある、という切り口です。
塩崎 金正日体制の戦略は、ある程度軍事的なテンションを高めていくことによっ
て、「こっちを向いて」ということをやり続けてきているわけですね。かつて
アメリカとソ連がヨーロッパを狙える中距離ミサイルを開発しましたが、ヨー
ロッパが困り、結局、米ソともにやめてしまったため、今は「遠いところは撃
てるが、中途半端なところは撃てない」ということになっています。ですか
ら、今の日本はエアポケットのように防げるものは何もなく、一方で北朝鮮は
ミサイルを持っている。アメリカは「日本のことを心配している」と言いなが
ら、テポドンが飛んできたぐらいのことでは、アメリカからICBMを平壌には
撃ってこないでしょう。そうなると、北朝鮮がフリーハンドを持っていて、テ
ンションを上げてもあまり怖くないと思っている中で、日本は交渉をしなけれ
ばならない。
ですから、十分な抑止力を持っていないというのが今の日本の状態で、それに
対して「イージス艦に載せる新たな迎撃ミサイルを」という話をし始めてい
る。そうなると、自衛隊法や指揮系統を変えなければならなくなり、それが抑
止に繋がるのですが、そうした対応がないままに対話だけをやろうと思っても
対話にならないということなのです。それを国民にどうやって理解してもらう
のかがとても大事だと思います。
テポドンのようなものが飛んできてから、朝日新聞でも「偵察衛星を4個飛ばし
てもいい」と認めるようになった。原則的には飛ばすことに反対していません
ね。もしテポドンが三陸沖に落ちなかったら、たぶん許さなかったと思いま
す。安全保障において、いかにこの日本は何かが起きてからでなければ一歩も
前進しないかということです。それを今まで繰り返してきたのですが、それで
は間に合わない事態が起こるかもしれないということが、9.11で分かりまし
た。
実はアメリカでも、ホームグラウンドセキュリティーという概念がなかったの
です。「アメリカ本土を攻めるような輩は誰もいない」という信じられない発
想だったのです。しかし、そういうことが平気で起きてしまうかもしれないと
いうことになり、そこでホームグラウンドセキュリティーをやるようになっ
た。日本は、湾岸戦争が起きればPKO、今度はテポドンが飛んで偵察衛星、不審
船が来てこちらからも少し撃てるようになり、ついに沈没させた。これまでそ
ういうことの繰り返しなのです。有事法制と今度の迎撃ミサイルをどう国民に
納得させるのかというのが、ひとつのテストだと思います。
林 あえてひとつだけ付け加えますと、朝日新聞が「いい」と言うまでやらないと
いうのでは手遅れですから、われわれは、どんな社説が出ようと関係なくやっ
ていかなければならない。また、技術的なことを言いますと、ミサイルディ
フェンスには「ブースト・フェーズ」というものがあります。「ブースト・
フェーズ」と「ミッドコース」と「落ちるところ」の3つがあります。こちらへ
向かってくることが分かれば防衛になるのですが、「撃ち始めたときは集団的
自衛権のほうにいってしまうのではないか。まだ誰を撃っているか分からない
から」という議論がある。北朝鮮は近い国ですから、ブースト・フェーズでや
らないと間に合わないと思います。熱センサーなどいろいろありますから、そ
こでやれるという議論を早くしておかないと、「抑止と対話」にならないと思
います。
●日本で台頭する自立路線の議論をどう考えるか
工藤 その抑止についてですが、韓国や中国などを回っている人たちの話を聞くと、
「日本は朝鮮問題で議論が非常にエスカレートして、異常だ」ということを
帰ってきたばかりの人たちが言っていました。一方で、アメリカの中でも日本
の核武装論が出ています。この発言にもいろいろな思惑があると思いますが。
今の日本のヒステリー的な状況と合わさって、例えば抑止がだんだん日本の自
立にまで踏み込む議論に発展するような感じがしています。
武見 拉致のようなことを経験した上で、北朝鮮の現政治体制が核兵器を開発し、ノ
ドンやテポドンによって日本を確実に核攻撃できるという状態ができ上がる。
そして、そういう核の脅威を受けながら、この北朝鮮の政治体制と対峙しなけ
ればならないという状況を想定して、それが果たして国民の生命と財産を守る
という責任ある政府の立場として容認できるかという議論をきちんとしておか
なければならない。その上で、そういう状態にならないようにするために、ど
のような抑止と対話の政策を組み立て直して、それによって着実にでき得る限
り外交的な手段を通じて解決させるためのシナリオを実現していくかというこ
とが大切です。しかし、その場合も常に成功するとは限りませんから、やはり
政策に携わる人たちは腹の中では相当の覚悟をきちんとして、この問題に取り
