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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.68
■■■■■2004/02/19
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●INDEX
■ 「第一次 小泉内閣の政策評価書・総論 第1回」
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■ 「第一次 小泉内閣の政策評価書・総論 第1回」 言論NPO政策評価委員会
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本年7月には参議員選挙が予定されています。言論NPOでは第二次小泉政権の評価作
業を3月頃から開始する予定です。それに先立ち、昨年10月、総選挙前に行った「第
一次 小泉内閣の政策評価・総論」を改めて公表します。我々はそこで、ぎりぎりの及
第点をつけましたが、マニフェスト選挙により誕生した第二次 小泉政権に対しては、
より厳しい視点で評価する必要があると考えます。みなさんのご意見を、ぜひお聞か
せ下さい。
●第一次 小泉内閣に対する全体評価
小泉内閣による構造改革の基本指針は、経済財政諮問会議が毎年6月に公表する「経
済財政運営と構造改革に関する基本指針(いわゆる骨太の方針)」に端的に示されて
いる。我々は、2001年度以降2003年度までの3回にわたる骨太の方針、ならびにそ
こでの議論、そこで掲げられた政策目標、その実現を点検した。骨太の方針が毎年更
新されることは、公約の性格から言って矛盾を抱えるが、これらは公約の具体化であ
り、基本は先の所信表明とその具体化である骨太の方針の第一弾にあると判断した。
そうした視点でみた場合、小泉構造改革が目指す最終的な目標は、サプライサイドの
強化或いは資源配分の効率化による経済再生であるといえる。骨太の方針第一弾
(2001年6月)によれば、経済成長を生み出すには、「創造的破壊」を通じて、労働
や資本等の経済資源を成長分野へ移動させることが必要であり、そのためには、市場
メカニズムや競争を阻害している要因を取り除く必要があるとの基本認識が示されて
いる。要するに、小泉構造改革の狙いは日本経済に「市場経済原理」を貫徹させるこ
とにある。道路公団・郵政事業の民営化や「構造改革特区」などの規制改革が小泉改
革の目玉となっているのも、「民にできることは民に任せる」という市場経済原理重
視のスタンスが貫かれているためであるといえよう。
そうした基本理念を背景に、小泉首相は何を構造改革の目標に据え、国民に公約をし
たのか。小泉氏が平成13年5月の所信表明演説で真っ先に掲げたのは、前森政権の緊
急経済対策の実行であり、その中核は不良債権と企業の過剰債務の一体的解決であ
る。これに加えて、競争的な経済システムの形成、財政健全化を三つの改革の柱とし
て、その断行を約束している。まさに経済の建て直しが公約の中心であり、その際、
達成時期、数値目標を合わせて明らかにし、不良債権問題では「2年から3年以内での
正常化」(オフバランス化)を公約し、その期間内を「集中調整期間」と位置付け
た。財政健全化については、2010年代初頭にプライマリー・バランスを黒字化させ
るという中期目標の下で、平成14年度予算での国債発行額を30兆円以内に抑えるこ
とが打ち出される。こうした財政構造改革を通じて「小さく効率的な政府」を実現す
ることが、財政の持続可能性を高め国民の将来不安を和らげるとともに、資源配分の
重点化や効率化によって財政赤字削減と経済活性化の同時達成を実現することにつな
がるとの認識に基づくものである。
今年9月の総裁選で小泉氏は「構造改革の芽が出つつある」と自己評価したが、国民
への公約という視点で考えれば、その達成度評価は日本経済立て直しのために設けた
「集中調整期間」における改革の進捗状況がまず対象になる。その点から全体評価を
試みれば、当初設定した目標はその後、いずれも計画の見直しや先送りに追い込ま
れ、最優先課題の不良債権処理についても不良債権比率は改善の兆しをみせているも
