内田和人氏(東京三菱UFJ銀行企画部経済調査室長)
平野英治氏(トヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役)
水野和夫氏(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)
工藤泰志(言論NPO代表)
米国経済の凋落と世界経済再生の道筋
工藤 難しい話をわかりやすく説明していただきました。金融危機についてはまだ進行中だが、政府や中央銀行の支えも含めていろんな支えがある、しかし経済不況はまだ入り口の段階にあるということです。では、この危機のスパイラル的な動きを止めるにはどういう対応が必要でしょうか。
金融危機対策と経済危機対策とを同時並行させていく必要がある
内田 今のグローバル不況をどういう形で食い止めるかということですが、平野さんが指摘したように、金融危機対策と、その後に来る景気後退に対する経済対策のふたつを同時並行でやっていかなければいけないと思います。この点については日本の金融危機が大きな教訓となるでしょう。日本は97年の大手証券会社破綻を契機に金融危機に突入し、翌98年以降、約8年間、銀行の貸出がマイナスの状態が続く金融収縮の局面に入りました。その間、実質GDP成長率は97年、98年と2年連続でマイナス成長になり、その後もデフレが続きましたが、経済が大不況になるようなこともなかったわけです。これは、98年から99年、2003年と3度にわたり、抜本的な金融危機対策が実施された面が大きい。具体的には金融再生法が施行され、60兆円規模の公的資本が、健全行、不健全行を含めてすべての金融機関に注入されました。また、整理回収機構や共同債権買取機構を通じて不良債権処理を進め、いわば「グッドバンク」と「バッドバンク」を分けて整理したことも効果がありました。
このグッドバンク、バッドバンクというキーワードは今後アメリカで広がっていくと思うのですが、金融機関のバランスシートから不良債権を外して別管理しないと、いつまでたっても景気が危うくなると損失が拡大し、キャピタルを使い果たしてしまうという悪循環から逃れられなくなります。現在、アメリカの銀行の自己資本は巨額の公的資金を受けて1933年の大恐慌以来の水準にあり、「ティア1」の自己資本比率で見ると10%程度に達しています。三菱東京UFJ銀行は7.6%くらいなので、かなり潤沢だと言えます。ただそれは資本を積んだだけなので、不良債権処理を行っていない。これから景気が悪くなると不良債権の損失が増大するので、自己資本は急速に減少します。金融危機対策は、公的資金の注入と不良債権処理がセットにならなければいけません。グッドバンクとバッドバンクの切り離しを行えば、金融危機対策は大きく効果を発揮すると思います。
一方で経済対策ですが、オバマ次期大統領が先週5000億ドル、場合によっては7000億ドルという景気対策の規模を示しました。民間のエコノミストからも1兆ドルという規模が提案されています。大変に巨額の財政出動ですが、日本の金融危機を振り返ると、日本は財政支出や減税など真水部分で、経済対策として実施された総額はGDPの約18%、100兆円に達しました。アメリカのGDPは13兆ドルくらいなので、2兆6000億ドルくらいは経済対策に使わないといけない算段です。1兆ドル規模の財政出動も、漸く大不況対策の端緒に付いた段階と言えます。また、財政支出も一般的な減税が主体ですと、金融負債の返済に充ててしまうということで投資や消費が落ち込み、それによってポテンシャルな成長力が低下し、雇用調整、生産調整を余儀なくされるという悪循環に陥ってしまいます。したがって、減税や金融支援というようなセーフィティネットよりも、将来的に経済成長率を高めるような産業を育成する公共投資や政策減税を重視すべきです。
この金融危機対策、需要創出の経済対策の2つを世界各国が同時に行えば、今の危機を何とか乗り越え、経済の調整も2010年には回復の方向に向かうというシナリオが描けるようになるのではないかと思います。
