言論NPOでは、ウェブサイトの全面リニューアルに伴い、ウェブ上をはじめ
とする議論を、このメールマガジンでもお届けしていきたいと思います。
言論NPOの新しい議論づくりのキーワードは「強い民主主義をつくる」です。
現在議論が展開されている「4つの言論」のうち、まずは「市民を強くする言論」
から、小倉和夫氏、小林陽太郎氏、山本正氏が参加して行われた座談会の内容
をお届けします。
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【特別座談会】 市民社会は「民主主義のセーフティネット」
―小倉和夫氏、小林陽太郎氏、山本正氏
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昨年9月に実現した政権交代。しかし、日本の政治は本当に変わったのか。
今こそ問われている変化とは何なのか。そして、鳩山政権が提唱する「新しい公共」
とは―小倉和夫氏、小林陽太郎氏、山本正氏の3氏が、「日本の変化と市民社会」
を語り合いました。
<発言者>
小倉和夫氏(独立行政法人 国際交流基金理事長)
小林陽太郎氏(元経済同友会代表幹事、言論NPOアドバイザー)
山本正氏(財団法人 日本国際交流センター理事長)
<司 会>工藤泰志(言論NPO代表)
◆第1話:政権交代と日本に問われる「政治の変化」◆
座談会の冒頭では司会の工藤が、「昨年夏には政権交代が実現したが、この国が
未来に向かって動き出すような本当の変化が起こるためには、有権者、あるいは
市民がもっと強くなる必要がある」と述べ、まず「日本の政治は本当に変わったのか」
「今こそ問われている変化とな何なのか」ということを、3氏に問いました。
小倉氏は、外交官としてフランスに滞在した経験を振り返り、フランス人には「政府
は自分たちがつくるものだ」という意識が強いとし、革命において重要なのは、
何かを変えることではなく、新しい政権を「自分でつくり上げた」という意識を
市民が持てるかどうかということではないか、と述べました。そのうえで、政治の
変化を考えるにあたっては「現政権による権力の行使の正統性は、他党のマイナス
要素によって成立しているという面がある」という点は、考慮しておかなければ
いけないと指摘しました。
山本氏は、政府と官僚が社会のプライオリティを決めるような、これまでの古い
ガバナンスのシステムから脱皮するためには、一種のショック療法が必要だったと
述べ、「民主主義の観点からも、政権交代が起こったこと自体はポジティブにとらえ
ていいのではないか」と語りました。小倉氏の見解については、自分たちが「変化の
一端を担った」くらいの意識を持っている市民も多いのではないかという見方を
示しました。
しかし一方で、アメリカなどとは違い、市民ひとりひとりが自ら考え、議論をし、
自分の言葉で何かを発言できるような人がなかなか出てこないという点で、「民主主義
としての基本的な要素が、日本ではまだ欠けているのではないか」と指摘しました。
小林氏も2氏の見解に同意し、政権が変わったことは基本的には良いことだが、政権交代
のきっかけとしては、自民党の失点という要素が大きかったとしました。さらに、かつて
あったような共産主義への強い危機感というものが薄れ、現在は民主主義と市場経済と
いう枠組みの中で、「新しいチームにやらせてみてもいいのではないか」という判断が
生まれるようになったという「時代の変化」も、政権交代の大きなきっかけのひとつに
なったのではないかと述べました。
そのうえで、現政権については「党内が一本柱ではないまま、政権党としての影響力を
どこまで発揮できるのかという心配もある」としながらも、政権交代が実現したことで、
日本の民主主義が一歩前進したことは間違いないのではないか、と語りました。
3氏の意見を受けて工藤は、現政権の課題として、まず選挙時のマニフェストそのもの
に、「サービス競争的な色彩が強い」「支出計画の上位の目的が曖昧で、目指すべき
社会やビジョンとの整合性がとれていない政策が多い」など多くの問題点があったと
述べました。さらに、予算編成のプロセスで、そうした約束をそのまま実行することが
不可能だということが明らかになったにもかかわらず、その点について国民への説明が
