言論NPOは「第1回マニフェストフォーラム」を開催、民主党のネクスト大臣の4人の議員に、マニフェスト評価委員4人が本格的な政策論議を迫る。
齊藤誠(一橋大学大学院経済学研究科教授)
1960年名古屋市生まれ。京都大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学博士(Ph. D.)。住友信託銀行、ブリティシュ・コロンビア大学(UBC)経済学部、大阪大学大学院経済学研究科等を経て、2001年から現職。著書に『新しいマクロ経済学 新版』(有斐閣、06年)、『資産価格とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、07年)など。
生源寺 眞一(東京大学大学院農学生命科学研究科教授・研究科長)
1951年愛知県生まれ。76年東京大学農学部卒業。農林省農事試験場研究員、農林水産省北海道農業試験場研究員、東京大学農学部助教授を経て現職。食料・農業・農村政策審議会委員、国土審議会委員、日本フードシステム学会会長等を務める。著書に『現代日本の農政改革』(東京大学出版会、2006年)など。
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部准教授)
1970年生まれ。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学経済学部助教授等を経て、2007年から現職。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、07年)、『三位一体改革 ここが問題だ』(東洋経済新報社、04年)、『財政学から見た日本経済』(光文社新書、02年)など。
西沢和彦(日本総合研究所主任研究員)
1965年東京都生まれ。89年一橋大学社会学部卒業。98年さくら総合研究所(現日本総合研究所)主任研究員を経て、2001年日本総合研究所調査部主任研究員となる。2002年法政大学修士(経済学)。専門分野は社会保障、税・財政。著書に『年金大改革―「先送り」はもう許されない』(日本経済新聞社、2003年)など。
筒井信隆(衆議院議員)
1944年新潟生まれ。早稲田大学を卒業後、弁護士を経て'90年に初当選。現在4期目。民主党『次の内閣』でネクスト農林水産大臣。主な著書に「カオスの中の対立軸―リベラル・新保守・社会民主―」(悠々社)他。
中川正春(衆議院議員)
1950年三重県生まれ。米国ジョージタウン大学を卒業後、国際交流基金での勤務を経て、'83年に初当選。現在4期目。民主党『次の内閣』でネクスト財務大臣。
古川元久(衆議院議員)
1965年愛知県生まれ。東京大学を卒業後、大蔵省に入省。'94年に大蔵省退官後、'96年初当選。現在4期目。民主党年金調査会会長。主な著書に「はじめの一歩―いまあなたにできること―」(PHP研究所)他。
山田正彦(衆議院議員)
1942年長崎県生まれ。早稲田大学を卒業後、弁護士を経て、'93年初当選。現在4期目。民主党『次の内閣』でネクスト厚生労働大臣。主な著書に「中国に「食」で潰される日本の行く末」(青萠堂)他。
司会:
工藤泰志(認定NPO法人 言論NPO代表)
政策中心の政権選択に向けて、民主党に問うこと
工藤: まず、このフォーラムの趣旨ですが、これは言論NPOのマニフェストの評価活動の一環であり、この評価会議を民主党『次の内閣』閣僚の先生方をお呼びして公開で行うというのが今回の試みです。なぜ民主党か。「民主党の政策を問う」という勇ましい言葉を使っていますが、昨今の政治改革を見ると「二大政党・政権交代」というひとつの大きな流れで動いています。しかし、まさにその絶好のタイミングになったときに、私たちが行ったアンケートを見ると、多くの有識者の中で日本の政治家に対する不信が広がっている。「日本の課題解決に向けた政策競争ではなく、選挙を意識した足の引っ張り合いが行われているのではないか」という思いが、少なくとも言論NPOに参加する知識層の間で広がっているわけです。
アンケート結果について見てみましょう。特徴的なのは、民主党への政権交代に賛成の人は40%いるにもかかわらず、政策に関しては45%が不支持(支持は11%)だということです。さらにクロスで見てみると、民主党への政権交代に賛成の層のうち51%が「実際に政権を取れば政策も責任あるものになるので、今は政権交代を優先すべきである」と回答しています。政権交代に賛成の層を見てもそのうち9%しか民主党の政策を支持していません。言論NPOは、有権者が政策を中心に政治を選んでいくことを目指して活動を行っているので、この現象はあまり良くないと判断せざるを得ません。「政策を堂々と競い、その中で政権が動く」という形が自然だろうと考えます。民主党の政策が信頼を得ていないのはなぜなのか。それが民主党と議論を行うに至った経緯です。政党とNPOの対話は初めての試みなので、断られるかとも思いましたが、受けて立つということなので(笑)。
言論NPO側からは評価活動にご協力いただいている4名の評価委員を呼び、民主党の政策をきちんと聞いてみよう、聞くだけではなく、私たちが今後評価をする際に重要となる論点についてはきちんと質問させてもらおうということで構成しています。そして今回、「年金」「社会保障」「財政」「農業」の4分野を選んだ理由についてですが、アンケート結果の中で、どの分野の課題解決が求められているかというと、回答で多かったのがこの4分野でした。なぜ農業が挙がったというと、戸別補償政策をめぐって色々議論が起こっており、批判的な人もかなり多いわけです。ここはきちんと聞いておかなければならないということが背景にありました。
まず、分野ごとに民主党の先生方に10分間ずつ話していただきますが、その際、民主党として最低限話していただきたいことは、先の選挙で出したマニフェストで約束した、または公約したこと(その後、マニフェストが進化したり発展したりなど色々あると思いますが)と、それについてどういう展開をしたか。そして次回選挙の際、この4分野で国民に何を約束するつもりなのかについて、まだプロセスの段階にあるかもしれませんが、しっかり説明していただきたいと思います。
特に「年金」については、制度改革を提案したのは民主党が先でしたので、煮詰まってきているかもしれません。その中で財源の問題と、年金の改革案についてきちんと説明してほしいということ。それから国庫負担が2分の1という状況がもはや避けられない中で、財源の問題をどうするのかを含めて説明してほしいと思います。増税はないとおっしゃっていましたが、消費税に関してもです。
「農業」問題は大きな議論になると思いますが、戸別補償政策に関して、あれは産業政策ではなく社会政策ではないかとの声があります。つまり「日本の農業を10年、20年後を見すえてきちんと育て、強い産業力を持つものにする」というビジョンと、実際の政策とがどのように結びついているのかがわかりにくいという声があります。10年後の展望についてきちんと説明してほしい。
「財政」に関しては、財源の問題に疑問を持っている人が多いですが、それだけではなく、特に財政再建への取り組みについてもお聞きしたい。プライマリーバランスの達成が危ぶまれている状況の中で、消費税の増税を考えない民主党はプライマリーバランスをどのように達成していこうとしているのか。また、プライマリーバランスの目標設定にこだわっている理由は何なのかについて話していただきたい。
「社会保障」については、年金だけではなく後期高齢者医療の問題についてお話しいただきたい。これは私どものアンケートでも非常に評判が悪かった。それに代わる政策についてもうかがいたいと思います。
この会議はWeb上で中継されています。Web上では皆さんの発言に対して意見を問う仕組みも取り入れていますので、場合によってはそれを活用しながら後半の議論につなげていきたいと思っております。
保険料と税を水割りにしないで最低水準を保障する年金制度を提案
古川(民主党・年金調査会長): 私たちが取り組んでいる年金問題は党内ですら―ましてや外では―なかなか理解されていません。これは非常にいい機会をいただいたということで、党の政調会長とも相談して、各分野の責任者にお集まりいただきました。
私は長年、年金改革の議論に携わってきましたが、一番のポイントは、今の年金制度への国民の信頼がすでに失われているということです。国民の信頼が得られない制度は持続可能とは言えず、数字上のつじつまが合っても制度として機能しない。信頼を回復する制度をいかに実現するか。私たちは年金制度に対する国民の信頼を回復するという原点に立ち、議論をしてまいりました。現行制度の問題は、職業によって負担や給付がばらばらという不公平感にあります。また、そもそも社会保障財源の使い方について、納得ができない。こうした国民の皆さまが持っている不公平感や「納得できない」という感情をなくしていくことが重要です。年金制度に対する信頼を回復するためには、今の不公平な年金制度を公平な年金制度に変え、納得のできる年金制度を実現していかなければなりません。
民間の人たちの間では「年金制度によって公務員は得をしている」と考えられていますが、年金制度で損得の議論が行われる状況もなくしていく必要があります。損得の議論をするのではなく、みんなが納得できる制度をつくろう。「不公平から公平へ、損得から納得へ」というスローガンのもとに、今の制度をやめて新しい制度をつくるということからスタートしたいと思います。
ご提案させていただいたのは、現行制度をやめてスタートする新たな制度です。最初の提案の際は、この最低保障年金という部分が所得比例年金の下にもぐりこんでいるかたちになっていました。それが西沢さんはじめ、土居先生や皆さんに制度設計のアドバイスをいただきつつ変わっていったのですが、その後誤解を与える原因にもなってしまった。私たちの新しい年金制度は、スウェーデンの年金制度と基本的な制度設計は同じです。まず基本にあるのは、「所得に応じて保険料を払ってもらい、その保険料額に応じた給付を行うという所得比例年金がベースにあって、その所得比例年金が低い人たちを中心に、税でまかなえる最低保障年金を付加していく」というかたちです。現行制度との最大の違いは、「保険料と税金を水割りにするか、別々のグラスに入れるのか」ということです。民主党の制度では保険料だけで十分な年金をもらえる人はそのままで、足りない人には税金を注ぐ。ふたつのグラスで最低限の年金額7万円を提案していますが、それ以上の給付水準が誰にも保障される仕組みをつくろうと提案したわけです。現行制度の問題は、保険料と税が水割りになっていることによって、給付と負担の関係が非常にわかりにくくなっていることだと思います。
