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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.29
■■■■■2003/05/20
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言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
https://www.genron-npo.net
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●INDEX
■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第1回』
パネリスト:安斎隆、ドナルド・P・ケナック、榊原英資、柳井正
コメンテーター:イェスパー・コール、加藤隆俊、 周牧之
コーディネーター:谷口智彦
■ 座談会 塩崎恭久×武見敬三×林芳正
『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 最終回』
●TOPIX
■ クオリティ誌『言論NPO 2003 vol.2―変貌するアジア 問われる日本の戦略』
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■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第1回』
パネリスト:
安斎隆 (株式会社アイワイバンク銀行社長)
ドナルド・P・ケナック (AIGカンパニーズ日本・韓国地域社長兼CEO)
榊原英資(慶應義塾大学教授)
柳井正 (株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)
コメンテーター:
イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券株式会社チーフエコノミスト)
加藤隆俊 (株式会社東京三菱銀行顧問)
周牧之 ( 東京経済大学経済学部助教授)
コーディネーター:
谷口智彦 (『日経ビジネス』主任編集委員)
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中国の台頭を軸としたアジアのドラスティックな変化。国境を越えて進む経済の新た
な結びつき。現実に進行する大きな変化から取り残されかねない日本は、自らの将来
をかけた国内の改革をどのように進め、また現在や将来のアジア、そして世界にどの
ように向かい合えばいいのか。2003/3/7に行われたシンポジウム・セッション1で
は、榊原英資、安斎隆、柳井正、ドナルド・P・ケナックの4氏に、アジア戦略会議の
メンバーの3氏をコメンテーターとして迎え、話し合った。
谷口 このセッションでは、「アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか」という
テーマで、議論を行いたいと思います。このテーマ自体が非常に語義矛盾とい
うか、あたかも日本はアジアではないかのごとき設定になっていて、アジアの
変化に日本が向かい合うことがどれほど難しいかということを物語っているよ
うな感じがしないでもありません。そこには、地政学的な問題もあると思いま
す。柳井さんは冒頭で「日本は現在の超大国のアメリカと未来の超大国の中国
と付き合う」とおっしゃいましたが、これはまさに地政学的な意味を含んだ提
言です。この「中国とアメリカの間に挟まれている」という日本のジオポリ
ティカルな位置に関して、どのようにお考えになりますか。
榊原 日本の地政学的な位置から議論をするのは非常に面白いと思います。日本は
ユーラシア大陸の縁辺の小さな島で、ちょうどイギリスと対照的なポジション
です。イギリスはヨーロッパの一部で、EU には参加していますし、いずれ
ユーロにも参加するでしょう。ただイギリスはヨーロッパの中で一番アメリカ
と近い国です。日本も、恐らくそういう形になるのが一番望ましい。イギリス
がヨーロッパであるように、日本はアジアの一員であるということを意識した
上で、アメリカとの友好な関係を保つのが望ましいと思います。ところが、こ
れが今、逆になっています。私は決して反米的ではありませんが、イギリスが
自らをEU の一員だと思っているように、日本はまず、自らをアジアの一員だ
と考え、その上でアメリカとの良好な関係を維持していくのが良いと思いま
す。日本にとってこれは最も難しい問題のひとつだと思いますけれど、私は、
軸足をアジアのほうに向けていくべきだと思います。今まで軸足がアメリカの
ほうに向き過ぎていたということを考慮すると、そういうポジションがまず必
要です。アジアにおけるイギリスのようなポジションです。アジアにおけるイ
