【vol.27】 塩崎恭久×武見敬三×林芳正『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第4回』

2003年5月06日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.27
■■■■■2003/05/06
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
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●INDEX
■ 座談会 塩崎恭久×武見敬三×林芳正
  『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第4回』

●TOPIX
■ 4/30 言論ライブラリー:新着コンテンツを12本追加
  クオリティ誌『言論NPO』2003vol.2のご案内を追加。
  政策フォーラム「アジア戦略会議index」を更新

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■ 座談会『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 第4回』
  塩崎恭久(衆議院議員)、武見敬三(参議院議員)、林芳正(参議院議員)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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イラクの戦争の大義は何だったのか。この問いが与党の3人の論客たちに投げかけら
れて議論はスタートした。冷戦体制の崩壊後、安全保障の概念が本質的に変化する中
で起こったこの戦争は、国際社会を大きく変える転機となるかもしれない。この中に
あって、日本はその置かれた地政学的な状況の下でどのような国家路線を選択すべき
なのか、戦略的なビッグピクチャーはどう描かれるのか。


●日本の外交路線のビッグピクチャーをどう描くか

工藤 朝鮮半島については全体の絵が必要であることはその通りと思いますが、では
   朝鮮半島の安定化の問題をどう進めていくべきですか。

武見 それはまさに「対話にかかわる分野の外交政策を、今後どういう方針に基づい
   てやるか」という話です。イラクの教訓をこの北朝鮮の問題に外交的な側面で
   当てはめるとすれば、中国とロシアを独仏にしてはいけないという教訓がまず
   第一になければいけない。これははっきりしています。いかにして中国やロシ
   アを安定化のためのパートナーとして、この北の問題を解決するために組み込
   むかという外交方針がまずきちんと策定されなければならないのです。

塩崎 両国とも、もともと北朝鮮につらく当たろうと思っている国ではありません。
   従って、こちら側の懸念事項を十分理解してもらい、その通りに動いてもらう
   ためには、やはり相当な努力をしなければ難しいだろうと思います。中国には
   何度もアプローチをかけていますが、北朝鮮に関して日本の政府の言った通り
   にしてくれたことは今までないのではないですか。

   そこで、私が前から言っているのは、正式国交がない国との関係で「アメとム
   チ」の両方を持っているとすれば、そのアメのほうで、なかなか正面からやれ
   ないことをいろいろな工夫をして、NGOを使うなどの形でやり得ると思うので
   す。日本でも結核が流行り出していますが、北朝鮮も実はそうなんですね。そ
   れを何とか抑止するために日本のNGOがアメリカと一緒になって北朝鮮へ行こう
   と思っていた矢先に9.11が起きてしまったのです。そういうことを、実はアメ
   リカではピースボードのような人たちだけが言っているのではなく、国務省に
   長らくいた人が、今度はNGOサイドに立って日本と組んでやりましょうという話
   もあるのです。北朝鮮の人たちだって人間ですから、体制はとても崩れそうも
   ないと言っても、やはり何が真実なのか分からないほどの恐怖政治的なものが
   あるわけですから、そこのところにどう食い込んでいくのかということについ
   て、もう少し努力してみる値打ちはあると思います。

工藤 ここで日本の将来の国家路線のことをあえて聞きたいのですが、先日のシンポ
   ジウムで言論NPOがアンケートをとりました。例えば、将来もアメリカと一緒に
   行動する「イギリス型」があります。また、「独仏連合型」ということで、ド
   イツかフランスか、どちらがどちらかは分かりませんが、どちらにしても中国
   との関係をかなり強化していくという道もあります。そのときには、独仏が
   「二度と戦争をしない」という哲学を共有したのと同様に、日本もアジアとの
   関係の中でひとつの哲学を構築すべきではないかという議論もあるわけです。
   他方で、アメリカとの関係は維持しながら、日本はインドやロシア、中国など
   との関係などを考えながら独自戦略をつくるべきではないかという議論もあり
   ました。その前提には、日本が経済的にもう一度立ち直らなくては駄目だとい
   うことがあります。アンケートをとってみましたところ、イギリス型は12%、
   中国をパートナーとして日中でやるというのが10%と、同じくらいで並ぶとい
   う現象が出ました。一方で、日本独自の路線、この裏側には「活力あるスイス
   型モデル」という話もあったのですが、そのような路線や、「アメリカとの関
   係は一応維持するが、中国、インド、ロシアなどいろいろな大国・地域とバラ
   ンス・オブ・パワーを追求し、その中で独自色を強める」といった路線がかな
   りの関心を集め、大半の方がそのような選択肢を望ましいモデルとして選びま
   した。この議論について皆さんは、日本の将来の国家路線を考える場合にどの
   ようなことをイメージしていますか。

塩崎 林さんが大蔵政務次官のときに、チェンマイ・イニシアチブに深くかかわられ
   た。AMF(アジア通貨基金)構想があり、その後、ひとつの試みとしてチェンマ
   イ・イニシアチブを林さんたち大蔵省が中心におやりになった。ステップとし
   ては正しい方向だと思いますが、基本的なフレームワークから言いますと、や
   はり日米の同盟関係は日本の安全保障の基軸ですから、日米間の関係が極めて
   大事である。それは変わらないと思います。ただ、それにしては、あまりにも
   日本のグローバル戦略がなく、「あれもやっています、これもやっています」
   と外務省は言いますが、右手と右足が一緒に出ているようなちぐはぐなことを
   ずっとやってきたのだと思います。

