【朝日新聞】 参院選 どうかかわる 三者三論「公約実行 厳しく監視を」

2004年6月18日

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今回の参院選で問われるべきは、政権与党が昨秋の総選挙で掲げたマニフェストの中身を、いかに実質的に進捗させたかである。

マニフェストが日本の政治に導入されたのは、政策を軸に有権者と政治の間に新たな緊張感ある関係を作り上げるためだった。政党が有権者に政策を問い、選挙後は政府と一体で責任を持って実行し、有権者がその実績を判断し投票する。公約が破られることが当たり前の政治から、有権者本位の政治の仕組みを取り戻す試みだ。マニフェストは有権者との契約、誓約書となるものだ。

私たちは有権者に判断材料を提供したいと考え、昨年から政権公約の内容や進捗の評価作業を行い、5月に21世紀臨調が開催した「マニフェスト検証大会」で発表した。結果はかなり厳しいものだった。自民、公明両党とも100点満点で30点台と事実上の「不合格」となった。

私たちが採用した評価基準は、(1) 目標の明確性 (2) 期限明示 (3) 測定可能性 (4) 実現可能性 (5) 妥当性の5つである。(1)~(3)は従来の公約に比べ前進もみられたが、理念やビジョンが明確ではなく、実現のための政策体系や手段が明示された公約はほとんどなかった。

さらに相変わらず「検討する」などと抽象的なスローガンにとどめた項目も多く、選挙で不利になりそうなものは、本来マニフェストに書くべき内容でも避けて通った。

たとえば最大争点の年金問題で、自民党は「抜本改革を実施」と書いた。しかしその中身を何ら提示せず、有権者に判断させないまま選挙を迎え、その後、国会で政府案を強行採決させた。今回も郵貯、国と地方の財政、介護など多くの重要問題の判断が参院選挙後に先送りされている。

日本のマニフェストは有権者との誓約書として機能をまだ果たしていない。自民党は「マニフェストの93%が動き始めている」と自賛している。公明党も同様だ。だがそれは公約に羅列されたことに、多少は何らかの形で対応したと言っているに過ぎない。

公約の進捗度はあくまでも理念や具体的な目標に即し、実質的に評価されるべきだ。あいまいな公約のまま進捗を形式的に評価しても、実行に責任を持つマニフェストに発展しない。私たちが検証大会で「参院選までにマニフェストを書き直すべきだ」と主張したのはそのためである。

日本の政治がいま求められているのは、社会保障をはじめ持続不可能となった従来のシステムを作り替えることである。現在の負担では、これまでの給付は維持できないことは、はっきりしている。

そのことに政治は正直に答えようとせず、有権者に判断を求めていない。有権者と合意を形成すべき重要な局面なのに、それが行なわれていないことが問題である。マニフェストは、こうした将来社会への設計図こそ提起すべきだ。

今回の参院選がとりわけ重要なのは、選ばれた議員の任期である2010年までの6年間に日本の将来を決める重要な決定が行われるからだ。年金、介護、医療などの社会保障や、財政の立て直しのための増税問題、国と地方のあり方などが次々と決まる。

その判断を任される政党や候補者に、日本の将来へのコミットメント(責任ある関与)を果たす決意を、問うべきである。マニフェストを一過性のブームや選挙戦術に終わらせるのではなく、有権者はマニフェストの実行を監視し続け、あいまいな公約を許すべきではないのである。

(聞き手・渡辺哲哉)

2004/06/18 朝日新聞