平野 金融対策と経済対策を同時並行で議論する必要があるというのはその通りだと思います。グッドバンクとバッドバンクの話が出たので、最近のシティグループの救済劇の話を少ししたいと思います。ここには資本の注入だけではなくて、グッドバンクとバッドバンクという言い方はしていないけれども、資産サイドの整理を同時並行的に行い、ロスを確定するとアイディアが埋め込まれているのです。まず資本基盤の強化策としては450億ドル、つまり4兆50000億円くらいの公的資金を注入する。しかし資本を注入するだけでは、結局その資本で足りるのかどうかがわからないということで、資産を切り分けて、怪しい、悪いほうの資産についてはシティが今後負うべきロスの上限額をはっきりさせました。それが確か250億ドル、2兆5000億円くらいでした。つまりアセットの悪い部分についてはシティが負担をするが、その上限は2兆5000億円だと、それを超える分は政府が負担するということになったわけです。そういうスキームが織り込まれているように思います。シティの救済劇についてはマーケットも比較的好感を持って受け止めているようです。これが、アメリカの銀行システムの建て直しに向けたひとつのきっかけになるかもしれないと言われています。こういう処理はその他の金融機関にも必要なのだろうと思いますが、先行きに向けて多少なりとも勇気を持てるような対策を、少なくともアメリカは打ち出し始めているということだと思います。
私が申し上げたいことは2つあります。まずは先ほど申し上げたように、これはグローバルな信用バブルの崩壊、グローバルな金融危機なので、それに対してはグローバルな対応が必要になってくるということです。どういうことかというと、確かにオバマ氏が大きな財政パッケージを出すのか出さないのかということで、いろいろ議論にはなっていますが、アメリカだけでは足りない。ヨーロッパもアジアも、必要があり余裕があるところは財政のエンジンをふかしていかなければなりません。金融緩和の余地があるところは目一杯、金融緩和のエンジンをふかしていくということも大事です。私も以前から、「グローバル・ニューディール」的な発想が必要だと言っております。たとえば中国は1ヵ月ほど前、50兆円を上回る財政面からの刺激策を打ち出しました。本当に彼らが真水として支出するのかはわかりませんが、心意気はいい。というのも中国はインフラ整備がまだ遅れている国です。環境対策などもそうで、まだまだそういう部分を国が整備しなければいけない。それからソフト面でも社会保障制度などをより充実させなければなりません。日本は「中福祉・低負担」と言われているのに対して中国は「低福祉・低負担」だと思いますが、この制度を充実させることが将来への安心感を生み、現在の消費を刺激するという点でプラスにはたらくという面もあります。
それから、この前、四川省で大地震がありました。工場などの復興を積極的に行えば、それは国内だけではなく世界にも広がるので、そういうことも重要なのではないか。中国では94年以降、税収の基盤が非常に強くなってきています。財政赤字も政府の負債も良くコントロールされています。したがって財政支出を増やす能力が高いということです。そういう意味ではこのタイミングで、財政面からの景気刺激策を発表したということは、中国自身にとってもプラスになると思いますし、世界経済が危機から脱するためにも非常に大きな措置であったと評価しています。とにかくいろんな国が能力に応じてエンジンをふかせることがまず必要であって、こういう意味での国際協調というものは非常に重要な要素であって、それがしっかりしているということが、大恐慌に至らない大きな必要条件であろうとも思っています。
2つ目は、先ほど新興国もロシアのようにダメージを受けていると言いましたが、経済の成長ポテンシャルから言うとBRICsや中近東も含めた新興国経済のほうがやはり大きい。今、乱れている原因は金融です。つまり欧米の資本が傷ついてしまったことで経済が一時的に停滞感を強めているという要素が大きいのですが、金融さえ正常化すれば新興国は成長力を取り戻し、世界経済全体を支える力になります。その意味で新興国の金融をいかに回すのかが問題になります。これは新興国だけではできないのでIMFの力も必要です。アジアも、地域全体で金融協力を強化していく。こういうときこそ外貨準備をうまく活用すべきという議論もあるでしょう。そういう意味で私は、新興国の金融環境を安定させるということが、世界経済の需要強化策に直結するのではないかと思っています。そのようなことも世界経済が今後悪化しないための大きな条件のひとつであろうと思っています。
さらに、以上のようなことをするためには何が必要かといえば、やはり政治力でしょう。問題の危機感をきちんと共有し、そのうえで政治のリーダーシップが、それぞれの国においてやはり必要だろうと思います。いずれの措置も納税者の金を使うわけですから、政治家がいないと何も動かない。それも条件のひとつだと思います。
