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■■■■ 言論NPO メールマガジン
■■■■ 2011年5月21日
■■■■ 発行:認定NPO法人言論NPO〈https://www.genron-npo.net/〉
【Topics】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「政府の復興計画を点検する」
石原信雄氏、武藤敏郎氏、増田寛也氏が言論スタジオで激論!
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言論NPOの工藤です。
いつも言論NPOの活動にご理解とご協力を下さり、ありがとうございます。
さて、言論NPOでは、5月13日に「言論スタジオ」に石原信雄氏(地方自治研究
機構会長、元内閣官房副長官)、武藤敏郎氏(大和総研理事長、元日銀副総裁
)、増田寛也氏(野村総研顧問、元総務大臣)を招き、「政府の復興計画を点
検する」をテーマに議論を行いました。阪神淡路大震災の際に内閣官房副長官
として司令塔の役割を果たした石原氏は、「政務三役だけが中心で動いて実務
に当たる役人が指示待ちとなっており、発災直後のその後の体制がうまくいっ
ていない」と指摘、現在の「政治主導」の問題点を明らかにしています。
その他、なぜ現在の政府の対応が機能しないのか、どこに課題があるのかにつ
いて、白熱した議論が行われています。長くなりますが、下記に第一部「震災
後2ヶ月政府の取組はなぜ遅れるのか」を掲載しますので、ぜひ、ご一読いた
だき、ご意見やご感想をお寄せください。
お寄せいただいたご意見は、言論NPOのFacebookページに掲載させていただい
たり、メールマガジンでご紹介させていただく場合がございます。
なお、言論NPOのウェブサイトでご覧頂く場合は下記リンクからお願いします。
https://www.genron-npo.net/future/genre/localgoverning/post-142.html
皆様からのご意見、ご感想をお待ちしております。
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【第1部 震災後2カ月 政府の取り組みはなぜ遅れるのか】
工藤:早いもので震災から2カ月が経ち、亡くなった方が15,000人、そして、
まだ避難所に11万人もの方がいらっしゃいます。まさに、必死で命を救うため
の取り組みがなされています。まだまだ半ばだと思うのですが、この被災者を
助けるための救援、復旧、復興の動きを現段階でどのように評価しているか。
そこから議論を始めたいと思います。では、最近被災地を訪問したばかり、と
いう増田さんからお願いします。
増田:現在、避難所生活者が12万人弱ですが、避難所はプライバシーが無いの
で、壊れた自宅に震災後も住んでいる、いわゆる自宅避難者がかなりいまして
、この人たちになかなか支援物資が届けられない問題があります。ざっと見ま
したところ、20万人近くは実質上の避難生活者と言ってもいいのではないか、
と思います。阪神淡路大震災の時は、2カ月経った時点で都市計画が決まって
、区画整理が進んで瓦礫処理も行われていました。これまでの対応を見ていま
すと、市町村ごとに瓦礫処理の進捗具合とか仮設住宅の建設に随分差が出てき
たように感じます。全体的に少しずつ動き始めましたが、一方で、実質的な避
難者がまだ20万人近くいる中で、瓦礫処理にほとんど手が付けられていない所
もあります。岩手県の大槌町は町長が亡くなり、4分の1の職員がいないので
、まだまだそういったところに手がついていない状況です。また、罹災証明が
発行できていないので、義援金もやっと届き始めたという状況です。また実際
には病気で避難所で命を落とされる人も出てきています。ですから、この被災
地の人たちの「命を守る」と言うことをしっかりと他の人達にも伝えて、現実
的に動かしていかないといけない、そんなことを強く感じました。
〈「命」を守ることに覚悟があるのか〉
工藤:「命を守る」という点で見れば、やはりいつまでにどういう形で一人一
人に向かわないとならない。そのためには、政府のリーダーシップや強い意思
が必要でしたが、今の政府の取り組みどう思われますか、石原さん。
石原:私はご紹介いただきましたように、16年前の阪神大震災時に官邸におり
まして、復興対策にあたりましたが、その時と今回を比べて、初動体制と言い
ますか、震災発生直後の官邸の体制づくりは率直に申しまして、今回の方がよ
かったと思います。阪神大震災の時は、現地からの情報が入らなくて、官邸自
身で非常災害対策本部を立ち上げたのが、10時の閣議でした。5時46分に震災
が起こりましたので、かなり遅れていました。ですから、政府の対応が遅れた
ことは非難されましたし、私共も率直にそれは認めざるを得ないことでした。
しかし、その後、現地の状況が分かるにつれて、政府は次々と対策を打ちまし
