【アエラ】 言論不況への挑戦

2002年1月21日

2002/1/21 アエラ

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 インターネットを舞台とした議論の場として非営利組織(NPO)の「言論NPO」を発足させ、3ヵ月になります。

いま取り組んでいるテーマは、「小泉内閣を中間評価する」です。

政治学者の村松岐夫京都大学教授や曽根泰教慶応大学教授らに問題提起してもらい、自民党の加藤紘一代議士による寄稿や、官僚による覆面座談会も行っています。

小泉純一郎首相の当初の狙い通りに「改革」が進んでいるのか、まずきちっと検証が必要だと思ったからです。

日本の社会は、とにかく発言する人が少ない。雑誌「論争」の編集長をやっているとき、そうした危機感を持ったことが、この活動のきっかけでした。

日本は政治的にも経済的にも危機的な状況が続いているのに、言論空間はどんどん小さくなっている気がします。

社会保障制度をめぐって、医師会の幹部が発言するなど、自分の組織や団体の既得権益を代弁する発言は多いけど、名前を出しての個人の意見となると、みんな、政治的なリスクを負うことを心配して沈黙してしまう。

企業のトップを回って、説得した末にようやく書いてもらえたと思ったら、「なんでお前に発言する資格があるのか」と叩く人がでてくる。真面目に議論を続けている官僚も、発言したがらない。

だけど、もうこの転換期に、それはおかしいと僕たちは思ったのです。本当の本音を言ってくれと。発言したがっている人を発掘し、論文を書いたり、議論に参加したりできる舞台をとにかく用意したかった。

「論争」で、それに挑戦し、かなり自己回転はしていたんです。筆者の人たちが、「もっとこれを議論しよう」と自分でテーマを設定して、別の筆者を次々に見つけてきてくれました。

残念ながら雑誌はなくなりましたが、残ったネットワークをいま活用しています。

問題意識を共有している学者や官僚や一般の企業人ら15人で、毎週日曜日に集まって、「言論NPO」発足まで準備を重ねました。

だれに対しても、組織を離れて個人の意見を発言すべきだと言っているものだから、仲間内で「脱藩を勧める男」と笑われていますよ。

最初に取り上げたのは、「小泉改革の行方とポピュリズム」というテーマです。運動の顔となる「アドバイザリーボード」代表に就いてもらった劇作家の山崎正和さんや、エコノミストなどに寄稿してもらいました。

首相にリーダーシップは必要だけど、改革というものはひとりのリーダーに期待することではなく、みんながリスクを負って挑戦すること。それがなければ、人気をベースにした大衆迎合の政治になってしまう。そんなメッセージを伝えたかったのです。

NPOという形態にしたのは、収益を目標にしていないからです。大勢の人に見てもらおうと、議論のレベルを低くしたり、人気受けを狙ったり、という考えはまったくありません。年会費一口10万円の基幹会員は220人ほどになりました。目標は300人で、今後はシンポジウムや分野ごとのフォーラムを開催していきます。クオリティーの高さを純粋に求めたいと思っています。

でも、本音を言うと、まだまだ認知度は低く、学生らのボランティアに支えられながら、何とか動き出しているというのが実態です。僕は、いまの日本をこれほど政治経済的に危機に陥れた要因の大きなひとつが、「マスコミの中立性」にあると思っています。

いつも目先の議論しかしない。「靖国」の季節が終われば、話題も終わり、選挙になれば選挙、というその繰り返しです。

経済がいい例です。バブル崩壊後、もう10年も経済が停滞しています。その原因はどこにあり、どう脱却するかということが問題だという意識はあるのに、公的資金の投入をどうするか、といった目の前の議論をずっとしています。

権力構造が強ければ批判しているだけでいいかもしれませんが、大転換期で権力構造そのものが弱くなっているときに、たんに批判しているだけでは済まない。じゃあ、どうするのか、という論点をマスコミが出さなければ、状況は打開できない時期に入っていると思います。

阪神大震災のとき、そのことを思い知らされました。

インターネットで住宅問題をテーマにしたグループがあり、地震後に開いた会合に行ってみると、不動産会社の副社長や弁護士や学者ら、実にそうそうたるメンバーでした。マンション建て直しの法案をこう変えなきゃいけない、といった問題をすでに話していました。ジャーナリストが、「どうですか」とそこへ入っていっても、何の意味もない。「自分ならこうだ」という提示がいかに必要かを気づかされました。マスコミがいま置かれている状況の本質は、それと同じだと思っています。

近く、ホームページでの議論を下地に、「日本版フォーリン・アフェアーズ」と呼べるクオリティー誌を創出する予定です。言論不況に対する、僕なりの闘いなんです。

聞き手・編集部 岡本進

2002/1/21 アエラ