工藤 今回の危機の構造を別の面から見れば、借金をドル化するような構造がアメリカ内でバブルをつくってしまった、そのような構造がひとつの限界を迎えたのではないか、とも言えると思います。サブプライム問題と全く関係のないヨーロッパの国も崩壊するような状況も起きている。これでは、危機を何とか乗り越えたとしても、同じような仕組みにまた戻ることができるのか、あるいは世界的な経済構造の変化は避けられない状況になっているのか。それについてはどうお考えですか。
新興国に軸足が移る世界経済
内田 冷戦終結後のアメリカの一極支配は変換を余儀なくされると私は思います。かつてキャピタリズムと言われたものはイタリアからスペイン、イギリスへと広がりました。15世紀から続いている過去のキャピタリズムの歴史は、自国で資本が余っているので、販売市場や投資市場を求めて海外に進出していくというのが、特に大英帝国に見られるような覇権国のパターンでした。これに対してアメリカは、新自由主義と言われるように、他国に市場開放や規制緩和をある程度強制して、アメリカの企業が多国籍化して進出し、収益をアメリカに還元させていく、つまり最後はアメリカの販売市場が消化していく構造になっています。したがって国際収支を見ると、アメリカの赤字が一方的に膨らんで、他国の黒字がそれを支える。これによって、80年代半ばからアメリカ対その他地域の国際収支が拡大均衡し続けていました。しかし、今は多極化の時代に入り、年間の世界GDPの増加分の約60%から70%は新興国経済が押し上げている状況になっています。
先日、ブラジルに行き、提携先のブラデスコバンクという銀行とジョイントで「世界経済セミナー」を開催しました。そのときブラデスコバンクの経済調査部長さんが「アメリカの一極集中が崩れることは世界の国際収支バランスが崩れることだ」と言っていました。要するにアメリカの大幅な赤字が修正された場合、どこかの国が内需のポテンシャリティを高めて赤字化しないと、アメリカの赤字が減る分だけ世界経済全体の成長率が落ちることになってしまうということです。そこで「アメリカの赤字を補充するのは一体どこの地域なのか」というテーマでパネルディスカッションを行ったのですが、結論としては、やはり中国やインド、ブラジルなどのBRICsということになりました。こうした国々はかつては所得水準が低かったために内需のポテンシャリティがなかったわけですが、今は、ブラジルが一人当たりGDPで平均7000ドルぐらい、中国、ASEANあたりは2000~3000ドルです。この水準では都市化・中流化の傾向が急速に強まります。新規の耐久財購入需要が生まれ、交通・電力インフラも必要になってきます。そうすると新興国に世界経済成長の軸足やマネーフローの流れが向くようになります。これが金融危機を抜けたあとの姿になると思います。
手前味噌になってしまうのですが、私どもの銀行はアジア戦略を強化しており、現地の金融機関との提携や資本投資を拡大しています。金融危機を乗り越えた後の局面において、日本のお金をいかに新興国の高い経済成長につなげて活用するかという方向で手を打っております。ここで、金融危機をあと2年程度で抜けることができれば、ドルやアメリカを中心とした経済、マネーフローに依存しなくても、邦銀が新興国へマネーを回していけるようになると思います。ただ危機が3年以上になると、どの金融機関も体力的にもたなくなってくるので、日本の邦銀も現在の優位性、安定性が厳しくなっていくわけです。
今一度、整理してみると、アメリカのインバランス問題は、アメリカの赤字が減ったとしても新興国の内需が高まることによって、世界的にはある一定の経済成長を維持した状態で国際収支が調整されるということも可能だろうと思います。2年で世界経済が安定すれば、の話ですが。
ドルに代替する通貨がない不安定
平野 アメリカの経常赤字は、世界からの資本流入によってファイナンスしてきたわけですが、その構造にアジアの新興国あたりがひとつの極を形成するような多極的な世界の中でアメリカの不均衡問題も修正されざるをえないとの指摘は、その通りだと思います。しかし問題はそこに至るプロセスの中で何が起こるのか、つまりこれから2~3年で何が起こるかということです。
