発言
新年度における国家予算の概算要求は与党におけるマニフェストの実現をベースとして積み上げられたが、税収の減少とは裏腹に歳出は大きく膨らんでしまった。財政規律を考えると無秩序な国際名増発は避けなければならず、政府の行政刷新会議は「事業仕分け」二祖の活路を求めた。国民に公開されて実施された事業仕分けは国家の事務・事業など知る由もなかった人々に数々のムダを浮き彫りにして、多くの共感を呼び、鳩山内閣の高い支持率維持にも大きく貢献する結果となっている。
私もこの仕分け作業を支持する一人だが、一抹の不安もある。私はこの仕分けにもっと大きな期待を賭けていたからである。政権が交代し新政権が事業仕分けを実務的に行うことによって事務・事業における国と都道府県と市町村の役割が明確になり、各政府間の主権が確立され、戦前、戦後を通じて永い間続けられてきた中央集権制から分権国家に変えることができると信じていたからである。
私が主宰する研究会では、成熟社会が加速しより一層厳しさを増す財政環境の中で分権社会の確立による地方の自立を目的として「事務・事業における役割分担の明確化(主権の確立)作業」を行ったが、行政経費のムダは地方(都道府県と市町村)の事務・事業だけで14兆1千億円にのぼることが試算(『地方自治 自立へのシナリオ』:東洋経済新報社)された。「現在実施中の国の事務・事業の明確化」による資産を加えると膨大な行政経費の削減が予測される。
言論NPOはこれまで国家を変える大胆な提言を活発に行ってきた。政権交代が行われた今こそ、我が国が成熟社会に相応しい国家の仕組みを確立するための積極的な活動を心から期待をしている。
前志木市長、地方自立政策研究所代表
1941年埼玉県生まれ。埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議長、埼玉県議会議長を歴任。 2001年7月、志木市長に就任。2005年7月から地方自立政策研究所代表。主な著書に「市町村崩壊-破壊と再生のシナリオ-」(スパイス)、「教育委員会廃止論」(弘文堂)等。