巷間、民主党案は税方式だとの声がありますが、基本は保険方式です。保険方式に税を付加する。そういう意味では、よく自民党の中でも税方式の話が出てくるので、変わらないのではないかと言われたりもしますが、「同じ税でも水割りのままで、中のウィスキー、つまり税を増やす」という発想の現行制度を前提とした税方式と、われわれの提案するスウェーデン型、「税と保険料を明確に分けて、保険料による年金額が少ない人を中心に税で補填する」という仕組みとは、似て非なるものです。これが大きなポイントです。
そのときには当然、現行制度はどこかで店じまいをするので、現行制度で将来発生すると考えられていた年金給付の負担分担をどうするかというルールも、これは新制度の設計とは別の概念として考えていかなければいけないと思っております。
もうひとつ我々が重要だと思っているのは、制度を新たに変えるだけではなく、徴収の仕組みも変えるということで、税や保険料の徴収は、すべて歳入庁という役所で一括して行うことを提案しています。社会保険庁は当然廃止し、国税庁を再編した歳入庁というところで、税と社会保険料を一括徴収するというかたちをとりたい。
最後に、年金改革の中で最大の問題として挙がっている「現在の低年金・無年金の人、そして今のままだと将来低年金、無年金になってしまう人をどう救うか」についてですが、私たちは年金制度の枠組みの中で救うという考え方はしていません。私たちは所得税の仕組みの中で、現在の所得控除を税額控除に変え、引き切れない税額控除分がある方についてはその分を還付する、つまり給付をするというかたちにしたい。今までは課税最低限以下でも生活保護までは落ちないような低所得者へのケアが税制上できていなかったわけですが、所得税の世界に還付つきの税額控除を入れることで、いわば無年金・低年金によって所得が低くなっている高齢者のみならず、低所得の人たちを年齢にかかわらず下から押し上げることができます。低年金・無年金の高齢者、その他、所得が低い様々な人については、そこの部分で手当ができると考えています。
医療・介護の抜本改革と社会保障への十分な財源確保
山田(ネクスト厚生労働大臣): 後期高齢者の問題が国会でも大変な話題になり、政局となっています。では、民主党としては対案をどうするのか。我々は、後期高齢者制度をとりあえず廃止し、元の保険制度、国民健康保険と老人保険制度に戻す。そして将来的に政権交代が実現したときに、医療保険制度の一元化(国民健康保険・政府管掌保険・健康保険組合・共済保険の大きく4つ)を目指す。現在は、所得に対して実際の保険の負担割合が異なっています。一番大きいのが国民健康保険(所得の10~12%)、政府管掌保険が8.6%、共済保険が平均で6.2%くらい、健康保険組合も負担割合が大きい組合小さい組合様々ですが、大手の健康保険組合は3.5%くらいでしょうか。しかも、地域間格差がある。私の出身は五島列島ですが、そのようなお年寄りが人口の3割以上いる場所と、若い人が多い東京近郊の都市部との間で、2、3倍の開きが出てきています。介護保険でも同様です。
したがって、まず一元化を図り、歳入庁で保険料を徴収し、各都道府県で支払うのが望ましいのではないかという見解を私たちは中間報告として挙げ、これからさらに進めて検討していこうということになっております。
また、今大事なのは医師不足、介護の崩壊の問題です。医師不足に関しては私たちも色々と検討しているところですが、ようやく中間報告でまとめたところです。ひとつは、弁護士不足対策の例では、法テラスという制度をつくって国(特殊法人)が弁護士を雇い各地方に派遣しており、すでに100人くらいが派遣されています。それと同様に例えば「医療テラス」のような制度をつくり、医師に集まってもらい、過疎地域に2、3年交代で行けるようなシステムにする。いわば、医師の派遣制度です。開業医や産休後の先生方が、そういった地域の医療支援センター、医療テラスのようなところに入って、崩壊しつつある市民病院や僻地の病院を何とか立て直すことができるようにしたいと考えています。
介護現場も今は本当に破綻している。とりあえず私たちは、介護人材確保法という法案を出し、現場の給料をアップできるよう介護報酬を回復する法案をまとめ、今回通すことになりました。たとえば小学校区ごとに、デイケア・デイサービスを整備していくとか、今までの要介護・要支援といった区分が本当に適切かどうかも含めて、抜本的な見直しを検討しているところです。障害者等についても、今のような1割自己負担をやめさせなくてはならない。こういった法案を国会に出したのですが、社会保障全体に対して私たちは、思い切った予算を投じていかなければならないと考えており、その財源をどうすればいいのか検討を始めているところです。
予算の機能転換と租特の透明化、改革のあとには増税も選択肢
中川(ネクスト財務大臣): これから開かれる国会を控え、私が迷いながらも取り組んでいる課題は、土俵のつくり方です。私たちは今、マニフェストというかたちで政策をブラッシュアップしながらつくりあげていますが、マニフェストの中では、財源を含めトータルで、私たちの体系を示していくことができるわけです。こちらの土俵に上がってくるなら、整合性のとれた話になるという確信はあります。
しかし、国会が始まると、こちらの土俵ではなく政府の土俵になってしまう。例えば、年金の話で言えば、税方式の議論に持って行くための2.5兆円という財源をどうするのか、政府の方は消費税を使うか使わないかでとまどっているわけですが、「では民主党はどうするのか」と聞かれる。先ほどご理解いただいたように、私たちはそういう体系でものを考えていない。われわれの「税を使う」という仕組みは、最低保障年金と保険部分の差額で税を100%使っていこうという体系で議論をしているわけですから、ここに政府を引っ張り込んで議論できるのは、選挙の時だけです。選挙の時にわれわれは自分たちの体系をわかっていただきたいということで説明するのですが、国会の中では、政府の方が「消費税を使う」と言うなら、我々はどう対応すればいいのか、批判をするしかないのか。また、消費税を使わずに、借金でまたプライマリーバランスを崩していくということであれば、それに対してどう批判をするのか、ということになってきます。向こうの土俵の上で、「そちらの体系を示せ」と言われるわけですから、どう説明するか非常に難しい状況に直面せざるを得ないのです。ここが私の悩みです。そういう前提で、私たちの体系について今日はご説明したいと思っています。
まずはプライマリーバランスですが、2011年度までに黒字化するという前提でやっていきます。できなければ、今の世界の情勢の中で円が崩れてくるという、根幹に関わる危機感を持たなければならない。具体的にどうやっていくかということですが、まずふたつの法案をお手元の資料に用意しました。最初は、仮に「予算機能転換法案」と名前をつけてあるものですが、この法案を現在吟味しているところです。これは参議院選挙のときのマニフェストを軸としたものです。先ほどの公的年金の改革や、子育て支援の充実、これは毎月26,000円を、中学校を卒業するまでの子ども手当として出すというもの、それから農業者の所得補償制度の創設、地方公共団体に対する補助金全廃によって財政調整交付金というかたちに改めていく、あるいは高速道路の無料化も検討しなくてはなりません。後期高齢者医療制度をなくすとすれば、民主党案としてこれから一元化していく保険制度のあり方等々、新しい時代に向けた最優先課題として実現をしていかなければならない部分でまず転換をする。そのための財源確保に向け、税金の無駄づかいを徹底的になくしていきますということを主張している。
これには公共調達に関わる費用の削減や、公共事業あるいは公益法人の抜本的見直し、特別会計の原則廃止、国家公務員総人件費の抑制、特定財源制度や、租税特別措置を見直すということなどが含まれます。同時に、特に農業の場合、従来の補助金3兆円の中の、土木に使われていたものを廃止し、その分を戸別所得補償に回そうということを考えています。今使われている税も機能転換して、新しい機能を持たせていこうという考えも入れ込み、提起しました。
その中でもうひとつ重要なのは、無駄づかいをやめるだけではなくて機能転換をしていこうと思ったときに、政策評価を徹底的にその中に入れ込まなければならないということです。今国会でも、租税特別措置法を我々の委員会で徹底的に議論しましたが、その中で浮き彫りになってきたのは、租特というのはどちらかというと自民党の中の税制調査会が、本来は3年ごとに見直さなくてもいいようなもの―いわゆる本則に入れておいたらいいもの―をわざわざ見直して、各業界団体から陳情を受けて、「見直しましたよ」というかたちで選挙や選挙資金に結び付けていくという構図でした。その中で財務省がひとつひとつをどの程度点検しているかといえば、全く点検していません。各省庁からの政策評価は、租特を正当化するための嘘八百を含めてできている。そのような政治的関係の中でこういうことが進んできたのだというのが、議論の中で明らかになりました。
そういった政策評価を徹底することによって、ひとつひとつの問題に税金をより効率的に使っていけるのではないかという提案をしています。租税特別措置の整理合理化推進プログラム、「租特透明化法案」というものです。中小企業のための租税特別措置法で、たとえば「IT機器を買えば税額控除によりコストで落ちますよ」というものがあります。中小企業の70%が赤字で、利益を上げている中小企業のうちこの法案の対象となるのが20%ある場合、そのうち実際に特別措置を使っているのは全体の4%しかない、ということが、ひとつひとつ丁寧に調べた結果明らかになってくる。そのような制度をどこがどれだけ使っているのか、本当に役立っているのかどうかはっきりさせていこうという法案です。