まずアメリカの家計は一生懸命貯蓄を増やして借金を返そうとするので、その分だけ需要は減り、それが不景気の源泉になります。しかしあまり不景気になってしまうと経済も金融もスパイラル的にぼろぼろになっていくので、一生懸命それを穴埋めしなければいけないということで財政、金融からテコ入れをしようとします。その結果としての財政赤字はどのくらいになるのだろうか。
アメリカはいまだに戦争経済で、戦費の負担があるわけです。これが当分は重い負担としてのし掛かり続けることになります。それから金融危機対応で、金融システムを維持するために直接的に投入される財政資金に加えて、ニューディール的な財政面からの刺激策が数千億ドル規模で行われようとしています。しかも不況のせいで当然、税収は減るわけです。そのような諸々の財政支出を足し合わせると、財政赤字はGDPの7%、8%というとんでもない数字になるでしょう。それはすぐには減りません。
それほどすぐに景気は上向かないのです。金融危機対応に関わる財政負担は減っていかないとおかしいわけですが、それが減っても財政赤字は簡単には縮まらないという状況が、比較的長く続くのではないでしょうか。とすると、マクロ的に見て家庭の貯蓄は増えても、財政の赤字は増えるわけですから、結局のところ貯蓄は不足するということになってしまう。経常赤字は、財政の赤字見合いでそう簡単に縮まらない。
そうすると、それを誰がファイナンスするのかという問題が引き続き残ります。民間の元気が良くてアメリカの金融が魅力的なとき、世界中の投資家は、自分の資産が10あるとすれば7はドルで持っておこうということでドル資産に投資したわけです。しかし同じ海外からのファイナンスニーズがあったとしても、財政によって支えられているような経済にどのくらい人々は投資するのだろうか。この投資意欲がなくなると、結局、アメリカに対する投資が引合うレベルにまでドルが安くなるしかありません。つまりアメリカが安くならなければいけない。それが経済のメカニズムです。これはドル不安そのものです。
しかし「ではドルに代わる通貨はあるのか」といったときに、ユーロが、主権なき通貨がドルを簡単に代替する訳にはいかないということは今回のエピソードではっきりしたわけです。中国の人民元も今後20年でどうなるかはわかりませんが、今は国際通貨ではありません。他の通貨はそれぞれマーケットが小さい。唯一大きな市場があるのは日本だけです。
しかし、日本円が買われて円高になることはあっても、基軸通貨としてのドルの役割を円が担うことにはなりません。見方を変えると日本経済もこれから大変になるわけで、つまり、日本の円で何を買うのか。株ですか、不動産ですかと。しかしドルで買っている人が全部円に移しかえるほど魅力的な資産は日本にないと私は思います。そうすると、「ドル不安はあるけれど、代替する通貨はない」という変な状態がしばらく続くのかなと思いますが、これはすごく不安定な状態だと思います。
ですから、うまく危機を脱すれば、たぶん内田さんがおっしゃるような世界になるのだと思いますが、ただその過程は長くて不安定です。不安定なプロセスの中でおかしなところに均衡点が移ってしまって、世界経済全体がひどいことになる可能性もないわけではない。そういうことも考えないとならない、と思います。
ドルに代わる基軸通貨は第2のブレトンウッズで
内田 アメリカの財政赤字はすでに4000~5000億ドルまで増大しているので、これに巨額の経済対策に伴う財政負担が加わると、財政赤字は1兆ドルを大きく超えることになります。一方で、民間部門の赤字は借金返済が始まるため、ある程度減りますが、全体的にアメリカの国際収支は経常赤字が高い水準を維持したままかもしれない。それではアメリカの不均衡問題は解決せず、ドルは不安定な状態を続けます。
アメリカの不均衡はどうやって修正されていくでしょうか。それは、アメリカといえども新興国経済・世界経済への輸出依存度を高めていくしかない。日本経済も金融危機から立ち直ったのは、製造業、非製造業ともに海外進出比率を高め、世界経済の成長を取り込んだことが大きい。アメリカも輸出あるいは海外進出によって連結ベースで収益を自国に落としてもらうしかないし、すでにアメリカにおいて外需への依存度は高まっています。今後は通貨安政策を使うかもしれませんし、輸出振興策を使うかもしれません。知的所有権を外に向けて出すかもしれません。あるいは奇跡的にオバマ氏の「グリーンテクノロジー」戦略が当たって、次のITに代わる環境産業の集積ができるかもしれません。いずれにしても、これまではアメリカの内需に世界経済がビルトインしていたのですが、危機を抜けたあとは、アメリカも日本と同様にBRICsを始めとした新興国経済の需要にビルトインする経済の構造シフトを進めていく。そうなれば、うまく均衡点が結ばれるのかなと思います。
