2009年7月1日
【テーマ】 将来ビジョンと政権担当能力
【出席議員】
自民党:園田博之(衆議院議員 政務調査会長代理)
民主党:長妻昭(衆議院議員 政策調査会長代理 ネクスト官房副長官 ネクスト年金担当大臣)
福山哲郎(参議院議員 政策調査会長代理 ネクスト官房副長官)
【司会者】
国分良成(慶應義塾大学法学部長)
工藤泰志(言論NPO代表)
【コメンテータ】
小島明(日本経済研究センター顧問)
田中弥生(大学評価・学位授与機構 准教授)
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
深川由起子(早稲田大学政治経済学部教授)
水野和夫(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)
若宮啓文(朝日新聞社コラムニスト)
議論要旨
両党が描く日本の将来像とは
工藤泰志 言論NPOは過去4回にわたり、与野党のマニフェストを評価してきましたが、その評価は政党にとってかなり厳しいものでした。それは、マニフェストが、国民への約束として評価可能なフォーマットに沿って書かれていないからだけではなく、日本の将来をどう描くかについて、国民に説明していなかったためでもあります。
マニフェストにもとづく選挙とは、国民に解決策を掲示し、国民が判断することができる選挙であるべきだと思います。政権担当能力が問われる選挙だからこそ、自民党・民主党に日本社会のビジョンを明らかにし、国民に何を約束するのかを示していただきたいと思います。
園田博之 日本の将来ビジョンについては、戦後日本の歩みを大きく転換する必要はないと思います。しかし、現在直面している国際問題、国内問題、とりわけ少子化問題は、今後の国のあり方を考えたときに克服しなければならない大きな問題なので、ひとつひとつ、対応していかなければならないと思っています。
小泉改革をどう考えるかも大事です。今日は小泉改革当時とは経済環境が全然違います。やり過ぎだったとの声も聞こえますが、私は、日本の発展を阻害する社会構造や行政のあり方を一旦壊す、という意味では、小泉改革を高く評価すべきだと思います。ただ、壊した後のビジョンがなかったことは問題でした。また、基本的には官から民へ、国から地方への流れを変える必要はないと思いますが、部分的には、規制緩和を見直すべきところもあると思います。
したがって、今後の日本経済の方向性としては、基本的には、日本が平和に安心して暮らせるように、モノづくりを中心とし、輸出によって日本経済の見通しを立てることが必要です。他国と比べて、日本の輸出依存度が特別高いとは思いませんが、内需拡大基盤をつくり直すことを考えるべきです。内需が今までの何倍になるということはないでしょうが、できるだけ、国民が自分でつくったサービスを自分で消費できるように、地方に購買力をつけることが必要です。何カ年か地方に重点投資して、継続した政策をうたないと今述べたことは達成できないでしょう。
社会保障機能を強化しながら、国民に安心感を持ってもらえるようにするためにはどうしたらいいか。年金については、与野党を超えて議論を行い、望ましい制度をつくる必要があります。
少子化対策についてですが、財政措置で少子化は解決できないと思います。総合的に様々な政策を継続的に行っていくことが必要です。
外交について言いますと、戦後と違い、世界は落ち着きを取り戻していますが、部分的には不安定な地域があります。特にアジアの安全保障は重要です。アジアの安全保障については、日本が先頭に立たなくてもいいと思いますが、日本の役割は重要です。特に北東アジアが安全であるためには、日本が積極的に渦中に飛び込んで役割を果たす必要があります。日本は外交面で前向きになって、積極的にかかわっていくことを考えるべき時に来ていると思います。
福山哲郎 21世紀に入って、少子高齢化、グローバリゼーション、温暖化によるエネルギー転換、ライフスタイルの転換など、従来とは大きく異なる課題が山積しています。自民党は官僚組織とともに日本の戦後の豊かさをつくり上げてきましたが、そのシステムが、21世紀の課題解決のためには、もはや機能しなくなっているのではないかというのが民主党の問題意識です。
そこで民主党が地域のあり方、官僚制度のあり方などを組み直していく役割があると思います。その指針となるのが、公正、社会的包摂です。私は、国民一人ひとりの幸せを後押しするのが政府の役割だと思っています。そこで国が国民とつながるには遠すぎるのであれば、地方分権を進めます。