た。この面では、今回よりも阪神大震災の時のほうが順調にいっていたと思い
ます。今回2カ月経ちますが、なかなか復旧、復興、あるいは救援といったこ
とが円滑に進んでいないというのが率直な感想です。なぜなのか。1つ同情す
べき点を言えば、今回は地震の規模がM9.0という大変な地震であり、また貞観
地震以来の大津波がありまして、被災の程度も大きく、且つ阪神大震災のとき
は神戸、西宮、宝塚など阪神地区が中心で兵庫県内にとどまっていましたが、
今回は青森県から千葉県まで範囲が広く、それに何と言っても福島原発の事故
という非常に扱いの難しい問題が起こってしまった。そういうことで内閣の対
応がうまくいっていない点はあります。しかし、官邸自身の対応の仕方につい
ては、これだけの大災害ですから、本来、一般の津波の救済対策と原子力災害
への対応は責任者を分けて、それぞれが責任を持って対応する体制を、当初か
らつくるべきだったと思います。
今回は官邸が両方に対応しており、結果的には総理も官房長官も含めて原子力
災害にいわばウェイトがかかってしまい、一般災害の対応については現地任せ
といった感じです。阪神大震災のときは、震災が1月17日に起こったわけです
が、3日後の20日には、すでに小里貞利さんという大変行動力のある大臣が、
災害担当責任大臣として任命され、かつ小里さんを現地に駐在させて対策にあ
たらせた。また、この小里さんに各省の官僚の実力者を付けてもらい、いわば
現地で、即断即決で対応する、その結果についてはすべて官邸が責任を負うと
いうことを総理からはっきり言っていただきました。そのことが、その後の瓦
礫の処理をはじめとした色々な問題の対応を非常にスムーズにしたと思います
。今回は現地の責任者がいるわけではないし、対応がちぐはぐだったのではな
いかというイメージです。
工藤:武藤さんは、当時は主計局次長で、瓦礫処理担当だったそうですが。ど
うですか、今見ていて。
武藤:まさに瓦礫の処理についてどうも遅いと言うことで調べてみました。阪
神淡路大震災のときは2カ月後に瓦礫の80%は処理されていました。それはな
ぜかというと、埋め立て地に瓦礫を投棄することができたからです。今回は5
月2日時点で、丸2カ月は経っていませんが、岩手で16%、宮城で2%、福島
で4%程度しか瓦礫の処理がなされていません。まさにご指摘があったように
、瓦礫がなかなか処理されないと衛生問題とか、住民の方も新たにスタートす
る元気が出てこないなど、心理的にも衛生的にも色々な問題が出てくるのでは
ないかと思います。瓦礫を処理するにあたり、今回は海に投棄できませんので
、山に投棄するしかありません。そこで、どこに投棄するかとなれば国有地を
探すしかありません。しかし、塩水に浸かったものを勝手に埋め立てると塩害
の元になるので、色々考えるとやることがたくさんある。それが、がれき処理
が十分なされていないということの1つの理由だと思います。仮設住宅も、阪
神淡路大震災時は60日後には66%、3分の2は仮設住宅が出来上がっていまし
た。最終的に全部できるためには、時間がある程度かかりました。今回は、7
万2,000戸が必要と言われていますが、現時点でその11%の8,000戸しか完成し
ておらず、圧倒的に遅れています。先ほど石原さんが指摘されたように、様々
な点で阪神淡路大震災時と条件が違うとは思いますが、阪神淡路大震災の時に
は1月17日の震災後、復興の提言が3月に出されています。それから法律も
2月から3月にはできていました。
石原:そうです。2月末には16本もできていた。
武藤:3月には関連法案が成立している。あの時は、やはり役所がそれぞれの
情報を把握して、総合的に動いて、法律のどこをどう変えるべきなのかという
ことを、いち早くまとめていたわけです。もちろん政治には頻繁に報告しなが
らやっていました。
〈政治家主導で官僚を動かしていない〉
石原:今の点は非常に大事なところです。あの時は各省の責任者、予算も法案
も何をなすべきか分かる人を現地の小里さんの下に派遣しました。彼らがこう
してほしい、ああしてほしいという情報をどんどん上げて、官邸が各省庁と連
絡してどんどん具体化していったわけです。今回は、どうも政治主導というこ
とで、各省とも政務三役が中心で動いていて、実務に当たる役人は指示待ちな
のです。私は、これが初動体制の遅れの要因であるのは否めないと思っていま
す。
武藤:様々な事情があるにしろ、今回のやり方において、もっと工夫がな
されるべきだったのではないかと思います。例えば、義援金が届いていないそ
うですが、それは「公平でなければいけない」とかいう議論が先にあり、誰も
決めない。だけど、義援金についてはとりあえず配って、何度も配っているう
ちに結果として公平が実現されればいいわけです。
増田:阪神淡路大震災の時は2週間くらいで第1陣を配っていましたよね。
武藤:最初から、公平に配るべき、という議論をしてしまうと動かなくなるの
です。有益な意見や議論はたくさん出てきても決断が遅いということだと思い
ます。
石原:やはり実務経験者がいないからです。慣れた人がいれば、その段取りは