また、国際収支赤字国の基軸通貨という問題もあります。アメリカは、先行き財政赤字が急増して格下げになるのではないかという見方が増えています。実際、アメリカの国債のCDS、証券の保険料などは上がっている。そのような状態なのに、なぜかドルは世界中で足りないという状況になっていて、世界の中央銀行はスワップ協定によってドルの流動性を補完している。ドルは基軸通貨なので、金融機関、銀行間で資金流動性が落ちると、最終的な決済通貨であるドルが足りなくなってしまうということです。
そこでドルの基軸通貨問題ですが、個人的にはバスケット方式にして、とりあえずドルの今の基軸通貨としてのウェイトを維持させて、アメリカの国際収支赤字の改善ペースに合わせて、徐々に比率を下げていくのがいいのではないか。こういうやり方が軟着陸というか、将来ドルをハードランディングさせず、新たな通貨制度を確立させる現実的な選択肢だと思います。基軸通貨の問題は、昔は金本位などの縛りがあったものですが、今はドルを刷ってそれを世界最大の借金国のアメリカの中央銀行が買い上げれば、辻褄があってしまう。おかしな状況です。最終的に第2のブレトン・ウッズをつくらなければというところまで来ていると思います。
平野 これだけ大きな危機に直面しているわけですが、原因としてはいろんな要素が複合的に絡み合っていると思います。ひとつはこれまでの議論にもありましたように、アメリカが金融の力を持って実力以上に基軸通貨としてのドルの価値を支えてきたけれども、もともと無理があった。アメリカの国力そのものは、中国をはじめとする新興国の台頭によって、全体としては相対的に落ちてきているわけです。にもかかわらずドルの地位は全く変わっていない。そのギャップをこれまで何とか埋めてきたのはアメリカの金融力、つまりアメリカの市場に世界のお金を引きつける力でした。それによってかろうじてこのシステムは維持されてきたように見えます。
今回の危機をそういう文脈でとらえれば、通貨ドルの位置づけが国力並みの位置づけに変わるプロセスのきっかけになるかもしれない。パックス・アメリカーナの終焉の話もありましたように、現に多極化の時代に移っているとするならば、国際金融システムにおけるドルの位置づけもやはり相対的に低下せざるをえないでしょう。そういうことを前提に国際金融システム・あるいは国際通貨システムを再構築する動きが必ず起こってくると思います。それを「ブレトン・ウッズ2」と呼ぶのかもしれませんが、まだはっきりとしたかたちでは見えていないというふうに思います。
profile
内田和人(三菱東京UFJ銀行 経済調査室長)
1985年慶応義塾大学卒業後、三菱銀行入行。2001年調査室(NY駐在)チーフエコノミスト、資金証券部資金グループ次長を歴任。円貨資金証券部円資金グループ次長を経て、07年より現職。約20年にわたり、内外の金融市場、経済の分析、ポジション運営に携わる。主な著書に「米国経済の真実」他。
平野英治(トヨタファイナンシャルサービス株式会社 取締役 エグゼクティブ・バイス・プレジデント)
1973年日本銀行入行。国会・広報担当審議役(97年)、国際局長(99年)、理事・国際関係担当(02年)を経て2006年退任。同年6月トヨタファイナンシャルサービス取締役に就任。経済同友会幹事、同行政改革委員会、及び米国委員会副委員長。
水野和夫(三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト)
1953 年生まれ。80年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、八千代証券(81年合併後は国際証券)入社。以後、経済調査部でマクロ分析を行う。98年金融市場調査部長、99年チーフエコノミスト、2000年執行役員に就任。02年合併後、三菱証券理事、チーフエコノミストに就任。2005年10月より現職。主な著書に『金融大崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉』他多数。
工藤泰志(言論NPO代表)
1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。