未来を語るには現状認識が必要です。日本が中流社会であるということは幻想になりました。医療、介護、年金の底が抜けて、国民が不安になっています。そこでセーフティーネットを整備しないと、内需拡大につながらないし、少子化改善にもつながりません。可処分所得を増やす政策を取っていく必要があります。
税金の使い方も変える必要があります。税金のムダづかいをやめ、予算の総組み替えをして、富の再配分に優先順位をつける仕組みにしたいと思います。将来に向けてセーフティーネットを整備して可処分所得を増やすことで、内需拡大型の経済に転換することが必要だと思います。さらに、温暖化対策のマーケットにおいて、日本の強みをアピールしていきたいと思っています。
長妻昭 生活者の立場に立ち、国民に奉仕する政府が望ましい政府のあり方だと思います。その点で、日本のセーフティーネットは全く不十分なので、それをきちんと整備していく必要があります。国として守るべきナショナル・ミニマムをセーフティーネットで保障した上で、公正な市場で自由競争してもらうということが必要です。競争のためには、機会の平等の保障も必要です。
一方、税収に関しては、ムダづかいを削るだけで展望があるわけではないので、収入を増やす手段として、成長戦略をたてることが必要です。新たな産業基盤として、環境医療技術立国を目指すべきです。少子高齢化をマイナスととらえず、介護・医療をビッグビジネスと見て政治資源を集中投下し、成長分野にしていく必要があります。
安全保障に関してですが、「民主主義国同士は戦争しない」とほぼ言えるのではないでしょうか。外交に関しては、専守防衛国として、世界に民主主義を広めていくことが重要だと、私は考えています。
「安心できる社会」とは
工藤 ありがとうございました。以上のご発言を受けて、質問があります。
まず、自民党から、安心社会実現の報告が出されました。これはひとつの将来ビジョンだと思いますが、自民党はこれをマニフェストに載せるおつもりですか。
そのなかには、マニフェストに書かれるべき重要な論点があります。引用すると、「無駄のない高機能な政府の実現で、不必要な支出をなくしていくと同時に、安心と活力を高める上で不可欠な負担については、政策にかかる費用とそのための財源を明示し、堂々と議論をしていくべきである」。では自民党は、この選挙で安心社会実現のための必要コストを国民に提示するつもりがあるのでしょうか。
民主党にも同じことをお聞きしたい。安心社会をつくるために何を約束するか。民主党は、次の選挙で将来ビジョンについて何をメインに問いかけるのか。
もうひとつは、若い世代にかなりのしわ寄せが来ているということです。少子高齢化で、高齢者の負担を負わなければならないのに、若者の雇用がない。この状況に対し、次の選挙で、若い世代にどんな解決策を提示するおつもりですか。
園田 我が党のマニフェストでは、国民に日本の安心社会実現に必要なことを訴えていきたいと思っています。少子高齢化のために、若い人が高齢者を支え、元気な人が病気の人を支えるという構図に無理が来ています。安心社会の中核をなす社会保障制度として、これを国民全体で支える制度にしていきたい。具体的には消費税をアップさせてもらいたいと思います。
従来、社会保障は、医療、介護、年金とされてきましたが、少子高齢化対策もここに入れたいと思います。これも将来、消費税でまかなうようにさせてもらいたい。数年後に消費税をアップしたなら、地方に配る分は除いて、その他は社会保障に限定します。何度か消費税アップをお願いして、消費税でまかなう社会保障は将来も安全だというふうにしたいと思います。現在、歳出の半分が社会保障です。社会保障以外はその他の税目で歳出削減をして、全体として財政再建をすべきです。消費税アップは財政再建目的ではなく、社会保障維持のためになります。
若者対策については、麻生総理からも、若者対策を重点化しろという指示を受け、只今議論中です。問題は、若者に夢が持たせられないことです。それぞれの分野で、次代の日本を支えていくと思えるようなマニフェストを出したいと思います。
長妻 安心社会実現のためのコスト負担については、優先順位の低いところに税が流れる仕組みから、これにメスを入れ、事業仕分けをして浪費を防ぐ仕組みに変えていく必要があると思います。そのロードマップとして、政権第一期目は浪費にメスを入れ、欧米並みに浪費がなくなったら、国政選挙前に消費税率を公表し、その中身について国民の審判を受けて負担をお願いしたい。
若者に子育て支援をし、若い世代に安心して子どもを育ててもらう仕組みをつくることも重要だと思います。
福山 安心社会の実現には、年金の抜本改革が必要です。最低保障、所得比例についての提案を、4年後くらいに与野党共同でできることが望ましいと思っています。
