岡崎久彦 (岡崎研究所理事長・所長)
おかざき・ひさひこ
1930年生まれ。52年東京大学法学部在学中に外交官試験合格、外務省入省。55年ケンブリッジ大学経済学部修士課程修了。外務省情報調査局長、在サウディ・アラビア大使、在タイ大使などを経て、92年退官。2002年より現職。主著『繁栄と衰退と』等多数。95年フジサンケイグループ第11回鹿内信隆正論大賞受賞。
国分良成 (慶應義塾大学教授)
こくぶん・りょうせい
1953年生まれ。76年慶應義塾大学法学部卒業。81年同大学大学院政治学専攻博士課程修了。85年同大学准教授、92年同大学教授、99年同大学地域研究センター所長就任。この間、ハーバード大学、ミシガン大学、中国・復旦大学、北京大学、台湾大学法学院等に客員研究員として留学。主著『中華人民共和国』等。
谷口智彦 (日経BP社編集委員室主任編集委員)
たにぐち・ともひこ
1957年生まれ。81年東京大学法学部卒。85年より『日経ビジネス』。91~92年プリンストン大学フルブライト客員研究員、97年~2000年日経ビジネスロンドン支局長、ロンドン外国プレス協会会長を務める。02~03年上海国債問題研究所客座研究員。バブル期日本の銀行行動に関する小括論文はよく引用された。
概要
アジア戦略会議の谷口智彦氏と国分良成氏が岡崎久彦氏を迎え、言論NPOのアンケート結果も踏まえつつ、日本の外交戦略についての議論を開始した。三氏は、戦略構築における日本の官僚システムの限界や民間の新たな役割を指摘した上で、日米中の三角形の中でのアメリカや中国のグランドストラテジーなどに議論を進めた。岡崎氏は、日本は専ら安全と繁栄を国益として計算し日米同盟の安定強化を重視すべきとしたのに対し、国分氏は、日本の安全と繁栄を支える価値の設定の重要性を強調する。
要約
アジア戦略会議のメンバーである谷口智彦氏と国分良成氏が岡崎久彦氏を迎え、日本の外交戦略についての議論を開始した。ここでは言論NPOのアンケート結果も踏まえつつ、日本の戦略形成や基本路線の選択に問われる課題や論点が提示された。
まず、政策形成のプロセス面で日本に欠けているのはその方法論の明確性であるとする谷口氏からの問題提起に対し、岡崎氏は、情勢判断に必要な専門的な蓄積の面で個人の能力を継続的に活用できない日本の官僚システムの限界を指摘した。国分氏も、現実の政策論議との有機的な連関性が未だ不十分として日本の研究機関の問題点を指摘し、組織的、人的障害を突破できる言論NPOなど民間の新たな動きに三氏は大きな期待を寄せた。日米中の三角形の中で、まず中国が描くグランドストラテジーについて国分氏は、対日外交がより戦略的なものに変化している一方で、中国共産党の指導権の確立と安定には外資依存の経済成長が必要との構図の中にあって、中国の最大の関心や基軸はアメリカにあることを指摘する。これに対し、岡崎氏は「三角形」そのものを否定しつつ、アジアの将来における日米同盟対中国の力関係の重要性を強調する。アンケート結果から示された、対米協調への批判や日本の自主性への願望については、岡崎氏は、自尊心を排除して専ら安全と繁栄を国益として計算するのが戦略論であることを強調する。国分氏も、中国がアメリカを自らの中に入れることにより戦略的な自己転換を図っていることを指摘する。
議論は北朝鮮問題にも及び、中国の戦略的な意図が台湾の確保にあることなどについて認識が交わされた。最後に、外交戦略構築の上では日本自らのアイデンティティーの議論がまず必要であるとの谷口氏の問題提起に対し、岡崎氏は、むしろ日本が専ら追求すべきなのは日米同盟の安定強化であるとした。これに対し、国分氏は日本の安全と繁栄を支える価値の設定の重要性を強調する。日本の外交戦略は何を基盤にいかなる基準で構築すべきなのか、この座談会を通して今後問われることになった論点は、アジア戦略会議での国家戦略形成の議論に引き継がれる。