まつざわ・しげふみ
1958(昭和33)年、神奈川県川崎市に生まれる。1982(昭和57)年、慶應義塾大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾。1984(昭和59)年、米国ワシントンD.C.にて、ベバリー・バイロン連邦下院議員のスタッフとして活動。1987(昭和62)年、神奈川県議会議員に初当選。1991(平成3年)年、同2期目当選。1993(平成5)年、衆議院議員選に初当選。1996(平成8)年、同2期目当選。2000(平成12)年、同3期目当選。 2003(平成15)年、神奈川県知事に就任。2007(平成19)年、同2期目就任。[主な著書]「破天荒力-箱根に命を吹き込んだ「奇妙人」たち」(講談社)「インベスト神奈川-企業誘致への果敢なる挑戦」(日刊工業新聞社)「拝啓 小沢一郎殿 小泉純一郎殿」(ごま書房)「知事激走13万㎞!現地現場主義-対話から政策へ」(ぎょうせい)「実践 ザ・ローカル・マニフェスト」(東信堂)「僕は代議士一年生」(講談社)
第2話 徹底的に行革と歳入増に努力してきたか
神奈川県はこれまで徹底した行革をやってきました。1万7500人いた職員を1500人減らして、この4年間で1万6000人まで減らしました。給与の減額も継続的に行っています。こうした職員数の削減や給与の減額によって人件費を1100億円抑制しました。このほか、第三セクターの統廃合や県の出先機関の削減など、徹底して小さな政府を追求し、それで政策に使うお金を増やしてきたんです。
一方、歳入確保の面では、法人県民税と法人事業税について税率を上乗せする超過課税を実施し、その財源を「地震防災対策」と「産業振興対策」の強化のために使わせていただいています。
また、水源環境の保全・再生のための新たな税制措置として、今年度から個人県民税の超過課税(1人当たり平均年950円の上乗せ)も実施しています。いわゆる水源環境保全税です。県ではこの問題について5年間かけて議論してきました。私の1期目の最大の政策テーマでもありました。議会に条例案を提案したら様々なご意見をいただき、1回取り下げまでやって、再提案して、どうにか実現できたわけです。大変な努力でした。それで約38億円の新たな財源を確保し、基金をつくって目的税化するわけですが、そういう努力までして歳入を増やしているのです。
こうした税制上の措置に加え、積極的な企業誘致によって税源の涵養にも努めています。「インベスト神奈川」という企業誘致策を展開し、その助成金を活用して、これまで48社(平成19年10月31日現在51社)の研究開発型企業に新たな県内投資を決定していただきました。助成金の総額は約700億円ですが、民間シンクタンクの試算によれば、企業誘致による経済波及効果は10年間で16兆円、税収増は、県税・市町村税合わせて15年間で7500億円と見込まれています。私は、海外へ6、7カ所も行って、日本に進出したい企業を集めて、「日本に進出するなら神奈川が一番いい」「神奈川はこうやって助成もサポートもしますよ」とトップセールスを行い、外国企業の誘致も実現してきたわけです。
首都圏連合を道州制の受け皿に
このように、「入るを量りて出るを制す」ということを徹底してやっていけば、まだまだ地方が再生していく道はあると思います。それでもだめだと言うのなら、広域自治体として、経済圏に見合う大きな広域行政体に改革していくことです。
私は今、首都圏連合を提案しています。将来的には、1つのまとまった自治体的なことができるようになれば、それが道州制の受け皿にもなります。
首都圏の八都県市の首長による首都圏サミットを開催していますが、これまでに開催回数を年2回に増やしたり、常設の事務局(首都圏連合協議会)を設置するなどの改革を進めてきました。そして、昨年の11月には、私の提案で、商工会議所の会頭や有識者も巻き込んで、首都圏全体を向上させるための政策立案をやっていこうということで、「首都圏連合フォーラム」を開催したのです。
このようにして、広域連携の取り組みを進めて、実績を積み重ねていけば、それが将来的に道州制の実現につながっていくんだと思います。道州制は、国が仕組みをつくってくれるわけではありません。霞が関は反対ですから、地方が受け皿をつくらなければ絶対だめです。むしろ地方から、「道州制の受け皿はできているので、あとは霞が関が権限を譲るだけですよ」と、改革を迫らなければいけないと思います。
今、首都圏経済を見ると4つの都県の中を動いています。神奈川から千葉に通勤している人だっています。物流や経済は行政の境なんて関係ありません。神奈川県域だけで商売したいなんていう人は、民間ではだれもいないでしょう。もうかるところだったら、東京だって埼玉だって、どこへでも行く。交通手段も圏央道ができてくると、経済圏もさらに広域化していきます。
そうなると、少なくともそこの経済圏や人の動きの範囲に見合う広域行政ができないといけません。住むところと働くところが違い、自分の選挙権は神奈川県にあるけど、1日のうち半分いる東京では、環境のことについても、福祉のことについても、あるいは交通のラッシュのことについても何にも意見を表明できない。こんなのは広域行政ではないですよね。だから、経済圏の中で広域行政ができる体制、すなわち首都圏連合あるいは道州制に持っていかない限り、広域行政として機能できない。それに向けて、今頑張っているのです。
私は、「経済自立」と「政策自立」が道州制の実現のポイントだと思っています。まず自立した経済圏を持ち、国の補助金や交付金に依存しないで行政運営ができること。それから、政策自立で一番重要なのは立法権です。条例の制定権を、道州あるいは市町村で強めていく。簡単に言えば国の法律では枠組みだけを定めて、具体的な中身は条例で規定するという仕組みにするということです。全国的な統一が必要なことは国が法律で定めるけど、具体的にどういう仕組みにするかは、道州や市町村がつくっていくのが地方分権なのです。地方政府という感じです。
「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は松沢神奈川県知事です。