【vol.90】 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない(1)』

2004年7月20日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.90
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●INDEX

■ 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない 第1回』


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■ 対談『国民は日本の将来から逃げられない 第1回』
  佐々木毅(東京大学総長)北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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マニフェスト(政権公約)型の政治を日本に定着させるためにも、昨年の総選挙に続
く今回の参院選は極めて重要な意味合いを持つ。政治学者の佐々木毅東大総長と、前
三重県知事の北川正恭早稲田大大学院教授は、今回の参院選をどう位置付けるのか。
両氏とも、年金制度改革などでみられた政治の現実をいい教材にすると同時に、参院
選は日本の将来に向けて国のあり方が問われる選挙であるため、今の政治が説明責任
を果しているのか見極めることが重要であるとの認識を示した。そしてマニフェスト
をめぐって政治と有権者による契約型システムを確立することが必要と指摘してい
る。(この対談は参議院選挙前の04/6/16に行われました。)


工藤 日本のこれからの政治を考える上で、今回の参院選の意義をどう考えればいい
   のか、ここから議論を始めたいと思います。とくに今回は昨年秋のマニフェス
   ト(政権選択)の衆院選を踏まえて、その中間評価をしっかりと行い、マニ
   フェスト型政治を日本に定着させなくてはなりません。またこの参院選の任期
   に重なる6年間には様々な重要な決断が問われることになっています。私は日
   本の将来や現政権の評価を決める非常に大切な選挙だと考えています。

佐々木 数年後に参院選、衆院選、統一地方選が同じ年にくる年があるが、それまで
   はしばらく国政選挙がなく、そういう意味で今回の参院選はスケジュール的に
   大変重要だということが1つある。同時に、政策的な意味で重要なのは、この
   数年は経済のデフレ問題及び経済的な意味での構造改革問題をずっとテーマに
   してきたが、道路公団から年金の問題を含めて、今度はいわゆる政府のあり方
   がテーマになってくる段階に入ったと思う。今度の年金改革も、その最も重要
   な、かつ避けて通れないテーマだったと思う。

   今回の参院選では、年金という、ある意味で大変具体的な教材みたいなものが
   あったという意味で、これから政府の役割についてどういう整理の仕方をして
   いくか、平たく言えば、21世紀の現実と20世紀の政策の仕組みというものと
   の調整をどうするかが、これから正面から出てくるのでないかなと思ってい
   る。

   今までは経済構造を転換するという意味で、これまでと違った構造に転換す
   る、あるいはそこで累積したいろいろな問題を処理するということをやってき
   たが、今度は20世紀の仕組みを丸ごと背負った政府が21世紀の現実とどうい
   うふうに向かい合って新しい政策を出すことができるかという段階に入ったと
   思う。21世紀の日本の政府というものがどういうものになるのかということが
   実地に移されるのがこれからの数年間であり、大変重要だ。そういう意味で、
   今回の参院選は、それへの入り口に当たっているという認識を私は持ってい
   る。

工藤 政府の問題というのは、国民から見れば負担と給付になります。今まで国が
   サービスをしていることが今の負担では維持できなくなり、国民と政府のあり
   方が問われることにもなります。今の政治が、アカウンタビリティー(説明責
   任)をきちっと果たしているかということも選挙では問われなければいけない
   点だと思います。北川さん、どう受け止めておられますか。


●日本の将来に向けたあり方が問われる


北川 今まで国内の団体の利害調整などをどうするかが国政だという形で、日本の政
   治は幸せな何十年かを過ごしてこれたと思う。しかし、今のお話のように今回
   の参院選は、国のデザインというか、国のありようというものについて、本格
   的に取り組んでいかないといけない、その運命を決するといった要素が非常に
   強い選挙になる、と思っている。

   当然、年金も含めた社会保障の負担と給付の関係については、ライフスタイル
   全体の見直しを、この国としてどう考えるかということが重要になって来る。
   よって、そういうことをやっていくためにも、中央集権か地方分権かという議
   論は大きな争点で、政府がやることは国のデザインというところへとシフトし
   ていく。そういう点を争点にする選挙にぜひしていくべきだと私は考えてい
   る。

工藤 国のデザインとか日本の将来に向けての政府の役割に冠しては本来、政党がそ
   ういう案を出し、それで国民に説得をして合意形成していくということが選挙
   の前提にないとおかしいと思います。昨年のマニフェスト選挙から、我々言論
   NPOもそうした議論や判断材料を有権者に提供しようとマニフェストの評価な
   どを行っているのですが、現状は、まだその段階になっていません。むしろ、
   政党がそういうことを提起すべきだと思うのですが。

佐々木 マニフェスト評価というのはなかなか難しいところがある。確かに昨年の総
   選挙で、政党は何かを約束したが、その内容が大変抽象的で結局、何を約束し
   たのかよくわからない、このため、どう評価していいのかもわからないという
   指摘がある。また年金制度の抜本的改革といった言葉一つをとっても、その意
   味、内容が一体何を示すのかがわかりにくい、といった指摘もある。これらを
   含めて、マニフェストそのものについての問題指摘もされている。

   それからもう1つは、マニフェストで、これについてはこうします、これにつ
   いてはこうしますというが、一体、その間の関係というのはどうなっているの
   かというのが、いま一つ不透明だ。全体としてどうなるのかというような相互
   連関についても、役所は自分のところの所管の政策を一生懸命やっているが、
   国民生活は役所の所管のためにあるわけではない。だから、常に政策というも
   のはある種の切り取りをやって、ここでこう、ここでこうという話になるのだ
   が、それが全体としてどういうことを意味するのかということについて、ま
   た、どこまでメッセージが伝わったのかということについても、まだまだ吟味
   しなければいけないことがたくさんある。


●マニフェストの継続的評価の究極が選挙

   そこで出されたいろんな政策が、どの程度の段階まで進んでいるか、約束した
   ことを本当にやったのかどうかという達成度評価みたいなものが勿論必要だ。
   それからもう1つ、確かに約束は果たしたかもしれないけれども、それが本当
   に有効なのか、適切な政策なのかということは、やったかやらないかという話
   とは必ずしも同じではない。やったことはやったんだけれども、全然違ってい
   た、あるいは不適切だったということだってある。さらには、ここについては
   こうだと思ってやったが、ほかの事柄との関連では例えば非常に副作用があっ
   たとかというようなこともある。

   だから、マニフェストでいろんな政策がたくさん示された場合にも、継続的評
   価という問題が政治の過程の中で非常に重要なことになる。その継続的評価の
   究極的な形が選挙だろうと思う。その評価のための橋渡し役として、言論NPO
   などがいろんな形でそれについての一種の中間総括をやって、選挙のときの判
   断に資する材料を提供することがあっていいと思う。

   だから、マニフェスト選挙で、1回だけ投票しました、終わりましたというの
   ではマニフェストに動きがない。これを動かしていって、構造化していく。あ
   るいはやっていくというサイクルみたいなものが選挙というものに裏づけられ
   たときに初めて政治のサイクルが動きだす。その中に参院選挙も一環として
   入っているということでもって、ダイナミックに政権公約というか、マニフェ
   ストを見ていくということに国民の方も慣れないといけないというのが今の日
   本の段階でないか。

                          ──次号へつづく──

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