そのうえで、消費税、タバコ税といった税目をどう考えていくかという話になりますが、私たちはまず税金の機能を取り戻し、国民の政治に対する信頼を取り戻すべきだと思います。そのうえで、計算してみると、それでもまだ足りないということになってくるかもしれません。我々がいずれ政権を取れば、この改革を徹底的にやって、最後に消費税やタバコ税などの増税を国民に訴えていくということも、あり得ることだと思っています。
戸別所得補償が「1兆円」のバラ撒きではない理由
筒井(ネクスト農林水産大臣): 今日、皆さんにお配りしたのが、「6次産業化ビジョン」という表題がついているものです。これを今秋の臨時国会末に法案化し、国会に提出していきたいと考え、現在法制局ともその準備をしているところです。まずこの左上にある農林漁業、一次産業の位置づけを強調したいと思います。昔、中世の時代は農林漁業だけで衣食住どころか全てをまかなってきた。農林漁業には、人間の生活に必要なもの全てをまかなう事ができるという独自性があります。ただ産業革命以降、天然繊維は化学繊維に変わり、エネルギーも以前は牛馬や木材、あるいは水力というものだったのが、石油や石炭、地下資源に頼るものに変わったことなどにより、農林漁業の地位が近代以降どんどん下がってきたわけです。しかし私たちは、今、それがまた再び表に出てくる転換点にきていると考えております。天然繊維が化学繊維とは違った価値を持つものとして見直されてきており、エネルギーも例えばエタノールは地球の資源から、バイオマスからつくるエネルギー源であり、バイオディーゼル燃料に関してもそうです。それから、プラスチック、ビニールよりも、今は植物からつくる素材が広がりつつあります。バイオプラスチックといった化学品のようなものも、地下資源からではなく地上の農林漁業の生産物、あるいはその廃棄物からつくっていく、こういう試みはすでに始まっています。農林漁業の機能は低下し、また軽視、あるいは無視されてきましたが、これからの時代はそうではない。
さらに、農林漁業の独自な性格としてもうひとつ、多面的機能が挙げられます。水、空気、土壌が「維持、保全、浄化」といった機能を同時に果たしながら農産物等々を生産しています。生産された農産物は、販売すれば有償で対価は入ってくるわけですが、その多面的機能の価値はほぼ無視されている。この多面的機能が持つ経済的価値がどのくらいくらいになるのか、これは色々な見方があると思いますが、何年か前に日本学術会議が試算した結果、農業に関しては年間で約8兆円、林業だと約70兆円。政府は、温室効果ガスの削減目標―90年比で6%―に対して、そのうち3.6%を緑に頼るという方向性を出しています。これらの多面的機能の経済的な価値はものすごく大きい。私たちはそのほんの一部の対価として1兆円規模の所得補償から始める。その理論的な根拠は、一次産業の多面的機能にあります。
農林漁業は自然条件の中で様々な制約を受けながら生産活動をしていかなければならないという、独自の性質を持っています。地域の集落の中で、集落の活動に拘束されながらも、やはり生産活動をしていかなければいけない。これは二次産業、三次産業と完全に異なる性質です。そのような一次産業に、他の産業と同じような市場原理を適用する、それでそこから出てきた色々な問題点を社会政策等々で対処する、これでは不十分だと私は思っています。やはり最低限の所得を保障し、あとは各生産者の自己努力に任せる、つまり所得補償と市場原理の融合が必要だと考えます。これが一次産業の性質上出てくる結論なのです。
先ほど、「産業政策ではなく社会政策なのではないか」とおっしゃられました。例えば、政府与党は、品目横断的経営安定対策を完全な産業政策として出してきています。しかし一次産業というのは先ほど述べたように、様々な制約を受けながら活動しているわけですから、産業政策と社会政策とを分離すべきではない。ですから、所得補償制度を含めて、第一次産業に関する民主党の政策は社会政策でもあり産業政策でもあると位置づけております。
そして、所得補償は原則として、平均的な生産費と農家の販売価格との差額を基本に支給をします。ですから、販売価格のほうが生産費より高い場合には、原則として所得補償の対象になりません。しかし現実問題としては、生産費のほうが高いのです。一次産業者の労賃部分がほとんど保証されていない。あるいは、今のようにガソリン代や飼料代が上がったりすると、労費どころか物材費すら足りないという状況になってしまいます。第一次産業における所得補償は優遇なのではなく、生産費のほうが販売価格より高い状況の中で、その差額を支給して何とか継続的に運営できるようにするということを目的としているのです。同時にそれは、生産費が高騰した場合にも、あるいは販売価格が急激に下がった場合にも対処できるわけです。石油価格上昇を受けて漁業者にどの程度補填金、支援金、補助金を出すのか、あるいは畜産業についてはどうするかなど、補助金その他を現在は個別に対処していますが、こういうかたちは良くない。
今の農政の補助金は何十項目にも及んでいて、国民から見てもよくわからないし、第一次産業者から見てもわからないくらい複雑です。これを全部廃止して、所得補償制度の中に組み込む。そして生産費が高騰した場合、あるいは販売価格が下がった場合にも、きちんと体系的に対応できるという制度にしていくべきです。この方がずっとわかりやすいです。その中で消費者、国民の理解を得られるような努力をしていかなければならない。今のように、複雑な補助金の体系で消費者や国民に理解を求めても無理です。今、農業だけものすごい補助金漬けになっているというイメージが国民や消費者の中にはあるので、そういう状態を変えなければならない。
農業で1兆円と言うと誤解を受けやすいのですが、そのうちこの所得補償制度の中に組み込むことが出来る現在の補助金体系は、品目横断的経営安定対策や産地づくり交付金もそうですが、合計すると約5000億円近くなります。私たちの政策はこれ全部廃止をし、所得補償制度の中に移行するものであって、現在の補助金体系をそのまま残してその上に所得補償制度を構築するというのは誤解です。
私たちが掲げている「6次産業化ビジョン」は、政府与党の大規模効率化路線への対立軸だと考えています。一部だけ説明させていただきますと、第一次産業者が同時に第二次産業、例えば米粉や餅や漬物といった加工にまで取り組む。そしてさらに、第三次産業である流通業にまで取り組む。今、産直や直売所というものが全国に広がっております。こういう一次・二次・三次を合計すると6になるので、6次産業化路線と言っているわけです。しかも、それが単なる個人の経営体だけではなく、地域全体で取り組むことも支援していきます。さらに、それらの支援は規模に関わらず行うべきでしょう。政府与党は、原則4町歩以上だとか、集落だと20町歩以上だとか言っていますが、規模が小さくても二次産業、三次産業への取り組みの努力をしているところを支援の対象から外すのはおかしい。規模に関わらず、努力をしているところを支援していくというのが6次産業化路線の中の一部です。これらを進めていくことによって、農林漁業と同時に農山漁村の再生を図っていく、これが私たちの目的です。
言論NPOの評価委員と民主党との議論
工藤: これからは評価者の方たちとの意見交換に入ります。言論NPOの評価者の方々を紹介します。財政問題をやっていただいているのは慶応大の土居先生です。経済政策全般をお願いしているのは一橋大学の齋藤先生で、年金社会保障をやってくれているのは日本総研の西沢さんです。農業問題をやっていただいているのは東大の生源寺先生です。よろしくお願いします。
これから分野別にお話しいただきたいと思いますが、評価をする際に「こういうことをどうしても聞きたい」「これについては明らかにしておいてほしい」ということをまず優先してディスカッションしたいと思います。
ベンチマークは持続可能性と制度体系と執行体制
西沢: 私が年金政策を評価するときにベンチマークとして考えているのは3点あります。一つは、「年金財政の持続可能性」です。ご存知の通り少子高齢化が著しく進んでおりますので、その中で年金財政を長期的に持続可能にしていくにはどうしたらいいか。政府与党は2004年の改正で、マクロ経済スライドを導入し、保険料水準固定方式を取り入れ、かつ基礎年金国庫負担割合2分の1を設定したと言っていますが、私から見ると、マクロ経済スライドというのは、給付を抑制するという点では正しくても、欠陥のある装置だと思っております。昨今の年金改正の議論では年金財政の持続可能性という論点があまり見られず、古川先生たちはどうお考えなのかというのが第1の話です。
第2が、本日詳しくお話しいただたいた「制度体系」です。それをさらに3つに分けますと、一つには税と保険料の使い方です。これに関しては古川先生のお話に賛同します。今の制度では税と保険料の水割りだと思いますが、汚い言葉ではもうクソミソになってしまっている。保険料とお金を集めつつ、本来税の役割である所得再分配のほうにもいつの間にか他用してしまっている。この状況が不公平感の源のひとつだと思っています。第2のベンチマークの二つ目に、一元化があると思います。今の年金制度は国民年金と共済年金、厚生年金に分かれていますが、これだけサラリーマン化が進み、雇用の多様化、流動化が進む中で、国民・厚生という区切りはもはや機能しなくなっている。このような雇用の流動化と多様化に対応していくということについては賛同します。第2のベンチマークの三つ目としまして、古川先生はスウェーデン方式とおっしゃいましたが、以前岡田代表の時には「基礎年金税方式」とおっしゃっていたと記憶しています。だからこそ消費税が付いたときに3%必要になったということもありますので。ここは国民向けにわかりやすく説明していく努力が必要かなと思います。
3番目のベンチマークは、本日お話がありました「執行体制」です。私はこの点が非常に重要だと思います。いかに理想的な制度図を思い描いても、それを確実に執行し、保険料の徴収記録管理ができなければ元も子もない、ということが5千万件の問題で明らかになったわけですから。政府与党は去年7月の参議院選挙のとき社会保険庁の廃止・解体6分割を主張しましたが、選挙が終わると舛添大臣は、「結局6分割ではなく2分割でした。あれは間違いでした」と訂正した。真摯に執行体制の議論が行われたとは、私には到底思えません。政府による社会保険料の一括徴収を基軸に、ぜひとも徴収一元化を目指していくべきだと思っております。税額控除を執行するうえで、低所得者の所得捕捉は非常に重要となってきますので、これはぜひともやらなければいけない。追加的にリクエストを申し上げますと、できれば市町村税も一緒に集めたほうがいいと思います。それは行政コストの削減とともに、所得情報を一元的に管理していくという視点からも非常に重要です。
