大橋光夫
(昭和電工株式会社最高顧問)
宗教対立を引き起こさないためにも、「IS」問題解決の目途を
2016年の世界について、地球全体を俯瞰して考えると、私はIS(イスラム国)の問題解決に向けた道筋を上手につけないと、世界的に非常に根深い宗教対立の問題につながっていく危険性が高いと思っています。
キリスト教とイスラム教の対立は、オスマン帝国が衰退して以降、今日まではキリスト教が優位な立場にありました。しかし、現在16億人程度のイスラム教信者はさらに増加傾向にあり、40年後にはキリスト教信者に並ぶと言われております。特に経済を中心に世界がグローバル化している状況の中では、この宗教対立は世界全体に非常に大きな影響を及ぼす問題になる可能性があります。
2016年、「カオス」の幕開けの年になるかもしれない
また、今後アメリカが軍事面で世界への影響力を少しずつ弱めると、ロシアの台頭も懸念されます。アメリカの力がやや後退している、としばしば指摘されますが、これは本質的には国力そのものよりも国民の意識によるところが大きいと思います。アフガニスタン、イラク、少しさかのぼればベトナムなどの戦争や紛争において、アメリカは莫大な戦費と人的犠牲を払ってきたものの、思うような結果を出せませんでした。
そのため、アメリカ国民全体に「あれは一体何だったのか」と厭戦気分が広がっていると思うのです。そういった国民意識を無視して、アメリカが軍事力を背景に、今後も「世界の警察官」として外に出ていくことに対してはどうしても躊躇が生まれると思います。もちろん、民主党政権が続くか、共和党政権が復活するかで若干の違いはあるでしょうが、何れにしてもそれほど大きな変化は生じないと思います。今、大統領選挙で極端な発言が話題になっている候補者も、ある意味では、外交問題よりも内政で国民の関心と支持を得ようとしているわけです。
このような点を考えると、今後良いか悪いかは別にして、世界は「多極化」に向かっていくのではないでしょうか。しかも、ロシアはアメリカの一国支配から脱する、そういう状態をむしろ歓迎しています。原油価格が大きく下がり、経済では大きな苦境に陥っているにもかかわらず、軍事的な影響力を行使しながら再び世界に出ていこうとしています。
そうなればなるほど、世界は一種の「カオス」の中に入っていく可能性があると思います。
2016年は、そういう時代の幕開けになるという意味で、非常に重要な節目の年になってくる可能性があります。
伊勢志摩サミットを今後の世界秩序を考えていくための舞台とすべき
そうした状況の中で、どのような世界秩序を作っていくのか、日本はどのように国際社会のために貢献していくのか、が非常に大きな課題となります。この問題を考える上で重要なのが今年のG7サミットです。今回は日本開催ですが、大きな歴史の巡り合わせだと思います。
また、福田康夫元総理も指摘されていますが、G7の中には中国とロシアが入っていません。この2カ国がいない中で、世界全体に関する何らかの重要な合意がなされたとしても、それがどこまで有効と言えるでしょうか。世界第2位の経済大国である中国が入っていないG7で何かを決めたところで、世界の実体経済とは合致しません。ですから、正式なメンバーでなくても、オブザーバーとして入ってもらって議論することが現実的な選択肢であり、世界にとっても良いのではないでしょうか。
長期的な視点から、日中両国は世界の繁栄のために協力する体制の構築を
最後に、日本にとっての2016年ですが、外交で言えば韓国との関係、台湾との関係も重要ですが、やはり、中国とどういうふうに長期的に付き合っていくか、が一番大きな課題になると思います。短期的にはアメリカと連携しながら、東シナ海、南シナ海における中国の海洋進出をどう抑止していくかが重要です。しかし、10年、20年、さらには30年先というような長期的な視野に立って考えた場合、やはり日本と中国は、世界の繁栄のために共に協力していくための体制を作っていかなければなりません。そうしないと、両国にとって明るい将来はないと私は確信しています。
今、日本に対する中国の姿勢がやや改善してきているのは、中国が経済的に厳しい局面に立たされており、日本からの投資を回復させ、国内経済の再生を図ろうとしているからです。しかし、仮に中国経済が再び元気になってきたら、政治的な問題が再び表面化するかもしれません。そうならないためにも、今のうちから日中は協働して、国際的な平和と繁栄のためにどう貢献していくべきか、を共に考えていくことが非常に大切です。
言論NPOの取り組みの意義は今後ますます重要になってくる
そう考えると、言論NPOの活動は、非常に大きな使命を帯びているのだと思います。日中間には、政府間だけでは解決できない問題が山積しています。言論NPOはそうした問題について、日中両国民の理解を促進するような交流を進めています。私はそういった取り組みの意義は、年を追うごとにますます大きくなってくると思っています。
確かに、日本と違って中国の場合には、本当の意味での民間というものはないかもしれません。しかし、政府と一般企業や人民との間では、国際社会に対する見方、もう少し踏み込んで言えば、民主主義に対する見方に違いがあると思います。そうした中で、少しずつでも言論NPOの発信が強化され、中国の企業、人民、引いては政府の理解が変わっていくとすれば、これほど大きな貢献はないと思います。これからも、「東京-北京フォーラム」が果たす役割は、非常に大きなものになってくるのではないでしょうか。今後も、言論NPOの活動には非常に期待しています。