20周年を迎える言論NPOへのメッセージ

2021年11月18日

茂木 友三郎(キッコーマン株式会社 取締役名誉会長 取締役会議長)

 言論NPO創設20周年、誠におめでとうございます。設立以来、「議論の力で強い民主主義をつくりだす」という考えのもと、活動を展開してこられたことに、敬意を表したいと思います。

 世界を取り巻く環境は、激しく変化しております。権威主義的な価値観の台頭など、国際秩序が揺さぶられており、民主主義国家は、国際協調を推進し、世界を安定に導く必要があります。

 言論NPOは2005年から中国、2013年から韓国との民間対話を継続的に実施しております。あわせて日中、日韓の共同世論調査を行うなど、その活動は国際的にも高い評価を得ております。

 極めて大きな時代の転換期を迎える今、民間の問題意識を高めるためにも、言論NPOの役割はこれまで以上に重要なものとなってきております。

 この20周年を機に、言論NPOが「議論のプラットフォーム」として、積極的な民間対話を更に推進していくことを期待しております。

大橋 光夫(言論NPOアドバイザリーボード、昭和電工株式会社名誉相談役)

 「東京ー北京フォーラム」は今年17回目を迎えた。一言で言えば、「継続は力なり」だ。

 敢えて問題点を上げれば、特に近年、 国家関係 を政治、経済、安全保障等の分科会に分けて議論することの難しさだ。

 かつては、中国の世界的影響力が比較的小さく「政冷経熱」の言葉に象徴されるように、鄧小平最高指導者や胡錦濤国家主席、温家宝国務院総理の時代には、この二つを切り離して語り実行することも可能であったが、中国が国際的に政治、経済ともに日本を凌駕する今日、それぞれの分野ごとに分科会を設けて議論することで、非現実的結論を導くことになりはしないか、今後の課題と感じた。

 日本と中国とは2000年を超える長い歴史があり、日本は同盟国アメリカと全く同じ政策を取れるのか、必ずしも国論は一致していない。

 従って、「言論NPO」の役割は、比較的自由な民間の立場から、将来へ向けて、更なる建設的な意見交換を行うことであろう。

    

 所詮、地球はひとつであり、人類は皆な地球人だ。地球温暖化対策一つとっても、国家間の利害を超えた、民族を超越した、全世界の人類共通の課題なのだ。

 国家、国民の概念は過去のものとなる日が、世界連邦が立ち上がる時が、将来必ずやって来る。

 言論NPOは、その時へ向けて貴重な役割りを果たす、と私は信ずる。

増田 寬也(言論NPOアドバイザリーボード、日本郵政株式会社取締役兼代表執行役社長)

 言論NPOが設立されて20周年を迎えた。まさに「継続は力なり」である。

 ここで世界の動きを見ると、1980年代のサッチャーやレーガンによるグローバルな市場経済中心の潮流は、今やトランプの台頭や英国のEU離脱など自国経済至上主義へと変化している。また、GAFAなどの出現によって富の偏在や貧富の格差が新たな課題として浮上している。さらに、コロナなどのパンデミックにより、多くの人々が日々の生活に苦しんでいる。

 本来、こうした場合にこそ、政治が先頭に立って問題解決を図らなければならないが、現在、民主主義国家と言われる各国の政府は、その期待に十分に応えられていない。これは我が国においても全く同様である。安易なポピュリズムに流れることなく、今一度、民主主義の進むべき道筋を見つめ直すことが、早急に必要となる。

 言論NPOは、これまで我が国で唯一と言って良い程、良質な言論空間を提供してきた。この役割は今後益々増大していくであろう。工藤代表や関係する皆さんのさらなる活動に大いに期待したい。

中尾 武彦(みずほリサーチ&テクノロジーズ理事長・前アジア開発銀行総裁)

 言論NPOの20周年、おめでとうございます。民間の活動を通じた各国間の関与が大事だという工藤泰志代表の信念に賛同する人々が増えています。民間企業の幹部、学者、大臣レベル、行政の経験者など、幅広い専門家が参加していることに意味があります。コロナ禍でほとんどの会合がオンラインとなるなかでも、日中、日韓、日米欧などのフォーラムで活発な議論がなされています。

 私自身、本年10月中旬に開催された第17回東京⁻北京フォーラムの冒頭のディスカッションにパネリストとして参加しました。両国の外交、経済、安全保障のハイレベルの専門家が、思った以上に、中身のある率直な意見交換を行うことができたことに勇気づけられました。そして、両国関係に難しい問題もあるなかで、その場で議論するだけでなく、対話や平和の重要性を確認する共同声明をとりまとめるという言論NPOの取り組みに敬意を表したいと思います。

 いずれリアルの会合も復活してくることでしょう。今後も各国間の相互理解を深めるための一層の努力に期待しています。

香田 洋二(元自衛艦隊司令官)

 言論NPO二十周年おめでとうございます。海自OBの私は言論NPOのFlagship Projectである「東京-北京フォーラム」の安全保障対話部門に2012年から参加しております。習近平国家主席の足跡と重なるこの期間を通じた中国の関係者との直接討議は、安全保障や軍事という両国の立場が大きく異なる領域おいて、中国の考えや両国の違いの原点までを直接確認しつつ意思疎通を行える唯一の機会でした。その間、絶望感に苛まれて落ち込んだこともありましたが、両国対立の主因の一つである双方の誤解や一方的な思い込みに基づく発想という「固い氷」が溶ける微かな兆しを少しずつ体感できるようにもなりました。