国民の年金への信頼回復が制度改革のポイント、消費税の増税は当面必要ない
古川: 年金財政については西沢さんがおっしゃる通りだと思います。私もかつて役人をやっていましたが、どうしても役人や学者の皆さんだと、数字上の計算をして「これだけあったらこれだけ必要だ」という議論になってしまう。そろばん勘定的に合えばいいということですが、しかし、こういう社会保障の制度の場合は、実際にそのお金を払う人がいるわけですから、どんなにそろばん勘定が合っても、国民感情として「なるほど」と納得できないと仕方がない。例えば今の年金制度について若い人たちに聞いても、「今の制度で保険料を払ったって将来もらえないのではないか」と思っていたら、どんなに義務があっても払いません。払い込む前提の人が払い込まなければ、いくらそろばん勘定的には成り立つ話であっても、実際にはそれだけのお金が入ってこなくて、うまくいかなくなるものです。今の年金制度はまさにそういう不信の中で、厚労省がやっているような「計算上では入ってきて持続可能なはずだが実際に開けてみるとそれだけの保険料は入ってこなくて、制度の持続可能性がどんどん失われていく」、こういう状況にあるのではないでしょうか。
だからこそ、今大事なことは、まず、国民の皆さんが納得し、「この制度なら保険料を納めてもいい」と思えるように、信頼を回復する。それが大前提です。そのうえで初めて、そろばん勘定が成り立つのではないかという視点から、私たちは制度設計をしました。
一元化の話については、我々は年金制度がライフスタイルを阻害するかたちになっていているのは良くないと考えます。どういうライフスタイルをとるにしても、セーフティーネットとしての年金制度というものは、誰にもニュートラルで、平等なかたちで提供されるべきものです。だからこそ、新しい制度では全ての国民が同じ制度に入るべきだと提案しました。
岡田党首の時と今の政策が違うという点では、色々と誤解やご批判を招いているわけですが、そこはご説明しなければいけないと思っています。最初にも申し上げましたが、わが党で最初につくったのはこれでした。ところが当時の管代表との議論の中で、スウェーデン型を提案する前の民主党の年金改革案というのは、連合などが提案していた現行制度が前提で基礎年金部分を全部税にするという、今言われているところの税方式、その案を民主党もその時点までには掲げていた。ここをきちんと納得させるのに失敗したのは私の責任だとは思いますが、管さんにこの新しい制度をなかなかご理解頂けなかった。当時政調会長だった枝野さんが、管代表も納得していただけるようなかたちにするということで、妥協的に発生したのが、税の部分を最低保障年金の図で下にもぐりこませるという案でした。これが、党内的に色々な誤解を生んだことは反省すべき点でしょう。そこのところが我々の認識と岡田さん自身の認識とのズレだと思います。
岡田代表が考えていたのは、所得比例年金の額と最低保障年金を給付するかしないかは直接関係しない仕組みでした。年金が給付されるとき、年金以外を含めた所得全体を見て、それに応じて税金部分の最低保障年金を給付するかしないかを判断する。そうなると実は、それは年金制度ではない、全く別のかたちになってしまうと私は思うのですが、岡田代表も急に代表になられたということもあったりで、意思疎通がしっかりしていなかった。そのような形で、現役時代の所得と関係なく年金をもらうときに、最低保障年金の給付を行うとなると、今政府が言っている税方式の問題と同じように、かつて保険料を納めていなかった人たちにも最低保障年金を満額支払うということになるわけです。そうなると当然、この部分は消費税で基本的に賄うと言っていますから、かなり大きなお金が必要になってくる。そこで年金目的消費税3%を投入するという話が出た。
しかし、その後の議論の中で、もともとの最低保障年金というのは所得比例年金が積み重なると同時にだんだん成熟していくという話になる。実際に我々の想定している最低保障年金は、制度が発足して40年経って初めて満額給付ということになりますので。制度スタート後の初期段階では、最低保障年金を給付する対象はほとんどないわけですから、税がすぐに必要になるということはない。したがって、将来的にここの部分は消費税で賄うということを考えていますが、今の時点でこの最低保障年金給付のために消費税を引き上げる必要があるのかと言えばそうではありません。
年金制度に対する認識の誤解は党内にもあり、それをこれまで色々と整理してきて、岡田代表のもとでもう一度わかりやすいものに戻そうということで、最初に考えたかたちの図に戻しました。そして岡田代表が心配されていた「低年金・無年金者をどうするか」については、年金制度ではなくて所得税の枠内で、高齢者あるいは年金支給者の中の低所得者だけでなくて、低所得者全体の対策というかたちで還付付税額控除を採用することを提案させていただきました。
最後に、歳入庁に関して西沢さんがおっしゃったように、我々も歳入庁の必要性については、地方も含めた行政改革を考えたという部分があります。地方税の徴収を含めて税の徴収のプロフェッショナルとして、この歳入庁を活用する。もちろん財源の権限は地方にシフトさせていきたいと思っておりますが、徴収という技術的な部分については歳入庁が地方税についても一括して管轄するようにすれば、これは地方で徴税にあたってきた人たちの数を減らすことにもつながります。ここでかなりの行革になるのではないかと考えております。
西沢: 今の説明はよくわかりましたが、スウェーデンという高福祉・高負担の国の政策を、超低負担の日本に適用することでそこまで負担を持ち上げていくことが可能なのか、という点がひとつ。少子高齢化が日本では急激に進むので、スウェーデンのような出生率が1.8%程度で移民がどんどん入ってくるような人口動態の国とは違うし、女性の就業率も日本とは異なります。前提条件の差を乗り越えていくシナリオを同時に進行していただいたほうがわかりやすいのではないか。
中川: 西沢さんのおっしゃる通りだと思います。年金制度の中で全てを解決しようと考える方が多いわけです。先ほど申し上げた低年金・無年金の話もそうです。しかし、私はそのことが、今の年金制度をも非常にわかりにくくしていると思います。今の日本の年金制度、これは老齢年金だけでなく障害者の人たちにも障害年金というかたちでお金が出ているのですが、果たしてこれを年金財政から出すことが適切のか。障害者の場合は負担と給付がリンクしているわけでもないので、もう少しこの年金制度については老齢年金というところに特化をすることによって制度をシンプルに、わかりやすくできるのではないか。そのことが最初に申し上げた、国民が制度に対する信頼をしやすくなるということなのではないか。そのうえで、西沢さんがご指摘されたような、スウェーデンと日本の違う部分を別の政策、少子化対策や、あるいは労働力の部分であれば移民をどうするか、そういうことも含めて、トータルとして考えていかなければならない問題だと思っております。
産業政策と社会政策は分離すべきか否か
生源寺: 民主党のお話はわかりやすく、私も「農林漁業・農山漁村再生に向けて」は拝読いたしましたが、いろいろお悩みのところもあるのかなという感じもしています。少し気になった点を言います。まず、戸別補償の問題について。戦後、水田の担い手が特に高齢化し、兼業農家も高齢の方が多くを占めているという状態から、5年10年、あるいは20年先の農業の担い手の像をどう描くかというところがやはり気になります。その意味で、民主党の戸別所得補償には「後から農業規模の拡大に伴い加算していく」、そういうセンスもあるのかどうか。ここのところはどうも方向性がはっきりしない。
また、議論の際に私どもも気をつけなければならないのは、「農地面積が小規模の農家が弱者である、貧困である」というのは基本的には事実と違うということです。もちろんそういう場合もありますが、ちゃんとした職業を他に持ちつつ、一方で職業を農業としてやっておられる方が多いわけです。イメージと実像のギャップに気をつける必要があります。それから、4ヘクタールという、政府の基本政策の対象の境界線についてですが、これも大規模とはとても言えないようなレベルであって、平均的な農業以外の産業の従事者の半分ぐらいの所得が得られるくらいの規模です。主な職業として農業を選んだ場合には、専業でだいたい8ヘクタールくらいの面積は要るだろう。そのあたりの、国民が持っているイメージと実際の農業の実態とのギャップはやはりきちんと議論していく必要があります。
もうひとつは、戸別所得補償はある意味わかりやすい話ですが、一方で非常に古いタイプの議論であるという面もある。コメについては、生産者米価算定方式(生産費ならびに所得補償方式)という形で米価を上げるシステムがずっと続いてきたわけです。今回の案では、コメ以外にも色々な農作物についてそれをやるということですが、平均的な生産費をどのくらいに設定するのかという点は議論の余地がある。
さらに、社会政策と産業政策の問題、これはやはり、基本的には分けて議論する必要があると私は思います。
私は民主党の皆さんの話を聞いていて、もっと思い切った議論ができるのではないかと思いました。今までのしがらみもあまりないわけです。例えば去年の秋から冬にかけて、与党が生産調整、減反の見直しをしました。私はこれはひどい見直しだと思っています。つまり、市場に介入することによって価格を維持すると言い始めた。それによりおそらく、不参加の人が最大の受益者になるような政策をとった。すると減反が緩んでいき、緩むのを締め付けるために色々な集団主義的指導を持ち込んでいく。こういう、ほぼ出口なしの状態になっているわけですが、こういったところをもっと思い切って切り開くような提案があっていいのではないか。かつては、民主党もFTAやWTOにかなり踏み込み、かなり思い切った政策転換だと感じていたのですが、今は何となく議論が内向きに戻ってきてしまった感じを受けます。
