【vol.110】 座談会『日中のコミュニケーションギャップをどう乗り越えるか(4)』

2004年12月07日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.110
■■■■■2004/12/07
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●INDEX
■ 座談会『日中のコミュニケーションギャップをどう乗り越えるか 第4回』
■ 締切迫る! 12/15 (水)「言論NPO 設立3周年記念パーティー」のご案内


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■ 座談会『日中のコミュニケーションギャップをどう乗り越えるか 第4回』
  張仲梁 (新生代市場監測機構CEO)、霍虹 (新生代市場監測機構副長経理)
  五十川倫義 (朝日新聞社論説委員)、山田賢一 (NHK放送文化研究所主任研究員)
  古畑康雄 (共同通信社メディア局編集部記者)
           司会:工藤泰志 (言論NPO代表)、牧野義司 (言論NPO理事)
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●なぜギャップが最近拡大しているか

工藤 張さん。今の日本側の皆さんのお話を聞いてどう思われましたか。また五十川
   さんが指摘されたのですが、これまでの認識ギャップ、誤解がいまはさらにか
   なり強まっているのではないかという意見についてご意見はありますか。

張  まず皆様方のおっしゃったことに非常に賛同いたします。特に中日間の偏見と
   いう点で、いま伺った自分の立場、自分の価値観で物を見ている、そして相手
   の立場で見ていない。ここのところから偏見が生じてくるという点には非常に
   賛成でございます。ですから、山田先生や皆さんがおっしゃった中にたくさん
   文化的問題という要素が含まれていると思います。

   ここ数年、中国の国民経済がずっと立ち上がってまいりました。そして立ち上
   がってくると、それにつれて一部の中国人の中に、「おれが正しい」という考
   え方が出てきたのは事実です。ただ、そういう中国人の感情にも背景があると
   いうことをご理解いただきたいと思います。過去、特に1945年以前の中国の
   状況というのは非常に悪かった。アメリカ、ドイツ、ロシア、日本、いろいろ
   な国がやってきていたわけです。過去100年ほど、そうしたプレッシャーが中
   国人の肩にかかっていたわけです。それは言うなれば、中国が弱くなってし
   まっていた時期の歴史です。しかも、日本との関係で言いますと、中国が弱
   かった時期の歴史の中に最後に登場してきたのが日本だったわけです。日本が
   その歴史の中に出てくる前には、例えばロシアがいました。それから8カ国連
   合軍なんていうのもあったわけです。ただそういうものは、今日、多くの人が
   忘れてしまっているわけであります。したがって、ここには歴史的な背景とい
   うものがあると思います。そして、その歴史的な背景というものに関しては、
   やはり時間が必要だと思いますが、もし日本はドイツと同じようにその歴史に
   ついて反省すれば、この時間が短く出来ると思います。

   今のこうした中日間の状況というのは、中国経済の今の状況と非常に大きな関
   係があります。ここ10年ほど国民経済が立ち上がってきた期間において、先ほ
   ど申し上げたような歴史的な背景に関する意識というのは一貫して存在してい
   たわけです。かつ国民経済が立ち上がり始めた当初というのは、まだ日本との
   距離がありました。しかし、今日、かなり立ち上がってきまして、にもかかわ
   らず、先ほど申し上げた歴史的な背景に関する意識はなお強く存在している。
   一方で距離はだいぶ縮まってきた。そうなりますと、いろいろな問題が出てき
   たときに、言うなれば憂さ晴らしの対象として日本が選ばれるということに
   なってきたわけです。

   それから2点目は、中日間の問題においてマイナスイメージがしばしば語られ
   る。ここで大きな問題というのは、先ほどもちょっと申しました大多数の沈黙
   を続けている人たちの声、そうした世論が表に出てこない。これが大きな問題
   だと思います。

   3点目としては、やっぱりメディアの働きというのがありますが、特に中国の
   メディアにおいて、マイナスイメージ、あるいは人が耳をそばだてたくなるよ
   うな報道を喜んでする傾向があると思います。

   皆さんは今、それぞれの経験を語られたわけでありますが、こうしたことも中
   日間におけるコミュニケーションにかかわってくると思います。例えば、朝日
   新聞と仮定しましょうか。実は飛行機の中で朝日新聞を見ましたけれども。朝
   日新聞の社会面なんかを見ますと、やれレイプがどうしたとか、殺人がどうし
   たとか、そういうのがしょっちゅう載るわけです。そうすると、その新聞だけ
   見ている中国人の認識はどうなるかというと、東京というのはとんでもないと
   ころだ、大変なところだというふうになってしまうわけです。実際には東京が
   どれだけ落ちついた平安な街であるか、これは逆に新聞には出てこないわけで
   す。

   先ほど霍さんのメディアに関するお話にもありましたけれども、情報が部分的
   にブローアップされて、拡大されて報じられるということがあると思います。
   例えば原発の事故が起きますと、原発の事故一色になってしまう。ほかの報道
   があまりなされない。そういうことが見る人に誤ったイメージを与えてしまう
   という面もあると思います。

   それからもう1つは、大衆の意思、民意と政策の関係があると思います。先ほ
   どから申し上げているとおり、多数の世論が沈黙のまま出てこない。そうする
   と、あれこれ言う少数派の意見があたかも民意であるかのようになってしまう
   わけです。そうなってしまいますと、今度は政府が問題を処理しようとすると
   きに、その「あたかも民意のようになってしまった意見」に考慮せざるを得な
   くなるわけです。そのような状況は日本にもあると思いますし、中国にもある
   と思います。

