明石康×小林陽太郎「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと(3)」

2009年1月04日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆◆◆◆ 言論NPO コンテンツメールマガジン 
◆◆◆◆ Vol.3(2009年1月4日発行)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                 〈〈 https://www.genron-npo.net/ 〉〉

コンテンツメールマガジン第3号では、元日よりお届けしております明石康氏と
小林陽太郎氏の対談「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと」の第三話を
お送りします。司会は、言論NPO代表の工藤が務めました。
現在、Webを活用した市民討議の場『ミニ・ポピュラス』において
「今ある経済危機」への日本の政治の対応をどう評価するか、議論を行っております。
多くの方のご参加をお待ちしております!
(参加方法につきましては下記のお知らせをご覧ください)
───────────────────────────────────
□■「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと」(3)■□
【3】日本の閉塞感を当事者意識を持って打ち破るには

(工藤泰志)
日本国内では、単なる国会の政治だけではなく一般の社会でも、日本の大きな針路
を考えるという落ち着いた議論がなかなかつくれていません。
2009年はまさにそういうことをしなければいけない1年だと思いますが、
そのときに気になるのは、現在起こっている世界的な変化が国内でも実体経済に
深刻な影響を及ぼしているにもかかわらず、まだ他人事みたいに感じている人が
おり、また政治のリーダーが率先してこの問題に覚悟を決めて取り組むという
意思や流れが国会の議論の中にも見られません。こうした日本の国内政治の風潮や
方向をどう変えていけばいいのでしょうか。

(小林陽太郎)
結論から言えば、最大の問題は政治にかかわらず、本当の意味でのリーダーシップ
を持ち全てを任せられる人材が、日本の中で乏しくなってきたということが、
急激に見えてきたということではないかと僕は思います。それはこの1、2年に
起こったことではなく、戦後の教育の中で、リベラルアーツ(大学における教養課程)
がひとつのキーですが、アメリカを中心に存在していた新しい問題解決方法を
色んな分野で手にする、それを身に着ける人間を育てるという教育は、当時の日本の
国益に沿ったものだと思いますし、日本はかなり成功したと思います。
しかし世界の状況が移り変わり、経済の仕組みも変わる中で、あるべき経済政策とは
何か、社会政策との接点はどういうところにあるのかという問題そのものを設定
する能力や、本当の問題点が何なのかを見抜く力を身につけることに、日本の
高等教育がきちんと手を打ってこなかった。本当の意味でのリーダーの資格を得る
ための人間力を教育する高等教育がなかったということではないかと思います。
これは教育機関だけの責任ではなく、経済界を含めた問題だと思います。経済界は
どちらかというと即戦力を求めています。また、大学の教育はあてにならないので、
人間教育は自分の社でやるみたいなことを言っていましたが、かなり傲慢なもの言い
だと僕は思います。そして、残念ながら政治の世界でいうと、同じような教育を
受けた世代が段々主流になり、優れた人が十分に入ってきていないのではないで
しょうか。これは政治だけではなく、経済も含めてのことだと僕は思っています。
アメリカはここ数十年来、いい人はコンサルティングやインベストメントバンキング
(投資銀行)などに就職しています。日本も色んな意味で偏りはあるかもしれない
けれど、非常にできる人たちは公務員になる、これは今までずっと続いてきました。
アメリカが日本と違うのは、最初は民間部門でも、公共部門への転換がかなり柔軟に
なっています。オバマさんはそのひとつの象徴的な例だと思いますが、結果として、
政治の世界にいい人が存在しているというのがアメリカの状態だと思います。
そういう点で日本とアメリカのギャップがものすごく出てきてしまった。
教育に関しては息の長いことですが、もう1回しっかりと腰をすえ、小中等教育の
生きる力などの議論を踏まえた上で、高等教育でどういう人間力教育をするのか、
きちんとやり始めなければならないと思います。そうでなければ、将来日本の針路を
定めるための人材はますますいなくなってきてしまいます。
しかしそれまではどうしたらいいのか。それは各界が本当に協力して、政治や経済、
行政の総力をあげて優秀な頭脳を集めて議論し、いい方向を見つけてやっていかないと
いけません。残念ながら、今は総力をあげてというかたちになっていません。
メディアでも識者も含めて、国民の声を一本にまとめ、その方向に進もうという動き
にはなっていない。ここはやはり、長期的にきちんとした資質をもった人たちを
育てていかないといけないと思います。