筒井: 色々な問題点をご指摘いただきありがとうございました。「小規模農家が弱者だ」という規定は全くしておりません。兼業農家がほとんどで、兼業農家の方が収入は多いと思います。ただ兼業農家の場合には、他の産業に従事した結果の収入を農業の方に注いで、先祖伝来の田んぼを何とか維持している。そういう状況では、後継者が生まれるはずがない。基本的に赤字なのですから。若者が後継者として戻ってくるためには色々な要素が必要ですが、まず最低限、自己の労賃が保障される、最低限の所得が保障されなければならない。それでこの所得補償制度を取り入れているわけで、小規模農家が弱者だからという趣旨では全くありません。
また、所得補償の理論的根拠は多面的機能、その対価です。政策効果をやはり明確にしなければなりません。政策効果のひとつとして私たちは規模の拡大の努力、これも加算措置のひとつに挙げております。民主党は大規模化自体を否定しているわけではないのです。ただ、政府の言うような品目横断的経営安定対策は、理念としては4町歩以上、20町歩以上の集落営農に限定していて、それ以下の農家は支援しないということですから、大規模化一本に限定している点で間違っています。農業の道は多様です。先ほどの6次産業化路線はその中心だと思っています。大規模化もそのひとつの選択肢として、それを追求することは評価しますが、しかしそれだけに補償を限定するのは間違いだという趣旨です。選挙を意識してやっているわけでは全くありません。私としては理論的根拠があると思っています。
それから、「4ヘクタールは決して大規模ではない」、これはおっしゃる通りだと思います。アメリカでは一農家の農地面積の平均が140ヘクタールです。4ヘクタールとか集落営農に関して20町歩以上だとかは大規模だとは言えません。そもそも4ヘクタールでは農業だけで利益を上げること不可能です。そのような制限を設けて、それで国際競争力をつけようというのは無理な話です。その程度の規模拡大によって外国の農産物と対抗することなどできません。やはり先ほどの6次産業化路線で付加価値を高めたり、安全度を高める。そういう方法で対抗していくべきです。
所得補償における平均的な生産費についてですが、それは農水省が出している平均的生産費と販売価格の統計によります。その場合、生産費を最低限補償するわけですが、そこで労賃部分も100%補償するとなると、1兆円ではちょっと足りないという計算です。1兆円段階では、労賃部分の8割の補償になるかと考えております。現在の農水省統計に基づいて試算しますと、コメで言うと一反(10アール)あたり3万円程度の支給額が平均になる。小麦や大豆の場合は、コメを作る場合とほぼ同じ分の所得を補償するのが目的ですから、6万円から7万円になるかなという感じです。
それから、産業政策と社会政策は分離するべきだとのご意見ですが、例えば今の政府の産業政策の中には経営安定対策は入るわけですが、集落営農20町歩以上という規定があります。20町歩未満の集落もある。その集落営農をどうやって運営していくかということは、その集落全体の社会構成にも直接関係することですから、集落営農に関しては社会政策と産業政策を分離することは不可能であることは明らかなのではないでしょうか。
減反に関してですが、私たちは「全ての販売農家に所得補償を支給する」と主張していますが、もうひとつの条件として「生産数量目標に基づいて生産する販売農家に対して所得補償を支給する」とも言っています。ですから、これは現在の減反制度のように、コメを作らない農家に対して減反奨励金、産地づくり交付金を払うということではなく、生産数量の目標に従って生産する農家に対して所得補償を支給するということです。小麦や大豆の自給率を高めたいので、そちらをより推奨する。コメに関しては供給が需要を上回っていますから、生産数量の目標は上限とする。また、意識的に違反した農家に対しては所得補償を行いません。
今、世界的にコメを含めた農作物の価格高騰が進んでいますが、日本のコメの場合は高騰していない。供給量が上回っているからです。その中でコメを自由に作ってもいいと言えば、また色々な問題が生じます。しかし、同時に田んぼではコメを作りたいというのが農家の強い要望ですし、その方が良いと我々も考えていますから、米粉とか飼料米、バイオマス米、これらを広げ、主食用ではなく他の用途のコメの生産量を増やす。その場合に、飼料米やバイオマス米、米粉も、コメより安く売らなければならない。しかし、安く売ると農家の生産価格がその後下がりますから、その差額について所得補償を支給する。そういう問題にも所得補償制度は体系的に対処できるという点で、現行の農水省のシステムよりも優れているのではないかと思っています。
生源寺: 集落営農の20ヘクタールという基準は、私も根拠がないと思います。一番大事なことは、担い手づくりなどの動きをつくれるかどうか、これがポイントだと思います。そういう意味では、政府の今の経営安定対策が、減反したらダメだと受け取られるとすれば、これはやはり、目的と手段を取り違えているようなところがあると思います。率直に申し上げまして、民主党の今の構想は本当に機能し得るのか。販売農家は約200万戸、自給的農家と言われている農家は90万戸弱と言われています。この自給的農家というのは販売金額が年間50万円以下なので、ここにも販売金額がある農家が存在する。となると、200万を超える農家がいて、かつ生産目標数量を個別に配分して、それを守らない場合には適用するとかしないとか、そういうスキームが本当に成り立つかどうか、私は非常に疑問に思います。
筒井: 以前の減反は農家ごとの配分を行政がやっていた。それが今度自主的な減反制度ということで農協(JA)に任すことによって、メリット制度がなくなってしまい、みんなそれに従わなくなってきた。今は行政が関与を再び強めています。以前やっていたことを別のかたちでやるということですから、農家ごとの配分というのは決してできないわけではない、機能しないわけではないと私は思っております。
生源寺: 私は平成14年から生産調整研究会の座長をしております。生産調整は今年40回目だということですが、これが抱える副作用や問題点を何とかしなければいけないという問題意識で、副作用の少ない方向への移行に向けて多少お手伝いをしたつもりですが、元のかたちに戻すことは可能だということはやはり理解ができない。
工藤: 一方で備蓄米を300万トン買い上げるという話もされていました。生産調整と合わせてそれも買い上げるということでしょうか。
筒井:買い上げというよりは、政府の備蓄米の規模をどうするかという問題です。今100万トン規模ですが、今後は食料危機が発生する可能性が極めて高い時期に入りますから、100万トンでは少ない。今コメだけで年間消費量が800万トンを超えているわけですし、スイスのように政府が食料1年分を在庫として抱えている例もありますから、民主党は以前から300万トン規模ということを主張しております。それも回転備蓄ではなく、棚上げ備蓄という方式でやるべきだと言っています。備蓄の方法についても、今政府は倉庫に高いお金をかけて備蓄していますが、樅で備蓄することによってその費用を大幅に軽減することができる。このことについても提言しています。
より踏み込んだ「スクラップ」策と財政収支の数字の提示を
土居: 従来から民主党がマニフェストで掲げておられた財政政策に関するプランを、本日は更に明確にお示しいただいたと思います。特に安心したのは、「平成23年度をメドに財政収支が黒字化する」と明確におっしゃっていただいたことと、歳出削減は徹底してやるが、ラスト・リゾートとしての増税も考えていることです。少なくともその点に触れていただいたということは、民主党の財政政策にはある程度の一貫性があるのかなと感じさせるものでした。学会でのディスカッションというのは、最初に褒めて、後で色々問題点を指摘するというパターンです。ここから先は問題提起をしたいと思います。
中川先生が冒頭におっしゃったように、「民主党として問題提起をするのは非常に難しい」、「与党の土俵に乗らざるをえない」ということは、まさにその通りで、日本は議院内閣制ですし、予算提案権は政府(内閣)にしかないので、野党の立場で予算を議論するということには制約がある。制約があるということで、独自の議論を出す、それは良い方法だと思いますが、実際につじつまが合っているかということを、国民は一番心配しているわけです。言論NPOのアンケートでも、政権交代に対する期待は高いけれども、民主党に対する信頼感がないということのひとつの原因となっていると思うのは、端的に言えば「スクラップ・アンド・ビルド」というかたちになっていればひとつのパッケージとしてつじつまが合っていると思うのですが、実際は「ビルド・ビルド・アンド・スクラップ」に聞こえるところがあるということです。
「ビルド」に関しては農業者の戸別所得補償にせよ、高速道路の無料化にせよ、明確だと思いますが、「スクラップ」の部分が抽象的で、「これで大丈夫なのかな」と思う国民がまだ多いのではないか。特に予算機能転換法案の、配布資料の3枚目のところに、まさに「スクラップ」する措置を掲げています。詳しくご説明いただいた租税特別措置の見直し、これは私も良い取り組みだと思いますし、税金を財源とする余裕資金などの活用も新しい「スクラップ」だと考えますが、残りの項目は、不完全なかたちであっても小泉内閣によってすでに手が付けられているところです。民主党として新機軸を打ち出すということであれば、より具体的に踏み込まないと、小泉内閣でやっていることの延長線だとか、それにプラスアルファをするぐらいだとか言われてしまいます。「ビルド」を行うための新しい政策の財源を確保する、あるいは基礎的財政収支を黒字化するための財源を確保するという点で、おっしゃるような数字で本当に大丈夫なのか。もし小泉内閣が掲げたものよりも何か一歩踏み込んだものをお持ちであるということであれば、まずおうかがいしたいと思います。
