今年の「東京会議」は、私たちの覚悟が問われる、極めて重要な状況下での開催となります。
戦争の終結と停戦への展望が見えず、虐殺が繰り返されている中で、多くの人にはっきりと分かったことがあります。
これまでの国際秩序はすでに瀕死の状態にあり、それを立て直す努力が世界に問われている、ということです。
ロシアの一方的な軍事行動は、都市への容赦ない攻撃となり、首都キエフでは、今まさにこの瞬間でも、市民が一体となったギリギリの戦いが行われています。
私たちが今、目にしていることは専制体制が自国の国民をだましながら、他国の市民の命を何の躊躇もなく奪っていることです。
一方的な軍事侵略は、国連憲章が定めた領土と主権の一体的な尊重の完全否定でありながら、国連や世界はそれを止めさせる直接の行動を取れないでいます。
ウクライナでは250万人を越える市民が国から離れたたものの、多くの市民が戦いを続けています。
世界では抗議の声が広がり、前例のない経済制裁が行われ、多くの企業がロシアから退出しています。
この危機に、世界は何ができるのか、世界の未来のためにどのような努力が問われているのか。
私たちが今年の「東京会議」に臨む問題意識はまさにそこにあります。
私たち、言論NPOの立ち位置はあくまでも自由や民主主義、そして法の支配であり、世界の協力です。
私たちが守り続けるべきこの価値が深刻な困難に直面し、世界が不安定化している。
私たちが、そう考えて「東京会議」を始めたのは5年前になります。
言論NPOの提案に、米国、ドイツ、フランス、英国、イタリア、カナダG7の加盟国に、インド、ブラジル、シンガポールの10カ国の世界を代表するシンクタンクの代表が東京に集まったのです。
この間、私たちは毎年、議論を行い、多くのコンセンサスをG7の議長国に提案しています。
私たちが毎回、打ち出したのは、世界の課題での協力と、自由と民主主義、法の支配という価値の重要性でした。
私たちが、世界で広がる分断をこれ以上に悪化させずに、気候変動やコロナ感染など、深刻化する世界の脅威への協力を訴え続けたのは、「協力」でしか、この地球や世界を守ることは不可能だからです。
民主主義の国が、この作業でよりリーダーシップを発揮するためにも、我々はそれぞれの国で民主主義の修復に取り組むべきだ、と考えました。
それから、5年が経ち、世界の不安定化は米中の対立下でさらに深刻化しています。
世界では協力よりも安全保障で考える領域が広がり、世界は益々分断傾向を強めています。
ロシアの軍事侵攻は、そうした環境下で一人の独裁者によって始められたのです。
共感が世論を動かし、連帯の輪を広げている
私は、今回の軍事侵略に対する世界の反応で、二つのことに注目しています。
一つは、祖国や家族を守るための命を懸けたウクライナ市民に共感の声が、世界に大きく広がっていることです。
これに対して、残虐行為の実態は明らかなのに、ウソでごまかし続けるロシアの指導者の姿に、世界の市民の怒りが高まっています。
共感が世界の世論を動かし、連帯の輪を広げているのです。
世界はすでに繋がり、世界経済は相互に依存し、情報プラットフォームが世界に広がっています。事実を報道する言論人の命がけの努力もあります。
それが、前例にない世界の制裁を、市民が支持する背景になっているのです。
私たちはこの危機の局面で自由と民主主義の価値こそが平和に不可欠だ、ということを改めて学んでいるのです。
あえて楽観的に言えば、世界の市民の共感を失った専制国家の終焉という、世界史的な変化を我々は今、目撃しているのかもしれません。
もう一つは、国際社会の平和と安定を誰が守るのか、という課題です。
専制国家との闘いで民主主義を守ろうと結束を訴えた米国は、ウクライナのために軍は派遣できないと何度も言っています。NATOもそうです。第三次世界大戦を回避するためだ、ということです。
では、主権と領土を侵略する行為を誰が止められるのか。
しかも、その国は核大国で安保理の常任理事国です。それに対する答えを見つけない限り、世界はそれぞれの同盟に集まり、その核の傘に期待するしかありません。
これが、私たちが望む、これからの世界の未来なのか、ということです。
国連に限界があることは多くの人が知っていますが、今問われているのは国連の存在理由だと、私は考えています。
国連の限界は分かるが、何もできないわけではない
国際平和と安全で世界が力を合わせることは、国連憲章の前文に書かれた決意で、第一条ではそのために集団的措置を定めています。
国連にできないことが多いのも事実ですが、国連が何もできないかと言えば、そうでもありません。
1950年の総会で決めた「平和のための結集決議」では、安保理が機能不全に陥った時に、総会の力を認めています。
そして、56年には二つの緊急特別総会があり、ハンガリー事件に介入したソ連に国連は何もできませんでしたが、スエズ事件では国連緊急軍の創設を総会で決め、エジブトに派遣しています。
例えば、市民の脱出のための人道回路(humanitarian corridors)の監視のために国連緊急軍を総会で設置することはできないのか、制裁を総会で決めることはできないのか。
私が問題にしたいのは、世界で連帯と共感の輪が広がっている時に、こうした声が聞こえてこないことです。
今年もオンラインでの開催となり、世界10カ国を結ぶ時差の関係で、議論の時間はそう多いわけではありません。
その中でも私たちが、今年の「東京会議」で挑もうとしているのは、ウクライナへの侵攻をどう終わらせ、戦争を停止させるのか、アジアで懸念される次の危機をどのように管理するのか、そして、国際秩序の再生のために、我々はどのような努力を始めなくてはならないのか、なのです。
私たちが、力を合わせなくてはならない、と考えるのは、今の世界が歴史的な岐路にあるからです。
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