倉田秀也 (杏林大学総合政策学部准教授)
くらた・ひでや
1961年生まれ。85年慶應大学法学部卒、延世大学社会科学大学院留学、95年慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得。91年より常葉学園富士短大専任講師・准教授を経て2001年より現職。その間、日本国際問題研究所研究員、東京女子大学、東京大学などで非常勤講師。主著『アジア太平洋の多国間安全保障』等多数。
北岡伸一 (東京大学法学部教授)
きたおか・しんいち
1948年生まれ。71年、東京大学法学部卒。76年、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士。1976年、立教大学法学部講師、78年准教授、85年教授。1998年東京大学法学部教授。『清沢洌』『日米関係のリアリズム』など著書多数。
谷勝治 (三菱重工業株式会社特別顧問 (元海上自衛隊海将自衛艦隊司令官))
たに・かつじ
1944年生まれ。67年、防衛大学校機械工学卒業。68年幹部候補生学校卒業。85年護衛艦艦長、90年第45護衛隊司令、94年第4護衛隊群司令などを歴任。また陸上勤務として海上幕僚監部、総務課長、防衛課防衛班長なども兼任する。99年海上幕僚副長、2000年呉地方総監、01年自衛艦隊司令官を経て、02年退官。
概要
日本は安全保障戦略をどう構築するのか。言論NPOアジア戦略会議で開始された国家戦略の議論形成に向けて、倉田、北岡両教授と防衛庁の谷氏の3人の専門家が議論に参加し、今後の論点を提示した。対北朝鮮政策の中で、核の脅威のまさに当事国である日本が最優先すべきは核問題の解決であり、そのための有効な「圧力」を具体的に整備する必要がある。国際社会と協調して問題解決を図るためにも、日本は専守防衛の考え方の見直しを迫られるという点で3氏の意見は一致する。
要約
対北朝鮮政策については、日本は本当は何を最優先すべきなのか。言論NPOのアンケートでは対話と相互理解が最も多い回答となったが、倉田氏は、日本が単独で解決できる領域は限られており、国際協調の中でまず核問題の解決に重点を置き、その文脈の中で拉致問題をバイで解決する手順が望ましいとする。谷氏は、対話が決裂したときへの準備なくして対話は成立しないとし、各種の効果的な抑止力を整備し、いざ国際協調での経済制裁や軍事力の行使の際にそこに参加できるようにすべきだとする。北岡氏は、圧力のみならず報酬も必要としつつも、大量破壊兵器の部品の輸出や送金を止めることや、安全保障の基礎的な条件の整備、国際社会との連携強化が重要だとする。六者協議の参加国の中でも核開発で脅威のレベルが最も上がるのは日本であり、まさに日本は核の当事国として、ブッシュ政権が強硬姿勢である今のチャンスに核問題に真剣に取り組むことが必要だと北岡氏は強調する。北朝鮮の暴発の可能性は小さい点で3氏の見方は一致するが、倉田氏は、六者協議が決裂すれば核の再処理活動からいずれ核実験に進むとし、少なくとも今以上の開発は行わない旨の暫定合意が急がれるが、大統領選を控えた米国の方に時間がないとする。谷氏は、今の米国なら先制攻撃は辞さないのであり、日本はその際の覚悟を決める必要があるとともに、北朝鮮が核を持つ目的は実際にそれを使うという脅しをかけて利益を引き出すことにあり、その過程で増大する安全を脅かす行為に日本が対処できる体制の整備が必要だとする。核ミサイルの脅威に対し、倉田氏は、攻撃が開始された場合に相手国側の基地を叩くことは「拒否的抑止」の概念の範疇に入り、それは現行憲法の趣旨と反しない旨の1956年の国会答弁は生きているとする。谷氏は、真の安全「保障」の議論を進める必要があり、専守防衛の見直しや集団的自衛権の問題は避けられないとする。北岡氏は、米国からの攻撃の可能性が相手を躊躇させる効果を強調する。最後に、国際社会の中での日本の対応について、谷氏は、冷戦崩壊後は平時でも「有事」はあるという環境変化を踏まえなければ日本は孤立するとした。倉田氏は、安全保障をカネで買うというコストの発想が日本の世論に生まれることが重要とする。北岡氏は、我々は高い道義的な位置にいることで国際社会の支持を得て圧力をかけられるのであり、万景峰号にも見られたような北朝鮮に対する計算無しの盲目的なプレッシャーはぜひ慎むべきだとした。