「日本の知事に何が問われているのか」/古田岐阜県知事

2007年12月30日

071028_gifu.jpg古田 肇(岐阜県知事)
ふるた・はじめ
1947年生まれ。71年東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。 JETROニューヨーク産業調査員、内閣総理大臣秘書官(羽田内閣、村山内閣)、経済産業省商務流通審議官、外務省経済協力局長などを経て、05年2月 岐阜県知事に就任。 昨年発覚した不正資金問題に対しては「県政再生プログラム」を実施し、県民の信頼回復に全力で取り組む一方で、「地域の元気づくり」「暮らしの安全づくり」を基本に据えた政策本位の県政を進めている。

第4話 地域経済の振興は自立と連携で

 就任したときに、経済界の方との意見交換の場で、まず言われたことは、あなたは経済産業省出身でしょう、岐阜県にどういう産業を連れてきて、どういう産業構造に変えるのか、さあ、指導してくれ、ということでした。

 それに対し、私から次のように申し上げました。経済活動、企業活動の主役は、あくまで経済人であり、企業家です。そういう企業家がリスクとコストをかけて、どういうふうに自分の企業を変えていくか、あるいは産業をどうしていくか、それがまず基本で、そういう流れに対して、いろいろな障害がある、国際的な障害、制度的な障害、いろいろなものにぶつかる、その障害物をどうやって取り除くか、そこに行政の出番がある。あるいは、何かを仕掛けようとするときのインセンティブを用意するということもある。
 
 言ってみれば、ジャンプ台に乗って飛び降りるのは皆さんなのです。私がやりたいと思っているのは、皆さん方が飛んでいくときに、ほんのわずかだけれども、一番いいタイミングで、一番いい形でふっと背中を押す、いい風を吹かせる。私はこれが産業政策と思っている。主役は皆さん方です、私は背中を押すのですよという話をしました。

市町村との連携

 もう1つ、県と市町村との連携を良くすることが大事だと思っています。国と県との間で地方分権だ、何だとやっていて、そこに焦点が当たっているけれども、県と市町村との役割分担は非常にあいまいだし、二重行政も多い。また、基礎自治体を強くすることは、地方分権を進める上で不可欠です。だから、当初、市長会に行って、食事も挟んで7時間議論しましたよ。こちらも忙しいですから、いつもそれだけ時間を割くというわけにいきませんが、今は年2回、3~4時間程度議論をしています。市町村の目線は県より住民に近い。県の職員には把握できていないことが市町村の人たちに把握できることが結構ありますから、それは大変参考になる。

 それからこれまでは、ぱらぱらとなし崩し的に権限移譲してきていますが、ほとんどたいしたものは移譲していません。こんなことじゃなく、もっと、市町村でできることは市町村がやる、もっと大胆に整理ができないかというので、役割分担検討会議というのをつくって、思い切って権限を移します、それに合わせて、必要なお金も、場合によったら人も出してもいいですよということで、首長ベースで、私と主な市町村長とで1年がかりでやろうと検討会を始めたのです。

 まず、ディシプリンを決めて、その上で各論に入っていきます。

 このように、今後の県から市町村への権限移譲等に関する基本的な考え方について、「県と市町村との役割分担検討会議」において議論を重ねた結果、10月には、県・県市長会、県町村会の三者により「県と市町村の役割分担~担うべき役割の明確化~」をまとめました。今後この考え方に基づき、県から市町村への具体的な移譲項目、時期、手法等を定めたアクションプランを、県と市町村と一緒に策定する予定です。そんな努力もしています。

中部圏の連携

 岐阜県は海なし県です。多くの県に囲まれていますね。だから、岐阜県の発展は、最初から隣県との連携なくしてはあり得ない。岐阜県単独での発展にはおよそ限度があるので、隣県との連携ということで、今順番にやっています。村井(長野県知事)さんとは森林づくりの連携と観光の広域連携、なかんずく世界遺産に手を挙げている中山道の宿場町の連携、あと道路ですね、安房峠とか、この3つを中心に議論しました。