ふたつ目は提案なのですが、「与党の土俵に乗ると独自性が出せない」というのは確かに理解できますが、与党と野党の政策が比較可能でないと、国民はなかなかどちらも評価できない。与党はすでに「骨太の方針2006」の中で、5年間で11兆から14兆円の歳出削減を行うと示しています。しかし、与党にも弱点があって、金額は示したが歳出削減の中身については毎年四苦八苦で、これから考えていくと言っている。民主党としてはそこがチャンスなのではないでしょうか。ただ、幅を持たせて一応それだけを削るということを示している分、今のところ与党の方が民主党よりは信憑性のある数字を出していると思う人もいるでしょうから、そういう意味で言いますと、幅を持たせてもいいので、2011年までにどれくらいの額の歳出削減ができるのか、残りの3年間で歳出削減を何兆円から何兆円以内の金額で行う、ということを示すべきです。
もし足りない場合には自然増収、あるいは増税ということもあるかもしれないわけです。実際、政府も2兆円から5兆円、財源をまだ見つけきれていない部分があるわけですから、そういう意味では参議院選挙のときのマニフェストはやや完璧すぎた、と言いましょうか、自己完結的に全てを示したので、逆にその金額の信憑性が問われてしまった。政府側もある意味、卑怯と言えば卑怯なのですが、幅を持たせた数字で歳出削減をアバウトにしか示していないけれども、一応つじつまが合っているように見せたというところがあります。確かに土俵に乗る際の弊害というのはあるかもしれませんが、3年間で、どういう項目でどれくらい削減する、また削減する幅も、何兆円から何兆円というビジョンがあってもいい。そのあたりの整合性を持たせた収支改善策、ないしは「スクラップ・アンド・ビルド」の具体策を示してはいかがかと思います。
数字の組み立てはこれから先、考えていく
中川: 大事な点をご指摘いただき、感謝申し上げたいと思います。「ビルド・ビルド」で 「スクラップ」が抽象的だ、もっと知恵を出せということについて、小泉改革が本当に機能して本格的な部分にメスが入っていたかというと、私は必ずしもそうではないと思う。特殊法人も、独立行政法人と名前を変えただけで、天下りの数は前より増えています。特別会計との関係で言えば、ブラックボックスと言われるものが徐々に表に出てきてはいますが、実態を見るとかなりの部分が無駄に使われていた、あるいはとんでもない方向に使われていたことがわかる。残念なことに、これは外から攻めるのが難しい問題です。中に入って箱をこじ開けてみないことには実態がわからないような魑魅魍魎の世界ですから、それぞれの業界団体を含め、そこは我々にやらせてほしいという思いです。その意味で、先ほどの租特の透明化法案と、いわゆるお宝、余裕資金に評価をいただきましたが、私は、本命は特別会計、特殊法人、独立行政法人とその周辺だと思っております。
もうひとつは、これから組み立てていくべきところですが、補助金を含めた税の減免が本当に機能しているのかということについてです。道路の議論のときにも「B by C」つまり、「ベネフィット(利益)/コスト(費用)」の議論が出ましたが、無茶苦茶なのです。おそらく、ひとつひとつ点検をしていくと、全てが政治的に補助金を付け、政治的に税をまけるという状態でしょうから、本来の機能を転換していけば、そういうところから財源が出てくると思います。3年前に政策評価法を取り入れ、各省庁で取り組むことになりましたが、完全にごまかしというか、形骸化されているということが、今回の議論の中ではっきりしてきたので、そのあたりを法案化し、しっかりした財源を確保する仕組みをつくることが重要です。私は三重県の出身ですが、以前の北川知事がこの問題をシステマティックに入れ込んで、その結果、税の使い方が変わってきています。国のレベルでもぜひやってみたいという思いがあります。
数字についてですが、15.3兆円と示したものがひとり歩きしてしまった。最近、「そんなはずがない。民主党のマニフェストで政策を実施すれば30兆円かかってしまう」という勝手な数字だけがひとり歩きするような結果になってしまっていて、そこは難しい部分です。手持ちとしてはこと細かに、ここでこれぐらいの削減ができる、あるいは無駄づかいの指摘が出来るということは、しっかり組み立てて用意していくつもりです。それをどう政治的に打ち出していくかということは、これから先考えていく必要がありますし、もう少し工夫をしなくてはいけないなとも考えています。
土居: 特別会計、独立行政法人については、よって立つ基盤が政党ごとに違うことによる問題意識や視点の違いが表れていて、見直し論議には非常に役立つと思います。要は、従来から馴れ合いといいましょうか、惰性でやってきたことを改めなければならないという意味では、新しい視点や問題意識がないとなかなか変えられないと痛感しています。
ただひとつ思ったのは、国会でゲリラ的に、政権与党側が見出だせなかったものを追及するような取り組みももちろん有効だと思いますが、やはりここは体系が必要ではないか。もう少し党派性を出しつつ、「自民党だったらここは支出するかもしれないが民主党はやりません」、ないしは「自民党はやらないけれども民主党はやる」という、特に前者の「スクラップ」の部分で議論していってもいいのではないかと思います。
民主党の政策からは理念も手続きも見えてこない
齋藤: 少し大枠でお話しします。年金についても農業についても財政についても、理念が非常に見えにくいというのがまずひとつ。もうひとつは、具体的なところで手続きの道筋が見えにくいという点です。
例えば、年金の分野で理念が見えにくいというのは、所得再分配のメカニズムを年金に採用して本当に大丈夫なのか、もし年金に所得再分配のメカニズムを使うとすれば、どういう対象への再分配になるのかというのが見えにくい。農業については、市場経済の中で、農業の多面的な側面に対価を出す、ということ民主的な議会で決めようというのは、そうした側面の数値的・科学的な基礎がないと無理な話ですが、そういう基礎がほとんどない状況で「1兆円」と言われるとやはり戸惑ってしまう。財政に関しても、予算機能転換法案が法律として本当に通るのか。財政の支出と収入について、4年間での大枠を固めていながら、どういう支出や収入で実施すれば目的が達成したかが分かるのかという具体的な部分が一切ない。民主的な予算手続きの中で、1年を超える期間の支出と収入を法律で縛るということは、色々な立法手続きをしなければ難しいですし、多分不可能だと思います。そういう点で、理念がなかなか見えてこない。
一方で、2011年にプライマリーバランスを黒字化するとのことでしたが、これは基本的には財政収支のフローの側面での黒字ということになります。徹底的に無駄づかいを点検し、足りない部分は増税とおっしゃいましたが、第3の項目として挙げている色々な措置は、フローではない部分が多い。例えば、ある会計で残った剰余金(いわゆる埋蔵金)がかなりあることは計算すればわかります。しかし、それは通常の手続きから言えば、国債の償還財源のストックに移していって、フローではない、あるいは税収増があるようなタイプのものではないわけです。そういうものを整理するということと、税制基盤をしっかりさせるということは別々に考えていくべきことなのに、埋蔵金の話だとか、色々な特別会計の話に触れて、それらの前提がなければ税制の話ができないというのは、非常見えにくい話だと思います。
中川: 党派性を「スクラップ」の方で出していくべきだというお話がありましたが、実は私たちがこれを言い出したから、与党も小泉改革の中でやりだしたのだと思っています。野党の役割はそういうところにある。「良いところ取りだ」「格好だけで中身がない」という批判もありますが、そういう野党の役割も評価していただきたい。野党が新しいことを言えば、与党も言い出す。そういう方法であっても、国民にとって良いことであれば、どんどんやっていくべきなのではないか。与党ができない点検作業についてはしっかりやっていきたい。
理念と手続きについても、プライマリーバランスを達成するため、あるいは私たちの新しい政策を実現するための原資をどうするか。その代表的な方法はふたつあると思います。ひとつは、キャップ方式といって、例えば、政府が言っているのは、公共事業費で年率3%の削減、あるいは社会保障関係で2200億円の削減をするということです。頭から一律で削って、各省庁で議論させるという方式です。もうひとつは、政策立案の過程で本当に税が生きていくのか、個別に政策評価を行い、無駄なものはやめる、それこそ「スクラップ・アンド・ビルド」をメカニズムとして構築する方法です。私たちもかつてはキャップ方式を支持していましたが、それでは確実に弱者へしわ寄せが行くことが、特に社会保障の現状で明らかになったので、方法論の転換が重要になると思います。
ストックとフローのお話もありました。資料の9番目はストックをどうするかという議論です。この部分は、使い方をもう一度考えていかなければいけないと思いました。ストックについてはご指摘どおり、借金の返済に使うということです。実はストックの中にも、剰余金として積み上がっていく部分があります。そこはフローとして使えるかもしれない。他の項目に関しては削れるので、フローとしていけるのではと思います。
特殊法人、特別会計以外の目玉として、分権があります。個別の補助金をなくし、新しい財源として使っていく。使い道の優先順位としては、分野別の壁を取り払っている自治体を中心にしていきたい。全国知事会も迷っている部分ですが、省庁の地方局が要らなくなりつつあります。これは我々の主張が実現してきているという状況だと思っています。
齋藤:個別の政策評価が重要だとするなら、農業政策のベネフィットとコストについても、国土の保全ということを含めてどうやって価値を生み出すのか、食料自給率を上げることでどういう経済価値を生み出すのか、それに見合うコストがこれだけかかるといった、政策の正当性を国民にわかりやすく説明することが必要です。出てきたものがこういうかたちであれば国民は納得しないのではないでしょうか。
工藤:会場からも、財政の整合性は取れているのかという質問が来ていますが、どうでしょうか。
中川:トータルでは取れています。Pay as you goという議論を党内では前提としています。
土居:齊藤先生がおっしゃったことは重要だと思います。民主党だけではなく、政府与党に対しても同じ目で見る必要があります。スクラップの方を強調したのは、削減をしないと財源が出てこないという問題があって、削減ができないと赤字が続きますよという問題の方がシリアスではないかと思ったからです。
