【vol.57】 小川是×保岡興治×村松岐夫『マニフェストの策定と実行過程の課題(4)』

2003年12月02日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.57
■■■■■2003/12/02
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●INDEX
■ 座談会 小川是×保岡興治×村松岐夫  司会:曽根泰教、工藤泰志
  『マニフェストの策定と実行過程の課題 第4回』

●TOPIX
■ 12月17日(水)言論NPO 第2回アジア・シンポジウムのご案内

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■ 座談会『マニフェストの策定と実行過程の課題 第4回』
  小川是 (日本たばこ産業会長)、保岡興治(衆議院議員)、
  村松岐夫(学習院大学教授)
       司会 曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)、工藤泰志 (言論NPO代表)
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マニフェスト型政治に向けて政治や行政は本当に変わるのか。内閣と与党、官僚シス
テムなど実行過程についての論点は何か。自民党・保岡議員は、官僚の限界を超えた
総合的な政策設計に向けて政治の改革が進展していると現状を評価。行政学者である
村松教授は、重要テーマを評価する民間機関の必要性を強調する。元大蔵事務次官で
ある小川氏は、権限とミッションの所在を明確にした政治のリーダーシップの下で公
務員の志が生かされることへの期待を表明する。


●骨太の方針と党の公約

曾根 ここにご参考までに持ってきたのは、イギリス政府がつくった、ホワイト・
   ペーパー、グリーン・ペーパーと呼ばれるものと、政府の年次報告書です。特
   にブレア政権が97年に政権をとった後、年次報告でマニフェストで掲げた177
   項目中50項目が実施されたというように報告書が出されるようになったので
   す。

   政権党が自ら項目出しをしているわけですが、政府側がこういうのを出すのは
   いかがなものかという議論もありますが、マニフェストとその後の政府の実行
   に関しての自己評価としてこういう資料が出てくるというのは1つの参考にな
   ると思います。

工藤 つけ加えますと、これを達成すればいいのだけれども、達成しない大臣は更迭
   になることもある。まさにマニフェストを実行するために予算がきちっとコン
   トロールされ、実行体制がどんどん決まり、大臣は評価されて1年でも更迭さ
   れる。こうした実行システムが整い、それを民間が評価する仕組みがあって、
   マニフェスト型の政治が実現されている。

保岡 マニフェストが機能し始めるとそういうところにいきつく。内閣と党との問題
   もありますが、その実行を担保する仕組みも整えなければならない。それが先
   程申し上げた、日本にとっての絵を描くという、さらに具体的な年次報告のよ
   うなものにもなる。

村松 今の日本の白書は省庁白書でしょう。内閣が組閣された時の約束がどう実行さ
   れているかの白書、新たに日本の文脈で言えばそういうものをつくっていこう
   という話でしょうか。

曾根 1つの提言ですが、大臣が任命されます。組閣本部に行って一番最初の記者会
   見がありますね。あのときに官庁からメモが出てきます。それを読む方がいる
   のですが。そうではなくて、我が党のマニフェストの下で、私は大臣としては
   こうやりたいといったらどうでしょう。あのときにマニフェストを使うような
   大臣を選ぶべきなんですね。

工藤 今の議論を始めるために少し付言しますが、基本的な疑問は政党が独自に公約
   を作れるかということです。小泉改革の公約は何かを考えると、所信表明演説
   と連動しているのは基本的には骨太の方針だったわけです。骨太は本来政党の
   マニフェストではないのですが、経済財政諮問会議の形で、それが何回も直さ
   れて公約化され、工程表も出された。こうした政策プロセスは党や官庁などの
   反発もありながら、進められていたわけです。これは過度的な現象なのか、日
   本ではこうした形でしか公約を作れないのか、という疑問がある。

曾根 現状の経済財政諮問会議は、1つは利用可能で、マニフェストとつなげて利用
   できる組織だと思うのですが、どうしたらよろしいでしょうか。

保岡 小泉総理は「マニフェストをつくると民主党などはおっしゃっているが、自分
   はもう既にそれを実行している、経済財政諮問会議で出された改革と展望の中
   で全部政策目標を明示し、それもできるだけ体系化して工程表という形で示
   し、従来に比べたら圧倒的にそういうマニフェスト的な要素を政府自らやる努
   力をしてきているではないか」というものすごい自負心がある。