民主党が政権を獲得したら、初年度、2年度は消えた年金処理をし、年金セーフティーネットを整備します。それから、民主党は、子ども手当を月一人2万6000円と公約しています。人が資源ですから、格差が拡大しても教育の確保はしたい。どういう環境に生まれても、ナショナル・ミニマムとして、勉強ができ、生活ができる環境を整えることを若者へのメッセージとしたいと思います。
国の成長戦略をどう描くのか
国分良成 それでは、コメンテーターの皆さまからからご意見、問題提起をお伺いしたいと思います。
小島明 少子高齢化についてお聞きしたいと思います。最大の問題は、少子化で働く人が足りないといいながら、若い世代は大量失業しており、夢を持てない社会だということです。この問題を解決せずに、勤労意欲、結婚意欲は上がりません。
経済については、ムダづかいをなくしていくことも大事ですが、財源を生み出すためには、経済・社会の成長力が必要です。放っておけば成長する時代と違って、成長戦略が必要です。予算分配の見直しも大事だが、成長を生み出す、価値を生み出すことも必要です。
官僚について、今は機能不全に陥っていると言われますが、官僚に代わるものを生み出さない限り、官僚を排除するだけでは問題は解決しません。官僚を使いこなす構想力を掲示してほしいと思います。
土居丈朗 財政健全化について質問したいと思います。与党は「骨太の方針2009」で健全化に新たな目標を掲示しましたが、これをマニフェストに盛り込むつもりがあるのでしょうか。民主党に対しては、予算の組み替えで財源を確保しようとしていることはわかりました。では、任期4年で財政赤字を減らすことについてはどこまでやる気があるのか。財源確保に加えて財政赤字を減らすことも考えているのか。
自民党には、健全化目標をマニフェストに盛り込むのかどうか伺いたいと思います。
地方分権については、諸刃の刃でもあります。国、地方の役割分担が不明確なまま、財源だけを地方に移譲すると、国の財政赤字が拡大します。それについて、どう考えておられるのでしょうか。
田中弥生 まず自民党に対して。官から民へのスタンスは変わらないとおっしゃられましたが、安心社会実現の報告書を見ると、民への参加を求めると書いてあります。今までは官から民といえば、アウトソーシングを指していたことからすると大きな変化です。民に参加を促し、官と民の役割分担をするとおっしゃいますが、国の果たす役割がはっきりしないと分担はできないと思います。
民主党に対しては、国民に負担を求めず、手当をされるというスタンスですが、それでは国民は依存的なままで、自立しないのではないでしょうか。国民一人ひとりがもっと自立しないと社会は成り立たないと思いますが、これについてはどうお考えになりますか。
深川由起子 ビジョンが問われる時には、誰がビジョンづくりのファクトファインディングをし、リサーチをし、結果を掲示して、国民に問うのか。それを明確にしなければアマチュアの議論と同じです。日本ではアメリカと違い、シンクタンク機能がはっきりしていません。従来、日本では官僚がシンクタンク的な役割を果たしてきましたが、それに代わって、民間のシンクタンクができるような制度にすることなどは考えておられるのでしょうか。
水野和夫 今日のテーマは「安心社会実現」だと思います。これに異存はないので、手段についてお聞きしたい。小泉時代は「構造改革なくして成長なし」と言われました。成長すれば安心社会ができるという考え方だったと思います。しかし結果として、将来不安は依然高いままです。マクロ指標として一人当たりのGDPがありますが、これが増加すれば安心社会は実現できるとは考えていないと思います。安心社会実現には、マクロ経済戦略では対応できないと思いますが、これについてどう考えておられるのでしょうか。
若宮啓文 安心社会をどちらの政党に任せたらいいかということに関して、マニフェスト以外にも、政党自体に安心感が持てるかという要件があると思います。今までは何だかんだ言って自民党に任せておけば安心だと思われてきましたが、今の自民党に安心社会を託せるだろうか。率直に言って、そこが問われているのではないでしょうか。民主党は、経験がないだけに強みもありますが、「本当に大丈夫か」という心配もあります。党のリーダーシップと、党の安心感についてどう考えるか答えてほしいと思います。
国分 自民党と民主党とで、安心社会の実現という目的は一致しても、手段に違いがあると思います。特に財源ですが、民主党は消費税の増税についてどう考えているのでしょうか。それから民主党は官のあり方について比較的批判的ですが、自民党のほうは比較的信頼を置いているように思います。この点についてはどうですか。