中川:今は議論の中間段階ですが、先ほどの意見を肝に銘じて、しっかり説明ができるように、整合性を取りたいと思います。同時に、農業の場合は、国のお金が農家としての経営計画の中に組み込まれていれば問題ないが、今は経営計画に組み込まれずに外を通っているだけです。だから、経営を成り立たせていこうと思えば、内部化して回していかないと大変なことになる。そういう意味で、農業の戸別所得補償は切羽つまったところにあります。そういうことと政策評価を合わせて、これからブラッシュアップしていきたいと受け止めています。
後期高齢者保険制度に代わる医療制度の組み立ては何なのか
西沢: 医療について、政府は75歳という境界を設けて別の保険(後期高齢者保険)制度に強制加入と言っているが、これはあくまでも医療制度であって、保険ではない。実際、広域連合が運営主体とされていますが、国が「加入者は保険者だ」と言っても、市町村側は保険者だと思っていないという点で事態が混同されているところが深刻です。今日の分野の中で、民主党の中で一番政策が煮詰まっていないのが医療分野ではないかと思います。確かに廃止法案は出されましたが、その後のオルタナティブがまだこれから議論中だということなので、廃止だけするということはどうなのかということがひとつあります。
さらに、健康保険の一元化についても、もっと詰めなければならないと思います。今、医療保険の保険者は大企業の組合健保で1500ぐらい、市町村国保で1800ぐらいあります。それに、政管健保や共済の保険者が加わる。そこには、保険者という人が存在しています。保険者は、自らの組合員の健康管理をし、そのことによって保険料を下げるインセンティブを持っています。ところが、一元化すると、こういう保険者が国などに集約されてしまうので、1億2000万人の声をどうやって代弁していくのか。給付と負担をどうやって加味していくのか見えづらくなってしまいます。民主党の政策は極力分権を進めるということでしたが、分権化ということに関しては地方への分権というだけではなくて、保険者に分権していくということもひとつの重要なファクターだと思います。
また、医療については、診療報酬体系の中で法定価格が決められています。病院の勤務医の疲弊、医師不足などの問題があります。他方で、開業医の方は比較的余裕があります。診療報酬の改定には政治的な圧力もあり、病院に対しての資源配分がうまくいっていないというところが問題だと思います。それについては、限られた資源を有効資本に変えていくことはできると思うので、ブラッシュアップして提案していくことが重要になってくると思います。
山田: 社会保障について、医療や雇用など、政策を最終的に決定するところまではいっていないが、見えてきたところはあります。そのひとつが医療保険の一元化です。健康保険組合そのものもかなり数はあったが、無駄な医療費の削減、事業努力などで、医療費の抑制も図ってきました。しかし、出生率の方もどんどん低下する中で国保は行き詰まり、政管健保もこのままではやっていけません。医療制度をこれから充実させていく、安心して老後も医療や介護を受けられるようにしていくことを考えると、どうしても一本化が必要です。効率化の面から考えても、各都道府県に保険者としてのチェック機能を働かせるとか、そういうかたちで介護も医療も考えていく必要があり、歳入庁という機関で保険料を徴収するシステムを考えています。
中身に関しても色々あり、お金持ちの人は医療保険が安い。大企業で儲かっている企業の医療保険に対する負担率が諸外国に比べてあまりにも低いなど、色々問題があります。もう少し、保険料の公平性を高めることの方が、分権化による医療費の抑制ということよりも、安心して医療が受けられる仕組みをつくるという点では優先順位が高いのではないか。社会保障にはアメリカ型の市場経済至上主義は通用しない、むしろEU型の福祉にシフトしていかないといけないと考えています。
財政や農業政策のトータルな体系が描かれているのか
工藤: 会場やインターネットを含め、なかなか納得していないという人が多い状況です。財政については、まずプライマリーバランスの黒字化をどうやって実現するのか。無駄づかいの点検はするべきですが、プライマリーバランスの黒字化は最初の中間目標であって、大きな負債残高が別にありますから、日本の信用が落ちつつある局面で、これをどう解決するのか。同時に、無駄づかいの点検だけではなく、日本の経済成長の基盤をどのように整え、国際社会で戦うのか。そういう具体的政策があるのかということです。農業も同じです。単にお金をどうするかとかではなく、農業を産業としてどう育てるかというシナリオはありますか。
土居: 加えて、民主党として消費税、所得税、法人税を含め、税制体系をどう捉えているのかお聞きしたいと思います。
中川: まず、プライマリーバランスですが、財政の担当者としては将来の増税の必要性についてしっかり考えなければいけない。ただ、日本はスタグフレーションのサイクルに入るだろうということがはっきりしてきた。今は増税の話を出すべきタイミングではないと思っています。財政の機能についてよく言われることですが、今の日本の所得再分配機能は、社会保険、社会保障という形態の中でなされている。再分配機能を前提にしながら税体系を見直していくことが必要だと思います。大きく見て、保険制度はリスク分散だと私は思っています。リスクが幾重にも重なっている世代を75歳で切り分けて、その部分だけ別会計にしようというのでは、将来的に世代間対立を生む種をつくってしまうことにつながるので、政治的には間違っている。一元化してトータルに支え合っていくという流れをつくるのが保険制度だと理解しています。
農業については、農業の前提がかなり変わってくるのではないか。規制を緩和すればするほど、一番弱いところに海外からモノが入ってきますから、食料品関係、特に穀物が攻められました。外に向かっていくような政策を、国会で議論するだけではなく専門家とも議論していきたいのですが、どうしても内向きの議論になってしまい、現状に対してどのような手立てがあるかといったことに行きつかず、トータルな議論の位置づけが識者の皆さんも含めてできていないように思います。
工藤: プライマリーバランスの目標達成時期は政府と同じ2011年だと思いますが、その次の財政再建について、いつ頃にどこまでやるかというビジョンはありますか。
中川: そこまではまだ至っていません。これも課題だと思っています。
山田: 食料安全保障という見地から話をさせていただきます。先日、『次の内閣』で五島列島に行きましたが、漁業の3割はこのままでは間違いなく廃業です。こうなると、年350万トンくらいしか水揚げがなくなるという深刻な事態になります。また、畜産農家、酪農家も同様です。さらに自給率が下がります。世界的な食料の事情はともかく、アルゼンチンが輸出禁止令を06年3月に出しました。コメにしても、今輸出できるのはタイとアメリカだけで、ベトナム、インド、中国、ネパールなどは禁止しています。政府は余剰米を60キロ3000円で買っていますが、国際価格は6000円で、政府の余剰米買い上げ価格の約2倍です。そういう中で今後どうなっていくかというと、アメリカも食料品価格が2倍ぐらいに上がっている。食料危機が来ると思われますが、ここでもしアメリカが一時的な輸出規制をしたら、日本の食料輸入はストップし、3日で食料品がスーパーから消えるかもしれません。したがって今、食料安全保障にお金をかけることは、非常に良いことだと思います。色々な補助金を積み上げると5000億円になります。農業公共事業、道路港湾事業として地方を含めると毎年2兆円ぐらい使われていますが、そこから5000億くらい持ってくることは可能なはずで、食料安全保障という見地からしても、1兆円を農業従事者に回すことは何ら問題ないのではないか。ウルグアイ・ラウンドにおいて、農業に対する助成金の大枠は3兆9000億円まで認められています。アメリカも2~3兆円使っていますし、ヨーロッパも6~8兆円を農業の所得補償というかたちで使っています。そう考えると、日本で1兆円を農業所得補償に使うことには国民の合意が得られるのではないかと思っています。
生源寺: 認識にかなり隔たりがあるようですが、財源論に関して言いますと、どこから捻出するかという問題と、それだけのお金を使って、国民に対してリターンがあるものになっているかどうかという両面があると思います。
前者の財源の問題ですが、まず、農業公共事業のお金は7000億円ぐらいで、その中の多くは後進的な部分が占めていますので、ここを削るというのは相当難しいと思います。ここ数年の食料の状況は、ファンドマネーや輸出規制など一種異常であると思っていますので、いったんは沈静化すると思いますが、中長期的にはタイトになってくると思います。そのことを見越した上で何が出来るか。1兆円、5000億円でもいいのですが、先生がおっしゃっている食料安全保障とどうつながっているのか。私は人材の育成が一番難しいと考えています。農地は荒れ果てても元に戻すことはできますが、農業分野でしっかりとした技術を身につけた人をすぐに生み出すことは難しい。どのようなお金を使って、そのリターンはどのようなものなのか、それをきちんと説明する必要があると思います。
私の今の印象だと、民主党の政策は、農業に関わっている方へのメッセージとしては非常に有効だと思いますが、消費者・納税者・有権者に説明し、合意を得ることも必要だと思いますし、この議論がまだ足りないのではないか。農業や食料の問題に資源を投入することを否定するわけでは決してありませんし、それに対する社会からの理解はどちらかといえば得やすくなっていると思います。だからこそ長続きする政策が重要です。そうすると、農業農村側にお願いする事もあるのではないでしょうか。多面的機能の議論もありましたが、リターンの表現としてはまだ荒っぽいなという印象です。どういう効果をどこにもたらしていくのかをわかりやすく話していただきたい。
