ひらい・しんじ
1984年東京大学法学部卒業後、自治省入省。福井県財政課長、自治省選挙部政党助成室課長補佐、カリフォルニア大学バークレー校 政府制度研究所客員研究員鳥取県総務部長、副知事、総務省自治行政局選挙部政治資金課政党助成室長を歴任後、2007年 2月に総務省を退職し、4月鳥取県知事選挙初当選、鳥取県知事に就任。
第4話 チャンスをつかめば弱みを強みに変えられる
改革派の知事がいるところは、高齢者が多く、公共事業依存体質が多いとか、日本海側はかなり厳しいなどといわれます。今は弱みにみえても、地理的な問題は強みに変えられるかもしれないと思っています。
朝鮮半島の東海岸に渡ろうとしますと、鳥取県の境港は実はとても近い。ここと下関は余り変わらない。さらに言えば、朝鮮半島の東海岸のあたりは、最近、BRICsにも入ってきているロシアのウラジオストクと比較的近い。このように、日本海の中で、近い者どうしを見ていただくと、確かにここは強みになり得ると言えます。
今、ウラジオストクも今度APECの会議を開催するというように成長してきていますし、韓国はイ・ミョンパクさんが大統領になり、日本よりは元気な企業が多い。また、そこから上海や大連への航路ももともと開けています。
環日本海時代というのは20年ほど前にはやった言葉ですが、当時、それは一つの夢物語であり、スローガンだったと思います。その時代とは変わって、本当の意味の環日本海時代が今、幕を開けようとしているかもしれない。そこに鳥取県を賭けてみれば、新しいチャンス、強みがそこにあるかもしれないと思います。
例えば、鳥取県の境港から韓国の東海岸やロシアとを結んで、クルーズ観光客や、貨物が行き来をするような端緒をこの時期に開いてみるなど、チャレンジできる課題はあろうかと思います。もちろんハードルが高いことは重々わかっていますが、10年、20年先を頭の中に描いていただくと、ここの地域は今よりも後退することはない。必ず発展していきます。
もう一つ、強みとしてあげられるのは、鳥取県は地域に対して貢献する意思が強いところだということです。言葉を変えていえば、昔風ということかもしれません。例えば、「総事(そうごと)」という言葉があります。昔から村として寄り合いでやっているようなこと、たとえば、どぶさらいや神社をきれいにしようということですが、そういう伝統がもともと根づいて残っている上に、今、現代型のボランティア活動もそれにオーバーラップしてきています。
例えば、鳥取砂丘の草をむしりましょうというボランティア活動です。鳥取砂丘に生えている草を一生懸命ボランティアが取っているのです。データをみると、鳥取県のボランティア活動の参加率は34.5%で、全国でトップです。およそ3分の1の人が何らかのボランティア活動にこの1年間に関わったということになります。都会ではあり得ないことが今、ここにはあるわけです。このことを生かして、私は、行政が孤立し、住民が孤立し、企業は孤立し、学問の府が孤立するという状態ではなく、有機的に一緒になってやろうよ、と言っています。結び付いていけば、地域力が高まってきて、それではね返していける。その原動力になるチャンスがここにあるだろうと思います。幸いなことに、人口規模が限られていますから、お互いに大体顔見知りなのです。
こうした結びつきを生かしていき、小回りをきかせて地域としての結びつき、連携力を高める。こうした地域づくりをやっていける素地はあると思います。
さらにもう一つの強みは、例えば、最近、ソウルから来るお客さんに聞いてみると、ホッとすると言う。そのほかの外国から来たお客さんもそうなのです。自然環境、あるいは昔から守られてきた歴史的景観などが鳥取県には存在している。そのことが大きいと思います。
今年の春にサントリーのミネラルウオーターの工場ができます。鳥取県の大山から水を取ろうとしています。これに先駆けて、コカコーラも今、取水しています。ここには長いこと守られてきた自然があります。例えば大山というところは、「神います山」と風土記の昔から言われているわけで、神様がいらっしゃるところ、聖地なのです。さらに、山岳仏教の天台宗の聖地にもなり、修行の場所であったわけです。ちゃんとした信仰を集めているので、人手も余り入らず、国立公園としても最初の指定の頃でしたから、保全されているわけです。そこに雪解け水の伏流水、もう1000年にわたって蓄えられたものが地下にある。こうしたものが、この現代社会において急に付加価値がついた。他所にはないものが、実はここにある。きれいな景観の中で、例えば思い切り仕事をしよう、遊ぼう、そういうことができる。セカンドハウスを持つ、そういうチャンスもこれから生まれてくると思います。
コカ・コーラのCEOに聞くと、飲み比べてみればわかる、大山の水はおいしい、どこにも負けませんと言いました。そういうようなことに、今まで我々も余り気づいていなかったのではないかと思います。
他方、一番弱いところは、若者が働ける場所、雇用の場、活力です。これが今、欠けている。残念ながら、県庁でも改革が平成11年から進んできましたが、この間、県民総生産や有効求人倍率などをとると、全国との格差は開く一方です。こちらにもっと注力しなければならない。そこで、今申し上げたように強みを生かしながら、例えば観光地であれば、みんなでちょっと知恵を出してやってみようという動きを今やり始めています。
例えば、赤字ローカル鉄道で若桜鉄道があります。赤字ローカル線はお荷物のように言われていましたが、ある人が、ここにもう一度SLを走らせてみようと言って、隣の兵庫県からSLをもらってきて、手入れし、曲がりなりにも動くようになった。実際走らせてみました。ここには、もう皆さんも懐かしい原風景で、忘れかけているかもしれませんが、汽車が回る手動の転車台が残っている。そこで、観光客などが一緒にその転車台を回して、自分で運転をしてというようなことを始めてみたら、京阪神などからお客さんが来るようになりました。
汽車が止まるときに滑り止めのために砂を落とします。この滑り止めが、汽車の中にまだ残っていたので、この滑り止めを今の季節に受験のお守りとして売っています。滑り止め(笑)、1000円です。今これが飛ぶように売れている。住民の皆さんが自分たちで知恵を出して、しかも地元にお金が落ちるような、そういういい循環が生まれ始めている。
こういうことをどんどんやっていきたい。新しい高速道路が今ようやくできる。さらに、県の東西、100キロある海外線にも山陰自動車道の建設が進んでくるようになりました。ですから、この時期をとらえて、企業誘致も元気を出してやっていく。地域の企業にも、いろいろな技術を持った会社があります。例えば、テレビの裏側の金属のパネルを加工するためのプレスの機械では、世界シェア6割を持っている中小企業があります。もともと電子産業が立地していたので、いろいろな技術を持った会社が今もあります。こういうところがさらに伸びていくお手伝いをしたいと思っています。
全5話はこちらから
「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は平井鳥取県知事です。