 同時に日中間の隔たりはいまだ大きく、溶かすべき氷の量は圧倒的です。しかし、そうであるからこそ言論NPOの活動の意義が更に大きくなり、世界の安定に貢献するものと確信しております。

古川 禎久(法務大臣、衆議院議員)

 学生時代、愛国心の塊のような韓国人留学生Yさんと親しくなりました。二人でよく酒も飲みました。新宿あたりで、侃々諤々おおいに語り合ったものです。いつも決まって、零時を過ぎたあたりからお互いの本音がむき出しになりました。Yさんが日本のこういうところが嫌いだとおっぱじめるので、こちらも負けじと反撃する。こうして始発電車が動くまで延々とやるのがお決まりでした。あれから30年以上たちますが、私たちの友情、信頼関係は今も変わりません。

 日韓関係が激しくきしむたびに、Yさんのことを思います。二人が仲良くケンカしたように、国同士も普通に侃侃諤諤やり合える関係になればよいのに、と思います。

 言論NPOは、まさに侃侃諤諤とやり合える場を創り続けて20年。良い時も悪い時も、ひたすら侃侃諤諤の対話を続けることで、友情と信頼関係を育み続けておられます。言論NPOの高いお志に心から敬意を表し、今後益々のご発展をお祈り申しあげます。

飯山 俊康(野村證券代表取締役副社長)

 言論NPO設立20周年を心よりお祝い申し上げます。

 地政学的な大きな変化により、政治、経済、安全保障など様々な社会秩序が不安定化しています。加えて、コロナ禍、急速に進む脱炭素化への取組み、デジタル技術の進展といった変化への対応力の差が、国家同士あるいは同一国家内における社会分断の要因となっています。

 分断や格差がとりわけ注目される現在において、社会課題を言論の力で解決することに取り組まれてきた言論NPOに寄せられる期待は益々大きくなっています。社会の分断が深まり、当事者間でコミュニケーションを取ることが困難な時ほど、国家や特定の利害から独立した立場で対話のチャンネルを開けておくことが重要です。

 この20年間、どのような状況においても常に本音の対話の場を提供し続けてきた言論NPOが、社会課題の解決に向けて更に大きな役割を担われることを期待しています。

渡辺 哲也(経済産業研究所(RIETI)副所長)

 20周年お祝い申し上げます。

 世界は米中対立、パンデミック、気候危機等大きな地殻変動の中にあります。パックスアメリカーナの上に日本が経済成長を享受してきた時代は終わり、我々が長らく当然の前提としてきた国際経済システムが大きく揺らいでいます。米国も中国もアジアの国々も生き残りをかけて必死に世界の情報を収集し戦略を立てています。

 日本も今こそ「失われた30年」の閉塞感から抜け出し、成長と分配の好循環を実現し、グローバルに高いアンテナを張っていく必要があります。

 工藤代表のリーダーシップの下、世界へ目を開き、安全保障、民主主義、自由経済の根本を問い続け、現代日本のBeacon(灯台)の役割を担う言論NPO。日本の未来へ向け、更なる大きな一歩を踏み出すことを期待します。

萩原 豊(TBSテレビ ニューヨーク支局長)

 「民主主義が後退するのは、この仕組みを機能させるための、主権者側の力が活力を失っているからです。この日本にアメリカのような、分断を持ち込ませる、わけにはいきません」。

 米・ニューヨークを拠点とする私のもとに、新年、工藤代表から届いたメールの一文です。その言葉に、はっとさせられました。ジャーナリストは、「公正中立」を求めるが故に、"客観的な観察者たれ"という心が働きます。しかし、工藤代表の言葉には、<民主主義を機能させる><日本を分断させない>という主体性が読み取れます。これは、ジャーナリストを含めた言論人の責務のはずです。

 私が身を置く米国では、左にCNN、MSNBC、右にFOXを筆頭に、メディアの分極化が加速し、「言論」が分断を助長している側面があると言わざるを得ません。こうした時代だからこそ、言論NPOの役割が、今後一層、日本に、世界に重要なものとなるでしょう。創立二十周年を祝福し、益々のご発展をお祈り致します。

古城 佳子(青山学院大学国際政治経済学部教授)

 米中対立の深刻化、さらに世界的な権威主義の伸長と民主主義の退潮が見られる現在、こうした状況がやがて世界の分断にまで発展していくことが懸念されています。

 しかし、分断を避けるためには対話が必要ですが、世界ではそうした取り組みが少なくなっています。各国の論壇を見ても、「どちら側に付くべきか」などという議論に終始している。こうした状況の中では、協調のための場を意図的に作らないと、対立のマインドがますます広がっていってしまいます。

 また、将来を担う若い世代が民主主義を支持しなくなると、やがて権威主義の世界が到来します。ですから、若い世代に民主主義の価値を伝え、信じてもらえるような取り組みが必要であり、そのためにもやはり対話です。

 もっとも、こうした状況の中では、どうしても国益を背負ってしまう国家同士の対話は難しい。そこで国家間以外のチャネルを増やすことが必要になりますが、こうした中で言論NPOがこれまで20年間の活動の中で取り組んできた民間対話の重要性はますます高まっています。

 国家から離れすぎると影響力がなくなってしまう。かといって近すぎると国家の代弁者になってしまう。これからの言論NPOには、そうしたバランスを取りながら市民により開かれたトラック1.5とも言うべき協調の場をさらに作っていくことを期待しています。

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