(明石康)
与野党の勢力が現状のように接近してしまうと、どうしても政党間の対立が泥仕合に
なり、足の引っ張り合いになってしまい、真の意味での政策論争はますます遠くなり、
やや政局が生臭く、次元の低いものになってきています。
そこで小林さんの言われるように、中長期的には、わが国における真の意味での
社会の変革を目指すべきです。幅広い国民的な議論をふまえたリーダーシップが
生まれてこないといけない。色んな意味で教育の危機が叫ばれています。
世界の大学の格付けを行っているイギリスの機構などの調査によると、日本で一番
といわれている東大でさえも、順位は15番から20番目の間で、外国人教師や
留学生の比率をみると、40番目50番目に落ちてしまいかねない現状があるわけです。
欧米の大学に比べると、非常に閉鎖的であるということは否定できない事実です。
大学の衰弱の背景には、教育全体の衰弱はもちろんのこと、国民全体がちょっと
しらけて、疲れきった雰囲気の中にあるからではないでしょうか。
他国と比べて顕著に違う点は、語弊をおそれずに言えば、国民全体、特に子どもたちが
「小市民的な」幸福や満足を求め、大人を越えたような疲れ方をしていることです。
大きな希望とか国の向かうべき方向とか、人類的な希望に取り組もうという意欲がなく、
自身の身の周りの、家族の幸福だけで十分だという人が増えました。
大人よりも大人になった意識に浸ってしまっているのではないか。
国を超えた国際的な論議の場が増えています。それは政治外交だけではなく経済や
文化、科学の面も含めてです。しかし日本人は知的な力を持ちつつも、それを
国際的に紹介し、自分の考えを他の国の関係者や専門家を交えながら調べて、
一緒に新しいルールづくりをやっていくようなディベートの伝統は、残念ながら
わが国にはあまりありません。韓国ではそのようなディベートの伝統が文化の中に
あるらしいです。中国はものすごいスピードで、英語力その他の能力の涵養に
突き進んでいます。わが国の場合、そういう外の衝撃に応えて自己を変えることに
ついて、自分自身の古来の美風とか伝統を否定するような後ろめたさがあり、
もっと素直な形で自分の力を涵養し、外のものを貪欲に吸収しつつ、一緒になって
新しいモノをつくっていくという意欲や能力が欠けていると思います。
これには大学教育の前に、小中高校の改革も必要だと思っています。例えば英語力の
涵養などは言葉だけでなく、言葉の背後にある文化的なものを意欲的に理解する、
そういうアグレッシブで前向きな態度が、若い人に必要だと思います。
大きなリーダーシップが出てこないというご指摘はその通りで、日本社会が
縦割り社会になってしまったというのが、ひとつの大きな要因だと思います。
アメリカをみて驚くのが、やっぱり知的エリートの裾野の広さだと思います。
あのオバマのような人でさえも、恵まれない家庭から最高学府にいき、そこを出たら
今度はシカゴの貧民窟で社会保障のために活動し、それから政界に入っていくわけです。
そういう骨太のエリートの人たちは、日本社会にはまだまだ存在しないのではないか
と思います。小さい国の場合にも、互いに意思疎通ができるエリート階層が存在
するのです。北欧諸国を見ていて羨ましく感じることは、官僚の世界はきわめて
小さいのですが、必要とあれば民間やNGOから専門家をいくらでも提供できる
ような社会構造になっています。その点わが国では、官僚も含めてみんなが自分の
蛸壺に入って安寧を享受しているようにみえます。
世界がこういう危機的な状態になった時にこそ、真の意味でのリーダーシップを
持った人が各界を網羅したかたちで現れていいはずなのですが。
そういった知的資源はどこかにあるはずです。それを我々がいかにして見つけるか
が大きな課題なので、それを色んな段階でやらないといけません。

 ~【4】につづく~(全4回でお届けします。次号もお楽しみに!)

 詳しい内容は、ホームページからもご覧になれます。
 こちらからどうぞ→ https://www.genron-npo.net/new_09/003372.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●『ミニ・ポピュラス』での議論に参加しませんか?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
言論NPOでは現在、Webを活用した市民討議の場『ミニ・ポピュラス』を
ニフティ社の運営する「@niftyビジネス」内で展開中です。
テーマは 【「今ある経済危機」に日本の政治は対応できているのか】。
派遣労働者を中心に相次ぐ解雇の問題を取り上げ、日本の政治による今の対応を
どう評価すべきか、参加者間で意見交換を行っているところです。

登録手続きをすればどなたでも無料で参加できます。
ご登録がまだの方はぜひ、下記サイトにアクセス!
私たちの新しい議論形成にご協力ください!

「@niftyビジネス」のフロントページ→ http://business.nifty.com/
※ご登録後、コミュニティ『ミニ・ポピュラス』への参加が可能になります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●登録無料! 「メイト」会員募集中です!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「言論NPOの活動や議論に興味がある」「議論の内容や日々の更新、活動
情報について知りたい」という方は、ぜひご登録ください。
一部フォーラムやセミナーの開催通知をご希望のメールアドレスに配信します。
携帯電話のアドレスでもご登録いただけます。

 会員制度についてはこちらから
          → https://www.genron-npo.net/join/003104.html#mate
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●寄付にご協力願います
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■言論NPOの活動は皆さまからのサポートで成り立っています。
言論NPOは非営利組織であり、議論づくりの活動(フォーラム開催や
アンケートの実施など)は、参加者による無償の協力や労働、寄付によって
支えられています。
私たちがこの国の民主主義のために挑戦を続け、事業をつくり出すためには
皆さまの協力が必要です。ぜひ、寄付にご協力をお願いいたします。

 寄付・協賛についてはこちらから
          → https://www.genron-npo.net/supporter/003227.html

■また、言論NPOは「イーココロ!」と提携し、募金活動を行っています。
クリック募金にもぜひご協力をお願いいたします。

 「イーココロ!」サイト内 言論NPOのページはこちらです
            → http://www.ekokoro.jp/ngo/genron/index.html

───────────────────────────────────
※このメールマガジンのご意見・ご感想をinfo@genron-npo.netまでお寄せ
ください。今後の改善に役立ててまいりたいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
 発行者 (認定)特定非営利活動法人 言論NPO 代表 工藤泰志
 URL https://www.genron-npo.net
 〒103-0027 東京都中央区日本橋1-20-7 電話: 03-3548-0511
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━