   例えば、小泉さんが靖国神社に行く。その背景には一部の日本人の意見という
   ものがあるでしょう。小泉さんが靖国に行くと、中国としては、やはりそれな
   りの対応策をとらなければならなくなる。その背景にもやっぱり中国の民意と
   いうものがあるわけです。特に強調したいのは、中国には小泉さんが靖国神社
   に行くことを反対する民意が主流であることです。

   もちろん中国のメディアの中にも皆さんと同じように責任感を持っている人も
   います。例えば、人民日報の馬立誠さん、皆さんもご存じだと思いますが、
   『戦略と管理』に論文を発表されまして、その中で、中日間の歴史的な往来は
   非常に長いということはとりあえず一方に置いておいて、新思考で行こうでは
   ないかということを発表したわけであります。結果、それがインターネットに
   載りますと、非常に多くの人から罵られました。もちろんこの馬立誠さんの意
   見に賛成した人間も多くいるわけです。私も賛成した1人ですけれども、しか
   し、そうした賛成の声はなかなか表には出てきませんでした。結果として、馬
   立誠さんは、その後、あまり多くのものを発表しなくなってしまいました。そ
   ういう状況の中で、政府が正しい方向で処理をしようとしても当然ながら困難
   にぶつかるわけです。

   メディアというのは媒体としての容量が決まっています。それは言うなればわ
   れわれが1杯のお茶を飲むときに、1杯のお茶の容量が決まっているのと同じよ
   うに、メディアが媒体として伝えられる容量というのは決まっているわけで
   す。ですから、その決まっている容量の中で、中日友好にかかわるような情報
   というものが常に一定の比率を占めるように注意すべきではないか。それに
   よって友好的な情報というものが人々の間に伝わっていくようにすべきではな
   いかと思います。

   1つの例を挙げますと、外交部のスポークスマンの発言で、「日本は中国の近
   現代史において、もたらした害の最も大きな国である」という発言がありまし
   た。しかし、同時に、「改革・開放以来の中国の国民経済の発展に最も貢献し
   た国である」という発言もあるのです。ところが、新聞報道では前の方ばかり
   が強調されてしまうということがあるわけです。ですから、中日友好というも
   のに責任ある態度を取るメディアであるならば、後の方の発言もきちんと一定
   量、最低の報道をされるべきではないかと思います。

   メディアが前の方の話ばかりを強調するような報道をしますと、読者であると
   ころの一般大衆は、後ろの話、つまり国民経済の発展に最も大きな貢献をした
   国だという話を全く知る機会がないわけです。結果として今日のような世論の
   状態が形成されてしまうと思います。

                          ──次号へつづく──

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■ 12/15 (水)「言論NPO 設立3周年記念パーティー」のご案内
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平素は言論NPOの活動にご高配を賜り厚く御礼申し上げます。

言論NPOは2001年より「言論不況からの訣別」を目指し元「論争東洋経済」誌編集
長の工藤泰志を代表とし、各界の有志と共に活動して参りました。御陰様で今年の11
月をもちまして設立3周年を迎えることができました。言論NPOではアドバイザリー
ボードの小林陽太郎氏、宮内義彦氏、佐々木毅氏、北川正恭氏らの呼びかけにより、
3周年を記念いたしまして、下記のとおりカクテル・パーティーを開催することとい
たしました。

言論NPOはこの3年間、日本の将来に向けて建設的な問題提起や解決策の提示を行
い、政治と有権者との間に政策をめぐる緊張感ある真剣な議論の舞台をつくろうと
様々な活動を行ってきました。しかし、これからの3年間こそ、日本の将来にとって
もまさに正念場と言える重要な選択の時期だと私たちは考えております。この3周年
という節目にあたり、私たちは決意を新たにして日本の将来に責任意識を持った真剣
な本物の議論の形成に取り組みたいと考えております。

つきましては言論NPOの活動を今後さらに発展させるべく、会員の方々を始め、各界
の幅広い方々にご出席を賜り、私たちの活動や思いにご理解をいただければ幸いで
す。楽しいご歓談の場とさせて頂ければと存じますので、ご多用中とは存じますが、
是非ご出席頂きますよう、よろしくお願い申し上げます。


◆呼びかけ人代表
 小林陽太郎 佐々木毅 北川正恭 宮内義彦

◆呼びかけ人
 安斎隆 イェスパー・コール 伊藤元重 石黒光 上村多恵子 賀川洋 木村伊量
 国分良成 川本裕子 近藤正晃ジェームス 榊原英資 佐藤玖美 島田晴雄
 瀬戸雄三 橘・フクシマ・咲江 津川清 長岡實 深川由起子 福川伸次
 藤澤義之 牧野義司 増田寛也 増田宗昭 松井道夫 茂木友三郎 山田孝男
 横山禎徳


            - 記 -

◆日時    2004年12月15日(水)午後 5:30~7:30

◆場所    レストラン・アラスカ・プレスセンター店
       (千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンタービル10階)

◆参加費   お一人様 3,000円

◆アクセス  会場近辺の地図は、こちらをご覧ください。
       http://www.alaska-net.co.jp/press/map.html


◆詳細、お申込みはこちらからお願いいたします。
https://www.genron-npo.net/about/history/041215_partyanno.html

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   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。

   ●言論NPOの3つのミッション
   1. 現在のマスコミが果たしていない建設的で当事者意識をもつ
     クオリティの高い議論の形成
   2. 議論の形成や参加者を増やすために自由でフラットな議論の場の
     形成や判断材料を提供
   3. 議論の成果をアクションに結び付け、国の政策形成に影響を与える

   この活動は、多くの会員のご支援によって支えられています。
   新しい日本の言論形成に、ぜひあなたもご参加ください。
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