のの、依然として水準が高く出口が見えたわけではない。ペイオフは再び延期とな
り、「集中調整期間」1年延長を余儀なくされている。また財政の健全化は基本線で
貫かれたといえるが、税収の落ち込みで30兆円枠は破綻しプライマリー赤字はむしろ
拡大した。このため、当面の財政健全化目標は歳出総額に対するキャップ設定に変更
されたが、これと10年後のプライマリー黒字化目標の整合性は必ずしも明確でない。
もちろん、数値目標の達成が遠のいた背景には、デフレの深刻化により税収の大幅な
落ち込みや大量の不良債権が新規発生した実情がある。したがって、表面的な数値の
みをもって改革が停滞していると結論付けることはできない。ただ、目標の再設定や
そのための新たな政策目標、手段の設定に追い込まれたのに、その原因についての説
明責任が必ずしも十分でなかった点も否定できない。
勿論、新たな目標設定が当初目指した改革の方向性を維持・強化し、さらに有効な政
策パッケージが提示されるのであれば、小泉首相がいう「政策強化」という判断も成
立つ。だが、その達成のための政策パーケージが明確かつ十分に描かれたとは言い難
く、現段階でこうした目標の再設定についての評価を行うことは難しいと言わざるを
得ない。例えば、不良債権問題とその裏側にある企業の過剰債務問題の一体的な解決
がなかなか進まなかったのは、金融サイドの処理が優先され、デフレの克服や金融と
産業の一体的な再生など包括的な枠組みの提示が遅れたことに原因がある。金融政
策・税制・財政面からデフレ克服のための包括的な政策パッケージが示されたのは、
昨年12月の「改革加速プログラム」以降であり、昨年10月に打ち出された産業再生
機構もこの5月になってようやくスタートした。しかも、これらの対策がデフレ克服
に十分なものかどうかは不明である。
デフレの問題については様々な議論が存在するが、すでに指摘したように、当初の小
泉政権のデフレに対する認識は甘く、この問題での政府、日銀の政策協調もなかなか
進まなかった。また、小泉内閣は中期的な財政健全化目標を堅持し、大幅な財政出動
による景気対策はとらないことを公約した政権である以上、規制改革を始めとしたミ
クロでの経済活性化策の推進は不良債権処理や財政健全化と同程度以上の優先順位を
持って実施されるべきであった。
「競争的な経済システムの形成」は、小泉改革において当初、第二の公約として打ち
出されたが、骨太方針に掲げられた「経済活性化戦略」や「構造改革特区」を始めと
する規制改革がデフレ克服にどこまで有効に機能したかも不明である。特に新たな雇
用創出を狙いとする「530万人雇用創出」については、これが単なるアイデアの段階
から、政府一体の計画として閣議決定されたのは二年後の今年の春であり、計画に格
上げされたことは評価に値するが、その実効性を担保するための制度改革や財政措置
が具体的に提示されていない等、問題を残している。
最近の株価上昇や景気回復を一部には改革の進展の結果と説明する向きもあるが、こ
れを小泉改革の成果と判断できるだけの根拠は乏しい。客観的にみれば、最近の情勢
変化は米国を中心とする世界経済の回復や民間のリストラ努力による企業の収益体質
の改善によるものであり、この2年間の日本経済・金融はペイオフ延期・りそな銀行
の国有化や中小企業に対する信用保証の激増、雇用のセーフティーネット拡大などに
象徴される通り、公的保護の色彩が一段と強まっている。これは、小泉内閣が目指す
「市場経済化」の方向とは逆行しているように見える。こうした現象を「市場経済
化」を促進する上での一時的かつ不可避の現象と見るのか、改革プロセスの失敗とみ
るのかの評価は現時点では困難である。
小泉内閣のマニフェストである骨太の方針が閣議決定文書であることを勘案すれば、
将来における改革の実現は相当程度担保されていると考える。しかし、その大部分が
途中で目標が変更されたり、三位一体改革や社会保障制度改革、530万人雇用創出計
画に象徴されるように、今年になってようやく具体的な動きが出るなど改革の歩みは
遅く前途は多難である。その意味で、小泉改革の真価が問われるのは、まさにこれか
らの3年ということになる。
──次号へつづく──
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