   中国については脅威論などもありますが、隣の国が繁栄してつぶれた国はあり
   ません。身の丈どおりのことを評価し、手伝えることはやっていけばいいので
   すが、日本はもう少しアジアのことをトータルに考えたほうがいいと思いま
   す。そのアジアは、やはりインドの辺りまで入れていかなければなりません。
   これからのグローイングパワーは、中国とインドが人口的にも、ITの面でも、
   製造業の製造拠点という意味でも、かなり大きな存在になってきていますし、
   中国の今の政治的な外交戦略の展開を見ていますと、日本はやはり少し遅れて
   いると思います。

   タイは小さな国ですが、タクシン首相がASEANに代わるものとしてACDというも
   のを考えています。日本は、12月にASEANの首脳を東京に呼ぶということを初め
   てやりますが、それは今年がASEANイヤーだということでやっている話で、ワン
   ショットなのです。タクシンがやっているACDは、今年はもう2回目で、自分の
   ネットワークをつくっていっているということなのです。やはり日本も、日本
   のネットワークをつくっていくべきです。アメリカと離れるというわけでは決
   してありません。今までASEANに対するODAと民間の投資はいずれも大体12兆円
   ぐらいですが、それが全く生きていない。今、ASEANは、表面上はともかく、日
   本に対する感謝のような気持ちを心底から持っているわけではない。それはな
   ぜかというと、政治主導の総合外交戦略としてのアジア戦略を日本が持ってい
   なかったからだろうと私は思います。

   ですから、外交というものはやはり外務省がやるのではなく、政権がやるもの
   なのです。「何か国益に合ったことをやれ」と皆さんは外務省に言いますが、
   国益を決めるのは与党、官邸ではないか。それにのっとってやらなければいけ
   ない。ODAも安全保障も通商戦略もそうです。中国のASEANとのFTAの動きに慌て
   て、日本はタイとやり、マレーシアとやり、フィリピンと今やっているわけで
   すが、他のところは遅れてしまっています。もっと総合的に考えなければなり
   ません。今までは、顔も体もアメリカを向いていたと思いますが、今後は、頭
   はアメリカを向いていても、体はやはりアジアなのだろうと思いますね。

工藤 自民党の中にはそういう戦略がないのですか。

塩崎 自民党も政権もそうです。外務省も各局バラバラで、今度総合外交政策局を強
   化するということになって、方向としてはいいのですが、外務省だけが外交を
   つくるわけではありません。人的交流の文部科学省はどうするのか、農業はど
   うするのか、経済産業省がやっているものはどうなのか、まとめ上げるのはや
   はり官邸しかないのです。その総合戦略を立案する人がおらず、例えばODAの関
   係閣僚会議を初めてやりましたが、そのようなものは大臣だけ並んだのでは全
   然意味がありません。実際はそこのスタッフがいなければいけない。

   中国については、国内資本蓄積が脆弱で、全部外国の資本でやっているところ
   が問題です。彼らは国内貯蓄をどう投資に回していくのかということをやらな
   ければ不安定だと思います。アジアの通貨危機のときのように、短期の資金を
   長期の国内投資に回したということとは少し違うのですが、その辺りが非常に
   危ないと思います。


●開かれた国づくりの必要性

工藤 逆に今、外資をそこまで積極的に取り入れるという政策については、日本とし
   てはもう少し考えなければならないのではないですか。

塩崎 今度の施政方針演説では、5年でFDI(海外からの直接投資)を倍増したと言い
   ましたが、日本のストックとして見れば、驚くことに、例えば中国と比べても
   5分の1ぐらいしか投資を受け入れていないのです。ハゲタカだ何だとか言っ
   て、日本は日本なりのやり方があるというようなことで、今でも排除しようと
   いうことを事実上やっている。また、例えば「会計基準を変えよう」という話
   については、「国内で活動している者だけでやるのだから、そのままでいいで
   はないか」と言っていますが、実は今日本の株式の2割は海外の人が持ってい
   る。持たれている会社は別に海外で活動している会社ではなく、国内だけで
   やっているものもある。要するに海外の人は、儲かるところ、企業として伸び
   るところが買われているだけの話です。ますます投資を遠ざけるという支離滅
   裂なことをやっているわけですから、官邸の政権としてのピシッとしたものが
   ないという問題なのです。

   結局、中国がなぜ脅威だと思っているかというと、日本が相変わらず中国でも
   つくれるようなものを高いコストでつくっているからなのです。中国がつくっ
   ているものを日本がつくっていなければ、あれだけ安くてまあまあのものが
   入ってくるのですから喜ばなければならない。日本は中国にもっと投資してい
   いと思いますし、また逆に、中国ではできないことをやるためには、海外から
   の投資を受け入れ、もっと国内産業の構造改革をやっていかなければならな
   い。中国はハイペースで、国家としての足並みも揃っており、人材もアメリカ
   やヨーロッパで勉強してきた人たちがみんな戻ってきていて、シナジー効果を
   もってパワーがどんどん大きくなっています。

   人材ももっと受け入れるべきです。皆さんは大学や大学院で受け入れると言っ
   ていますが、まず第一に言葉が大変なのです。中国や韓国から高校生ぐらいの
   若い人を家庭に受け入れて、日本人というものを本当に知ってもらうのが大事
   でしょう。われわれも中国に高校生のときから子供を送って、お父さん、お母
   さんと呼べるような関係をつくっておく。そうしますと、言葉の上でもう日常
   会話は問題がなくなりますから、大学や大学院の段階でかえって来やすくなる
   わけです。

工藤 言論NPOでは、これを「開国宣言」ということで今議論しているのです。もうひ
   とつのテーマですが、将来の大国となる中国が台頭する中で、アジアは大きく
   変わろうとしています。日本の国家路線を含めてどのように今後考えていけば
   いいでしょう。


                          ──次号へつづく──

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