深みのある議論を形成し、 国民に選択肢を提示していくことを期待する / 宮本雄二 (宮本アジア研究所 代表、元駐中国大使)

2016年1月01日

宮本 雄二
(宮本アジア研究所 代表、元駐中国大使)


変革期に入った日本と世界。その中で日本は30年後、50年後を意識しながら自分たちの責任を確認すべき

 大きく眺めると日本、そして世界全体は既に変革期に入っていますが、そのプロセスがさらに進んでいく。2016年はそういう重要な一年になるだろうと思います。
一番大きいのは、世界全体のいわゆるガバナンスの問題です。アメリカが相対的に弱体化していく中で、世界がどう平和と発展、それから協調を維持、実現していくのか。それはまさに「中国の台頭」と裏返しの課題設定になっているわけです。これに日本はどう答えていくかというのは大きな課題です。やはり、日本としてはもう一度、国際社会における自分たちの責任というものを確認しながら、これから何をしていけば、国際社会の理解を得られるのか、30年後、50年後の我々の子々孫々の時代によりよい世界がつくることにつながるのか、という意識をもって考えなければなりません。


まず、課題は経済

 その中で一番大事なのは、やはり経済が順調に進んでいくということです。経済がうまくいかなければ、大動乱になってしまうかもしれない。政権交代を迫られる国もどんどん出てくるのではないでしょうか。まさに不安定化要因です。そうすると、世界経済をどうするのかという問題がありますが、日本としてはまず、第一に自国の経済をしっかりした基盤の上に乗せて、次の発展の展望を描くことが必要です。TPPを念頭に置きながら、経済改革を進めていって、少なくとも一、二年後には少しは希望が持てるような経済というものを国民の前に示す。当面の経済運営に全力をあげて、底上げをしていくと同時に、国民に少なくとも数年先に「もう少し良い未来が待っているな」と思ってもらえるようにする。例えば、農業ではそろそろそういった成果をあげてもらいたいと思います。


安全保障は「本当の危機」を避けることが課題

 それから、安全保障の問題は、いろいろな制度構築が進んでいますが、制度の背景にある考え方がまだ十分に整理されていない。当面の危機を回避するために、我々は危機管理に取り組んできましたが、危機管理だけでは不十分で、いずれ「本当の危機」は来るわけです。ですから、安全保障に関する基本的な考え方を整理した上で、本当の危機をいかにして回避するかを考えるということも、新しい時代の一つの重要な課題になると思います。


日本と中国には「強い握手」が求められている

 そこで日本にとって大きな鍵となる外交課題は何か、というと当然日米関係は引き続き大切に、丁寧に発展させていかなければなりません。そしてその次にはやはり、中国、そして韓国との関係がくると思います。

 安倍首相と習近平主席はハグしなさい、とまでは言いませんが、しっかりと両国民が見てもわかるくらいの強い握手をする関係になってほしいと思います。それぞれの国には立場があるし、それぞれのリーダーのものの考え方がありますが、それを超えて、日本と中国は強い握手をして、東アジア、アジア太平洋の平和と発展のために協力して仕事をしていくという時代にもう入っていると思います。ですから、そろそろジャブの応酬は終わりにしていただいてしっかりと握手する、そういう近隣諸国外交を展開していただきたいと思います。


言論NPOと有識者の双方向の議論で「輿論」をつくっていくべき

 有識者を中心者とする、「世論」ではない「輿論」をつくり上げていくという、言論NPO本来の使命はますます重要になってきています。

 今の日本では深みのある議論がますます疎かになってきているという印象があります。言論NPOではそういう深みのある議論を形成し、それを通じて国民に選択肢を提示していただきたいと思います。

 私の一つの提案は、言論NPOに関心を持っていただいている方々に、どういう問題について掘り下げた議論をして欲しいかということに関して、一度アンケートを取ってみればいいと思います。そして、多かった順にまず、議論を行っていく。

 そして、その中で意見がある方は、1000字でも、2000字でも、5000字でも構わないので、ご自分の意見を言論NPOに寄せていただき、我々の輿論形成に参加していただきたい。
そうやって言論スタジオと、それを聞いておられる方との熱い対話も始めたい。始めることができれば、私達にとっても勉強になるので是非やって欲しいと思います。