園田 成長戦略については、国に関すること全体を考えつついかに戦略を立てるかということが大事です。低炭素社会の中で環境立国としての日本の姿をどう打ち出していけるか。機各施策の中でこまめに進めているところなので、どこかで花が咲いてくると思います。
社会保障と消費税の問題ですが、財政再建については、消費税にだけ頼るのではなくて。経済危機の影響もあり、昨年・今年は特に大きな支出をしました。社会保障も、ものすごい伸び率を見せています。社会保障はこれからも強化していかなければなりませんので、やはりどこかで消費税の増税も考える必要があります。消費税以外でやるとなると、歳出削減をしないといけませんが、予算の組み替えだけでは大きな効果は望めないと思います。
地方分権によって国の財源人員を地方に移すと国の支出が減るわけですが、道州制が確立していないと、受け手がないですから。ここはかなり踏み込んで考えないと、難しい問題です。「官から民」という流れについてですが、「小さな政府」というのは、社会保障費が増大する社会では無理です。中くらいの、ムダのない政府を目指すべきです。若宮さんのご意見については、私も危機感を持っています。ただ人気があるからといってその人を採用するというのは、党のためにもならないと思います。いかに信頼を取り戻していくかが問われていると感じています。
福山 前回の参議院選挙で、「政治は国民が変える」ということを改めて実感しました。1年半前にいただいたのは、民主党への「仮免許」だったと思っています。支持も増えてきましたが、今後は、免許を持って日本を運転していけるのかということが問われているように思います。謙虚に着実にやっていくことが重要です。国民の皆さんにはその姿を見てもらい、判断していただきたいと思います。
官僚を排除するつもりはありません。古い慣習を改めていくということなので、官僚の皆さんからもご理解をいただけるものと考えています。シンクタンクの役割は重要なので、税制優遇なども考えていきたい。
長期的な成長戦略については、内需拡大しかないと思っています。農業の活性化や分権は、地域経済を活性化するひとつの手段だと思います。環境技術は日本の大きな強みなので、アドバンテージをもっと外に出していくべきです。アメリカ一辺倒になるのではなく、アジアにおけるマーケット開拓が課題だと思います。プライマリーバランスの達成も大事ですが、まずはセーフティーネットを整備して安心を確保することが急務です。4年の短期ではプライマリーバランス改善までは行かないと思います。消費税増税も含めて議論は必要ですが、まず目の前のやるべきことに取り組みたいと思っています。
長妻 若者に希望がないという話ですが、人が人に対して与えられる最高のものは愛であり、2番目は仕事です。これが政府の重要な役割です。介護分野に予算を集中投下し、国と自治体が協力して、雇用創出につなげていくことが大事ではないでしょうか。
田中先生のおっしゃった、国民の自立についてですが、まずは現状がどうなっているかを把握する能力が政治家には問われます。環境が整備されれば、人間は自立する方向に進むのだと思い、取り組んでいきたいと思います。また、政権担当能力については民主党だけではなく、自民党にも問うてはいかがかと思います。
園田 官僚がシンクタンクの機能を果たしてきたというのはその通りです。しかし、民主党が考えているように、官僚が法律をつくっているわけではありません。政治のほうからもきちんとアドバイスをしています。官僚組織が縦割りなのは、省庁の専門性が高い以上避けられないことです。縦割りで、省益を全面に出してくるのを防ぐのが政治の役割です。
長妻 官僚制度ができて以来、政府が官僚をコントロールできた試しはないと思います。官僚の手綱をどう握るかが、次の選挙の最大のテーマだと考えています。人事評価基準を変え、必要なものを備えた人が出世できるしくみをつくりたい。マニフェストは、政権交代後の政策実行のための国民との契約書となります。財源と期限を決めて政権運営をする、政治が主導権を握れるような政府にしていきたいです。
国分 「若者に夢を」という話がありましたが、どうやって夢を与えるかというのは悩ましい問題です。言論NPOの活動は学生インターンに支えられていますが、今日の議論のためにその学生が中心となって実施してくれたアンケート結果について、報告してほしいと思います。
