【論文】テロ事件で米国が日本に期待しているもの

2001年1月01日

stronach_b0201000.jpgブルース・ストロナック (ベッカーカレッジ準学長)

1950年生まれ、フレッチャー・スクールの法律、外交大学院で博士号取得、慶応大客員研究員・講師等を経る。最近の論文に「政治改革なければ日米関係の不均衡は続く」(『論争 東洋経済』2000 年11月号掲載)。

要約

米国が日本に何を期待しているかの、答えは簡単である。「行動である」。しかし、現実は、もちろんずっと複雑な様相を呈している。

実際のところ、米国は、すでに、小泉政権から、まさか期待もしていなかった直接軍事行動という形での、直接かつ明白な支持(支援)をかち得ている。過去40年間の日本の意思決定プロセス、リーダーシップ、外交政策のすべてのパターンを振り返れば、米国は、日本が、このような迅速な意思決定と断固たる行動をとるとは想定していなかった。

しかしながら、この種の迅速かつ決定的な行動は、また国の内外で、問題を生ずることにもなる。日本の自衛隊(軍事力)の行動の拡大は、まさに、現在、日本国憲法と明らかに相反しているのは確かであるが、また別の言い方をすれば、実は、1954年の自衛隊の誕生以来、つねにこういう相反する状態であり続けていたのだ。その間、世界の他の多くの国々よりも多額な自国の軍事費を支出してきたにもかかわらず、日本は自身を平和国家だといえるであろうか。また、日本は事態が悪化したときは、自国の防衛を米国に依存してきた。この種の問題に関しては、日本人はもっと成熟した認識を持つことが肝要である。

今こそ、日本政府は自らの行動に責任をもつ必要性を十分に認識するべきだ。日本国憲法のおかげで、日本人は、多年にもわたって、平和と繁栄を享受してこられた。しかし、今回のテロ事件という「危機」が、これをすべて変えた。今、アメリカが同盟国に求めるものは、はっきりと、テロリストのアルカエダ撲滅の助けになる直接行動である。もしこのことが日本の軍事力の増強、はては、日本国憲法からのさらなる逸脱を意味するとしても、それはしかたがないという見解である。

9月11日の出来事の直接的な影響は、日本とアメリカの絆をより緊密にしたことにある。 しかし、より重要なことは、むしろ、長期的におよぼす影響にあろう。これほどの大規模なテロ活動という現実、つまり、ただ単にアルカイダだけではなくテロリズム全般をさしてつきつけられている現実を目前にして、日米間の安全保障条約と、緊密でお互いに支えあえられる同盟関係が、引き続き必要であるという議論がますます高まるであろう。今回アメリカを支援するのは日本だが、次はその反対になるかもしれない。

さらに、日本が明確にしておくべきことは、今回の危機において、また将来におこりうる危機に際しても、アメリカを支援するにあたり、日本ができる最大のこととは、安定した順調な日本経済を維持するということである。 確かに、アメリカは、日本が、対米支援のため、直接的な軍事行動をとることを期待し、現実に、それを目にすることになるであろう。 しかし、さらに、より重要なことは、日本が、引き続き安定した、そして経済的にもしっかりした同盟国であるという確証をあたえられるような直接的な経済的行為を、日本がとることなのだ。

経済的安定による(間接的)支援は、世界が軍事的報復に注目しているこの時期に、人目を引くほど魅力的ではないかもしれないが、実際は、はるかに重要なことなのだ。


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