ギリスというのは、イラク攻撃をアメリカと一緒にしようという意味では決し
てありませんから、そこは誤解のないように。
安斎 私の考えもほとんど同じです。榊原さんはイギリスを例に挙げましたが、大陸
の西と東ではだいぶ違います。気候も西側にあると温暖ですが、東側にあると
厳しい。中国とアメリカとの関係については、地政学的に言えばわれわれはア
メリカよりも中国に近いのですが、政治的に言えば、少なくとも当面、われわ
れはアメリカから離れることはできないわけです。しかし、「巨象も流砂に倒
れる」という警告もあるように、アメリカはどうもそういうふうに動き出しか
ねないという感じもある。最近の事情を見て私は心配していますし、そういう
動きが重なった場合には、アメリカとの関係はやはり変わっていくでしょう。
しかし当分は、やはりアメリカを中心として、ものを考えなくてはならない。
これからの日本の在り方を考える場合、私は韓国の人たちの生き方に注目して
います。韓国もアメリカとの関係を大切にはしていますが、考え方はわれわれ
とかなり違い、やはり大陸諸国の一部という感じです。それに対してわれわれ
は海に囲まれている。異民族から襲われたことがないので、非常に甘さがある
と思うのです。韓国では国民の個々人が、「このグローバル経済化の中でどう
生きていくか」ということを7~8 年前から議論していた。学校教育まで含め
てだいたいの方向が決まり、小学校3年から英会話、パソコン教育を行ってい
ます。これは日本よりかなり早い段階です。さきほども柳井さんの話に出てき
たように、われわれは子供の教育、あるいは企業の中での社員教育も含めて、
教育の在り方として「世界の中でどう自立していくか」ということを、基本と
して教えることが大事だと思うのです。
私は今、中国の台頭を軸とした動きには、例えば工場が行ってしまって、わが
県が大変だとか、マクロ的にも大変だというふうに、あまり神経質に思わない
ほうがいいと思います。われわれがこの日本の発展を願うのは、中国の発展を
願うのとほとんど同じになってきています。日本企業の工場が向こうに行くだ
けで恐怖感を覚えていますが、全然違うのです。中国が発展すれば、日本から
中国に向かう輸出も随分あり、両立ちでどんどん大きくなる可能性がある。あ
るいは東南アジアに行った日本の工場から、加工された製品が中国に行くこと
もあります。ここでアジアの大きな地域が、経済が発展する基盤がどんどん出
てきています。これが現実の話であり、その動きは認めなくてはならない。し
かし、それを外交でなんとかできるとか、何かを取り持つとか、そんな大それ
た意識を持たないほうがいいと思います。それだけの外交能力は日本には全然
蓄積されてはいませんから。
谷口 どうもありがとうございます。あえて要約するまでもありませんが、もうお気
付きの通り、日本人のパネリストの方々は、端的に言いますと、眼鏡を掛け替
えろとおっしゃっているのだと思います。心の中の革命から始めないと、アジ
アと付き合うなんてことはできないし、それは実は一刻の猶予もない。今から
でも始めなければならないというように、まとめられるのではないかと思いま
す。ケナックさん、冒頭のお話にもあったように、日本には確かにいくつも良
くなった点もありますが、ではなぜ日本の経済は、この10年こんなに停滞して
いるのでしょうか。
ケナック 私はエコノミストではないのですが、まず基本的に日本が考えていかなけ
ればならない点は2つあるのではないかと思います。まず、大きな資産バブル
の崩壊から立ち直ること。これには少し時間がかかるでしょう。そして、一般
的に言って、日本がこれからまだ考えていかなければいけない問題としては、
消費をいかに刺激していくかだと思います。つまり、消費者の信頼が十分に回
復し、消費が拡大するまでは、基本的な経済成長のパターンに変化が起こるの
は無理ではないかと思います。冒頭のスピーチでいろいろな傾向が変わってき
ていると申し上げたのですが、それにはこれまで少し時間がかかり過ぎている
のではないかと思います。日本人の多くは、振り返ってみて、「いくつかの行
動はとったが遅きに失した」ということに気付いていると思います。安斎さん
もおっしゃったように、不良債権の問題も完全に解消されていませんし、まだ
やらなければならないことがたくさん残っています。それを克服するために
は、ひとつには強い意志、決断力が必要です。難しいことを決断して前に進む
ためには、強い意志が必要なのです。
多くの企業がそれを実行していますが、一般的に言って、利益を回復するため
に必要なら思い切った手立てをとることに、企業がもう少し自信を持つことが
必要でしょう。市場は低迷しています。みんな「どうしてこんなに長い間株価
が低迷しているのか」と疑問に思っています。市場というのは企業の利益を反
映しているのです。投資家は利益が上がっている会社に投資する機会を探して