言論NPO学生インターン 私たちは「政治は若い世代にきちんと向き合っているのか」と題してアンケートを行いました。その結果、学生の80%が将来に対して何らかの不安を抱えていることが明らかになりました。「政党に説明してもらいたいこと」として最も多かった回答は、「消費税の増税」でした。「今の政治が若者のための政策を実行しているか」については90%が否定的な意見です。若い世代は今の政治が問題の解決を先送りしていると考えています。一方で90%が「投票に行きたい」と回答しており、自分の目で未来を選びたいと思っています。政治は今回の選挙で、若者が将来に夢を持てない今の状況について、選挙権を持たない世代を含めた若者に対してどんな未来を約束できるのか、答えていただきたいと思います。
日本は国際社会にどう貢献できるか
国分 東大の学生というのもあるかもしれませんが、「日本の国際的地位の低下」を問題視する声がダントツに高いわけです。今年か来年、日本はGDPの規模で中国に抜かれるのではないかと言われています。アメリカの『グローバル・トレンド2025』という報告書が、 2025年の日本の姿を、「少子高齢化に苦しむ中で産業基盤も老朽化し、税収も不十分。しかし外国人労働者を受け入れるかどうかでまだ議論をしている。自民党支配は終わっているかもしれないが、政局は不安定なままで、アッパー・ミドルになっている」と予測しています。
園田 2025年の日本の状態については、今の状態を放置すれば、その可能性は大いにあると思います。社会保障だけではなく、少子化を食い止めることに全力を注がないと大変なことになります。かつて世界に対する日本の影響力が大きかった最大の要因は、経済大国であったということです。常に大国である必要があるかどうかについては、議論があるとは思いますが。経済力以外で世界に貢献する方法もあると思います。
福山 「今の社会は夢のある将来を描けない社会だ」と学生が決めつけていることに驚いていいます。私たちは「日本の政治を何とかしないといけない」と感じて、立ち上がったわけですから。希望を持てないのは政治にも責任があるかもしれませんが、自ら変えてやる、くらいの気概を持っていただきたいなと思います。
将来の影響力低下については、先進国なら皆悩んでいることだろうと思います。成熟した社会でどう自己実現を図るか、ライフスタイルをどう転換するか、という課題を抱えているのは日本だけではありません。そのモデルづくりを競い合う段階に入ってきているのかなと。豊かさの定義をどう変え、経済にどう結びつけるかというのが先進国の議論で、今後はそこに中国も入ってくるかたちになるかと思います。
長妻 ムダをカットし、セーフティーネットを整備するだけではじり貧になっていきます。最も財源が必要なのは子ども手当です。生みたいけど育てられない人にも、ぜひ生んで育ててられるような環境を整えたい。
工藤 日本がどうやって国際社会に貢献していくべきかについてですが、今の話は、国分先生のレポートに対する答えになっていなかったように思いますので、全体設計を語っていただけませんか。
園田 国際社会における発言力は、確かにある程度の経済力がないと生まれませんが、経済力だけを当てにしてやっていくというのには無理があるのではないでしょうか。日本が影響力を持てる分野は、経済以外にも今後出てくるはずです。
安心感をもって子どもを育てられるような環境をつくるためには、手段を選ぶにしても、財政上の措置はなるべく避けた方がいいと思っています。順序が違ってもいいからひとつひとつ実現していかないと、問題は克服できないのではないかと思います。
長妻 日本は環境と医療の分野で技術立国となっていくべきです。そのためには一定以上の人口が必要になります。また、唯一の被爆国として世界に出て行って、民主主義を広める活動をすることも考えてはどうかと。その際に必要となるのが情報収集能力の強化です。
日本人の現役時代の労働時間と、老後の労働時間は各8万時間で、ほぼ同じです。これを有効に使うため、老後もボランティア公務員として働いてもらうなどの仕組みも必要ではないでしょうか。
次回選挙のマニフェストで明らかにすべきこととは
工藤 その他、コメンテーターの皆さんからご意見はありませんか。
田中 私は言論NPOのマニフェスト評価活動に携わっています。まず、自民党については、総理が変わるなら、選挙がなくてもマニフェストを出してほしかったと思います。それからマニフェストというものは、約束をしてそれを実行するだけでなく、有権者がそれを評価、判断可能でなければいけないと考えています。
小島 日本の技術力についてですが、環境技術やエネルギー効率化の技術については、目覚ましい発展を遂げました。しかしバブル崩壊以来改善していないことも確かです。日本の先端産業を支援する仕組みがしっかりしていないのが現実です。戦略性が足りないのだと思います。