全くなされていない、と指摘し、「政府は政策の優先順位を定めて、今後どのような
手順で何を実行するのか、きちんと説明する必要がある」と語りました。
工藤の指摘に関して小林氏は、現政権に対して示されている危惧として「どのような
国をつくるのか」という国家像が見えない点と、経済不況化で具体的な成長戦略が
見えてこない点を挙げましたが、それはかつての政権に対しても指摘できる点だった
のではないかとし、山本氏もこれに同意を示しました。
小倉氏は、日本の政治に見られるひとつの現象として「政治が非常に細かい世界で行われ
るようになってきた」ことを挙げ、ビジョンよりも数字や細かい事実が重視されるなど、
「政治が小さくなっているというか、政治自身が官僚化している」のではないかと述べ
ました。そのうえで、具体的に何が変わったのかということについては、もう少し時間
をかけて見ていく必要があるとしました。
山本氏は、政治が今後どのように変わろうとも、いろいろな研究機関や非営利セクター
をはじめとして、国民が新たな議論をつくっていかない限り、日本のガバナンスシステム
の向上にはつながらないのではないかと述べました。
では、これからの日本を考えたときに、日本の政治に問われる変化とはどのようなもの
なのでしょうか。
工藤のこの問いかけに対し、まず小倉氏は「効率性重視の社会を変える」ことを挙げ
ました。小倉氏は、発展途上の国々に対して「日本はあなたたちのモデルである」と、
果たして胸を張って言えるのか、と述べ、効率性は確かに大切だけれども、それを社会の
中で最も重要な価値だととらえていいのだろうか、と疑問を投げかけました。
山本氏は、「日本は貧しい国のモデルになれるか」という点について、「国際社会の中で
日本がどのような貢献をするのか」という議論が決定的に欠けていることが問題である
とし、もっと外に向けて手を伸ばしていくようなマインドが生まれない限り、尊敬され
気概を持った国にはなれないと述べました。
小林氏はこれらを受け、「効果よりも効率性を重視するような傾向は、日本だけではなく
世界中で見られるのではないか」と述べました。そのうえで、終身雇用などに象徴される
日本的な経営が、これまで効率を軽視し、効果を徹底的に重視することで伸びてきたと
いう面もあるが、現代のグローバル市場においては、これからは効率を重視しなければ
生き残っていけないというところに来ていると述べました。そして、「これまでの価値観を
反省すべきだ」ということが言われながらも、「市場におけるスコアカードのつけ方は
依然として効率重視のままだ」と指摘し、リーマン・ショック後の経済状況下では、効果
重視に完全に転換するのではなく、両者のバランスを維持しながら、効果のほうをもう
少し重視していくことが重要だとしました。「一時的に効率が下がったとしても、その
結果として雇用などに対してもう少しバランスのとれた資源配分が行われるのであれば、
それはそれで望ましいことだ」と語りました。
小倉氏も、「個別の小さな領域で一生懸命効率性を上げることと、社会全体が本当に効率的
になるかということは別問題だ」とし、「単体としては非効率に思われるようなものが
あってこそ、社会全体が非常に効率的に動いている」ということもあると指摘しました。
そのうえで、今の日本社会は、ミクロの分野で必死に効率性を上げようとしているが、社会
全体で見たときの効率(あるいは効果)を見失っているのではないかと述べました。
(第2話につづく)
※この文章は、座談会での議論内容を一部要約したものです。
◆◇座談会の内容はこちらでご覧になれます―全3話で公開中!◇◆
▼第1話:政権交代と日本に問われる「政治の変化」
→ https://www.genron-npo.net/society/genre/cat300/post-6.html
▼第2話:「新しい公共」と強い市民社会
→ https://www.genron-npo.net/society/genre/cat300/post-6-2.html
▼第3話:「市民社会」はどうしたら強くなれるのか
→ https://www.genron-npo.net/society/genre/cat300/post-6-3.html
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