どんどん進むのです。やはり政治家がまず仕切って、役人は指示を受けて動け
ばいいというのが、あらゆる面で影響していますね。
増田:現地の市長さんにお会いしましたが、とにかく政務三役や政治家の方の
視察が多くて大変だと言っていました。政治家はいろいろ言いますが、後でフ
ォローした際に、下におりてなくて、実務的につなぎようが無い。皆さん「分
かりました、分かりました。帰ってから進めます」とか言いながらそれっきり
で、その繰り返しだということです。まさにおっしゃったように、役人は指示
待ちで、しかも出すぎてもいけない。
石原:政務三役と官僚組織の間が切れています。それが致命傷ですね。
工藤:しかし、初動については、生命の問題もあり、スピードの問題ですよね。
増田:やはり避難所で体調を悪くして命を落とした人がいます。
石原:初めの救急・救命を含めて、初期の段階は時間の問題です。いかに早く
手を打つか。そこが非常に遅れていて、阪神淡路大震災のときと大きく違いま
す。
工藤:これは、命がかかっている問題ですので、政府の責任問題は大きい。そ
れくらい真剣に考えてもらわないといけない。
石原:私は、先般、今回の復興構想会議で意見を聞かれて、内容の問題はとも
かく、執行体制の問題として今の点を申し上げました。どうするかを決定する
際に、政務三役会議の中に、始めから次官とか担当局長を入れれば、すぐに動
く話なのですが、入れていない。私はこれからでもいいので、次官とか担当局
長を入れるべきではないかと申し上げました。それから、地方の県庁や市役所
の方が色々と悩みがあった際に訴える場合に、今は、政治家に言ってくれとい
うことになっているのですが、政治家は色々なことをやっており、専門家では
ないわけです。それよりは、現地でいろんな問題が起きれば、各省の担当者に
日頃からコンタクトを取っていますので、そこに意見を言って、担当者を通じ
て政務三役、大臣や官邸に伝えるという道を認めて欲しい、作ってほしいと申
し上げました。今の政権になってから、官僚が事務レベルで地方の要望や意見
を聞いてはいけないとなっていて、全て政治家に回せということで、受け付け
てはいけないことになっています。でも、災害復興とか、人命救助の時にそん
な余裕はありません。やはり困ったことが起きれば、担当の事務のところから
上げたらいいのです。その道を開けて欲しいと復興構想会議で申し上げました。
増田:そうですね。しかもその上げる先が20くらいあって、どこに上げたらい
いのか分からない。
石原:政治家に言ってくれと言われても、どの政治家に言えばいいのか分から
ない。結局、被災地の人は色々な具体的な悩み事を訴えるところが無いのです
。視察に来た時に話を聞いてもらうしかない。しかし、増田さんもおっしゃっ
たように、視察に来た人に訴えても、それがいつ、どこで、どのように実行さ
れるのかわからない。
増田:フォローされていないですね。私は、直接そういう声を聞きました。
工藤:ようやく菅首相もお盆までに仮設住宅を作るとか、瓦礫の撤去を行うと
か言いましたが、それだって目処がついていない。
石原:それは目標というだけ。一種の願望に近い目標。
工藤:それでは議論が盛り上がってきましたが、一度休憩を入れます。
▼第2部「復興構想会議は機能するのか」はこちらから
https://www.genron-npo.net/studio/2011/05/post-3-3.html
▼第3部「被災地の復興をどう動かすのか」はこちらから
https://www.genron-npo.net/studio/2011/05/post-3-4.html
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◆言論スタジオ概要◆
言論NPOは、この震災復興やそれに伴い、国民レベルでこの震災後の出口や日
本の未来をどう考えるのか、というところから議論を開始し、この国の立て直
しの議論につなげたいと考えています。そして、今回の復興に何が問われてい
るのか、政治と地方と市民の役割は何なのか、これまでの震災対応の総括から
今の政治や政府の取り組みに何が求められているのか、継続的に言論スタジオ
で議論していきたいと思います。
https://www.genron-npo.net/studio/
言論NPOは、多くの方の意見を集めながら、被災地や日本の復興について、
本格的に議論を開始しています。Twitter(#GenronNPO)やメール
(info@genron-npo.net)、あるいはウェブサイトのお問い合わせフォーム
(https://www.genron-npo.net/contact.html)などで、復興のアイデアや
今回の座談会に対するご意見をお寄せ下さい。
いただいたご意見等は、当日の番組内でご紹介させていただくか、
または言論NPOのホームページでも掲載させていただきます。
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