   三位一体の問題にしても、道路民営化、郵政事業民営化にしても、それをやる
   ことによって改革が進む象徴として位置づけている。そういう意味では小泉さ
   んは、今までの政治家よりかなり強い問題意識を持っているのは事実です。小
   泉首相には、自民党を応援していただいている自民党支持組織だけを向いてい
   たらだめだ、国民全体を見て国のあるべき姿を構築しないと、我々を支持する
   母体だけの意見を聞いては国を誤ってしまう、という意識がものすごく強い。

   ただ、工藤さんから今お話がありましたが、経済財政諮問会議は財政と経済の
   運営に関する基本を決めるところであって、外交や防衛といったものはあまり
   入っていない。内閣としては、例えば外交のタスクフォースも必要だし、国益
   という点で結びついた世界的な経済、その他の分野の戦略もある。それは、さ
   きほど申し上げたように省庁をまたぐ全体の絵を描いて、一気に改革を総合的
   に大胆に進めるための仕組みとして、既に内閣に山ほどあるのです。

   党では、省庁、部会をまたぐ問題は特命委員会でどんどん立ち上げている。そ
   ういう省をまたぐ全体の大きな絵を描いて、そこに向かって一気に大胆に、変
   化とスピードについていける政治決定というのは、党内で大きく動き始めてい
   る。それを閣僚と特命委員会の委員長、政調会長と総合調整大臣と結びつけ
   る。そういうことが非常に重要で、それを小泉さんが自分の総裁選挙の公約や
   党の公約にぶつけて、国民にそこをしっかり判断してもらえるようにできるか
   どうか、そうしてもらう努力が必要だと思っているのです。


●内閣の強化をどう進めるか

村松 今までの内閣に比べて小泉さんの努力が非常に大きいというのはそのとおりだ
   と思います。6月末に私がもらった骨太の方針ですと、閣議決定でモデル事業
   の試みとか、政策群という考え方を出しておられる。モデル事業の試みの中で
   は、具体的に予算の使い道を決めて、具体的な達成期間と数値的な目標をはっ
   きりさせた上で評価しますと言っておられるのです。こういうやり方を高いレ
   ベルで平気にやってくれると効果があるだろうなと思う。

   私は政策評価と独立行政法人評価の問題で関係しておりますが、これも長期的
   にはボディ・ブロー的に改善の方向に効いています。しかし、あれは政治的な
   問題に直に手を突っ込むことをやろうという法律ではない。ですから、日本に
   とって非常に重要なテーマについてきちんと評価をする手続は、今もあるけれ
   ども、別なこういう言論NPOのような民間の形で行うのが重要です。

保岡 私たちは縦割りの省庁に関係なく、国民が抱えている具体的な状況や必要性、
   またそれを生かすのに最もいい形の政策を考えなくてはならない。そういうい
   ろいろな政策決定をすべてやるインテリジェンス機能は、情報があって正しい
   判断が初めてできる。あるいは情報を正しく解析して初めて正しい判断ができ
   る。日本は省庁に情報が集まりますが、全体としての国益という点で総合化す
   る部門がないですね。縦割りの省庁、官僚主導からどう新しい時代を築く絵に
   従ったシステムに切り替え、それの実行を評価してもらうか、その点では、小
   泉改革はいろいろな視点は正しい方向に全部向いている。ただ、それが大胆に
   思い切ってどんどん進む形をとらないのは、やはり絵がないからで、いい絵と
   実行体制を持つ政治がまだ完成していない。ただ、そこの方向に向かって、小
   泉さんは正しい方向を向いているとは思っています。

村松 現状は、縦割りですが、官僚主導ではないという状態だと思う。そこに問題が
   あると思います。政策が断片化する。政治の側の統一的な意思をどういうふう
   につくっていくのかというのが問題ではないか。

