2001/8/24 毎日新聞
―工藤泰志代表に聞く―
<「声なき日本」から訣別したい>と文化人や一般企業で働く有志らが『言論NPO』という運動を本格的に始めた。活動の舞台となるホームページの第一弾には、<小泉内閣の行方とポピュリズム>のテーマで、政治学者やエコノミストら8人が論文やメッセージを寄せている。東洋経済新報社のオピニオン誌『論争』の元編集長で、このNPO代表の工藤泰志さん(43)に、運動の狙いなどを聞いた。(岸俊光) ―『言論NPO』という運動をなぜ始めたのですか。
◆日本経済はバブルの時から15年も混迷している。同じような議論が繰り返されるだけで混乱から脱却できないのは、僕たちマスコミにも責任があると思う。明治維新と同じ転換期を迎え、経済危機にある中で、中立的な議論に意味があるのか、疑問がある。<夢の持てる国>にするために、覚悟を決めて責任ある言論活動をしなければいけないし、その舞台がないと新しい流れは始まらないと考えた。 『論争』編集長の時に感じたのは、まじめな言論空間が小さくなっていることだ。努力しても将来が描けない状況に、みなが悩んでいる。国がいろんな形でサポートしているため危機の実相は見えにくいが、本当はみなが現状に挑戦し、自己実現を目指さないといけない。それなのに、日本に今何が起こっているかさえ、多くの人は分かっていない。問題を本音で議論する場が必要だと思う。 ―運動には、どんな人が加わっているのですか。
◆実際の作業には、言論のあり方への問題意識を共有している、経営のコンサルタントや中央官僚、学者、一般の企業で働く有志など15人が、毎週日曜に集まり、準備を重ねてきた。みなボランティアだ。その後、私たちの呼びかけに、経営者や文化人、エコノミストなども加わり、今ではメンバーは150人になった。こうしたメンバーを中心に運動を続ける予定で、今後はメンバーを400人に、議論に加わる一般会員を3000人に増やしたいと思っている。 ―運動の舞台をインターネットにした理由は?
◆議論の場として魅力があると考えたからだ。参院選投票日の7月29日にホームページでの議論を開始したが、それは、改革はこれからが本番であり、私たちも人任せにするのではなく、主体的に改革の議論に挑もうと思ったためだ。小泉改革自体にはメンバーはいろいろな意見を持っているが、日本を変えたいという点では共鳴せざるを得ない。しかし、改革は首相だけでなくみなが挑戦すべきもので、そうしない限り本当の構造改革にはならない。 今の日本では、私たち自身の生き方が問われているのに、人任せで批判のための議論が多いと思う。このポピュリズム的な流れに警鐘を鳴らす意味で、最初に<小泉改革の行方とポピュリズム>という特集を組んだ。ブームはいずれしぼむが、ブームが去っても改革は終わらない。人々が「痛み」を覚悟し、個を確立しない限り、混迷を打開できない。そんな意識を持つ人たちを言論の場に結集した運動だということだ。 ―今後、どう運動を展開していきますか。
◆ この国をどんな国にしたいのか、本音の議論が必要になっている。既得権や組織を代弁する議論は無意味で、それぞれが改革を問われている。現在の経済的な困難を打開するだけではなく、そうした真剣勝負の議論から新しい日本の将来像、そして政策を生み出したい。私たちは発言の舞台を提供し、まじめで質のよい議論であれば一般会員も筆者に迎えたい。ホームページは毎月更新し、発言の場も拡大する。12月には「日本版フォーリン・アフェアーズ」とも呼べるクオリティ誌の創刊も目指している。 『言論NPO』7月号の内容を紹介すると―――。 『言論NPO』アドバイザリーボード代表で劇作家の山崎正和さんが「ポピュリズムと小泉政治」、飯尾潤・政策研究大学院大教授が「小泉政権は本質的矛盾をどう解決すべきか」と題して寄稿。坂野潤治・千葉大教授に、「日本近代史から見る小泉政権の行方」をインタビューした。また、リーマン・ブラザーズ証券のポール・シェアードさんは「マーケットはなぜ小泉政権の改革を疑問視するのか」を寄稿。「小泉政権の構造改革は成功するか」をめぐって、2人の証券エコノミストが対談した。小泉内閣ブレーンの島田晴雄・慶大教授は「小泉政権の構造改革の柱とは」を寄稿。宮内義彦・オリックス会長も運動へのメッセージを寄せている。 飯尾教授は「インターネットは、まだ想定読者が少なく、議論のコアが作りにくい。どんな言論運動ができるか、これから考えていく必要がある」と話している。 『言論NPO』への問い合わせは03-6229-2818。ホームページはhttps://www.genron-npo.net
2001/8/24 毎日新聞
―工藤泰志代表に聞く―