 それから、富山県の石井知事さんとも年に1回交互に行き来して意見交換しています。富山空港を利用される観光客の多くは飛騨高山へも来ていただいている。だから、富山空港の国際化や利用促進にとって、飛騨高山は欠かせない。今年、飛騨トンネルが貫通しましたが、来年には東海北陸自動車道が全線開通し、富山と名古屋が2時間40分ぐらいでつながる。そうすると、人の流れ、モノの流れなど様変わりになります。先日の富山県知事の会議では、東海北陸自動車道の全線開通日を両県の「交流の日」と定めて、全線開通記念イベントなどを一緒に実施し、継続的なPRに取組んでいくことで合意しました。全線開通記念イベントとしては、記念イベントを公募して冠称をつけ、両県が共同してパンフレットでPRすることなどや共同地図の作成、両県の道の駅を活用したスタンプラリーの実施などをやっていくということです。

 また、東海北陸自動車道の全線開通だけでなく、JR高山線の復旧も踏まえ、これらを活用した集客の取組みについて、両県が連携して検討していくこととしました。例えば、中日本高速(株)に働きかけて東海北陸自動車道フリーキップを発売したり、JR東海に働きかけて高山線のフリーキップを発売するというようなことです。

 さらに、海外からの誘客について両県が連携して進めていくこととしました。飛騨地方の観光施設に同空港のパンフレット、時刻表等を設置するなど交通拠点と観光地の連携を深め、富山空港の利用を促進することとした。

 富山と飛騨は、昔、日本海から、ブリ、塩魚、干魚が飛騨に運ばれた「ブリ街道」で結ばれていましたが、東海北陸自動車道は富山と美濃地方を結ぶ「第二のブリ街道」として、その効果に期待しています。

 また、富山県とは子育て支援でも連携しています。岐阜県では、県内の18歳未満のお子さんがいる家庭に「ぎふっこカード」を交付し、参加店舗でカードを見せると割引などの特典が受けられる「子育て家庭応援キャンペーン事業」を昨年8月1日から始めています。134企業437店舗でスタートしましたが、今年9月末には、388企業、1,378店舗に増え、県民の方から好評をいただいています。

 子育て支援は、他県でも同様の事業が展開されており、子育て家庭の皆さんが他県でもサービスを受けられればより利便性が高まるのではないかということで、昨年の中部圏知事会議において、私から「子育て家庭応援キャンペーン事業」の広域連携を提案したところです。本県がその事務局となり検討を進め、先行して本県と富山県で連携することとなり、「子育て家庭応援キャンペーン事業」の1周年に当たる8月1日からスタートしたものです。

 富山県との連携により、本県の子育て家庭が富山県で、富山県の子育て家庭が本県 で、それぞれのサービスを受けられるようになりました。子育て家庭にとっては、利用できる店舗が広がることで利便性が向上し、参加店舗にとっても、利用客の増加や、他県での知名度向上などのメリットが期待できるわけです。
 
 以上のように、私は隣県との知事協議というものを大事にしていきたいと考えています。それから、県境を越えて隣接している市町村ごとの交流も応援していきたい。広域交流、広域政策をベースに、岐阜県がよくなっていく、そういう道を探るのが私の基本です。ただ、これは、即、道州制を意味するわけではありません。道州制を巡る議論に関わりなく、広域連携は岐阜県にとっては欠かせない。

 愛知県との関係でも、例えば、東海環状自動車道の東回り区間の開通で愛知県の豊田市と岐阜県の関市が1時間でつながった。三河と美濃が歴史上初めて直線でつながったのです。それで何が起こったかというと、トヨタの関連会社、部品メーカーが急速に岐阜県に進出してきました。私が就任したとき、空っぽであった幾つかの工業団地があれよ、あれよと言う間に埋まり、かつてないほどの企業進出ブームです。

 地方分権というと、県境に線を引きたがる、県ごとの違いを強調したがる向きがありますが、私は、経済交流、人の交流などを通じて、それぞれの地域が発展していくことが大事だと思います。

 東海環状自動車道は反対側の西側ルート、すなわち岐阜から三重につながる道路の本格工事がようやく始まったところで、これが実現すると、まさに環状道路としてつながり、第2名神高速道路にもつながるわけですから、その効果が大いに期待されています。三重県、滋賀県、さらには、関西経済圏との連携も一段と重要になってくるでしょうね。

全6話はこちらから

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
 現在の発言者は古田岐阜県知事です。

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