います。取引所を見てみますと、東証でも記録的に業績を伸ばしている企業が
たくさんあります。もちろんそれは、簡単にできたことでも運が良かったとい
うことでもありません。他と違った経営をし、難しい中を切り抜けてきたから
こそ成功しているのです。非常に難しいことですが、株価が好転しない理由の
ひとつはここにあると思います。「利益を追求する」という企業の根本的な動
機が今よりもっと強くならない限り、市場は好転しないでしょう。これまでお
話した通り、いろいろな良い変化も起きていますが、本来あるべきスピードよ
りも遅いのです。それがバブル崩壊からの回復に非常に時間がかかっている理
由のひとつではないでしょうか。
──次号へつづく──
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■ 座談会『イラクの戦争が日本に問いかけたものは何か 最終回』
塩崎恭久(衆議院議員)、武見敬三(参議院議員)、林芳正(参議院議員)
聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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イラクの戦争の大義は何だったのか。この問いが与党の3人の論客たちに投げかけら
れて議論はスタートした。冷戦体制の崩壊後、安全保障の概念が本質的に変化する中
で起こったこの戦争は、国際社会を大きく変える転機となるかもしれない。この中に
あって、日本はその置かれた地政学的な状況の下でどのような国家路線を選択すべき
なのか、戦略的なビッグピクチャーはどう描かれるのか。
●問われる日本の外交力
武見 それは本当に複雑な外交になります。日本にそれだけの複雑な外交を立案して
実行するだけの力があるかどうかということが確実に問われる。19世紀のメッ
テルニッヒ的な権謀術数をも兼ね備えたような外交力がなければならない。し
かも、スウェーデンやノルウェーのような北欧型のある種理想主義的なグロー
バルなコミュニティーを視野に入れた知的な意味でのイニシアチブも持たなけ
ればならない。しかも、製造業を中心として、ソフィスティケートされた先進
的で知的な創造力を持っていかなければならない。やらなければならないこと
は山ほどある。そういうことをみんな漠然とは分かっていながらも、優先順位
をどう設定してそれを実現していけばいいかという点についてコンセンサスが
できていない。
工藤 やはり中国との関係については、交渉したり戦略を立てたりする人がいなけれ
ばなりませんが、今やっているのは、むしろ交渉を難しくするようなことです
ね。片やそれで、人民元を安くしろと言っている。
林 どんどん相互交流していって、外交力をトラック1もトラック2も強めるという
ことにかかっていると思います。靖国の問題は避けて通れないですから、「そ
ういうことはあるんだ」ということを前提にしてもらう必要がある。「中国と
交渉しなければならないので、総理、靖国に行かないでください」ということ
で済む問題ではない、という前提でやらなければならない。
武見 これはやはり指導者の世代交代がお互いにより本格的に進まなければ解決しな
いでしょう。時間がもう少し要ります。ですから、この問題をすべての問題を
解決するための入り口に置いてはいけない。
工藤 農業を含めた自由化についてはどうですか。
林 農業については、ヨーロッパのようにうまくやっている例をなぜもっと勉強し
て一緒に組めるときは組まないのかといつも思います。ケアンズグループとい
うのは輸出国です。あの人たちの言っていることは正しくて、われわれは何か
いつも不当な利益を守ろうとしているといった構図がありますが、そうではな
い。やはり我がほうの理屈をきちんとつくって、「三極のうちのひとつであれ
ば、3分の1ぐらいの正当性はある」という厚かましさでやらなければ、政治的
には解決しないと思います。
武見 農業を守るということは、農協や農業関係の既得権益を守るということではあ
りません。国内における農業政策というものを抜本的に改革していって、大き
な規制緩和をして、その活力をもう1回再構築していく必要があると思いす。
そうしたことをした上で、我が国の農業をきちんと守る政策をヨーロッパなど
とも組みながら組み立てていく、そういう表裏一体の政策でなければ、林さん
が言うことの説得力は出てこないと思う。そのためには、今の自民党の農林関
係の人たちの立場は、もう少し改めてもらわなければいけないだろうと思いま
す。
工藤 「自分たちは農業をやってみよう」という動きが民間で出ていますから、競争
の中でもう一度農業というものを産業としてつくっていかなければならないの
かもしれません。そのためにも日本の政治も変わらなければならないと思いま
す。
どうもありがとうございました。
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