組まなければなりません。
塩崎 人道援助と政治は別物だということが日本ではほとんど理解されていません。
アメリカはあれだけアクシス・オブ・イーブル(悪の枢軸)と言いながら北朝
鮮に食糧援助を毎年続けている。今年も10万トンもやっている。ところが日本
では、「とんでもない、何で拉致をやる国に出すんだ」という話になる。やは
り抑止と対話の関係の具体的なカードは何なのかということを考えていかなけ
れば、言葉だけで対話と言っても、これはたぶん難しい。非常に深みのあるメ
ニューを持って総合的に大きな抑止と対話のコンビネーションをつくっていか
なければならないが、それだけの大きな絵を描く人はいるのだろうか。大きな
ピクチャーを描けないままに、部分的なことだけ言っていては駄目なのです。
工藤 日本はあくまでも日米安全保障条約、アメリカの核の中での抑止力という議論
でやっていくべきなのでしょうか。
武見 私はそれが一番いいと思います。日本が核兵器を保有するという選択肢はでき
る限り避けたい。実際のところ、「日本に何らかの攻撃を仕掛けようとする国
があれば、それは核を含むアメリカの報復を招く」という認識を常に持たせる
ということが抑止力の根本なのです。「日本が攻撃されたら、必ず俺が仕返し
してやるぞ」という信頼感が日米間にまずあるということを、あらゆる周辺諸
国にも知らしめる。それが、イラク攻撃について日本がブッシュ政権を支持す
るかしないかということの一番基本的な判断になるわけです。その上で、では
実際にどのような軍事的な体制を改めて整備することにより、その抑止の体系
というものをより強固に固めておくことができるか、という段階に入っていく
のです。
例えば米軍のグアムに対する新たな爆撃機の配備、偵察活動の強化、米韓の軍
事演習の実施、日本の偵察衛星の打ち上げ、あるいはPAC3に関する日米の新た
な連携、更にはミサイル防衛に関する共同研究から共同開発、配備に向けての
新たな進展などが、実際の抑止の体系を強化するための具体的手段として議論
されていく。その中には当然有事法制の問題が入ってくる。加えて、不審船の
問題や、警察と防衛庁の、どちらで対応したらいいか分からないような新たな
脅威に対して、的確に対応し得る法的な根拠とそのための体制を整備し、防衛
庁と警察とあるいは海上保安庁との連携という仕組みをしっかりとつくる。そ
して、そのための危機管理の政策決定過程をしっかりつくっていくことが、抑
止の理論から派生してくる各論になっていくのです。
塩崎 自民党のメーンストリームは、やはり武見さんがおっしゃったようなことだと
思います。自ら核武装するという選択肢を持っている人はあまりいないでしょ
う。
武見 どこまで現実を分かって言っているのか分からないのですが、「北が核を持っ
たら日本も核武装すべきだ」といった議論をする人が出てきています。単なる
感情論ではなく、合理的にそのような議論があるとすれば、アメリカを信じて
いない。核で攻撃されたときに、自国が核を有していない限り、核による報復
攻撃は実際にはできない。日本が攻撃されたときにアメリカが核兵器を使って
報復してくれるような可能性に対してあまり確信を持っておらず、やはりいざ
というときには自分で自分の国を守る、そういう兵器を持っていない限りにお
いては自国の安全は確保できないし、本当の意味での抑止力は確保できない。
しかも、アメリカのユニラテラリズムのようなものに対する批判的な気持ちも
持っていたりすると、今回のアメリカのイラク攻撃にもあえて支持するという
選択肢しかないというような状況に日本を置きたくない。とすれば、軍事的に
も自力の体制を強化していくことで外交の選択肢を広げていきたい。こういう
考え方を持つ人がこれから増えることになっても不思議でない状況になってい
ます。
しかし、唯一の被爆国カードというのは、やはり簡単に捨ててしまってはいけ
ないと思います。その裏側にあるのは、相当軍事費に金を使わなければならな
くなるということです。今の状況を考えてみれば、総合的な外交戦略として賢
明な判断だとは思えない。やはり安保体制というのは、いろいろな批判がある
中でも、1950年体制をつくって以来、戦後、20年前ぐらいまでの日本を規定し
てきた選択だったわけです。今、自民党のメーンストリームは核武装をしよう
などということではないと言えますが、やはり今回選ぶ選択肢というものが、
これからの10年、20年を決めていくと思いますので、総合的な外交戦略がなけ
れば、ベクトルとして最後にどちらを向くのか分からないということになって
しまうと思います。
──次号へつづく──
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