若宮 マニフェストが大事なのは当然のことですが、マニフェスト至上主義にも問題があります。国民は、政党のマニフェストのすべてに賛成して投票しているわけではないので。
園田 自民党は今まで、政権公約集を作ってきました。マニフェストとは言えないかもしれませんが。マニフェストで約束したことはやらねばなりませんが、それ以外に大事なこともあるので柔軟に。
福山 日本のエネルギー効率が追いつかれつつあるという現実の中で、温暖化対策に舵を切ったことは、日本の最大の経済成長、市場創造のチャンスになると思います。
マニフェストでは財源、行程については明示し、基本的に4年でやりたいことは書くつもりでいます。軌道修正は考えられますが、基本的には国民との約束だとの認識に立っています。
長妻 マニフェストの比較も重要ですが、検証も重要だと思います。郵政民営化も含め、自民党のマニフェストを野党や国民が検証するということも必要になります。
工藤 言論NPOではウェブ上で事前にいろんな方からご意見を募集しましたが、やはり「政党としてのビジョンを語ってほしい」との声が明らかに多かったわけです。日本の明日に対して答えを出してほしいということです。
マニフェストに関してですが、「契約」だと考えるのなら、有権者によって検証可能なかたちで作成するということを考えておられるのでしょうか。また民主党については議論がまとまってないという印象を受けました。財政再建の目標についても、弱いところがあるように思いますが。
福山 プライマリーバランスの改善は大事ですが、当面は必要なものから手をつけるということです。財政再建に縛られて、アクセルを踏みながらブレーキを踏むというような状況はよくないと思います。消費税についての議論はもちろん必要だと考えています。
国分 アメリカでは民主党、共和党で方針の違いがはっきりしています。平等型社会を目指すのか競争型社会を目指すのか、最終的な姿をどう描いているのか、双方に語ってほしいと思います。
福山 セーフティーネットを整備したうえで、競争を行っていただくと。効率的な政府ということを考えたときに「大きな政府か小さな政府か」という二者択一には無理があります。
園田 「大きな政府か小さな政府か」というのは、政府がお金をどれだけ使うか、公務員がどのくらい多いか、ということではなくて、政府がいろんなことをやりすぎるのか、自由にさせてしまうのかということでしょう。
長妻 今の社会の現実が政策の現実です。社会の現実と、我々の政策の中身とを見比べつつ、マニフェストを作っていきたいと思います。政策の中身と実行のプロセスを見ていただきたいと思っています。
国分 このような議論の場がなぜ日本の社会に広がっていかないのかなと思います。言論NPOはこのような舞台をいろんなところで作ろうと活動を行っています。本日はコメンテーターの先生方にも、ボランティアで来ていただいています。メディアの方々もぜひ、このような議論の場を積極的に設けていただけないかと思います。本日は皆さんどうもありがとうございました。
< 了 >
※このページの下部にコメント欄がございます。ご投稿をお待ちしています。(※尚、戴いたコメントは、システムの都合上、自動掲載されません。担当者が選択し掲載させていただきますのであらかじめご了承ください。)
Profile
園田 博之(衆議院議員 自由民主党政務調査会長代理)
1942年生まれ。1986年、衆議院議員に初当選以後、連続当選7期。内閣官房副長官、自民党政務調査副会長、予算委員会筆頭理事などを経て、現在は自民党政務調査会長代理、行政改革推進本部長代理などを務める。
長妻 昭(衆議院議員 民主党政策調査会長代理 ネクスト官房副長官 ネクスト年金担当大臣)
1960年生まれ。慶應義塾大学卒業後、民間会社勤務を経て2000年、衆議院議員に初当選。現在3期目。現在は民主党政策調査会副会長のほか、ネクスト官房副長官、年金担当大臣を務める。著書に『闘う政治―手綱を握って馬に乗れ』など。
福山 哲郎(参議院議員 民主党政策調査会長代理 ネクスト官房副長官)
1962年生まれ。 京都大学大学院修了。 民間会社勤務などを経て、1998年、参議院議員に初当選、現在2期目。民主党政策調査会長代理、ネクスト官房副長官、地球温暖化対策本部事務総長などを務める。著書に『21世紀・日本の繁栄譜』(共著)など。
【テーマ】 将来ビジョンと政権担当能力
【出席議員】
自民党:園田博之(衆議院議員 政務調査会長代理)
民主党:長妻昭(衆議院議員 政策調査会長代理 ネクスト官房副長官 ネクスト年金担当大臣)
福山哲郎(参議院議員 政策調査会長代理 ネクスト官房副長官)