曾根 最後に2つのことで結論的にご議論いただきたいと思います。1つは政策決定の
   仕組みの問題です。経済財政諮問会議だけでなく、外交問題などいろいろあり
   ますが、この仕組みをマニフェスト型にどう動かしたらいいのか。特に官僚機
   構を含めて内閣機能の強化をどう具体化することが必要か。もう1つは評価で
   す。行政評価や政策評価。村松先生は政策評価をおやりですが、最終的には政
   治評価だと思います。これをどう考えるかです。

小川 政党の本来のあり方として、わかりやすいマニフェストを出すのは当然です。
   その際に例えば外交や経済の絡む話をあまり強い政権公約にすべきではないと
   思っています。外交は相手がある話であり、経済はこうしたいというのはあっ
   ても、基本的は海外の状況などさまざまな要因で動くのであり、大きなコミッ
   トメントはできないわけです。デフレを私は絶対克服したいとか、成長を加速
   したいという思いは語ることができますが、具体的な数字を公約することはで
   きない。

工藤 保岡先生、例えば政治は選挙の際には負担などの問題はなかなか言いにくいと
   いう事情があります。しかし、そこぐらいしっかりとしたものを提示しない
   と、今の日本は展望を描けないという問題もある。一方で、現在の経済財政諮
   問会議が事実上の公約を作っているという形態は、今後、マニフェストを導入
   した場合も同じように進むと見ればいいのでしょうか。

保岡 経済財政という点で言えば、それは非常に重要な部分ですが、党がいろいろ意
   見を言って諮問会議の内容を大分修正したとマスコミは言っています。しか
   し、私から見れば、そしてまた小泉首相や経済財政諮問会議から言えば、大し
   た修正ではない。たくさん意見を聞いて表現を上手にしただけであって、中身
   はほとんど変えていない。だから、党と内閣との最終的に了承し合った骨太第
   3弾というのは、私はそれを前提に小泉公約もつくるべきだし、党の公約もつ
   くるべきだと思います。

   ただ、小泉さんから言えば、少なくとも私はどう思うかというと、骨太の方針
   ではものすごくきれいな文章はできている。しかし、財源調整や、もっと具体
   的な設計をして国民が答えてほしいところに具体性がない部分がある。特に社
   会保障についてもっと進んだ形のものを小泉さんは用意すべきだし、さきほど
   申し上げた三位一体や、道路、郵政の民営化の問題などに象徴はされています
   が、ある程度それが意味するところ、小泉改革の中でどういう意味を持ってい
   るかをきちんと説明することが大事ではないかと思っています。そんな感じを
   個人的には持っています。


                          ──次号へつづく──


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●TOPIX

■ 12月17日(水)言論NPO 第2回アジア・シンポジウムのご案内
  「日中の新たな可能性を探る」

午後12時半~5時、日本財団 2階大会議室(東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル)
http://www.nippon-foundation.or.jp/org/profile/address.html


アジアにおける中国の経済の発展とともに、中国と日本との経済面での実態的な統
合、交流が急速に進んでいます。日本の経済改革と同時に、こうした世界の変化に日
本はどう向い合えばいいのか。その一つの提案が本年3月の公開シンポジウムで打ち
出した「新開国宣言」でした。日本の真の「開国」とともにこの宣言が目指したもの
は、アジアにおける議論のネットワークの形成でした。日本が真の「開国」を進める
ためには、日本人が意識や考え方のレベルでも自らを開放することが必要ですが、同
時に、アジア各国との間で議論のネットワークを構築し、共通の繁栄基盤の構築に結
びつけることがどこまで可能なのか。今回、私たちはこのシンポジウムで、中国との
可能性について議論のチャレンジを始めます。

定員:200人。入場無料。申込締切:12/10。


●お申し込み、プログラムなど詳細は下記まで
https://www.genron-npo.net/about/history/031126_sympoanno.html

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   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。

   ●言論NPOの3つのミッション
   1. 現在のマスコミが果たしていない建設的で当事者意識をもつ
     クオリティの高い議論の形成
   2. 議論の形成や参加者を増やすために自由でフラットな議論の場の
     形成や判断材料を提供
   3. 議論の成果をアクションに結び付け、国の政策形成に影響を与える

   この活動は、多くの会員のご支援によって支えられています。
   新しい日本の言論形成に、ぜひあなたもご参加ください。
   https://www.genron-npo.net/guidance/member.html
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