最後に、兼業農家に関しては、農業で赤字の部分を兼業収入で埋めておられるというお話でしたが、都会の消費者としては違和感を覚える部分ではないかと思います。兼業農家としての一種の選択でやっておられるわけで、そうでなければ規模を拡大しようとしているような人に託し、赤字を減らすという選択肢もあるわけです。兼業の理由は様々なのではないでしょうか。今の農政、現場に信頼を寄せ、現場はその信頼に応えるような環境をつくることが必要であって、これだけ北から南へ長い国なのですから、一律に全てを決めてしまうということは改めるべきなのではないか。
山田: 農業公共事業は7000億しかないとおっしゃいましたが、非公共事業という名目の中にまだあります。地方を合わせるとその倍額はありますので、実際には農業公共事業としてかなり使われています。そこからそれだけの財源を捻出することは可能だと、私たちは何度も計算して主張しています。それから、農業所得補償に対する裏付けとして、ひとつは多面的機能、もうひとつは食料の安全です。我々は先日、食料安全庁をつくる法案を提出しましたが、すべての食品について原料、原産国の表示をしていきます。大豆にしても、どんどん遺伝子組み換えの大豆になろうとしていますが、その中で食の安全を考えると、国産の大豆や国産の小麦は、生産しようと思えばつくれます。事実数年前、農水省が大豆と小麦をつくる農家に7万円を出すという政策を行ったら、2年間で目標が達成されました。その後、大豆の質が悪いなどということで政策を打ち切りましたが、お金があれば、農家はたくさん作ります。そして、作ることによって農家は維持されます。今はいくら作りたくても、減反などで作らせてくれない。それでは、農業で食べていけないということで従事者が高齢者だけになってしまった。しかし、所得補償を行えば、我々の試算で言うと、1町の田んぼと五反の畑をうまく回していけば、大体200万円近い所得補償ができるのではないか。農業で食べていけるとなれば、フリーターや日雇い派遣でやっている人たちや、定年退職者達も地方に回ってくるのではないか。そういう可能性があると思っています。農業や漁業で食べていける、そういう制度をつくりさえすれば、農業や漁業に従事する人も必ず出てくると確信しています。
市場メカニズムに対する基本的なスタンスは
齊藤: 今、世界の穀物価格が上がって、食料供給が危ぶまれているという議論は、もっともらしく聞こえますが、経済学者の立場としては反対です。一般価格の上昇よりも、穀物価格がはるかに上がっているということは、農産物の実質価格が上がっているということになります。そうなら、供給者としては高く売れる局面ですから、国内の買取価格が国際的な買取価格より低ければ、一生懸命作って輸出していけばいい。さらに、穀物の価格が上がっているだけではなく、国民が安心安全に対価を払うということになると、高くても買います。そういうメカニズムで価格が上がっていくならば、供給者の方が利益を得る機会が増えます。漁業も、あれだけ漁に出ないとなると、築地の魚のセリ値は高騰すると思いますが、それでも買うという人が出てくる。そうすると、無理して燃料を出しても儲かる時点が必ず来るはずです。
そういうメカニズムが働きにくい産業になっていること自体が問題なのです。コメが国際価格上有利な状況になっていて増産するといっても、減反だということになる。国土保全で最も良いことは、田んぼを増やすということです。しかし、それができないメカニズムになっていることが問題です。今の状況を大変だと捉えるのではなく、生産者も供給する人が少なくなってくれば独占できるわけですから、より高く売れることになる。そういうメカニズム自体を、所得補償制度が壊してしまうと思います。
先ほどの再分配の話も、高齢者を弱者と見るのは既に時代遅れです。高齢者の中でも資産を持っている人と、持っていない人の間で大きな格差があります。もし、高齢者の中に十分な資産がなく生活できない人がいるのなら、高齢者の世代の中で再分配できるメカニズムが働くように考えていけば、若年層に負担がないような制度になっていくと思います。
土居: 事前に思っていた以上に、体系だった議論をしていて、民主党に対する安心感が少しは高まりました。私が事前に懸念していことは、市場メカニズムに対する極度の危機感が民主党にはあるのかなということです。ご意見を聞いていると、自民党も民主党も同じぐらいなのかなと思いました。私は斎藤先生の意見に賛成で、需要曲線と供給曲線があって、需要と供給を均衡させようと思えば、価格か数量で調整するしかないのですが、価格でなかなか調整できないから数量で調整する。その場合、どうしても権力からの横やりが入ってしまう。それをいい形で調整出来れば、質のいい政策になるのですが、時として、質の悪い政策になってしまうことがある。よりよく価格調整が行われる市場制度を構築するような議論、政策論議が必要になると思います。それですべてが解決できないのであれば、数量調整ということになりますが、質のいいやり方でやってもらいたいと思います。
西沢: 今日のお話を聞いて、マニフェストのあり方ですが、政府・与党の税制改正の議論を聞いても、無駄遣いを排除してから増税をするという話です。今日も古川先生が、国民が信頼できる制度を作ってから負担の話をすると仰っていました。我々は、マニフェストにもっとストレートな物言いを求めるわけですが、政党が本当に言えるのかなというところがあります。評価する側も、どうにかしてブレイクスルーする方法を考えないと、増税をするべきだときちんと言えない。例えば、私は10兆円増税するコンテストを行えばいいと思います。10兆円負担増を求める場合、あなたの党は、税と社会保障をどのように組み合わせますかと尋ねてみる。これだったら、競うことはできると思います。そうしないと、無駄を削ってからとか、国民の信頼できる制度を作ってからと言っていると、永遠に何も出来ない気がします。これは、評価者側の課題としてもあると思います。
もう一つは、農業についての山田先生のお話は解りやすかったです。農家の戸別所得補償と言ってしまうと、農家に対する優遇のような気がしますが、そうではなく、食料安全保障も、食の安全も全国民共通の課題としてあるわけですから、その説明の方がわかりやすい。他方で、これは社会保障にも通じますが、所得補償をしてしまうと、一生懸命頑張っている人のインセンティブをそいでしまう恐れがあります。この点、他の政策との関連についても、姿を見せていただければと思います。
生源寺: まだ、色々柔軟に考えていただける余地はあるんだな、と思っております。1年ぐらい前からの民主党の農業政策は、言葉が先行していてやや自業自得のところがあると思います。「戸別所得補償」「完全自給」「300万トン」と言って、アピールするのはいいのですが、中身を見ると、言葉の意味とは少し違って見えます。つまり、言葉からなかなか抜け出せず、議論をして中身を出していくことは難しいと思っています。斉藤先生や、土居先生がおっしゃったように、農業・食料政策は経済政策としての意味合いをかなり強く持たざるを得ない。消費者の購買意欲やその分布から、食品や農産物の価格を考えていかないといけない。したがって、ある程度財政で負担するというようなやり方には、それなりに意味があると思います。ただ、同時に、国外の条件に農業が近付くように持っていくことが、結果として、リターンとなって消費者に返っていくものだと思います。もう一つは、世界の食糧需給の状況と国内のコメの状況をみると、国際市場は高騰状態ですが、国内のコメ市場は過剰で値段が下がって困る状況で、完全にねじれた構造にあるわけです。これは非常に難しい問題ですが、思い切って需給均衡の価格を形成することを念頭に置き、所得は別途確保するという大きな手立てを打つチャンスに来ていると思います。最後に、戸別所得補償に関しては、古い政策に戻っているという印象があると申しました。実は、米、麦も大豆もそうなのですが、特にコメ米はものすごく差別化、細分化が進んだ商品で、品種だけでも200種類が市場に出回っている状況です。その中で、コモディティータイプの政策をやっていっても、ロスが生じしてしまうのではないかという懸念を持っています。
山田: いわゆる経済的な大きなメカニズム、市場経済でやっていけない部分があると思います。防衛、食料安全保障、教育、社会保障、医療・介護問題などがそうです。その中で、農業所得補償については、市場経済を前提にして、生産費と販売価格の差を補てんしようということです。つまり、経済的なメカニズムの中で、所得補償をしていく。もう一つ付言すると、欧米などは、原油などが高騰した分だけ、食品の価格に転嫁されていきますが、日本だけ逆に価格が下がっています。これは、日本の消費者の購買力がなくなってきていることを示しています。貧困層が先進国中2番目であるということもあって、市場経済が働きにくい経済構造になっている。このまま行くと、この半年、一年で、日本の農業漁業はダメになります。国際的な投機が食品にあるか調べてみると、相場に出ていない物から価格が上がっています。単なる投機だけではないと思います。
政党との議論を本格化する
工藤: 今日は、評価者の方々も。民主党の先生方もありがとうございました。3時間にわたって言論NPOの評価会議を公開したわけですが、私に取って一番大きかったことは、民主党の先生方がここに来てくれたということです。また、これを機に、政党との議論を本格的に行わなければいけないと思っています。西沢さんの話にもありましたが、だた、出てきているものを評価するというだけではダメで、マニフェスト型の政治というのは、国会でも与党と野党が本気で政策議論や、政策競争を行ったり、そういうマーケットが民間側にもあることで、緊張感を持ち、実現されていくのだと思います。そういう意味では、一歩進んだのかなと思っています。会場やインターネットの声もかなりありまして、全体的に納得できないという人が多かったです。今日の話を、民主党の人たちにも伝えますし、僕たちのサイトでも公開します。ひょっとしたら納得できないという人たちは、政策をきちんと考えないといけないと気づいている人たちかもしれません。そういうプレッシャーを日本の政治はもっと感じるべきだし、私たちは、その舞台をこれから作っていこうと思っています。これをきっかけに、民主党の各分野、また、自民党ともこのような評価会議を定期的にやっていきますので、ぜひ、また皆さんにも参加していただきたいと思います。
了
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